いじめ・出会い
ズボンを下げ始めてから数日、二人を待っていたのはあまりにもひどい仕打ちだった。
法律では胸下4㎝までと決められていたが、大半の人間は念のため最低でも胸下2㎝までは上げていた。その中で胸下3.5㎝の和寿たちは、真っ白な半紙に垂れた墨のように目立つのだった。
「あれ?お前ら、ズボン低くね?」
やたらとニヤニヤしながら話しかけてきたのは、クラスで最大の権力を持つ雄介だった。いつも黒いジャージのズボンを人一倍上げ、上は純白無地の半袖シャツ。(もちろんシャツはしまっている。)ズボンを上げすぎたせいか、足首から長い純白の靴下が顔を出している。雄介が続けて話しかける。
「お前らそんな変な格好してたら、ズボン胸高法違反で捕まるぜ?そぉじゃなくても、周りの人間が許すかぁ?」
「……。」
その後、雄介をリーダーに毎日のようにからかわれ、いわゆるいじめへと発展した。
二人は立ち向かうことはできなかったが、信念を変えることはなかった。
ある日の帰り、二人がいつものように道を歩いていると、前からヨボヨボの老人が歩いてきた。どう見ても死にかけだ。
「?」
そのとき、和寿はおかしなことに気付いた。拓馬もすぐに同じことを思った。まだ遠くてよく分からないが、明らかにおかしい。
その老人の近くまで来たとき、二人の予感は確信に変わった。
「おい…、嘘だろ…。このおじいさん…、下げパンしてる…。」
老人はなんと、ズボンを腰の位置まで下げて履いていたのだ。しかも街の中で。二人は、あまりの衝撃にしばらくその場を動けなかった。