マルスフィールドの迷宮
今回の氷雪竜たらしこみ作戦は次の通り。
まず、男性型に変化したらーちんとすーちゃん、フラウとクレアの4人でパーティを組み、マルスフィールドの冒険者ギルドに迷宮探索の申し込みを行う。
らーちんは重戦士、すーちゃんは軽戦士の装い。フラウはフードをすっぽりとかぶり、髪を隠し、魔術師然とする。クレアはエリスの服を借りて盗賊に扮した。
で、4人の目的は氷雪竜の迷宮がどこにあるのか、場所を明らかにすること。そのために各竜と意識がつながっているエリスとレーヴェは留守番部隊となる。ちなみにキャティも目立ちすぎるので留守番。
そして彼らが氷雪竜の迷宮に案内されるのをエリスたちは尾行し、迷宮外で待つ。フラウたちは迷宮に入り、しばらくしたら帰還の指輪で冒険者ギルドに一旦戻る。
そこで「敵が手強いからここでやめておく」などと言い訳をしてからトンズラ。エリスたちと合流する。
この作戦が成立するのは、クレアが迷宮脱出魔法「ランアウェイダンジョン」を持っているから。そうでないと、氷雪竜をたらしこんだとしても、それをマルスフィールドの冒険者ギルドに連れて帰ってしまうことになってしまう。
エリスを男性型にしたらーちんと、レーヴェを男性型にしたすーちゃんは。正直ものすごくいいオトコ。多分ギルドの受付嬢も一発で彼らを覚えてしまうだろう。なので、この作戦もマルスフィールドでは1回限りとなる。
「頼むわよ、らーちん」
「任せとけエリスちん、俺は『エリソン』と名乗ればよいんだね」
ああ、頼りになるわ、らーちん。
「頼むぞ、すーちゃん」
「レーヴェちゃんの言うことなら仕方ないっかなー。ところでぼく『れーちゃん』でいいんだっけ」
頼りにならないぞ、すーちゃん。そこは「レーヴァテイン」と決めたじゃないの。
「一応私がパーティーリーダーとして参りますから、心配しないでくださいね」
「えへへへ。この装束、似合うかな?」
「フレア」を名乗るフラウと、「クラリス」を名乗るクレアもちょっとノリノリ。
こうして、一抹の不安を抱えながらも、4人はマルスフィールドに魔導馬で向かっていった。
しばらく後、らーちんの声がエリスの意識に響く。
「登録完了。まもなく東の門から出発するぞ」
それをレーヴェとキャティに伝え、3人も門の方角に移動する。氷雪竜の迷宮は、マルスフィールド東門から1刻ほどのところであった。案内と別れたフラウ一行は、早速迷宮にはいる。案内人はそれを確認すると、踵を返し、冒険者ギルドに戻る。
「らーちん、罠が通路にもあるかもしれないから、なるべく動かないで時間を潰してね」
エリスがらーちんに伝えるのと、レーヴェの脳裏にすーちゃんの悲鳴が響くのは同時だった。
「うひゃー!」
「どうした、すーちゃん!」
すーちゃんから返事がない。その代わり、エリスの意識にらーちんから返事があった。
「すーちゃんのバカタレが扉に触れて麻痺した。そのうち回復するだろうから、そうしたらギルドに指輪で帰る」
互いに顔を見合わせ、ため息をつくエリスとレーヴェ。同じ竜で、なぜこうも性格が違うのか。事情の分からないキャティだけが、横でニコニコしているのであった。
1刻程経過後、フラウたち4人はエリスたちと無事合流できた。すーちゃんは珍しくおとなしくしている。
「レーヴェに代わって、お仕置きをしておきましたから」
ダークミスリルのハルバードを携えながら、フラウがレーヴェに報告する。殆どの武器が通用しない大地竜に通用しちゃうダークミスリルの武器であるから、これで小突かれたら、さすがのすーちゃんも痛かったのだろう。
暴風竜はレーヴェを見つけるや否や、その場でキュートスタイルに変身し、装備をまき散らしたままレーヴェの胸に張り付いてしまった。そのまま頭を翼の下に隠してしまう。
「やれやれ」
レーヴェはすーちゃんの装備を拾ってかばんにしまう。
「お疲れさま、らーちん」
「これからだぞ、エリスちん。魔物は多分雪精と氷精がメインだ。猛獣型もいるかもしれないな」
らーちんも装備を脱ぐと、ラブリースタイルに戻る。続けてエリスたちは改めてパーティーを組み直す。らーちんはフラウ、ぴーたんはクレアが抱える。そして彼女たちは迷宮に足を踏み入れた。
ジリジリと進む一行。罠は悪魔の迷宮と同程度。正直すーちゃんが引っかかったのが麻痺の罠で良かった。
