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魔女の弟子の彷徨  作者: 丘/丘野 優
第1章 低級冒険者編
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第17話 歪み

 次の日、俺たちは森の中にいた。

 月衣の森と比べると木々は小さく、灌木も多く、足下には蔓が沢山張っていて歩きにくいことこの上ない。

 しかし、それでもラミズの村の鉱山に行くにはその麓に広がる森を抜けなければならない。

 他に道はなく、あるとすれば空から行くくらいだが、そのためには何か空を飛ぶ魔物を調教して従える必要があるだろう。

 残念ながら、俺たちにそんな技術はない。

 そもそも、空を飛ぶ魔物で調教に適した魔物は大体において高位の魔物であり、調教も難しいのが普通だと御者のグイン老に聞いた。

 代表的なのは低位亜竜である飛竜であるが、低位で、しかも亜竜であると言ってもその実力が魔物の中で相当驚異なのは間違いなく、冒険者ランクで言えばBに近いC程度の実力がなければ相対するのは難しい。

 そんなものを調教するのはかなり大変なのは想像に難くなく、高位冒険者であるゴドーや腕のいい鍛冶師であるラルゴ、それに魔女の弟子である俺であっても、所詮は魔物調教に関しては素人にすぎないのだから、そんなこと出来るはずもない。

 いつかはどうにかその方法を学ぶなりなんなりして、魔物一匹くらい従えてみたいが、今はそんなことしている時間もないと言うのもある。


「しかし、さっきから本当に魔物が尽きないね」


 森を歩きながら俺はそう呟いた。

 森を進んでいると、結構な数の魔物が襲ってきた。

 ゴドーがその剣を振るい、さくさく倒していくのだが、それにしても数が多い。

 他の地域だとここまではいないものなのだが。

 するとゴドーが答える。


「これがラミズの鉱山の見捨てられた理由だな。ラミズの鉱山は魔物が多いってのは、厳密に言うならこの森に出現する魔物が多いってことだ。しかも数は減らない。その理由は、わかっていない……」


「確かにいくら倒しても減りそうもない数だね。減った様子もないし、これだけゴドーがばっさばっさ切り倒しても、まだ襲ってくるんだから」


 それは少し奇妙な現象だった。

 強い冒険者が何体か魔物を倒すと、その地域の弱い魔物はあまり寄ってこなくなるという性質がある。

 野生の本能か、それともなんらかの理性に基づく行動なのか、それはわかっていないが、それでも事実としてそういう傾向がある。

 だから、今回のこの森での魔物の行動は他の地域の魔物とは些か異なっていると言えるだろう。


 ゴドーはもう相当な数の魔物を倒している。

 にもかかわらず、魔物たちは未だに襲いかかってくる。

 それで何か問題があるのか、と聞かれるとゴドーがあまりにも簡単に倒すので何もないと言わざるをえないのだが、少しだけ不思議な気がした。

 しかしゴドーもラルゴも魔物が多く出現していると言う点について、あまり気になってはいないようだ。

 のっしのっしと先導するように先を進んでいく。

 二人とも道に迷う様子がないのは、おそらくは、よくここに来ていて慣れているからだろう。

 ラルゴが鍛冶の材料に不自由したときはここに来ると言っていたのだから。


 ただ、てっきり鉱山まで一直線に向かうものかと思っていたのだが、意外にもまっすぐに向かうわけではないようだ。

 ラルゴが森を観察して「こっちだ……」とか「向こうだな」とか言ってその通りに進んでいく。

 かなり無軌道に進んでいるような気がするので、遠回りなのではないか、と思ったのだがゴドーが何も言わないところを見るとこれも何か意味のあることなのだろう。

 このパーティはゴドーとラルゴの二人のそれに俺が入れてもらった形のものだ。

 つまり新参は俺で、二人は古参だということ。

 こういう場合は、古参の言うことにしっかりと従うことがうまくいくコツだろう。

 古参の言うことがあまりにもおかしかったりした場合は問題だが、ゴドーとラルゴの二人についてはそんな心配もない。

 よくわからないことを言っていても、それが何か意味のあることなのだろうと信じられるくらいには、俺は二人を信頼していた。


 そうして、しばらくすると、ラルゴは一本の大木の前で止まった。


「こいつだな」


 そういってぽんぽんと木の幹を軽く叩く。

 ゴドーは何に対してなのかわからないが、感心したように言った。


「流石だな。こんなに早く見つけるなんて」


「まぁ、これこそ経験のなせる業って奴だ。じゃあ、いくぞ」


 ラルゴはそれから背中に背負っていた巨大な槌を取り出し、おもむろに振り上げるとその豪腕から繰り出される剛力を余すところ無く発揮し、目の前に立つ大木を思い切り叩いた。

 どごぉぉぉん!!!

