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魔女の弟子の彷徨  作者: 丘/丘野 優
第1章 低級冒険者編
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第28話 パーティ

 冒険者組合ギルドにつくと、二人でまっすぐ受付まで進む。

 二人そろってほぼ新人と言ってもいいくらいに冒険者歴が短いわけだが、それでも冒険者組合ギルドの作りはもう勝手知ったるなんとやら、だ。

 今更きょろきょろするほど新鮮ではない。


「……また来たの? まぁ丁度良かったけど」


 何がちょうどいいのかは分からないが、呆れたような顔でそう言ったのは、受付のお姉さん、ミネットだった。

 その視線は俺とリリア二人に向けられている。

 リリアはともかく俺はこれで三回目になる。

 しかも結構短い時間に何度も来ているのだ。

 ミネットのその表情も分からないでもなかった。


「話がまとまったからね。こういうことは早い方がいいだろうってことで」


 そう、俺が言うと、ミネットは少しからかうような口調で言った。


「婚約の申請ならここじゃなくて教会だけど?」


 当然、冗談なのだが、リリアはそれを聞いて真っ赤になってしまった。


「な、なななな……」


 ミネットもそれを見て、まずかったと思ったらしく、


「あー、ごめんごめん。ただの冗談だから……ユキトくんは割と流すから大丈夫かなって思って。ごめんね」


 そう言った。

 それでリリアは冗談だったと理解できたらしく、徐々に顔の赤さが抜けていく。

 それでも少し頬が赤いが、まぁそれはいいだろう。

 いま重要なのは、パーティ申請の方だ。


「ま、冗談はともかく、用事があってきたんだ」


「はいはい、分かってるわよ」


 ミネットは俺の言葉にすぐうなずき、それから机をごそごそやって書類を数枚取り出した。

 勘がいいというか察しがいいというか、雰囲気で分かったのだろう。

 その書類は間違いなくパーティ申請の書類で、俺は少し目を見開く。


「合ってるわよね?」


「あぁ……よく分かったね?」


「ま、ね。こんな仕事を長くやってればなんとなくわかるもんよ。パーティ作ろうって言う冒険者は。おもしろいのはちょっと浮かれ気味の人と、そうじゃない冷静な顔でやってくる人と、二通りに別れることね。あなたとその女の子は……女の子の方は浮かれ気味、あなたは冷静な方みたい。バランス良さそう」


「その感想も経験に基づいてるの?」


「ええ。打算のパーティはわりとすぐ解散する傾向があるし、そうじゃない、気がすごく合うから、なんていう理由のパーティもすぐ解散することが多いのよね。冷静な理由とそうじゃない理由が半々くらいのパーティの方が、なぜか長く続くの」


 それはおもしろい話だ。

 打算的な方があきらめが良さそうだから長続きしそうなものだが。

 嫌なことがあっても、まぁ仕方ないかとなりそうな気がする。

 そう告げると、


「そういう場合もないではないけど、徐々にたまってくらしいのよね、不満とか。そしてそのうち大爆発となって解散しちゃうわけ。人間関係ってのは難しいってことよ。好きだけじゃやってけないし、ただ打算だけでも無理、そういうことね」


「いい勉強になったよ。俺たちがうまくいきそうなことは、保証されたわけだ」


「まぁ、あくまでそういう傾向があるってだけだからね。適当にやらないで、しっかり努力してパーティ維持しないとだめだからね。そっちの娘も、分かった?」


 突然そう言われたリリアは少し驚くも、深く頷いてはっきりと言った。


「がんばります!」


 両手をぐーにして胸の前で握りしめて力強くそんなことを言ったリリアを見て、ミネットはふっと微笑み、


「また随分とカワイイわね……ユキトくん、いい娘を捕まえたわね」


「どっちかといえば、俺の方が捕まった気がするけどね……」


「あら。まぁ、最近は女の子の方が強いわよね……っと、そんなことより登録だったわね。パーティ登録について説明が必要?」


「あぁ、基本的なことは教えてほしい」


「わかったわ……まぁ、そんなに難しいことはやっぱりないんだけど、パーティ登録に必要な情報は、登録メンバーの名前と、連絡先、くらいなものね。まぁ、これはギルドカードと重複するからいいでしょう。あと、パーティ名を決めなければならないわ。これはランクの低い今のあなたたちならあまり問題はないでしょうけど、ランクが上がってくるとパーティに対する指名依頼、というのが入る場合もあるし、冒険者組合ギルドから呼び出しがかかる場合もあるから、パーティを特定するために必要なの。どんな名前にするかは自由だけど……」


「たとえばどんなのがあるの?」


 参考にしようと聞いてみると、ミネットは少し考えて答えた。


「大別して四つくらいのグループに分かれるわね。一つが、全く無頓着なタイプ。このタイプはかなり適当な名前をつけるのよね。"あ"とか"い"とか、"112233"とか。それで特定できるから別にいいんだけど……。少しくらいこだわってもいいのにね。二つ目は全く正反対で、かなりこだわるグループ。これはとにかく強そうな名前とか、格好いいものとかにする傾向があるわ。"竜のあぎと"とか"炎熱の剣"とかそんなのね。ちなみにだけど、このグループが最も多いわ」


