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魔女の弟子の彷徨  作者: 丘/丘野 優
第1章 低級冒険者編
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第91話 E級の自慢

 草刈りをしながら《中庸の迷宮》まで徐々に進んだはいいが、思った以上に道に生えている草木が多すぎて、時間を食ってしまった。


「付き合わせて悪いね……もう少し早く終わらせられると思ってたんだけど」


 俺が一緒に後ろからついてきていたリリアとクララにそう言うが、二人とも特に文句はなさそうで、


「今日の帰りから楽になるんだから大丈夫だよ? むしろ、ユキトだけに草刈させてごめんね。私、まだあんまり魔術が上手じゃないから……」


「わたくしもあまり気にはなりませんわ……魔術と気の併用のための練習法を伝授してくださいましたし、ずっとそれをしていましたから」


 そんな風に言ってくれる。

 クララの言う練習法、とは非常に単純なもので、気を体に流した状態を維持しながら、魔術を放つべく詠唱をすることだ。

 普通にこれをやったところで魔術が発動しないか、魔術が発動しても、気による強化が剥がれるかのどちらかになるが、時間をかけて繰り返すことによって少しずつ感覚がつかめて、最終的には併用が可能になる。

 本当はこれに加えて、お手玉をしながらけんけんぱまですれば習得は早いのだが、流石にそれを一度にと言われていきなり出来る人間はいないだろう。

 そもそも、見かけがあほらしいからな。

 俺は魔女アラドに全部やらされたが。

 それに加えて魔女アラドの放ってくる魔術を避けるというのも加えてだ。スパルタにも程がある。

 それにしても、明らかに冗談を言っているだろう、あんたは、と最初は俺も思っていたが、事実、言った通りやったら本当に出来るようになった。

 あのときの魔女アラドのどや顔が今思い出しても腹立たしい。

 さすがにそこまでは俺もクララにやるつもりはない。

 魔力と気の併用だけなら、別にそこまでやらなくても身に着けさせることはできる。

 それ以上、となると俺がアラドに学んだようなことをやらなければならないというだけだ。


「……ん? 誰かいるな」


 《中庸の迷宮》の入り口、つまりは内部から滝が流れ落ちている巨木が見えてきたが、その巨木横の入り口の前に、何者かが座っているのが見えた。

 リリアとクララも確認して、頷いている。


「男の人、かな?」


「そのようですわね……珍しい他の探索者でしょうか」


 《中庸の迷宮》はその効率の悪さと、はぐれ魔物の出現率が高いと言う危険性のゆえに、ここを探索する冒険者の数はひどく少ない。

 それでも全くいない、というわけではないようだが、少なくとも俺がバトスの街に来て以来、まだ一度も他の冒険者に出くわしたことがないほどだ。

 人がいることを奇妙に感じるのも当然の話だった。


 とは言え、近づかないわけにもいかない。

 警戒はしなければならないだろうが、俺たちはこれからあの迷宮に潜るつもりなのだ。

 今から戻って他の迷宮に行ってもいいが、正直言ってそれは色々とだるかった。

 あとは、あの冒険者が俺たちに何か用があるわけではないことを祈るだけだ……。


 しかし、そういう期待と言うものは往々として裏切られるのが常だ。

 実際、


「――来たね。待ちわびたよ」


 その横を何食わぬ顔で通り過ぎようとした俺たちに、その男はそう言って立ち上がり、そして笑いかけてきたのだった。


 ◆◇◆◇◆


「……待ちわびた、か。そんなことを言われても困るな。あんたはいったい誰なんだ? 少なくとも俺たちには見覚えがないな」


 俺が肩をすくめてそう、その男に話しかける。

 細身の優男だ。

 なんとなく、貴族的と言うか、吟遊詩人のようというか、そういった品の良さのようなものが感じられる

 笑みも、冒険者であるしたら珍しいくらいに柔らかい。

 それだけに怪しさは満天な気もしないでもないが……。

 俺の言葉にその男は、


「そうだろうね。僕も君たちには初めて会った……ふむ、なるほど、中々面白そうな組み合わせじゃないか。しかし……ルルドゥラ君を退けたというのが分からないな? そこまでの実力者には見えないのだが……」


