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魔女の弟子の彷徨  作者: 丘/丘野 優
第1章 低級冒険者編
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第40話 組合長

 冒険者組合ギルドに着くと、冒険者組合ギルド受付嬢であるミネットにすぐに気付かれ、名前を呼ばれた。


「あっ! ユキトくん。来たわね。リリアちゃんも」


 そう言った彼女の表情は穏やかで、あまり心配している感じではない。

 俺がミネットに渡した母ププルの紹介状から、俺の実力を知っているからなのだろう。

 しかし、現実問題として、俺が組合長ギルドマスターに勝利出来るか、それが出来ずとも実力を見せることが出来るのかは俺としても未知数だった。

 おそらくは大丈夫だろう、と思う反面、組合長ギルドマスターと言うのが一般的にどれくらいの実力を持つものかわからないから、なんとなく不安なところがあるのだ。

 そんな俺の表情を呼んだのか、ミネットは言う。


「お、君にも子供らしいところがあったのね? 怖いの?」


 少しからかい混じりでそんなことを言う彼女は少し意地悪に感じるが、子供に対する大人の女性の態度というのは大体こんなところだろう。

 俺は特に反論したりせず、素直な心情を口にする。


「怖いと言えば怖いのかな? 冒険者組合ギルド組合長ギルドマスターなんて、正直、会ったことも無いからね。どれくらい強いのかもわからないんだから、不安だよ」


 正確に言うのならば、かつてデオラスにおいて、パーティなどでデオラス国内に存在していた冒険者組合ギルド組合長ギルドマスターの顔を見たことはある。

 しかし、そのときは当然だが彼らは武具を持ってなどいなかったし、その実力を見せてくれたことも無かった。

 大まかに見て、強いだろう、と思わなかった訳ではないが、当時の自分と比べてどのくらい差があったかと言われると判断できない。

 当時は魔女アラドや父母との訓練がきつすぎて、そういう感覚がかなり曖昧だったのだから。


 ミネットは俺が素直に言ったことが意外だったのか、少し言葉に詰まって、それから首を振って言った。


「……そうよね、ユキトくんはからかってもあんまり面白くないタイプの子供だもんね。間違ってたわ」


 などとため息をつきながら。

 こういう場合におろおろしたり、むきになって反論したりする子供というのはからかい甲斐があるのはわかるが、俺の精神年齢は過去を鑑みれば二十歳は超えていると見ていいだろう。

