夕食は家族の味
幾ばくかマシになった後、夕食の準備に取りかかった。今日はイルフも手伝ってくれた。今日はイルフが初めて家族になった日だ。本当の意味で、心から一緒になった、家族だ。
前回の和を親しんでもらう試みはあえなく失敗に終わったので、今回は西洋料理にトライしてみた。買い置きのパスタ麺を鍋にかけ、中は固めのアルデンテ風に仕上げ、生クリームたっぷりのカルボナーラソースを満遍なくかけ、ベーコン、粉チーズをふりかけるとカルボナーラの完成だ。
途中イルフがカルボナーラソースの素をこぼしたり、砂糖と塩を間違えたり、かなり、ごたごたしたが、無事(?)完成にまでこぎつけた。
楽しい。
こんな時間がいつまでも続けばいいのに、と思う。
だが、このかけがえのない時間さえも引き裂かれようとしている。
何が何でも守らなければ。
葵は戦う決意をした。
「イルフ」
葵はフォークをテーブルに置き、イルフの瞳を射抜くように見つめた。
「んぅ?」
パスタを口に含めたまま、口をもごもごさせ、イルフは返事した。口からはみ出たパスタが重力に伴い、ぷらんぷらんしている。
…なんか雰囲気が台無しだ…
「明日についてなんだけど」
それだけを告げると、イルフも真剣味を帯びた顔になる。垂れていたパスタをちゅるんと啜る。飛び散ったソースが顔面に付着する。
…ああ、なんかもう…
葵はポケットからティッシュを取り出し、ソースを拭き取ってやる。
「向こうは今日よりも多少強引な手口を使ってくると思う。だからそれを阻止しなければならない」
とは言っても一介の学生と大人がサシでやり合えば間違いなく葵はやられる。お世辞にも葵は腕っぷしが強いとは言えないのだ。
「力じゃ絶対勝てないし、どうすればいいかな…」
腕を組み、模索し、勘案する。最善の策は……浮かばない。
「大丈夫」
「え?」
葵は驚き、驚嘆の眼差しでイルフを見る。
「私に考えがある」