らーちんの言うとおり、氷精達が相手なら、ここは炎の攻撃一択。エリスが扉の罠を解除する間、クレアはぴーたんを隅に座らせ、ホーミングミサイルの準備を行う。
罠解除。
キャティとフラウが飛び込む準備をする。
レーヴェが扉に手をかける。
5人で息を合わせる。
カウントダウン。「3……2……1……ゴー!」
エリスのコールとともにレーヴェが扉を開け、フラウが正面、キャティが裏に回る。そして敵を確認したクレアが炎弾15発と次々に叩き込む。
氷精3匹と雪精3匹はその場で蒸発し、奥に控えた氷獣も、キャティの爪により息絶えた。ここまで一瞬。
「へえ、見事なものだな」 らーちんが素直に感心する。今回エリスとレーヴェは出番なし。
次にエリスは宝箱に向かう。息を呑む一行。
かちり。
無事に宝箱の罠は取り除かれた。それは爆発の罠。
宝箱の中身は2万リル。道具のたぐいは見られない。
こうして彼女たちは迷宮を進んでいく。
20部屋目。これまでと色の異なる豪奢な扉。
彼女たちは、こうした扉の向こうに特別な魔獣がいることを熟知している。罠解除後、扉の前にはエリスとキャティが並ぶ。その後ろにフラウとクレア。クレアはディストラクションニードルを準備。そしてレーヴェが扉を開けると同時にエリスが左、キャティが右に展開する。
予想通り大物。
フラウが正面に立ち、クレアがその後ろからディストラクションニードルを打ち込む。続けてエリスが沈黙を解放。そこまでで敵の姿が明らかになる。それは美しい女性型の魔物「雪の女王」。周辺に雪精と氷精を従えている。
雪精たちに構わずフラウがハルバードで女王に挑むも刃は素通りする。それを見たレーヴェは己のカタナも女王には通用しないだろうと判断し、攻撃対象を氷精たちに変更。一迅のもとに氷精たちをかき消していく。
キャティの勇者を引き裂くものは、女王にもダメージを与える。雪の女王は魔法で応戦しようとするも、エリスの沈黙によって封じられてしまっている。
困惑する女王。そこにクレアのワルキュリアランスが投じられ、ひるむ女王。続くキャティの攻撃で、女王の姿もかき消された。
宝箱にあったのは100万リルのみ。
35部屋目。
ここに現れたのは真っ白な巨人。クレアのディストラクションニードルは無駄になる。が、こうした相手にこそフラウの攻撃と防御が光る。
巨人の殴打を正面から受け止めたフラウは、巨人の左足を払う。巨人がバランスを崩したところでレーヴェが逆足の腱を切断し、キャティが首筋から背中に向けてざっくりと抉る。そして巨人の影に移動したエリスが、狂神のスティレットで止めを刺す。
やはり宝箱はリルのみ。
そして50部屋目。
らーちんが皆の意識に伝える。
「中にいるのは同族に間違いない。多分氷雪竜だろう」
続けてらーちんはすーちゃんに話しかける。
「おい、すーちゃん、名誉挽回の時が来たぞ」
らーちんが言うには、大地竜の火山召喚では、攻撃の相性が良すぎて、氷雪竜を消滅しかねないこと。また、すーちゃんの技ならば、撃ち込んだあとに氷雪竜に隙ができるはずなので、そこを狙って押さえつけてしまうのが良いだろうとのこと。
「雪の女王や雪の巨人とはレベルが違うから、安全策で行きなよ、エリスちん」
本当に頼りになるわ、らーちん。
そして作戦をもう一度確認する5人と3匹。
エリスが慎重に罠を外す。
ドアの正面に立つのはレーヴェ。その手にはすーちゃんが抱えられている。すでにシェアサイト済み。ドアを開けるのはフラウ。扉の横にはらーちんを抱えたエリス。
「レーヴェ、すーちゃん、準備はいい?」
頷く1人と1匹を確認し、エリスはフラウに指示を出す。
「ゴー!」
フラウが扉を開けると同時に、レーヴェとすーちゃんは「暴風召喚」を室内にぶっ放した。
ぶぉぉぉうおぉぉぉぉぉ!
轟音とともに暴れる竜巻の爆音と、室内から響く叫び声が共鳴する。
「今だエリスちん!」
らーちんの掛け声に合わせ、室内に飛び込むエリス。そして目の前にいる真っ白で巨大な物体にらーちんを投げつける。
身体変化!
らーちんは見る間に巨大化し、その物体を押さえ込む。同時に巨大化したすーちゃんも、その後ろ足で白い物体の頭を押さえ込んだ。
そこにいたのは、全身を純白の毛で覆われた、蛇のような姿の竜であった。




