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魔女の弟子の彷徨  作者: 丘/丘野 優
第1章 低級冒険者編
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第19話 呪いの武器と坑道の主

 かん、かん、とツルハシを叩きつける甲高い音が坑道内に鳴り響く。

 ツルハシを振り下ろしているのはラルゴだ。

 それを俺は光灯ライトの魔法で照らして手元なりツルハシで叩いている部分なりを明るくしている。

 ゴドーは魔物がこの音に寄ってこないか辺りを警戒する役目を担っていた。


 ちなみだが、ラルゴのツルハシはゴドーの収納袋アイテムボックスに突っ込んであった。

 鉱石類を掘るにあたって、ラルゴが武器として持っている大槌くらいしか道具がないなと思っているとゴドーが掘るべき地点に到達するや否や収納袋アイテムボックスからツルハシを取り出してラルゴに渡したのだ。

 準備のいいことである。

 いや、鉱石を掘るつもりで来たのだから当たり前か。

 それとも、こうやってゴドーとラルゴがここに来るのは頻繁なことなのだから、魔法灯カンテラと同じく収納袋アイテムボックスに入れっぱなしのものの一つだったのかもしれない。


 ツルハシの音が辺りに響く中、灯り取り役だけをずっとやっているのも暇なので、ゴドーに話しかける。

 ラルゴは忙しそうだから、遠慮したのだ。


「そういえば、ラルゴが何かを取りに来たっていうのは聞いたけど、この鉱山でとれる鉱石って何なの?」


 するとゴドーは辺りをきょろきょろとしながら顔はこちらに向けずに答えた。

 魔物を警戒しているのだから当然だろう。


「基本的にはミスリルと鉄だな。この坑道もその二つを期待して作られたものだ」


「へぇ。じゃあ、ラルゴはそのどっちかを採りに来たわけ?」


「いや。どちらでもないな。そのほかに、特殊なものもいくつか確認されてな……そのうちの一つに、暗黒石というものがある」


「暗黒石……なんか悪そうな名前だね」


 そういうと、ゴドーは笑った。


「へっ。確かな。だが別に何か悪いことに使うものというわけではないな。単純に見た目が黒いことと、光や熱を吸収してため込む性質があるからそう呼ばれているだけだ」


「ずいぶん不思議な性質をしているんだね。確かにそんな性質があるなら、鍛冶にも役立ちそうだ」


「だろう? ミスリルや鉄なんかは商会に頼めば買えるが、暗黒石は数が確保しにくいし、多用する鍛冶師も少ない。だからそれほど儲けを期待できないために扱う商会も少なくてな。おやっさんもそんなに沢山使う訳じゃないし、歪み鳥クルヴァティオ・バードをここに狩りに来るって言う用事もある。だったらついでに暗黒石も掘ってくるか、というくらいのもんなんだよ」


「なるほど、石の方がついでなわけだ」


「そうそう。歪み鳥クルヴァティオ・バードはそれこそ店で売ってるようなものじゃないし、仮に売っていたとしてもそれはおやっさんの用途に合わないものになってしまうだろうからな。三匹で一匹、なんていう話はおやっさんくらいしか知らねぇ話だぜ、たぶん。ほかの誰からも聞いたことがない」