「……中二病か」


「え?」


 俺がぼそり、とつぶやくとミネットが首を傾げる。


「いや、なんでもない。続けて」


「……? ええ。三つ目は、パーティの傾向に即して名付けるタイプね。組織的な話をするならこれが一番管理しやすくて楽なのだけど……強制はできないわ。"剣士1、魔術師2、治癒術師1"とか、"火力優先、防御は後回し"とかそんなのね。一つ目に近いグループだけど、パーティ名がわかりやすいから、後で加入しようと連絡付けてくる冒険者が多くなるわね。四つ目はそのどれにも属さないグループ。もの凄くふざけた名前をつける馬鹿とか、あと自分の権力をパーティ名で示そうとしたりする貴族崩れとかね。想像できるでしょう?」


「まぁ、そういうのはどこにでもいるよね」


「そうなのよね……ま、問題起こさないならそれでいいんだけどね。ちなみにだけど、そういうのは"今日もご飯がおいしい!"とか"ルルド王国テトラム侯爵第7子が率いる勇壮なるパーティ"とかそんなのが代表的ね。馬鹿だわ」


 思った以上に頭が悪そうだ。

 ただ、嫌いじゃないとおもう俺は頭がおかしいのだろうかと少し思ってしまった。

 ミネットは続ける。


「ま、色々いるけど、どういう名前をつけようと自由よ。有名にならない限り、機能的な意味はあまりないし」


「そっか。分かったよ、参考にさせてもらう。リリアもそれでいい?」


 振り向いて聞くと、リリアは頷いた。

 ミネットはそれを見て続ける。


「あとは……パーティの制度の説明かしら。パーティを作れば、パーティ用の依頼を受けられるわ。まぁ、ほとんどの依頼はソロとパーティ共通なんだけど、たまにね、パーティ以外だめ、っていう場合もあるのよ。どこかの館の警備とか、監視とか、人海戦術系のものね。ソロを集める、というのも可能だけど、パーティに依頼した方が連携とかの面で信頼出来る、という利点があるわ。まぁ、これは依頼主の好みかもしれないけど。あと、ソロの依頼についての上限が二つほどあがるわ。つまり、Fランクの冒険者がパーティにいれば、パーティでならDランクの依頼まで受けられるということね。ただ、これについてはよく実力と相談してほしいところだけどね」


「他には?」


「依頼料について、冒険者組合ギルドの側で分割して渡すかパーティのリーダーに全額渡すか選べるわ、とか、そういう細々とした話ね。その辺りについては書類に全部書いてあるからわざわざ口頭で聞くよりも読んだ方が早いわよ。わからないことがあれば聞いてくれればいいし。ということで、パーティを組むという事の主要な効果は、基本的には、受けられる依頼のランクが上がる、という点よ。そこを理由にパーティを組むのが普通ね。例外はなくはないけど、貴方たちには関係ないでしょう」


「なるほど、よくわかったよ。……リリアも大丈夫?」


「……うん」


 リリアが頷いたのを見て、心配ないかと思ったのか、ミネットは書類を差し出してきた。


「じゃ、二人ともよさそうね。必要事項を書いて提出してね。あ、あとメンバーが増えそうなときはその旨、書類に記載してまた提出してもらうから、そういうときはよろしくね。あ、それとユキトくん。組合長ギルドマスターが明日帰ってくるって話だから、試合するとしたら明日になるわ。準備しておいてね」


「ちょうどいいって、それのことか……」


 俺がげんなりとしてそう呟くと、ミネットは頷いて笑った。


「ま、キミなら大丈夫そうじゃない? 別に死ぬまで戦うわけでもないでしょうし。そこそこの実力を示せばいいだけだから。頑張ってね」


 まるで他人事である。

 実際、他人事だろうが。

 しかしリリアはその話を聞き、驚いた顔で俺を見つめている。


「ゆ、ユキト、組合長ギルドマスターと戦うの?」


「あぁ……そうだけど、あれ、リリアは登録するときにそういうことはなかったの?」


 リリアは女性だし子供だ。

 そういうことがあってもおかしくないような気がするのだが。

 しかしリリアは首を振った。


「私は下部組織に所属して、そのまま上がった口だからそういうのはないよ? 普通、組合長ギルドマスターが実力を見るのは飛び入りで登録しようとする人だけで……大丈夫なの?」


 なるほど、やはり普通は下部組織から順当に上がっていくのが一般的なのだろう。

 つまり唐突に登録するのは例外という訳だ。

 実力も保障されてなくて、しかも普通の順路ではないから余計にそうやって色々試す必要があるのだろう。

 とは言え、俺はそもそも負けるつもりはないので、リリアに言った。


「心配は無用だよ、リリア。そう簡単に負けたりはしないさ……それどころか、俺は勝つ気でいる」


 その台詞に驚いたのは、リリアのみならず、ミネットもらしい。


「へぇ……言うわね。なるほど、じゃあせっかくだから、私もユキト君の試合を見に行くことにするわ。明日は……そうね、お昼過ぎくらいに来てくれればいいから。じゃあ、書類書いてきてね」


 ミネットの言葉にうなずき、俺は書類を受け取って、リリアと共に、冒険者組合ギルドに併設されている酒場エリアへ歩いていく。

 テーブルもあるし、丁度いいだろうと思ってのことだった。

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