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魔女の弟子の彷徨  作者: 丘/丘野 優
第1章 低級冒険者編
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第59話 リュック

「かわいい~」


「みゅっ。みゅ!」


 女性陣に近づくと、そんな声が聞こえてきた。

 見てみれば、そこにあった光景は、リリアの背負った小さめリュックから顔と前足だけを出しているプリムラを、少女たちが撫でまわしているところだった。


「……あれは、猫か?」


 ロッドが首を傾げながら言ったので、俺は答えた。


「……ネコ科と言えばそうなのかもね。リリアの従魔だよ。さっき契約したばかりなんだ」


 虎もネコ科だろう。

 魔物がネコ科に分類されるかどうかは正直よく分からないところだが、まるっきり嘘と言う訳でもない。

 俺の言葉にロッドは、


「そういや、あの子は魔物調教師モンスターテイマーだって話だったな。なるほど、≪錆の渓谷≫には従魔探しに来た訳か?」


「そういうこと。運よく手に入って良かったよ」


 そんな風に二人で会話していると、近づいてきたことに気づいたらしい女性陣が俺達に話しかけてきた。


「あ、ロッドにユキトくん?」


 最初に気づいたのはやはり盗賊ヴォラールとしての技術があるらしいセレスである。

 俺のことを君付けなのは、年下だから、という意識があるからなのかもしれない。


「……あっ、ユキト。この子、見せちゃったけど……大丈夫だよね?」


 次にリリアがそう言った。

 なんで彼女がそんな言い方をするのかと言えば、ロッドたちを助けるにあたり、彼らの性格があまり良く分からない以上、プリムラは一応、隠しておいた方がいいかもしれないと、収納袋アイテムボックスに突っ込んでいたリリアのリュックを引き出してそこに入ってもらっていたからだ。

 それに、リリアが言うには、契約したとはいえ、未だ大した訓練もしていない状態の魔物に従魔として戦ってもらうと言うのはあまりよろしくないらしく、彼女自身が戦うということもあり、どこかに隠れてもらっておいた方が都合が良かったと言うこともあった。


 しかし、ロッドたちともある程度話し、何となく性格も理解できた。

 プリムラにしても街に戻って訓練を経たら従魔として扱うのだし、今ここで見せてもあまり問題はないだろうとリリアは思ったらしい。

 

 ユキトもその意見には賛成というか、文句は特にない。

 プリムラは氷虎グラスティーグルの幼生であり、貴重な存在ではあるが、大人の氷虎グラスティーグルを従魔にしている者は少なからずいるし、氷虎グラスティーグルの幼生を連れているからと言ってトラブルに巻き込まれるというのは考えにくい。

 ただ、一つ心配なのはプリムラが急に人化してしまわないかどうかということだが、意思疎通自体はしっかりできているらしく、大丈夫だよ、とリリアが俺に目で告げている。

 それなら問題ないだろうと俺は頷いた。


「ロッド……この子かわいい。うちにも一人、魔物調教師モンスターテイマーを加入させよう」


 フォーラがプリムラの頭を撫でながらそう言った。

 ロッドはそれに対し、


「……いや、別に魔物調教師モンスターテイマーはパーティの癒し担当とかじゃないんだぜ。そもそも……その猫は何の魔物だ? まさか本当に猫って事はないだろう。≪錆の渓谷≫で猫系の魔物って……何かいたか?」


 ロッドの素朴な疑問に、セレスとフォーラが顔を見合わせて、そう言えば、と言った。

 

「いや、普通はいないらしいね。緑小鬼ゴブリンとか水妖スライムが≪錆の渓谷≫の代表的な魔物なんでしょう?」


 俺の言葉にロッドは頷く。


「あぁ。だからこそ俺達はここに来たんだからな。猫系の魔物って言ったら強力なものが多いし、そういうのが出るところはFランクの行けるような場所じゃねぇぜ……ん? となると……その魔物、実は強いのか……?」