 ぶつぶつと言い始めた男の言葉に、なるほど、と納得がいく。

 ルルドゥラ。

 それは俺たちから毎回銀貨を徴収していく小悪党だ。

 そして彼はバトスにおけるある特定の一派に所属しているのだ。


「……レミジオ一家」


 俺が呟いたその言葉に、男は笑って、


「お、その名前は知っているのだね? なるほど、新人にしては情報収集能力はそれなりにあるのかな? まぁ、別に隠しているわけじゃないから、少し聞き込めば分かることだがね……」


 俺たちが新人であることをよく知っているな、と思うが見た目やこの街での振る舞い、それにロッドたちとよくつるんでいることなどから推測したのだろう。

 バトスにはレミジオ一家の人間が多数いるようだし、そこら中に目があるようなものだからな。

 流石に《中庸の迷宮》でのことや、冒険者組合(ギルド)でどのくらいの素材をいくらで換金したかなどは調べられていないようだが。

 その理由は、《中庸の迷宮》の中にはレミジオ一家の人間なんて入れないからであるし、冒険者組合(ギルド)もまた、他の冒険者には基本的に情報を渡したりはしないからだ。

 まぁ、絶対という訳でもないし、支部によっては癒着紛いのことをしていることもあるようだが、バトスの冒険者組合(ギルド)はその意味では問題なさそうだった。

 俺たちのことがまるで漏れていないらしい、というのがそのことを示している。


「まぁ、それはいいさ。それで? あんたは……」


「あぁ、名乗りがまだだったね。僕の名前はマラン・レスコ―。バトスには二人しかいないEランクだ。君たちも冒険者として敬ってくれてもいいんだよ?」


 とふざけたことを言う。

 確かレミジオがDランクと言う話だったから、まぁ、この街ではそれなりに強い方なのかもしれない。

 C以上は大きな都市を拠点にするものだし、数も少ない。

 レミジオ一家の者たちがこのバトスで威張り腐るほどの権勢を誇っているのには、そんな事情があるのだろう。

 しかし、そんなことは俺たちにはそもそも関係がない。

 俺は言う。


「たかがEランク程度でそんなに威張られても反応に困るよ。俺たちはついこないだ、ハルヴァーンから来たんだ。あそこには、Cランクもそれなりにいるし、Bランクだって何人かいる。彼らは確かに尊敬できる技量を持っていたけど……あんたには果たしてそれだけのものがなにかあるのかな?」


 あるはずないな、と思っての挑発だった。

 まぁ、しょせんはただの挑発だ。

 少なくとも腕のある冒険者なら、いやなくともまともな冒険者なら、こんなものは聞き流してしまうものだった。

 けれど、マランは額に青筋を立て、言う。


「これは、これは。最近どうも上納金を誤魔化して出し渋っている新人がいるみたいだから、ちょっとお灸をすえてやろうと思って出てきたのだが……ここまで生意気だとはね? お灸程度では教育効果がなさそうだ」


「上納金? そんなもの一度たりとも収めた覚えはないな……たしか、俺がルルドゥラさんに渡していたのは街道の整備や遺品の回収に使うための基金だという話だったはずだよ? そうじゃないの?」


 何も分かっていないような顔でそう尋ねてみれば、マランは笑って、


「ははは! そんなこと! 僕たちがするはずがないじゃないか! まさか本当に信じている者がいたと思ってもみなかったよ……ま、いいさ。これからは、しっかりと上納金を収めたくなるだろうから、ねッ!」


 そう言って、マランは腰か細剣を抜いてこちらに向かって地面を思い切り踏み切った。

 まさに自分で言った通り、俺たちに痛い目を見させるつもりなのだろう。

 そして、彼の細剣は俺に向かって突き出される――


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