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魔女の弟子の彷徨  作者: 丘/丘野 優
第1章 低級冒険者編
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第90話 草刈

 さてさて、今日も今日とて、《中庸の迷宮》の攻略である。

 いつも通りに三人と一匹で草木生い茂る迷宮までの道を歩いていこう……と思ったのだが、そろそろ面倒になって来た。


「……この道、勝手に整備してもいいかな?」


 俺が、他の四迷宮と《中庸の迷宮》との間の二差路に来た時点でそう呟くと、他の二人は……。


「別にいいんじゃないかな? あっ、でもやり方によるかもしれないけど。ほら、燃やしたりしたら危ないし」


 リリアがそう言い、


「私は手伝いませんわよ? ユキト一人でやるならご自由に、という感じですわ」


 と面倒くさがった台詞をクララが言った。

 なるほどそれぞれらしい台詞に、俺はなんだか脱了する。

 まぁ、別に俺だって甲斐性がないわけじゃない。

 我がパーティの華である女性陣二人に草刈なんて重労働をさせる気はさらさらないさ……。


 そもそも、最初から一人でやるつもりだったしな。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて。……風刃ヴェント・クリンゴ


 詠唱を唱えて魔術を発動させる。

 風属性の低級魔術だ。

 大した威力もないし、誰にでも扱える類の魔術である。

 しかし、そもそも魔術と言うものは、その使用者次第で大幅に威力が増減する。

 大体、俺の魔術理論は魔女直伝だ。

 世の中に存在しているそれとは完全に内容が異なる。

 属性魔術、というのが世の中で広く扱われている魔術理論だが、魔女はそんなものはぶっちぎっていた。

 ただ、人前で扱うときに、今の世の中で使われている魔術理論と全く違うものを扱うと色々と言われるので、あえて属性魔術を使っていた。

 俺もその一環で教わっており、だから基本的には属性魔術を使っている。

 ただ、詠唱や見かけは似ていても、効果は全く異なる。

 風刃(ヴェント・クリンゴ)ひとつとっても、そうだ。

 普通ならゴブリン一匹に斬撃を食らわせられる程度のその魔術であるが、俺が使えばもっと自由な使い方が出来る。

 つまりは、小さな風の刃を十数個も出して、そこら中の草を刈り取る、なんてことも可能な訳だ。

 もちろん、その制御にはそこそこ神経は使うが、こんなのは慣れである。

 魔女の婆さんに死ぬほどこの類の制御力訓練はやらされたから、目をつぶっていても出来るくらいだ。

 ありがたく思うが、しかし同時にあのくそババアという思い出も蘇ってくる。

 くそう、くそババア。


 まぁ、今はいいか。

 ざくざくと切られていく草むらの様子に、リリアもクララも目を丸くしている。


「ふわぁ」


「……なんて便利な。草刈だけで食べていけるのでは?」


 などと言っている。

 まぁ、これくらいのことが出来れば広い貴族の屋敷とかだとまぁまぁな賃金で雇ってくれそうだし、ついでに庭師の技能とかを見につければくいっぱぐれはしなさそうではある。

 庭師の修行自体何十年もかかるだろうけどな。ああいう道はいくら修行しても終わりがないから……。

 草刈だけで、となると数件の家を回る感じで働けばいいのかな。

 儲かりそうではあるが……率先してやりたい感じでもない。

 老後にゆっくりとしたいなと思ったときに、その生業のことは考えてみることにしよう、と俺は思う。


 それから刈り取った草木がある程度貯まった時点で、念動魔術でもって空中に浮かべ、周囲を風の壁で覆ってから内部に火炎魔術を放った。

 よく燃えて綺麗である。

 

「ねぇユキト、燃え移ったりしないの?」


 リリアが尋ねてくるので、俺は答える。


「周りを空気の壁で覆ってるから大丈夫だよ。熱い空気は草木のない上空に流しているしね」


「すごいねぇ……私も頑張れば出来るようになるかな?」


「そうだね。頑張って修行すれば。ただ、これはいくつも魔術を発動させた状態で維持しなければならないから、練習をたくさんしないと難しいかな。具体的にいうと……身体強化魔術コールルファスマンシャルムを発動させた状態で、お手玉をしつつ、けんけんぱをやっているみたいな感じだから……」


