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魔女の弟子の彷徨  作者: 丘/丘野 優
第1章 低級冒険者編
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第93話 第五階層

「……これでよし、っと」


 倒れたマランの手足を縛り、その辺の木に適当に括り付けてさわやかに汗を拭いた俺である。

 

「……一仕事終えたような顔をしていらっしゃいますけど、それ、倒したのわたくしですからね?」


 クララが不満そうにそう言ったが、俺は、


「そんなこともちろん分かってるって。それよりなんだか縛ってるうちに楽しくなっちゃってさ。結構綺麗に縛れたと思わない?」


「……妙な趣味に目覚めるのもやめてください」


 目を細められてそう言われた。

 マランは結構な美形であるので、縛られると妙に耽美的な雰囲気が感じられる。

 もしこの世界にカメラが存在していたらパシャパシャとった上で、バトスの街にばらまいたり、酒場に張り付けたりしてやりたいところだが、残念ながらそんなものはない。

 魔道具で似たようなのはあった気がするが……印刷までは出来なかった気がする。

 そのうち、こういうときの嫌がらせのために造ろうかな、とちょっと思わないでもない。

 ただ、一応言っておきたいのは、


「別にそんな趣味ないから」


 そういうことだ。

 クララは疑わしそうな表情で俺を見るが、その横で、リリアが、


「……妙な趣味ってなあに? 人を縛る趣味?」


 と尋ねてきたので、あわてて、


「いいのですよ。リリアちゃんは知らなくていいのです。ユキト、ほら、教育に悪いじゃありませんか!」


 と怒られた。

 だから、別にそんな趣味ないって……。

 濡れ衣である。


「……まぁ、冗談はさておいて、本来の目的の方に戻ろうか」


 そう言うと、クララは即座に普通のテンションに戻って、


「そうですわね。《中庸の迷宮》の攻略をしに来たのでしたわ。今日は出来れば次の階層主のところまで行きたいですわね。頑張りましょう」


 そう言った。

 落差が激しすぎる、と思わないでもないが、俺とクララは大体いつもこんな感じだ。

 リリアはこういった俺とクララの妙なやり取りを聞いて、いつも少しだけ考える顔をするのだが、最後には、まぁいっか、といった感じで、


「そうだね! 頑張ろう!」


 素直にそんな感じのことを言って流される。

 この純粋さを失わないでほしい。

 心からそう思うが、子供の見た目の癖して荒み切った俺と、見た目よりずっと大人に見える若干擦れたクララの近くにいるので、その純真さが失われる時期もさほど遠くはないのかもしれない。

 

 ◇◆◇◆◇


「……一階層の扉よりも若干だけど、重厚な感じがするね」


 《中庸の迷宮》五階層、その最深部にある大きな扉の前に立ち、俺はそう言った。

 するとリリアが、


「今度は蔦に巻き付かれてないね。彫刻が綺麗だよ」


 と言った。

 確かにそうだ。

 一階層の階層主の扉には蔦が沢山巻き付いていて、模様なんて一切見えなかったくらいだからな。

 五階層の扉はそうではなく、扉に描かれている文様がよく見える。

 これは……なんだろうな。


「……木に人がぶら下がっている情景でしょうか? いえ、というよりも……」


 そうだな。

 ぱっと見はそう見えるが、より厳密にいうなら、しがみついている感じがするな。

 どんな意味があるのかは分からないが……。

 中にいる魔物のヒントとかかな。

 だとすれば、一階層の扉にも何かしら描いてあったのだろうが、長く放置されすぎて蔦で見えなくなってしまったのだろうか。

 ここの階層がそうでないのは、階層によって植生が違うのかもしれない。

 

「おそらく、植物系の魔物が中にいる、ということだろうな。リリアはまだ、火の魔術についてはそれほど得意じゃないよな?」


「うん……風の魔術ばっかり使ってる。他のも使える方になった方がいいよね……」


 少し自信なさげに、というか申し訳なさそうに言うが、別にリリアは悪くないだろう。

 俺がリリアの魔術の教育方針を得意なのから伸ばす方法をとっているがゆえにそうなっているだけだからだ。

 しかし、座学で魔術師を目指すならそれでいいかもしれないが、冒険者をやっていく中だとこういうこともあるから、その方針はあまりよくなかったかもしれないな。

 魔術の感覚を掴む、という点ではいいのだが、対応力がおろそかになってしまう。

 これからはその辺も考えて、どちらかと言えばオールラウンダー的な育て方をした方がいいかもしれない。

 とは言え、それはこれから先の話だ。

 今は……。


「ま、気にしなくていい。明日当たり、火の魔術の訓練をしよう。今日のところは、俺とクララで倒すから、リリアは補助を頼む。後衛としてどんな風に戦うかも身に付けておいた方が良いしな」


 そう言って慰めた。

 と言っても、全てが嘘という訳ではなく、八割方本当に思っていることを言っている。

 リリアは風の魔術を多く身に付けているが、その中には補助魔術もそれなりにある。

 不可視の風の盾を付与したり、他人にかける身体強化とかな。

 まぁ、まだあくまでどれも低級のものだけど、それでも俺とクララなら《中庸の迷宮》の五階層の階層主くらいは相手にできるだろう。

 バトスの迷宮では強い方の魔物が出現する迷宮ではあるが、それでもここも所詮は初心者向けだ。

 もっと上の方まで行けば分からないが、五階層はまだ、それで十分にやれる。


「じゃあ、開けるよ」


 そう言って、俺が扉に手をかけると、クララとリリア、それにリリアの頭の上に乗っかるプリムラが、気を引き締める。

 ……いや、プリムラは引き締めてないか。

 

 ともかく、俺たちは扉が開くと、武器を握る手に力を入れて、ゆっくりと進んだ。


 ◇◆◇◆◇


「……? 何もいない?」


 部屋の中を見渡して、リリアがそう言って首を傾げた。

 確かに、部屋の中には何もいなかった。

 いや、厳密にいうなら、その中心に、大体二メートルほどと思しき木が安置してあったが、それだけである。

 それが魔物か、と思って少し身構えたが、動き出す気配はない。

 結果として、リリアの発言につながる。


「そんなはずはないのですけど……ッ!?」


 同じように首を傾げたクララだったが、不思議そうにしていた瞳を、ぱっと鋭くした。

 何が、と思ってみてみると、クララの周囲にぼんやりとした光が二つほど浮いていた。

 

「どうやら、そいつがここの階層主みたいだね」

 

 俺がそう言うと、三人そろって、しっかりと武器を構える。

 戦いが始まる。


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