表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/186

すーちゃん

「もう怒った! 畜生死んでやる! 舌噛んで死んでやる!」

 冷えたマグマに囚われ、頭だけを出した暴風竜が喚く。

 それに対する5人と1匹。

「死ねば」

「死ぬのか」

「死ぬのですか」

「死ぬのかい」

「死ぬにゃ」

「死ね」

……。

「あのね、失意の竜に対して、6連続で死ねとか、ヒトとしてどうなの? まあ、最後のはヒトじゃなくて竜だけどさ」

 6連発で死ねと言われて対応に困った暴風竜が、彼らに語りかける。

「ところで大地竜よ、なんでお前、さり気なく究極解放アルティメットリリースを使ってるの? 火山召喚サモンボルケーノって、マジ痛いんですけど」

 それに対しらーちんが答える。

「俺、竜戦乙女ドラゴニックワルキュリアと契約しちゃったもんね。どうだ羨ましいだろ」

「マジか」

「マジだ」

 改めて暴風竜は大地竜と大地竜に従う人間たちを目で追う。そして鼻を鳴らす。

「うお、有資格者だらけではないですか! 何? もしかして君ら、ぼくをナンパしにきたの?」

「まあちょっと話を聞け。エリスちん、状況を説明してやってくれるか?」

「わかったわ。こんにちは、暴風竜さん」

 そしてエリスは暴風竜に説明を始める。暴風竜が避けていた勇者と魔王の戦いは数百年前に勇者の勝利で決着が着いたこと。最近、新たな神魔戦争勃発の兆しがあること。勇者らしきものと魔王らしきものが既に存在していること。エリスたちは勇者にも魔王にも組みせず、奴らを妨害する活動をたまにやっていること。

「どう、よかったら私達と来ない?」

 暴風竜は考える。引きこもりもそろそろ飽きたし、究極解放アルティメットリリースも久しぶりに使ってみたい。何より、勇者と魔王に嫌がらせというのに興味が湧く。

 もう一度彼は有資格者たちをまじまじと眺める。そして彼は気づいた。

「そこの碧い娘、そのブーツはどこで手に入れた?」

 レーヴェのブーツは「隼のロングレザーブーツ」ユニーク装備だ。

「ワーランの迷宮で手に入れたが、何かあるのか?」

「もうちょっとよく見せてみろ」

 するとらーちんがマグマに前足を掛け、レーヴェが暴風竜の前まで行けるように橋の役を買ってくれた。

 らーちんの背を伝い、暴風竜の前まで登るレーヴェ。暴風竜はまじまじとブーツを見る。

「手入れはお前がしているのか?」

「ああ、愛用品だからな」

 何かを考えるように、一度目をつぶる暴風竜。そして再び目を開けると、暴風竜は全員に呼びかけた。

「ぼくはこの碧い娘と契約したいんだが、君たち、それでもいい?」

 一旦4人のもとに戻るレーヴェ。

「レーヴェ、あなたの気持ちはどうなの?」

 レーヴェは先ほどの、彼女のブーツを見つめる暴風竜の真摯な目線を思い出した。多分悪い竜ではない。

「私も男なんぞ一生ゴメンだ。契約できるのならばお願いしたい」

「じゃ、いつもの名付けね」

「エリス、こういうのはどうだ? 強いぞ大暴風魔竜くんだ」

「だめだよレーヴェ、ここは群青色の肌がツヤツヤでかっこいいけど大地竜に負けた暴風竜くんだよ!」

「レーヴェもクレアも却下。キャティは無視。ということで、フラウさんどうぞ」

暴風竜ストームドラゴンなので、すーちゃんでいかがでしょう?」

「はい決定。レーヴェ、さっさと行って来なさい」

 ちっ、と舌打ちしながらレーヴェは再びらーちんの背中を登る。そして彼の目の前に到着すると、儀式を始めた。暴風竜ストームドラゴンに「すーちゃん」の名前を与え、そしてくちづけ。レーヴェの意識に暴風竜の存在が刻み込まれる。そして彼女の意識にも2つのコマンドワード群が焼き付いた。

体長変化許可パーミッションチェンジサイズ

 レーヴェが唱えると、すーちゃんの身体が縮んでいく。そしてマグマの檻から解放される暴風竜のすーちゃん。

「レーヴェちゃん、これで契約成立だ」

 マグマの檻から這い出してきたのは、小さな群青色の翼竜。流線型の小さな頭には後方に伸びる複数の角、スリムな身体の前脚には薄皮の翼を持ち、華奢な後ろ足と長い尾でバランスをとっている姿。