 今更そういうことにあわてたりするような純粋な心の持ち合わせはなかった。

 けれどリリアはそうではないようで、


「……ユキトは大丈夫です! 組合長ギルドマスターだって一撃で伸してくれるに決まってますっ!」


 とムキになってミネットに反論したので、ミネットはそれを見ていやされるものを見るように微笑み。


「そうね、そうね~。ユキトくんは強いものね」


 と言ってリリアの頭を撫でていた。

 多少擦れた子供であったなら、ここでさらにぶちきれるところだろうが、リリアはそこのところ純粋で、全く擦れてなかった。

 笑顔になって、


「そうなんです! ユキトは強いんです!」


 と冒険者組合ギルド中に聞こえる声で叫び、手を振り上げたのだった。


 ミネットのからかいには無反応を貫けた俺だが、この手放しの賞賛には少し困ってしまった。

 ほめられるのも頼られるのも悪くはないが、いかんせん場所が良くない。

 なんだあいつは、と言う視線を冒険者組合ギルドの中にいる冒険者数人に向けられたからだ。

 組合長ギルドマスターとの戦いの前におかしな冒険者に絡まれたりするのは避けたいので、出来れば静かにしてほしかったのだが、そんな心配は杞憂に終わった。


 俺たちの会話の声が少し大きかったのが気になっただけでその内容にはそれほど興味を感じなかったらしい。

 ふい、と視線をはずすと、彼らは彼らの話題に戻って仲間たちとの会話に戻っていた。


 それに安心した俺はミネットに今日の用件について質問することにした。


「……ところで、組合長ギルドマスターとの試合なんだけど、いつ、どこでやるの?」


 その質問にミネットはすぐに応える。

 特に書類など確認しなかったことから、しっかりと覚えているのだろう。


「三十分後に、この冒険者組合ギルドの裏にある訓練場でやるわ」


 その言葉に俺は少し驚いて、質問を重ねた。


冒険者組合ギルドの訓練場って、ここにもあるの? 少し離れた場所にもあるのに」


 するとミネットは少し目をみはって、それから言った。


「へぇ。あの訓練場のこと知ってるのね。積極的には教えてないのに」


 そういえば聞かなければ教えてくれないと言う少し意地悪な施設だったことを俺は思い出す。

 もしかしたらあの訓練場を知っていることは一種のステータスなのかもしれない。

 本当のずぶの素人と、一応、冒険者として歩き出した者、との線引きくらいには使えるような。


「別に俺から聞いた訳じゃないんだけどね。リリアが知っていたから……」


 とは言え、別に俺は自分がそういう意味でも優秀だと主張したいわけでも何でもないので、正直に知っている理由を告げる。

 ミネットはリリアの顔を見て、


「あぁ、そういえばリリアちゃんは魔物調教師モンスターテイマーだったわね」


 と納得するように頷いた。

 それからミネットは話を続ける。


「ま、それはわかったわ。で、なんで冒険者組合ギルドの裏に訓練場があるかだけど、これはちょっとした技能を見せて貰いたいってときにあんまり遠くにあると面倒だからよ。向こうにある訓練場と違って、小規模なものだから場所もとらないし、特に貸し出してもいないから基本的にここで冒険者が訓練することは出来ないわ。私たち冒険者組合ギルドのための施設ってわけね」


 つまり、今回の俺のように、その実力を見る必要のある冒険者がいる場合に使われる設備と言うことだろう。

 それだけならずいぶん無駄な施設のようにも思えるが、ミネットは、


「他にも用途はあるのよ……ま、これは冒険者組合ギルドの秘密だからあんまり教えられないわ。なんであるのかなんとなく理由がわかったからいいでしょ?」


 と教えてくれなかった。

 まぁ、こんな組織に機密の一つや二つ、ない方がおかしい。

 教えたくないと言うならわざわざ聞かなければならない理由もないので、追及はしないことにした。


 そして、ふと、聞いていないことがあったことに気づき、俺はミネットに質問する。


「そういえば……ハルヴァーン冒険者組合ギルド組合長ギルドマスターってどんな人なの? 会ったこともないし、見たこともないから気になるんだけど……」


 その言葉に、まずミネットではなくリリアの方が反応した。


「えっ。ユキト、知らなかったの? ハルヴァーンの冒険者組合ギルド組合長ギルドマスターはねぇ……」


 そう言い掛けたところで、三人に声がかかった。

 それは力強さと言うよりも品の良さを感じるものであった。


「あら? 今、組合長ギルドマスターって言ったかしら?」


 その声に振り向くと、そこには真っ赤な長い髪を垂らした、一目見ただけで迫力と華を感じさせる女性が立っていた。

 そうは見ない顔貌の美しさや、猫のように引き締まっていながら出るところが出ているその体型の見事さは組合中の男冒険者の視線を集めてやまないようだが、俺としてはそれ以上に彼女の背中に背負われている物体に目がいった。


「……斧?」


 そう、そこにはおそらく170程度だろう彼女の身長に匹敵する大きさの巨斧が背負われていたのだ。

 その斧の重さだけで折れてしまいそうなほど、女性は華奢に見えるが、何の問題もなさそうな様子で立っている。

 見た目通りの存在だと考えるのは危険そうだった。


 女性は三人に近づいてきて、言った。


「さっき組合長ギルドマスターと言ったのは誰かしら?」


 たぶん彼女が聞いたのはリリアの言葉だろうが、ここでリリアが名乗り出るのはあまりよくはないように思えた俺は、仕方なく手を挙げた。

 すると、彼女は言った。


「あなたが? そう。なら自己紹介をして差し上げるわね。私が、ハルヴァーン冒険者組合ギルド組合長ギルドマスター、ノエル=バスティードよ。よろしく」


 大体そんな気はしていたが、しかしまさか女性だとは思っていなかった。

 しかも妙な斧を背負って……。


 意外に強敵かもしれないその女性に、俺は少し不安を感じた。

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