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魔女の弟子の彷徨  作者: 丘/丘野 優
第1章 低級冒険者編
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第86話 換金

「これで全部だ。頼む」


 俺がそう言ってどっさりと迷宮で狩った魔物の討伐証明部位や魔石を机の上に並べると、バトス冒険者組合ギルドの職員が呆れたような表情で俺たちを見て言った。


「……毎日毎日よくこれだけ狩って来れますね。しかもこれ、全部≪中庸の迷宮≫の素材ですよね……あんな効率の悪い迷宮で、この量。バトスなどではなく、もっと適正な狩場があると思うんですが」


 実際、確かにそれほど効率は良くない。

 バトスで迷宮探索を行うにしても、≪中庸の迷宮≫を狩場にするより、他の迷宮を狩場にした方がいいくらいである。

 けれど俺たちは好きで≪中庸の迷宮≫を狩場にしている。

 その理由は色々あるが、一番はバトスで好き勝手やってるレミジオ一家に出来る限り金は払いたくないということだ。

 別に揉め事を起こしたいわけではないので要求されたらある程度は払っているが、稼ぎと比較すると微々たるものなので、とりあえずは良しとしてはいるが、それは今だけだ。

 

「特に効率を求めてここに来たわけじゃないからな」


 実際、バトスに来たのはハルヴァーンで冒険者組合長ギルドマスターであるノエルにバトスにある迷宮のうちのどれかの踏破を指名依頼されたからに過ぎない。

 依頼を達成すれば、かなりの金額の報酬も約束されている上、貴重な品もくれるという話だったから、効率、という意味では悪くはないのが真実なのだ。

 しかし、依頼の詳細についてはバトスの冒険者組合ギルドも把握していないようだ。

 だからこそのその言い方なのだろう。

 冒険者組合ギルドはそれぞれの街にある冒険者組合ギルド同士の横の繋がりはあるし、冒険者の情報も魔道具で共有しているが、全く共有されていない情報も少なくはない。

 意図的な場合も、そうでない場合もあり、俺たちの依頼についてはノエルが意図的にその情報をバトスの冒険者組合ギルドに告げないようにしていると思われる。

 どこにどんな人物がいるかわからないし、出来る限り指名依頼の内容については秘匿しておきたい、というのは理解できない話ではない。

 一般的に指名依頼というのはそういう性質を帯びるもので、冒険者組合ギルド職員ですらその情報のすべてを閲覧できるというわけではないのだ。

 具体的な詳細については、冒険者と依頼主との間でのみ行われたりする。

 その理由は、内容を知られて、先にその目的を他の誰かに達成されたりしては問題だからだ。

 たとえば、指名依頼の内容が、特定の素材を手に入れて持ってくること、だった場合に、それを横から聞いていた誰かに持ってこられても困るからだ。

 この場合の素材がたくさんあるものだった場合には問題にならないだろうが、かなり限らていたり、世界にただ一つ、となった場合に、契約を交わしていない者同士ではどれだけ足元が見られるかわかったものではないのだ。


 そう言う訳で、俺とノエルの間の依頼の詳細も秘匿されている、というわけだ。

 

 職員は俺の返答に首を傾げ、


「ではいったい何を求めているのですか?」


 と尋ねてきた。

 ここで本来の目的を話すわけにはいかないので、俺はリリアを見ながら言う。


「報酬じゃなくて、経験を求めてきたんだよ。≪中庸の迷宮≫には色々なタイプの魔物が出現するだろう?」


「ええ、そうですね。ですから対応が難しい迷宮と言われているわけで天…他の地域でしたらさほど問題はないのでしょうが、バトスの冒険者はほとんどが低ランク冒険者ですから、≪中庸の迷宮≫ほど多彩な魔物が出現すると対応しきれないのが通常です。さらにはぐれ個体まで出現するとなると……報酬もあまり美味しくはないですし、よい迷宮とは言えませんね」


 職員の言う良い迷宮、とは誰にとってかにもよりその意味は異なるが、冒険者視点で言うなら、出てくる魔物の素材が高価で貴重なものであったり、湧出する宝物などが多いなど、実入りがよく、かつ安全に狩りが出来る効率的な迷宮であるということになるだろう。

 その意味で、≪中庸の迷宮≫は良い迷宮ではないわけだ。

 しかし、俺たちにとっては事情は異なる。


「全くその通りだけど、俺たちはここには報酬目当てというより、修行目的で来てるんだ。特に、このリリアの、ね」


 ぽん、と頭に手をのせると、職員の視線がリリアに向けられる。


「と、申しますと?」


「リリアはまだ冒険者としては駆け出しで……戦闘技術はあっても、経験に欠けるところが少なくないんだ。そういう経験を積むのに最適なのが……」


「なるほど、≪中庸の迷宮≫だと。しかし、あそこには先ほども申しました通り、はぐれ個体が出現します。それについては?」


「俺と、こっちのクララが対応できるよ。頼りなさそうに見えるかもしれないけど、あそこに出現する程度のものなら何とかできるくらいの腕はあるつもりだ。実際にもう、何度か遭遇しているしね」


 この台詞に職員は少し考えるような顔をしたが、彼にはすでに何度か討伐証明部位や魔石を換金してもらっている。

 その関係で、俺たちが本当にはぐれ個体を何度か倒していることは知っているのだ。

 だから頷いて、


「でしたら、いいのですが……ただ、お気をつけてくださいね。貴方たちのような有望な冒険者というのは非常に貴重です。このようなところで命を落としてはなりません。くれぐれも、慎重に……」


 と言った。

 根掘り葉掘り色々と聞いてくるな、と思っていたのだがどうやらそれは俺たちを心配してのことだったようである。

 お節介だな、と少しだけ心に思ったことは内緒にして、


「あぁ。分かったよ。もともとそんなに無理をするつもりはないんだ。な、二人とも」


 そう言うと、リリアが、


「その前に逃げる!」


 といい、クララも笑って、


「もちろん、その場合の殿しんがりはユキトですわね」


 と言ったので、俺は肩をすくめて、


「……そういうことらしいよ」


 と言う。

 そんな様子を見ていた職員は、


「早くも尻に敷かれているようで……これから先が忍ばれますな」


 と冗談か本気かわからないことを言ったので、俺は深くため息を吐いたのだった。


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