「やれやれ」

 すーちゃんは当然のようにレーヴェの両肩を両前足で掴み、ぶら下がるように胸に張り付いた。広がった羽が胸を覆う。それはまるで群青色のブレストアーマーのようにも見える。

「じゃ、レーヴェちゃん、下に降りてよ」

 すーちゃんの指示に、素直に従うレーヴェ。これには理由がある。それは、頭に浮かんだもう1つのコマンドワード群。

 彼女が下に降りると、らーちんも一旦ラブリーなサイズに戻った。

「で、すーちゃん、この『暴風召喚サモンハリケーン』というのは何だ?」

 待ちきれないようにレーヴェが尋ねると、久々にぶっ放したくなったすーちゃんが言葉を続けた。

「それはぼくの究極解放アルティメットリリース。試しにぶっ放してみようか」

 すーちゃんは広い場所に自分を下ろすように指示をし、元の巨大なサイズに戻った。そしてレーヴェを自分の背中に乗せ、首元に掴まるように指示する。

「行くよレーヴェちゃん!」

 すーちゃんは羽ばたきを始め、空に舞う。突然の事だったが、不思議とレーヴェに恐怖心はない。

「レーヴェちゃん、視界共有シェアサイトだよ」

 言われるがままにレーヴェはシェアサイトを解放。すーちゃんと視界を共有する。

「次は空間把握キャッチスペースで、おおまかな位置を決めるんだ」

 レーヴェはすーちゃんの視界で、沖の海を捉える。

「さあ、『暴風召喚サモンハリケーン』を解放して!」

 レーヴェは暴風召喚サモンハリケーンを解放する。すると、視界に捉えた場所に竜巻が発生した。轟音とともに海水を巻き込み、海を割る竜巻が把握した空間内で暴れる。

「これがサモンハリケーンだよ。あれの中は真空状態だから、大概の生物はお空の星になるんだ」

 驚くレーヴェと、さらに驚いた4人と1匹の姿がそこにあった。もう1匹だけは「俺には効かないけどな」と自慢気にエリスに語りかけていたが。


 4人と2匹のもとに戻った1人と1匹。レーヴェはまだ体の震えが止まらない。

「すさまじい威力だな、すーちゃん」

「まあ、レーヴェちゃんがぼくの竜戦乙女になってくれたお陰だよ」

「ところでエリスちん、これからどーすんだ?」

「そうねらーちん、一旦ワーランに帰りましょうか」

 すると、すーちゃんが自慢気に翼を見せびらかし始めた。

「どっしよっかなー。レーヴェちゃんはぼくの戦乙女だから当然だけど、他の人も、お願いするなら空を運んでやってもいいけどなー」

 嫌なやつ。

 しかし4人とも空を飛んでみたい。

 ここは仕方がないか……。

「すーちゃん、私達も運んでくださいな」エリスが頼む。

「すーちゃん、私達も連れて行ってくださいませんか」フラウが頼む。

「すーちゃん、ボクも空を飛んでみたいよ」クレアが頼む。

「にゃうにゃう」キャティはすーちゃんの尻尾にじゃれつく。

「すーちゃん、私からも頼む」レーヴェが最後に言葉を続ける。

「他ならぬレーヴェちゃんの頼みだから聞いてあげよう。おい、らーちんとやら、お前、結界張れるだろ?」

 すーちゃんの言葉に、不満そうな顔でらーちんが頷く。

「レーヴェちゃんはぼくの加護で、もう風に傷付けられることはないから、ぼくの背中でいいけど、他の人は風圧で死んじゃうかもしれないから、気をつけてね。じゃ、らーちん、丸まって」

 らーちんはエリスたちを手招きし、4人と1匹をその身体で包み込んだ。万が一にも彼女たちが落下しないように、抱きかかえるように優しく丸まる。レーヴェはすーちゃんの背に移動。

「それじゃ行くよ、レーヴェちゃん、案内お願いね」

 すーちゃんは羽ばたき始めると同時に、後ろ足でらーちんの身体を挟みこむように固定した。そして一気に上空に飛び出す。

 行きは南端の岬まで陸路で4日かかった距離を、帰りはすーちゃんの高速飛翔により数刻で飛びきった。エリスとレーヴェを除く3人が高速飛翔の衝撃で気絶したままというおまけ付きで。高速飛翔に対する適応力、これも竜戦乙女に授けられた加護のひとつだと、らーちんはエリスに、すーちゃんはレーヴェにそれぞれ語りかけた。

 こうして彼らは、無事ワーランに帰還することになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