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魔女の弟子の彷徨  作者: 丘/丘野 優
第1章 低級冒険者編
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第85話 贈り物の約束

 冒険者組合ギルドに入って、ロッドたちが用事を済ませる間、俺たちも用を済ませる。

 迷宮で得た魔石や素材の売却である。

 本来、全部ロッドたちに渡すつもりでいたのだが、彼らにそう告げると自分たちはただ後をついていっただけで何もしていないのだからもらえないと言われた。

 俺たちは≪中庸の迷宮≫でそれなりに稼いでいる。

 それに≪地底の迷宮≫へはそれこそ勝手にロッドたちに興味本位でついていったに等しいので、迷惑料に渡そうと思っていたのだが、どれだけ言っても受け取ってもらえなかった。

 どうしてもと言うなら、稽古をつけてくれた授業料だと思ってくれとまで言われてしまったので、これはもう、仕方ないだろう。

 ロッドたちにしてみれば、自分たちが倒したわけでもない魔物の素材をもらうのは、冒険者として認められないことであり、かえって迷惑をかけたかもしれないと申し訳なく思った。


 素材の査定と売却が終わり、冒険者組合ギルドの受付がある大広間に戻ると、ロッドたちがすでに用事を終えて俺たちを待っていた。


「終わったか? じゃあ、宿に戻るか」


「別に先に戻っていてもよかったのに。緑小鬼騎士ゴブリンシュヴァリエの魔石はもう、預けたんでしょ?」


「友達待ってるくらいいいだろうが。魔石はきっちり預けてきたぜ」


 言いながら、宿に向かって歩き出す。

 冒険者組合ギルドには今日のところは用はない。


「≪地底の迷宮≫の稼ぎは、≪中庸の迷宮≫と比べてどうだ?」


 と、ロッドが聞いてくる。

 自分では≪中庸の迷宮≫に潜る気はないとは言え、気になるらしい。

 セレスとフォーラもこっちを見ている。


「意外と悪くなかったよ。でも≪中庸の迷宮≫の半分くらいだったかな……。やっぱり、魔物が強いから、同じ魔物でも高値で買ってくれるみたいだね」


 査定をした冒険者組合ギルド職員の話によれば、素材も魔石も質が違うということらしい。

 出来れば多くの冒険者に≪中庸の迷宮≫に潜ってほしいようなことも言っていたが、バトスにいる冒険者のランクを考えるとそれは無理だとわかっているような口ぶりだった。


「やっぱりか……。うらやましい限りだぜ。俺たちもできれば行きたいけど……」


 ロッドがそう言ったが、セレスが眉を寄せて、


「無理はしちゃだめよ」


 とたしなめるように言った。

 ロッドはその言葉にため息をついて、


「だよなぁ……」


 と言ったので自分でもわかっているらしい。


「まぁ、稼ぎたいなら≪中庸の迷宮≫にわざわざ潜るより、≪地底の迷宮≫を深く潜った方が早いんじゃないかな。≪中庸の迷宮≫は確かに一匹一匹の魔物の質は高いらしいけど、出現頻度は≪地底の迷宮≫の方が多かったし、魔物の強さも≪地底の迷宮≫の方が安定してるから……計画立てやすいのはそっちだと思うよ」


