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悠久の園  作者: カヤ
2/11

再会、そして、確信

結局その日の授業は全く頭に入らなかった。


早朝に出会った少女が気になって仕方なかったのだ。


翠色の瞳、汚れのない白い肌と髪。彼女の容姿が脳裏に焼き付いて離れなかった。


葵は今帰途の途中にあった。敷地内の森を抜けるとすぐそこに葵の家がある。白いワイシャツにネクタイ、学校指定の鞄、同じく学校指定の靴。真面目な葵は乱れた制服の着こなしは許容できないのでいつもピシリと整えている。


「本当に誰だったんだろうあの子……?」


今日で幾つこぼしたであろうかそのセリフに葵自身憂鬱にならずにいられなかった。


「まあ、いくら悩んでも仕方ないか…」


半ば諦めたように一人ごちた。


葵が懊悩している間に夕方の薄暗い森を抜け、家に着いた。


玄関の戸を開け、鞄を靴箱の上に置き、制服のまま植物園に向かった。


昼間学校に通っている間の植物たちの世話はハウスキーパーのトメさんに任せてある。


トメさんは今年で八十歳とご高齢だ。本人曰わく、まだまだ現役と謳っているが自分自身限界を感じているらしい。小さい頃からお世話になっている人で、数えきないの感謝がある。トメさんが退職する時はささやかなパーティーを開こうと心に決める葵であった。


植物園の仰々しい二重扉を開け、中の植物たちが顔を覗かせたときーーー



あの少女が立っていた。



「!!」


葵は驚愕し、のどかで凪いでいた心は一瞬のうちに驚きという感情に席巻された。よもやこんなに早く再会できるとは皆目見当もつかなかった。


少女はじっと葵を見つめ、まばたき一つしなかった。


服装は今朝見た同じ出で立ちで緑と茶色の奇怪なワンピースだった。


少女は入り口から少し離れた。これまた大きな木の根本に立っていた。彼女は大きな木の根本が好きなのか、あるいは何かの所以なのかーー


葵は迷った。今ここでアクションを起こして少女に話しかけるべきなのか、もう少し様子を見て、時が来るのを待つか、と。


だが時間は葵を待ってはくれなかった。


少女は葵に背を向け、植物が植えられている区画へ足を踏み入れ、立ち去ろうとしていた。


「あ……待って!」


少女はピタリと立ち止まって振り返った。葵の返事を待っているようだ。何も感じさせない硝子のような瞳で見つめられると、それに飲み込まれるような感覚に襲われる。辺りはいよいよ静かになり、天井のガラスが夕日を吸収し、園内を淡い緋色に染め上げている。


「君は一体…誰なんだ?」


「………………………………」


少女は暫く目を離さなかったが、無言で返事をし、舗装された遊歩道歩み寄り、それに沿って歩き出した。


ついて来いと言っているのだろうか。少女は後ろを振り返ることなくどんどん歩を進めていく。ここで見失うと次に会えるのがいつか判らない。葵は見失わないように、だが密着するわけでもなく、八メートル程の間隔を維持してついて行った。


少女はずんずんと進む。体が小さいので葵が歩くよりも遥かに遅いのだが、周りを従わせるようなオーラとか雰囲気というようなものが滲み出している…ように見える。あくまでもそう感じるだけだ。植物園に一本しか備わっていない遊歩道を園の中心に向かって歩いていく。


この先の園の中心には少女を初めて目にした、あの巨木がある。やはりそれが関係あるのだろうか…?


遅い歩みで中心地へと到着し、あの巨木の前でようやく止まった。そして葵の方へ向き直ると、両腕をゆっくりと広げ、瞼を閉じた。すると、突如少女の体が発光を始めた。それは太陽の光が炸裂したような様であった。まばゆい輝きはますます光度を増し、少女は輝きに包まれた。それに呼応するかのようにあの巨木も輝き始めた。少女のそれとは比べものにもならないくらいの鋭い輝きは夕闇に包まれかけている空を照らし出し、巨木は幹から上へ上へと発光量を増やしていった。そして少女と巨木がリンクし、昼間にいるかのような幻想を描きだす。あまりの眩しさに葵は思わず目を防御した。葵の体を照らす白い光が体の奥にまで浸透していると錯覚してしまう程に。


そして光が光量を失い始め、やがて本来の薄闇を取り戻し、葵はゆっくりと目を見開いた。またしても少女はいなくなっていた。だが、異様な気配を纏い、青白く灯ち、あの巨木はまるで自分の存在を公開するかのように、普段以上気配を濃くして佇んだ。


「もしかして君は……この木だったのかい!?」


巨木は応えたのだろうか、ほわんと小さく瞬いた。

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