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魔女の弟子の彷徨  作者: 丘/丘野 優
第1章 低級冒険者編
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第75話 撃破

 部屋の中に入ると、今までぼんやりとしていた大緑小鬼ヒュージゴブリンたちが急に俺たちを認識して動き出した。

 扉の外にいた俺たちのことが見えなかったのか、それとも単純に気付いていなかっただけか。

 それは分からないが、先手をとれたことは喜ぶべきだろう。


 まず、俺が大緑小鬼ヒュージゴブリンに向かって片手剣を振り下ろす。

 身体強化魔術コールルファスマンシャルムを使用して身体能力を底上げしており、十分な加速と威力のある攻撃だったはずなのだが、大緑小鬼ヒュージゴブリンは俺の斬撃をしっかりと視認して自らの錆びた大剣でもって弾いた。


「……階層主やってるだけあるね」


 俺がほめたたえるようにそう言うと、意味を理解したのか、にやりと口を歪ませて大緑小鬼ヒュージゴブリンは俺に向かってきた。

 どたどたと近づいてきて剣を振るうだけの、技術も何もない戦い方だが、身体能力が高いために油断は出来ない。

 振るっている錆びた剣も、当たればただでは済まないだろう。

 二度、三度とその攻撃を避けると、大緑小鬼ヒュージゴブリンも業を煮やしたのか、剣を使った攻撃ではなく、体当たりをしてきた。

 しかし、もともと大緑小鬼ヒュージゴブリンの動きは鈍く、捨て身の体当たりも苦もなく避けることができた。


 結果として空振りに終わったその体当たりのあと、大緑小鬼ヒュージゴブリンはバランスを崩して倒れ込む。

 このままでは危険だと理解しているのか、あわてて立ち上がろうとしていたが、こんな絶好のチャンスを見逃すほど俺は甘くはない。

 即座に近づいて、その首筋に向かって剣を振るった。


 ピッ、と大緑小鬼ヒュージゴブリンの首筋に一本線が入り、そしてぽとりと落ちていく。

 血は吹きでなかった。

 俺の使っている剣は雷の魔剣であり、魔力を注げば雷撃を相手にたたき込めるのだ。

 大緑小鬼ヒュージゴブリンの落ちた首と体の接合部は電撃で焼かれて、ぷすぷすと煙を立てている。

 もう、動き出すこともないだろう。

 それを確認した俺は、他の二人の見物をすることにした。

 危なくなったらもちろん助けなければならないが、リリアは経験という意味で一人での戦いをある程度重ねた方がいい。

 クララの方は、個人的にどんな風に戦うのか、客観的な視線で見てみたかったというのがある。


 二人とも、二体ずつの緑小鬼ゴブリン相手にしっかりとした立ち回りを見せていた。

 二人が戦っている緑小鬼ゴブリンは装備がよく、また動きも通常のものよりも洗練されており、一般的な緑小鬼ゴブリンよりは強い個体であるのだろうと感じさせる。

 纏っているのは金属製の胸当てなどであり、通常の緑小鬼ゴブリンが布や、よくても品質の低い皮の鎧くらいしか纏っていないことを考えるとかなりいいものを身につけていることになる。

 もちろん、装備が良いから強い、というわけではないが、緑小鬼ゴブリンについては、装備と実力は比例することが多く、実際、あの緑小鬼ゴブリンたちはなかなかの技量を持っているように感じられた。

 しかし、リリアたちも負けてはいない。

 リリアは、双剣を器用に扱い、緑小鬼ゴブリンを翻弄しており、遠からず勝利はリリアのものになるだろうと確信できる程度に危険の少ない戦い方をしていた。

 クララの方はといえば、得意なのは魔術であって、接近戦ではないという話だったにも関わらず、比較的素早い緑小鬼ゴブリンに危なげなくついて行き、いくつも傷を付けていっている。

