魁! 麻阿牙烈斗高校モテモテ部
「……終わったー! 今日さーカラオケいかない?」
「行くー! ……って言いたいけど部活あんだよねぇ。練習キツすぎだっつの!」
「まぁ大会近いからねー」
何処にでもある高校生活の1ページ。斜陽に照らされた少年達のモラトリアム。
和気藹々とした柔らかな教室は次の瞬間、張り詰めた静寂に包まれる————!
——ガタンッ!
「……おう白樺ァ! いるかコラァ!」
無作法にも扉を蹴り開けたヤンキー! 人読んで“死龍の小林”————小林孝雄!
「放課後は集会だっつってんだろタコ! 忘れてんじゃねぇよなぁ!?」
ポマードを塗りながら現れた凶星! 通称“ポマードの河口”————河口久!
「あ゙あ゙ぁ? 今行くとこだったんだよ! この馬鹿ちんどもが!」
国民的ネズミランドの年間パスポートを持つ最強の不良! “麻阿校のウッディ”————白樺和義!
どいつも学校の頭を張れる程の札付きのワル。そんな社会の底辺どもが一堂に会し、教室の緊張感は今やストップ高だ!
「……大体白樺よぉ、おめぇやる気あんのか? 時間を守るのは基本だろうがヨ! 前コラムに書いてあったろうが!」
「うるせぇ! 授業内容の反芻してたんだよボケが!」
なんとクズ達は扉の前で喧嘩を始めてしまった。
飛び交う罵声! ゴミ箱の底で乾燥した汚れみたいなレベルの低い応酬!
これでは一般生徒は帰れない————!
「……邪魔だから通して欲しいんだけど。これからバイトあんだよね」
「ぁあ!? ……あっ、ごめん山田さん」
「バイト頑張ってね。今度遊びに行くからね」
「来ないで」
帰れた————!
「シャオラァ! 今週もはじめっぞ!」
「仕切んなタコ! ……今日もポマードが唸んぜ!」
「無限の彼方に行くぞコラァ!」
場所は変わり、視聴覚室に集うヤンキー達3人。
先生にお願いして借りたこの教室を舞台に、彼ら生ゴミ達の負けられない闘いが始まる!
「「「第73回、麻阿校モテモテ部の開催だああああああ!」」」
————モテたい。
それは人類が全裸で生息していた頃からの男の悲願。
心の通じた男女が想いを交わす。そうして人の世は発展してきた。
だがそんな営みからも溢れ落ちた奴等がいる。その代表格が彼らだ。
「あっ……静かにしろ!」
「……分かった」
「……悪りぃ」
焦った様に小林が声を潜める。二人も何かに気付いた様に声のトーンを下げた。
それもその筈。この部屋の隣は図書室となっている。騒いで文学少女達の迷惑になってはならない。
……ワンチャンあるかもしれない。そんな希望を断ち切らす行為は言語道断であった。
「……よし。ではまずは前回行なったSNS戦略についてだ。お試しとして河口君から始める事になっていたよな?」
「それは僕も気になっていた。……どうなんだい? フォロワー増えた?」
先程までの粗雑な口調が嘘の様。落ち着いた雰囲気で話し出す小林と白樺。
——語彙の荒い男は顔が良くなければモテない。3人がネットのコラムで学んだ事であった。
なお調子の良い時でしか実践は出来ない模様。
「それが…………BANされちまった」
「なっ!?」
「……おいおい、何かヤベー事書き込んだんじゃねーだろうな?」
先週の議題はSNSでの恋活であった。だが3人ともネットに疎く、一人で知らない女性とお話するのが怖かった。
そんなチキン達は河口をトップバッターとして、みんなで投稿内容を考えて臨む事にしたのである。
「それが何も呟いてねンだよ。……俺もわけがわからなくってよっ……くっ」
「河口……」
「どしたん……話きこか?」
ゴミの目にも涙。河口の男泣きに涙ぐむ小林と白樺。だが白樺のセリフは言う相手とタイミングを間違えている。
「取り敢えず自己紹介欄を確認しよう。スクショで控え取ってただろ?」
「おっ、おう。変な事は書いてねぇぜ?」
「僕らみんなで考えたんだ。問題はない筈だよ」
そう言って河口がスマホを取り出す。ホーム画面は猫ちゃん画像であった。非モテの細かい努力が見える。
「まずプロフ画像からな?」
「コラムでは安心感を与える様な表情って書いてあったな」
「どれどれ」
リーゼントのヤンキーがメンチ切りながら中指を立てていた。
「な? いいだろ? 問題ないだろ?」
「確かに良いメンチだ。喧嘩強そうで安心感があるな。これなら背中を預けても問題ないだろう」