 俺の説明にリリアは顔をしかめて、


「……物凄い器用なんだね、ユキトって……」


 と言った。

 出来る気がしなかったのかもしれない。


「いや、あくまで例えだからね。でもやろうと思えば……」


 出来なくはなさそうだな、と思う。

 まぁ、そこまでできずとも、これくらいなら可能だ。

 ただ俺と同じくらいに、ということならそれくらい出来た方がという話になる。


「ちなみに、それが出来るようになったら魔術と気を併用することも可能になるよ」


 ついでにした説明だったが、これに食いついたのはクララだった。


「ちょ、ちょっと待ってください! それは本当ですか?」


 なぜそんなに食いつきがいいかと言えば、基本的に魔術と気は併用が出来ないとされているからだ。

 ごくごく一部のものが、特殊な技術でもって可能にしているだけで、一般的な技術ではないとされている。

 しかし、俺はそれが可能なことを知っている。


「本当だよ。俺は普通にそれをやっていた人を見たことがある。それに、俺もやろうと思えば出来る。――ほら」


 そう説明して、俺は自分の体に気を纏って見せた。

 大した量ではないが、低位身体強化コールルファスマンシャルムと同じくらいの身体強化がかかるくらいである。

 その上で、草刈のためにいくつか魔術を使っているので、併用している状態と言うことになる。


「ほ、本当ですわ……これは……私にもできますの?」


「出来る出来る。ちなみにそれをやるには、さっき言ったとおり、魔術を使いながら他の大道芸が出来るくらいの器用さを身に着ける必要がある。その覚悟があるのなら教えてもいいよ?」


 別に秘密の技術と言うわけでもない。

 魔女の婆さんが言うには、昔は使える者も少なからずいたそうなのだ。

 しかし、その技術を身に着けるのがあまりにも困難であるために徐々に廃れていったらしい。

 今でも魔術と気を併用できる人々は、未だに連綿とその技術を伝えているだけで、何か特殊な技術をもっているわけではない、というのが真実らしい。

 だから、クララが望むのであれば、俺は教えても構わない。

 まぁ、敵だか味方だか分からないクララに、彼女を強化する技術を教えてもいいのかと言う感じだが別にいいだろう。

 広めようと思って広められる技術ではそもそもないしな。

 教えようと思ったら、才能があるものでもそれなりに時間がかかる。

 俺が教えるときは、成長補正の魔道具を作り、教えるつもりなので習得期間は短くなるだろうが、それなしでとなると最低でも半年一年はかかるだろう。

 だから、別にいい。

 それで、クララの気持ちはどうかと言えば……。


「ぜ、ぜひ! ぜひお願いします!」

 

 かなり必死にそう、頼み込んできた。

 また随分と一生懸命だな、と思って、


「どうしてそんなに覚えたいの? 正直これ、覚えるの面倒だし大変だよ」


 と尋ねると、クララは、


「……獣人族の英雄にユーズテリア様という方がいらっしゃるのをご存知ですか?」


 と言った。

 俺とリリアは顔を見合わせるが、双方知らないようである。

 まぁ、二人そろってそれなりに世間知らずの自覚はあるし、仕方ない。

 クララも大体予想してたのか、呆れつつも仕方ないなと言う顔をした。


「……まぁ、いるんです。その方が身に付けている技術なのです。ただ、他の誰がまねしようとしても出来なくて……」


「なるほど、英雄に並びたい、か。うちのパーティのメンバーらしくていいね」


 俺がそう言うとリリアも、


「うん! いつか竜を倒すんだもんね、私たち!」


 と迷いなく言った。

 クララはそんな話は聞いていなかったのか、目を見開いていたが、俺たちの目標は基本的にその辺りにあるので、パーティメンバーだと言うのなら最終的には英雄くらいには勝ってもらわなければ困る。

 本人のやる気も満々のようだし……。


「死ぬほど鍛えるから頑張って耐えてね」


 微笑みながらそう言うと、クララは、何かまずいことを言ったことに気づいたらしく、頬をひくつかかせていたのだった。


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