終と始
和寿たちが見た光景、それは何千人、いや何万人にも及ぶ民衆の姿だった。そして、その民衆の全てが、ズボンを腰の位置まで下げていた。近衛の命をかけた訴えを、先程のテレビ局が全国へ生中継し、民衆の心を動かしたのだ。それはつまり、人々がついに催眠状態から抜け出したことを意味していた。
何万もの思いの先頭に、小さな二人の中学生がいる。
一方で、軍隊は落ち着きを取り戻し、法を犯した罪人たちを全員殺す方針を決めた。
和寿には結末が見えていた。そして、もう一度軍隊の方を向き、前を見据えたまま、隣にいる親友に語りかけた。中学に入って、最初にできた友達だった。
「拓馬…。俺のつまらない話に乗ってくれて、ありがとな…。そんで、俺のせいで、つまらない死に方させて…ごめんな…。」
涙を拭きながら、拓馬が答える。
「何言ってんだ和寿…。俺はこの数日間、最高に楽しかったよ。近衛のじいさんにも会えたし…。つまらないのは、今の日本の方さ。見ただろ?俺たちの背中の向こうの景色が、そう言ってくれてるんだよ。」
「拓馬…。」
「変わるといいな。俺たちはもう…見ることはできないけど…いつか…。」
「あぁ、そうだな…。」
和寿は溢れる涙をこらえ、少しだけ近衛の顔を見た。ズボンの高さはあの日と同じだったが、その顔は、あの日とは違い確かに笑っていた。そして和寿はバットを振りかざし、目の前の軍隊に向かって走り出した。残る数万人の民衆も、この小さな勇者に続いた。
民衆の叫び声を、何万発もの銃弾が、ひとつひとつ消していった……。




