表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/186

やさぐれ氷雪竜

「てめえら皆殺し決定! 許してほしけりゃとっととそこからどけやこのド阿呆どもが!」

 らーちんに潰され、すーちゃんに頭を押さえつけられた氷雪竜が喚く。

「もういい、てめえら皆殺し、よし分かった、殺したる! 覚悟しとけやクソボケども!」

 5人と3匹は不思議に思う。なぜ、この圧倒的不利な状況で、こいつはこの台詞が吐けるのかと。

 そこに怖いもの知らずのキャティが飛び出していった。そしてすーちゃんが押さえつけている竜の頭に近づく。

「なあ、氷雪竜さん、その自信はどこから出てくるにゃ?」

「どあほう! 自信じゃなくて事実や! これが猛虎魂や! こいつらぶっ殺すの決定や!」

 その頭上では、あきれ果てた表情のらーちんと、ちょっと勝負すっかという気持ちになっているすーちゃん。エリスたちも白い竜に近づく。身動きがとれないながらも、罵詈雑言をエリスたちに浴びせかける氷雪竜。

「レーヴェちゃん、ちょっとこいつにヤキ入れようよ!」

 暴風竜すーちゃんが足に力を込めると、氷雪竜の頭がきしんだ。

「エリスちん、説得するのか止めを刺すのか決めてやれ!」

 大地竜らーちんがエリスに決断を迫る。

「よし決定! お前ら全員ぶっ殺したるから、さっさとそこどいてわいに殺されろやカスどもが!」

 いよいよいきり立つ氷雪竜。

 らーちんやすーちゃんも押さえつけるのがしんどい模様。それだけこの氷雪竜はエリスたちに敵意を向けている。とにかく会話にならない。

「エリスちんたち、少し離れろ! こいつの尾が俺の下から抜けた!」

 氷雪竜の尾が抜け、その先を振り回す。

「おんどれりゃあ! 殺す殺す殺す殺す!」

 いよいよ暴れる氷雪竜。玄室内がきしみ始める。

「エリスちん、止めを刺すぞ!」

 同時に突然声が響いた。

氷雪竜アイスドラゴンよ、お前の名前はあーにゃんにゃ!」

 らーちんの叫び声と、キャティの宣言が重なった。一瞬にして静まる玄室内。そこには、真っ白な竜にくちづけをする真っ白な猫娘。そこにいた誰もが、時間が止まったと感じた。


 あれ?

 力がみなぎるとともに、冷静になる頭脳。

 目の前にいるのは愛おしい白き娘。

 氷雪竜アイスドラゴンは思い出す。

 怒りの日々を。怒りの原因を。怒りに焼かれた自身を。

 もう一度目の前を見る。

 そこには白き猫娘。たまらなく愛おしく想える猫娘。

 氷雪竜は全てを思い出した。


「フラウの名付けパターンは見切ったにゃ」

 大威張りでキャティが胸を張る。エリスたちもこれには驚いた。キャティは、独力で、しかも氷雪竜の意思も確認せずに、竜戦乙女ドラゴニックワルキュリアの契約を済ませてしまった。

「てめえらをぶっ殺すのは確定だが、その前に勇者と魔王両方ぶっ殺したる!」

 いきり立った状態から多少落ち着いた氷結竜のあーにゃんが、自身の身の上を話し始めた。


 先の神魔戦争で、氷雪竜は勇者に説得され、魔王と敵対することを選んだ。なぜなら、魔王のほうが強そうだったから。そして氷雪竜は勇者の先陣を切り、魔王の軍隊を次々と破っていった。が、ある日、氷雪竜は魔王軍の幹部に自爆攻撃を仕掛けられた。こうして実体を失ってしまった氷雪竜。しかし、彼らは不死身。自らの意志に従った上での消滅であれば、いずれはそのままの姿で復活する、はずが。

 何故か浄化迷宮のラスボスとして復活。理由は魔王幹部の自爆攻撃による一体化。要は巻き込まれたのだ。このままでは浄化されてしまう。そして勇者は竜のことを知ってか知らずか、放置した。