「ラルゴは物知りなのか……」


「そういうわけでもねぇと思うが、鍛冶馬鹿だからな。その秘伝とかそういうことなんじゃねぇかと俺は思うよ」


 そんな話をしていると、ラルゴが掘りながら口を挟んだ。


「おい、おまえら、聞こえてるぞ。鍛冶馬鹿ってなんだ鍛冶馬鹿って。……まぁ、間違っちゃいねぇけどよ」


 文句を言われながら少し嬉しそうなので、鍛冶馬鹿は事実なのだろう。

 だからこそあれほどのものを造れるのだろうから、何も文句はないのだが。

 それからしばらくすると、ラルゴがふぅ、と息を吐いて一度ツルハシを置いた。

 それから、壁から崩れ落ちた石をいくつか検分して、「おっ」と言ったので、俺もゴドーもその手元をのぞき込む。

 すると、ラルゴの手にした石の固まりに、真っ黒でつるつるとした部分があるのが見えた。

 もしかして、と思い聞いてみる。


「それが……暗黒石?」


 するとラルゴは答えた。


「まぁ、そういうこった。……重さからして、内部もほとんどが暗黒石のようだな。こんだけあればとりあえずは十分だ。目的は達成した。よし、そろそろ帰るぞ」


 そうしてラルゴはツルハシをゴドーに渡し、踵を返す。

 あとは来た道を戻るだけ、であるから簡単なはずだ。

 そう思っていた。


 けれど、どうやらそううまくはいかないらしい。

 戻ろうとした矢先、坑道内が揺れていることに気がついた。


 ぱらぱらと石や砂が坑道の上部からこぼれ落ちる。


 耳を澄ますと、どすん、どすん、と何かが近づいてくる音がするではないか。


 そうして、しばらく歩くと、そこにはその音の源がいた。


「……大緑小鬼ヒュージ・ゴブリン……」


 そこには通常の緑小鬼ゴブリンよりも体積が4、5倍はありそうな、巨大な緑小鬼ゴブリンがいた。

 周りに数体のノーマル緑小鬼ゴブリンを引き連れており、その様はまるで大ボスのごとくだ。


 すぐに戦闘態勢に入ったゴドー。

 それに続く俺とラルゴ。

 ゴドーは言った。


「俺があのでかいのをやる! おまえとラルゴは周りにちょろちょろしてる奴を!」


「おう!」


「わかった!」


 それが最も適切な役割分担であることは明らかだ。

 大緑小鬼ヒュージ・ゴブリンはその大きさからして初心者冒険者の手に余る魔物であることは間違いなく、仮に高位冒険者だったとしても簡単には倒せない。

 どんな理由で巨大化するのかは全くわかってはいないが、巨大化した緑小鬼ゴブリンは力も強くなり、結果として魔物としての格を上げるのだ。


 実際、ゴドーが一撃で倒そうと振り下ろした大剣の一撃を、その大緑小鬼ヒュージ・ゴブリンはその手に持った大鉈で受け止めたのだ。


「おいおい、こいつはやばいんじゃねぇか……?」


 ゴドーがそうつぶやいた。

 ゴドーはあれでB級の冒険者である。だからこそ、その実力は他の追随を許さないレベルで高く、彼が本気で放った一撃は同格以上の者でなければ避けることも受けることも難しいものであるはずだった。

 そのことを前提とすると、ゴドーの目の前にいる大緑小鬼ヒュージ・ゴブリンはゴドーと同格である、ということになる。

 それは苦戦を予感させる事実であり、先ほどまでとは異なるレベルでこの戦いに命が懸かってくると言うことにほかならない。


 しかし、ゴドーはぺろりと乾きかけた唇を嘗め、笑った。

 怯えるでも、恐れるでも、慌てるでもなく、笑ったのだ。


「へっへっへ……久々に骨のありそうなやつじゃねぇか。これだから冒険者って奴はやめられねぇぜ。おい、こら。早くかかって来いよ、この緑野郎!」


 そんな風に大緑小鬼ヒュージ・ゴブリンに罵声を浴びせるゴドー。

 その様は実に楽しそうで充実しているように感じられた。

 ラルゴと共に、先に向かってきたノーマル緑小鬼ゴブリンの個体を倒しながら、俺は聞く。


「ラルゴ……ゴドーって戦闘狂かなにかなの?」


 するとラルゴは大槌で緑小鬼ゴブリンの一体を叩き潰しながら答えた。


「あぁ……自分と同じくらい強い奴を目の前にするとな。あぁなる」


 くいと顎でしゃくった先には、嬉しそうに微笑むゴドーがいる。


「あいつがいつもめんどくせぇめんどくせぇとか言いながらも特殊個体ユニークの討伐以来を受け続けるのはそれが理由だ。強い奴と戦いたい。冒険者としてこれほどにシンプルな行動原理はないぜ。実際、それに見合う力も持っているしな……」


 意外な話だった。

 ゴドーはもっと怠け者なタイプだと思っていたのだが……いや、怠け者なのは違わないか。

 強い奴を見つけるとスイッチが入る。

 そういうことなのだろう。


 ゴドーと相対する大緑小鬼ヒュージ・ゴブリンは確かにきわめて強そうであり、その持っている武器もほかの緑小鬼ゴブリン個体とは異なって強力そうである。

 大緑小鬼ヒュージ・ゴブリンは大鉈を持っていた。

 その大きさに見合った巨大な大鉈だ。

 ゴドーの大剣と比べても全く見劣りがしない。

 ただ、それは一見、巨大なだけで、ほかには何の変哲もない普通のものに見えるが、よく見るとそれが魔剣の類であることがわかる。

 そして鍛冶師であるラルゴにはそれこそ明白なことだった。

 ラルゴはその大鉈を見ながら言う。


「あれは魔剣だな。しかも相当な業物だ……ただ、呪われてやがる。立ち上る魔気があまりにも邪悪だ。あの大緑小鬼(ヒュージ・ゴブリンが巨大化した理由ってつまりあの大鉈なんじゃねぇのか?」


 呪い。

 それはこの世界に存在する魔力的強制力の一つであり、魔女アラドが使っていたような呪詛もこれに分類される。

 人にかかることもあれば、ものにかかることもあり、その効果はほとんどが負の方向に働くものである。

 たとえば、正気を保てなくなるとか、人を殺したくてたまらなくなるとか、そういうものだ。

 たまに、必ずしも悪くないものもないではない。

 力が弱くなる代わりに足がものすごく速くなる、とかそういうものだ。

 ただ、そんなものはまれで、ほとんどが負の効果しか持たないのが普通である。


 そんなものの一つを、魔物が持っている。

 それは恐ろしい事実だった。

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