 と、巨大な音を立てて大木が大きく揺れる。

 どうやら折れはしなかったようだが、それでも大木の幹には槌で叩いた大きな跡が出来ている。


「ま、木も可哀想だが、こればっかりはな」


 何がこればっかりなのか。

 そう質問しようとした矢先、大木の樹上から、何かが落ちてきた。


 ぽてり。


 と、地面に転がったのは、


「……鳥?」


 それほど大きくない、地味な色をした鳥だ。

 ラルゴの大槌の一撃によって揺らされた樹上に住んでいたのだろう。

 可哀想に、と思っていると、ラルゴはその鳥をひっつかんだ。


「うし、やっぱりいたな。捕獲!」


「いつ見ても名人級だな……おやっさんは。普通見つけることすら難しいぜ」


 ゴドーが感心している。

 なるほど、さきほどの感心はこの鳥の住処を見つけたことに対するものだったのだろう。

 ラルゴが色々行ったり来たりしていたのも、そのために必要だったことなのかもしれない。

 しかし、今回の目的は鉱石類であって鳥ではないはずだが。

 そう口にすると、ラルゴが言った。


「あぁ、ユキトにはちょっと内緒にしてたが、こいつも目的の一つなんだよ。鉱石と、こいつ。この二つが俺が必要としていたものだ」


「鳥を? そもそもその鳥っていったい何なの?」


「こいつはなぁ、"歪み鳥クルヴァティオ・バード"って呼ばれる鳥でな。魔物ではないんだが、特別な力を持っている」


「特別な力?」


「そう、空間を歪め、次元を繋ぐ力だ。つまり、だ。この辺りに魔物が多い理由って奴だな」


 最後に付け足された言葉に、俺は驚く。


「だったら、こいつを退治すればもう魔物は増えない?」


「まぁ、そうなる……かな」


 ラルゴが頷いた。

 だったらその情報を冒険者組合ギルドに伝えるなりなんなりして全て退治してしまえばいいのに。

 この森で魔物が尽きない理由は解明されていないと言っていたのに、ラルゴとゴドーは知っていたのだ。

 それは裏切りではないのか。

 よっぽどそんな顔をしていたのだろう。

 ゴドーが俺の肩を叩いていった。


「この森の魔物は森に入らない限り襲ってこない。だから、ラミズの村の奴らにだって被害は殆ど出てない。魔物が多かろうが少なかろうが、さして問題はないのさ。だから、特に伝えなければならないわけでもない。もちろん、俺たちだって、ここで魔物の被害が多発していて、その原因がこの森の魔物の多さだって言うなら公表を考えるがな。しかし実際はそんなことはない。国や商会が開発に入れなくなった。ただそれだけの話でしかない」


「……開発させないために、公表してないの?」


「いや、それは違うな。この歪み鳥クルヴァティオ・バードはラルゴの造るものに必要不可欠な素材だ。だから定期的に確保できるように全部は狩らないようにしてるんだ……いい狩場だからな、ここは」


「こんな変な鳥で、何か造るんだ……何を造るの?」


「それは戻ったときのお楽しみって奴だよ。お前にも見せてくれるはずだぜ。なぁ、おやっさん」


 ゴドーがラルゴを振り返って言う。

 ラルゴは今確保した歪みクルヴァティオ・バードを検分しつつ、言った。


「あぁ、もちろんだ。なにせ、パーティメンバーなんだからな。ただ、ユキト。歪み鳥クルヴァティオ・バードのことは秘密にしておいてくれ。じゃないと面倒なことになるんでな」


「あぁ……わかったよ。村の人たちに被害が出てないって言うなら、問題ないとまでは言えないけど、許容範囲だ」


「悪いな……礼はそのうち」


 全く悪いことなどない。

 ラルゴだってゴドーだって、この事実を俺に隠しておこうと思えばいくらでも隠せたのだ。

 それを正直に話してくれたという事は、それなりの俺のことを信用してくれていることの証明だろう。

 だから、俺は冗談混じりに言った。


「あぁ、ハルヴァーンに戻ったらご飯でも奢ってくれればいいよ」


「わかった」


 そう言ってラルゴは笑った。

 捕獲した歪み鳥クルヴァティオ・バードはその場で手早く裁いて、ゴドーの収納袋アイテムボックスに入れてしまう。

 それから、同じ作業をあと二回ほど繰り返した。

 合計三匹の歪み鳥クルヴァティオ・バードが手に入ったというわけだ。

 なんで三匹確保したのか聞けば、


「こいつらは三匹で一匹なんだよ。三角形の形に巣を作って、その中心の空間を歪ませてどこかに繋ぐ。魔物の出てくる大穴の出来上がりさ。なんでそんなことをするのかはそれこそよくわかってないんだが、俺の推測では、こいつらはかつて人間に乱獲されたかなにかして、人間を敵視してるんじゃねぇかな。だから魔物を呼び、人を襲わせて自分の安全を確保しようとしている……。しかも、こいつらに呼ばれた魔物は不思議なことにこいつら自身を襲ったりしない。そういう魔物を呼んでるのか、それとも別の方法なのか……俺としては前者を押すがな。ま、そういうわけで、三匹確保しないと俺の造りたいものは造れないから確保するわけだ」


 そう語った。

 ラルゴが必要としている歪み鳥クルヴァティオ・バードの数は三匹で、それ以上はいらないそうである。

 三匹確保したあと、俺たちは今度こそまっすぐ鉱山へと向かった。

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