 氷雪竜は自身の存在が浄化されることを恐れた。そして、己のもとにやってくるもの全てを殺すことを決意する。

「ところで大地竜さん、暴風竜さんよ、てめえら恥ずかしくねーか? わいみたいな1匹を押さえつけるのに2匹がかりの上に、竜戦乙女2人連れとはよ」

 これにはぐうの音も出ない2匹。

「まあええけどよ。わいもタナボタで竜戦乙女ゲットしたからよ」

 そう言いながら、氷雪竜は慈しむような眼差しでキャティを見つめる。その眼差しにちょっとドキドキするキャティ。

「なあ、あーにゃん、体長変化許可パーミッションチェンジサイズを唱えていいかにゃ?」

「やったらんかい、キャティにゃん」

 キャティは術式を解放する。すると氷雪竜が続けた。

「見よ! わいのプリティスタイルを!」

 一瞬光った後、そこにあるのは、白い毛皮のマフラーのようなもの。そこから小さな頭をひょこっと出すあーにゃん。

「キャティにゃん、ちょっとわいを首に巻いてみ」

 言われるがままにキャティはあーにゃんを首に巻く。その姿は、高級なマフラーを羽織った貴婦人にも優る姿であった。

「首周りが冷やっとして気持ちいいにゃ」

「頭寒足熱じゃい、これで健康をキープじゃ! キャティにゃん」

 まずは自分の頭を冷やせよ氷雪竜よとは思うが、ここまでの流れに乗りきれないエリスたち。キャティとあーにゃんが、完全に2人の世界に没頭してしまっている。

「うーんと。ところであーにゃんさん、私達と一緒に来ない?」

 エリスが氷雪竜に声を掛けてみる。

「うるせえ殺すぞボケどもわいに指示すんな!」

「てめえ俺のエリスちんに暴言吐きやがったな!」

 あーにゃんの暴言にぶちきれるらーちんに割って入ってキャティが氷雪竜をなだめる。

「あーにゃん、私達と外にでるにゃ」

「キャティにゃんになら付いていきまんがな」

 エリスたちは理解した。氷雪竜を説得するのは無理。状況を理解してもらうのも無理。でも、キャティがいればとりあえず問題ないと。

「それじゃ、クレア、お願い」

 一行はクレアのランアウェイダンジョンで、氷雪竜の迷宮から脱出した。


 間もなく夜明けの荒野。

 直接氷雪竜と会話をするのを諦めたエリスたちは、キャティに氷雪竜の究極解放アルティメットリリースについて尋ねる。

「あーにゃん、究極解放のリクエストだにゃ」

「じゃあやってみるかいな、キャティにゃん」

 キャティの首から降りた氷雪竜が本来の姿を現す。蛇のような体躯に小さな頭。そこには複数の角が流れるように生える。前足と後ろ脚は身体の前寄りにあり、半身がすらりと伸びる。そして全身はうろこでなく純白の毛で覆われている。その口ぶりとは正反対の神々しい姿。

「じゃ、キャティにゃん、シェアサイトじゃ」

 キャティはあーにゃんと視界を共有する。

「次は仲間守護プロテクトフェローズじゃ。巻き込みたくねえ仲間を意識内でマークできたか?」

 言われるがままにキャティはエリスたちを意識する。

「よっしゃ、行くぞ! キャティにゃん!」

 あーにゃんの指示に従い、キャティは究極解放アルティメットリリースを行う。


絶対零度召喚サモンアブソリュートゼロ!」


    キンッ……

    …… ……


 一瞬響く乾いた音と共に、白銀の世界が広がる。そして氷雪竜を中心に、全ての音が止まる。全ての動きが止まる。そこは絶対零度の世界。

「どうじゃ、これで皆殺しじゃ」

 高らかに笑う氷雪竜。


「俺には効かないけどな」 らーちんがぼそっと言う。

「空に逃げちゃえば問題なし」 すーちゃんもぼそっと言う。

 でも、肝を冷やしたその他4人の娘と1匹。

「ところでキャティにゃん、そいつを開けられる娘はおるか?」

 そこにあるのはラスボスの宝箱。

「ついでやけん持ってきたで」

 キャティがエリスに、どうも、この箱の中には氷雪竜の迷宮で出るはずの宝が入っていると説明する。

 それを受け、早速罠を確認するエリス。

「この罠、これまで見た中で一番極悪なんだけど」 エリスはため息をつく。

「当たり前じゃろが! その分中身はハッピーじゃぜえ!」 自慢気なあーにゃん。

 仕方ないなあと、ため息をつきながら、エリスは罠を解除していく。

 緊張する4人と2匹。あさってのほうでじゃれている1人と1匹。

 かちり。

 鍵が開いた。

 中を確認するエリス。そしてため息をつく。

「キャティ、いらっしゃい」

「何だにゃ?」

「どう見てもあなた専用の装備よ」

 そこでまず目を引いたのは、やわらかな毛で織られた真っ白なブラとショーツのセット。

 一目見るだけでやばい魔力が伝わってくる。

「お、キャティにゃんのプレゼント箱、開けてくれたかの」

 あーにゃんがひとごとのように言う。

 その防具には「猛攻」という魔能力が添付されていた。

「猛攻:常に先手を取る。攻撃速度2倍。魔法ダメージ20減少。自律型 ユニーク」

「抵抗なんざしょせん初級勇者の装備よ! キャティにゃん、それ着とけ!」


 あーにゃんの声に皆が唖然とする中、マルスフィールド郊外で夜が明け始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