 ≪中庸の迷宮≫にはそれこそ悪い意味で値段のつかないような魔物も割と出現するので、その意味では効率のよくない迷宮でもある。

 俺たちはただ出会った魔物を片っ端から倒していったため、いい稼ぎになったが、同じ労力をかけるなら他の四迷宮の方が効率がいいような気がする。


「いいことばっかりじゃないんだな」


「そうさ。ただ、いくつか良さげな魔石は手に入ったから……何か作ろうかなとは思ってるけど」


 安定した稼ぎを望めるのが≪中庸の迷宮≫以外の四迷宮なら、≪中庸の迷宮≫のいいところは数は少なくとも良質な素材の手に入るところだろう。

 俺は手に入った魔石をすべて売らずに、いくつかは自分の手元にとっておいて、魔道具を作ろうと考えていた。

 ロッドたちにバトスの街を去るときにでも渡そうかと思っている魔力上昇効果のある魔道具などである。

 俺が何か作ろうと思っている、という話を聞いたロッドたちは、


「そういや、前に手先が器用だとか言ってたな。実用品まで作れるのか」


 と驚いていた。

 趣味に魔道具を作る者、というは意外と数が多い。

 仮に魔力がなかったとしても、魔石を活用すれば作ろうと思えば作れる。

 屑魔石を動力源にしたおもちゃなんかは、自作したりする者が少なくないのだ。

 ただし、それにも知識や技術が必要であり、そこらの村人にできることではないのだが、冒険者は基本的に魔力を扱えるものである。

 そう言ったことを趣味にする者も多く、ロッドたちも俺の技術はそのぐらいだと思っていたのかもしれない。

 けれど、俺は一般的なレベルで言うならかなり高度な魔道具を作ることも可能である。

 魔女に直に習ったのだから、当然と言えば当然なのだがそんな事情などロッドたちが知るはずもない。

 もちろん、それでも作れないものもたくさんある。

 たとえば、収納袋アイテムボックスなどはその最たるものだろう。

 材料や加工方法を知らなければ、いくら技術があろうとも作りようがないのである。


「それなりに効果のあるものは作れるよ。ロッドたちにも何か、贈ろうかなと思ってるんだけど、迷惑かな?」


 ちょうどよく話題になったのだし、特にサプライズをしたいわけでもない。

 先に言っておき、希望なども聞いておくことにしたいと思ってのセリフだった。

 しかしそれでも三人は驚いたように目を見開く。

 それから、


「何か作ってくれるのか!? でも、悪いんじゃ……」


 ロッドがそう言ったので、俺は首を振る。


「友達なんだろ? 別にそれくらい贈らせてくれ。まぁいらないっていうならあれだけどさ」


「馬鹿言うなよ。俺が言いたいのはそんなことじゃなくてだな……」


「手間とかはね、趣味だから。あんまり出来のいいものじゃないかもしれないけど」


 実際、モノ作りは楽しい。

 誰にあげるわけでなくとも、何かを作っている間は心が安らぐ。

 滅びた故郷のことも、忘れられる。

 あげる相手がいる、と考えるとそれに応じた拘りも出てきて、楽しさも増すのだ。

 だから、手間という意味では問題ないと思ってのセリフだ。


「出来とかはいいんだよ。ただ、なぁ。もらってばっかりな気がして、申し訳がなくてな……」


「それこそいいんだ。俺の趣味だ」


 はっきりと言ってやると、ロッドはため息を吐いてあきらめて、


「わかったよ。ありがたくいただく……」


 それに続いて、セレスが、


「でも、お金は払うわ。材料費だってばかにならないはずよ。魔道具を作るなら、魔石代だってかかるでしょう」


「自分でとってきたのを使うから、実質無料みたいなものだよ」


 そう言うと、今度はフォーラが、


「余計に、だめ……。だって、それは≪中庸の迷宮≫の魔物からとれた魔石。売れば、それだけで高額の依頼料がもらえる……ただでもらうわけには……」


 ロッドたちだけでなく、少女二人も申し訳なく思ってるらしい。

 しかし、である。


「素人が適当に作るものなんだ。もとの魔石よりも価値は下がるものになる可能性が高いよ。だから、いいんだ……」


 むしろ、おそらく逆になるだろうとは思うが、しかしこう言っておいた方がロッドたちにとっては気楽だろう。

 俺にここまで言われて、三人は困ってしまったようだが、横で聞いていたクララとリリアが口をはさむ。


「ロッドたちの気持ちもわかりますが、ここはもらってあげてくださいまし。この人は……ユキトは、一回言い出したら聞かないところがありますのよ」


 妙な評価を述べるクララだが、間違ってはいないだろう。


「そうだよー。あんまり気にしすぎると、よくないよ!」


 リリアが能天気な意見を述べる。

 そして、二人の意見に少し考えていた三人だったが、最後にはため息を吐いて、微笑みながら頷いたのだった。


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