「……どうかな? まだ子供だし……リリア、分かる?」


 実際に戦っているところを見た訳でもない。

 俺にはプリムラの強さは分からない。

 ただ、リリアにはプリムラとの心鎖カディアがあるし、魔物調教師モンスターテイマーとしての知識もあるだろう。

 氷虎グラスティーグルの幼生がどれだけ強いか分かるかもしれないと思っての質問だった。

 リリアは、


「うーん。まだ、そんなに強くはないと思うよ。水妖スライムくらいなら倒せると思うけど……親と比べるとね」


 あの氷虎グラスティーグルは強かった。

 流石にあのレベルまでは求めていなかったが、しかし、比べてもまだほど遠いらしい。


「でも一緒に強くなっていくんだからいいんだ~」


 鼻歌を歌いながらリリアはリュックからプリムラを出して、胸に抱いてそう言った。


「あぁっ。あたしにも抱かせて!」


「私も……私も抱きたい……!」


 セレスとフォーラが羨ましそうにそう言った。


「……結局、何の魔物なんだ……」


 ロッドはぼそりとそう言ったが、女性陣はもう別の世界に入ってしまっている。

 答える者は無い。


 仕方なく俺が答えることにする。


「……氷虎グラスティーグルだよ」


「……おい、今なんて?」


 こきり、と首を傾げてロッドが尋ねてきた。

 俺はもう一度、同じ言葉を言う。


「だから、氷虎グラスティーグルだって。さっき毛皮見たでしょ? あれの子どもだね……」


 ロッドは目を見開き、少し頭を抱えたが、俺が氷虎グラスティーグルを倒したことは既に納得しているのだ。

 その子どもを、言い方は悪いが戦利品として捕まえてきてもおかしくはないという結論にたどり着いたようである。


氷虎グラスティーグルを倒せるお前も凄いが、それを従魔に出来るあのリリアって子も凄いな……はっきりとは確認してなかったが、ユキトもあの子もランクはFかGだろ? 実はものすごい高ランクだったりは……?」


「しないしない。お察しの通り、俺がGランクで、リリアがFランクさ」


「だよなぁ……それであの強さ、従魔って言うのはな。やっぱり才能ってのがあると違うね」


 世を儚むような声でロッドはそう言った。

 どうやら自分にはそれがない、と思っている風であったが、それは違うだろう。


「ロッドたちだって十分才能があると思うけど。複数職業クラスを修めていてもどちらかが疎かになっているような感じも無いし、ロッドにしたってしっかり訓練してるのは分かる剣筋だよ。このままコツコツ続けていけば、ランクも段々上がっていくと思うけど」


 実際、ロッドたちは年齢の割に悪くない。

 十五で、しかも冒険者になって半年も経っていなくて、これくらいの強さになっているというのはむしろ有望な方だ。

 先ほどは少し運が悪かったことと、経験不足が露呈したこと、そして何よりも氷虎グラスティーグルからの逃走を経て体力魔力がかなり削られた状態で俺達を助けようと無理をしたことが祟っただけだろう。

 普段であれば、問題なく倒せていたことは想像に難くない。

 だからこその台詞だった。


 ロッドは、


「……おい、本当か? 正直ユキトには格好悪いところしか見せてない気がするんだけどな……」


「まぁ、格好良くは無かったけど、あれが普段の実力ではないのは分かるよ。運や経験も実力の内だと言ってしまえばそれでおしまいだけどね。あんまりああいう無茶をして命を失ってしまっては元も子もないし」


 個人的にはロッドたちの善人的行動は印象がいいが、しかし冒険者としてはいつか死に繋がる行動である。

 ロッドもそれが今回のことで良く分かったのか、素直に頷き、


「そうだな……。今まで俺が生き残ってこれたのは運が良かったからなんだろうな。いつまた同じようなことになるとも分からないし、これからは気を付けることにするよ」


 と言ったのだった。


 それから、一通り女性陣のプリムラ可愛がりが終わった後、俺とロッドが話しかけて、≪錆の渓谷≫を入口まで戻ることを提案した。

 一応、彼らの体力や魔力の回復を兼ねての雑談だったのだが、プリムラの癒し効果もあって十分に回復したようである。

 俺達の提案に、女性陣も頷いたのだった。

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