 彼女もまた、あと数分もすればその手に勝利をつかむのだろう、と思われた。


 そうして、しばらくの見物ののち、二人が緑小鬼ゴブリンに致命傷を与え、勝利した。

 階層主が相手とは言え、まだ迷宮の一階であるし、二人が戦ったのはその取り巻きにすぎない。

 当たり前と言えば当たり前の結末だったが、二人ともなぜか不満そうな顔をしていたので疑問に思って尋ねてみると、


「ユキトが一番強いのと戦ったのに私の方が倒すの遅かったから……」


「もう少し早く、何とかしたかったですわね」


 と二人して言った。

 向上心があるということだろう。

 ただ、リリアはついこの間、やっと一人で戦える技術を身につけたばかりであるし、クララは迷宮探索など慣れていないのである。

 魔女アラドに色々な危険地帯に放り込まれて魔物とさんざん戦った俺と比べるのは少し、不公平と言うものだった。


「少しずつ経験を積んでいけばそのうち俺よりもずっと早く魔物を倒せ競るようになるさ……」


 必ずしも気休めでなく言った台詞だった。

 それから、


「ま、それはいいとして……どうする? このまま探索を続ける?」


 と、二人に尋ねた。

 入ってきた扉とは反対の方向に扉があり、魔物を倒したことによってその扉が開いたのを先ほど確認したのだ。

 その先には、おそらくは二階に続く通路があるはずで、だからこのまま進んでいくかどうか尋ねたのである。

 リリアは唇に指を添えながら、


「うーん……まだ元気だから、どっちでもいいけど……どっちかと言えば、一端戻りたいかな?」


「それはまたどうして?」


「倒した魔物の素材が、どれくらいになるのか知りたいなぁって。他の迷宮ならともかく、《中庸の迷宮》での一日の稼ぎって、目安がないから……」


 バトス周辺の迷宮のうち、他の四迷宮については魔物の素材の売却益などが冒険者組合ギルドに張り出されているし、また、平均的な冒険者の稼ぎも聞けばだいたいだが教えてくれる。

 しかし、《中庸の迷宮》で活動する冒険者はほとんどおらず、いても特殊な活動形態をしていたりして、そういう意味では何の参考にもならない。

 自分たちの一日の仕事がいったいどれくらいの稼ぎになるのかは、確かに知っておくべきことなのかも知れなかった。


「確かにそれは大事ですわね。それで食事の質も変わってきますもの……」


 クララも同感のようで、頷く。

 俺としても否定する理由はなく、


「じゃあ、リリアの提案通り、ここは一端戻ることにしよう……魔石、忘れずに採取してからね」


 そうして、俺たちは倒した階層主たちから魔石を取り出して収納袋アイテムボックスにつっこんだ。

 討伐報酬目当てに左耳も切り取っておく。

 また、持っている武具はそれなりにいいもので、サイズ調整すれば人間でも使えるだろうと思われたので全部はぎ取っておくことにした。


 それから、俺たちは何も忘れ物がないことを確認すると、まだ開いてない扉を一別してから、その場を後にしたのだった。


 ◇◆◇◆◇


「なかなかいい稼ぎになったかな」


 バトスに戻り、冒険者組合ギルドで持ってきた素材をすべて査定し、買い取ってもらったのだが、これがかなりの稼ぎになった。

 《錆の渓谷》のときの五倍近い額であり、F・Gランクパーティーの一日の報酬としては破格だ。

 報酬の分配は、パーティーの共益費として四割、残りを三分割ということにしたが、それでも質素に暮らせば一週間くらいは依頼を受けなくても生活できそうである。


「ユキトに会う前のハルヴァーンでの生活が冗談みたいに思えるよ……ぜんぶユキトのお陰。でも本当にいいの? ユキトが全額、もっていっても私、いいんだよ? 色々教えてもらったから、そのお礼も本当はしないといけないんだし……」


 リリアがそう言うが、俺は首を振る。


「別に大したことは教えてないよ。それに仲間じゃないか。助け合うのは当然だよ……ま、それでもどうしてもって言うなら、いつかのために貸しイチってことにしておいて」


「貸しイチ! わかった!」


 とリリアは激しく頷く。

 それを見てクララが、


「ふふっ……本当にほほえましいですわね……。初めて見たときは、子供だけのパーティで大丈夫なのかと内心不安でしたが、杞憂でしたわ」


 と言って笑った。


「そんなそぶり、いっさい見せなかったじゃないか」


「それはグインさまの手前、そんな顔できなかったからです……神獣さまがいらっしゃるので、どうしてもついていきたいとは思ったのですが、それでも少し不安でした」


 まぁ、客観的に見て、俺とリリアは子供二人である。

 とてもではないが冒険者をまともにやっていけてるようには見えない以上、クララの印象が正しい。

 

「けれど今はもう違いますわ。お二人ともその辺の冒険者よりもずっと頼りになりますし……何より神獣さまもリリアちゃんもかわいいですし……ユキトも将来性があっていいと思いますから」


 どういいのかを聞きたいところだが、また、からわれそうなのでそこは黙っておくことにし、話を逸らそうと口を開こうとしたところ、


「おい、お前ら!」


 と、後から声がかかった。

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