「不思議だねぇ。こういうのは漫画とかでもモテモテなのに」
問題ありすぎであった。
流石はメンチカツをメンチ入れて勝つ事だと勘違いしている脳みその持ち主どもである。
ちなみに彼らは実際のメンチカツの事をコロッケだと思っている。
「プロフ画像は良いだろ。次は自己紹介だったか?」
「それも無難だったと思うんだけどなぁ。確か好きな食べ物の事じゃなかったっけ?」
「そうだよ。だからわかんねぇのよなぁ。ま、読むわ…………ども。麻阿校に通ってる三年す。好きなモンはあんぱんす。すっげーいいの知ってるんで一緒にどうすか? 最初はタダでいんで。希望する人はDMください」
犯罪であった。
メンチ切ったヤンキーがあんぱんしてたら通報するのが市民の義務であった。お巡りさんにモテてどうする。
「わかんねーーー! SNSはもういいわ。出来る気しねー」
「でもどうする? モテと言ったらSNSだ。それ以上のコンテンツなんて他には……」
「くくく……」
「……小林?」
小林の不敵な笑いが教室に響いた。ちなみに河口を蔑んだ陰湿な笑いではない。彼らはとっても仲良しさんだ。
小林は懐からスマホを出すと、あるアプリを開いて見せた。
「馬鹿な!? これは————ッ!」
「マッチングアプリだって!?」
出会い系の金字塔。婚活難民の駆け込み寺。ヤリモクども御用達の神アプリが小林の手の中に輝いていた。
「君もBANされるつもりか!? 未成年にマチアプは使えないはずだ。それは重大な規約違反だよ!」
白樺の懸念は尤もだ。アプリのログイン画面にはこう書かれてある。“18歳未満のご登録は出来ません”と。だがしかし——
「ふっ、俺の二つ名を忘れたのか?」
「はっ、————四留の小林!」
小林は留年していた。今年で高校七年生である。
未成年は利用できないという縛りは適用されない————!?
「さすが小林! 頼りになんぜ!」
「ふふ、任せておけ————あれ? ログイン出来ない? 間違えたかな? もう一回……またダメだ」
「不具合かもしれない。メールを確認してみよう」
白樺のいう通りにメールアプリを開く小林。
予想通りにアプリ公式からメールが届いていた。
「届いている。本当に不具合かもな。……えと、なになに——年齢認証の際、ご利用するにあたって不適切な情報が確認できました。お客様のご利用は認可出来ません…………はぁ? どういう事だ!?」
小林は今年で22歳の文字通りのオールドヤンキーである。酒は飲むし煙草もやる。一体何が問題だったのだろうか?
「提出書類を間違ったとかじゃねえか?」
「いやそんな筈はない! ちゃんと今年更新した学生手帳を写して送ったぞ!」
※高校生のご利用は出来ません。
小林には顔写真付きの身分証が学生証しかなかった。車学に通っていたものの、筆記試験に合格出来ず中退。ママさんバイセコゥが彼の愛車であった。
——後続車が追い越そうとしてきた時は速度を上げてはならない? ……加速してぶっちぎるだろフツー? つまり✖️、と。なんだよ、簡単じゃねぇか! 馬鹿でも受かるわ!
馬鹿では受からなかった!
「意味がわからん! なんだこのクソアプリは!?」
「おそらくよく聞くヒューマノイドエラーだろう。彼らも書類を一枚一枚チェックするんだ。疲れからか間違ってしまっても仕方がない」
大らかな男はモテる。白樺は学んだスキルを即実践する男だった。だが女の子相手だと恥ずかしくて多くのスキルが使用不可になる。具体的には「……おぅ」とか「……ああ」とかでしか会話出来なくなるのだ。
「どうすればいんだよ! もう三年なんだぞ俺たちはヨォ!」
「……高校最後の一年くらい彼女が欲しかった」
荒れる河口と項垂れる小林。
男達の陰鬱とした感情が、霧の様に視聴覚室を漂った。でも多分小林君にはまた来年がある。
「……モテる事ばかり考えてるから駄目なんじゃないかな?」
ポツリと白樺が言葉を溢した。それは小さな呟きであったが、霧を払うパワーがあった。
白樺の瞳は強く光を放っていた。覚悟を決めた漢の眼だ!
「……ぁん?」
「……どういう事だ白樺?」
「この世の中を僕らがモテる世界に変えてしまえばいいのさっ!」
白樺が何かを机に叩きつけた!
これは原稿用紙? ……まさかこれはッ!?
「漫画だと!?」
「しかもこのタッチ……少女漫画だ!」
「……これは僕が密かに描いている作品————ヤン空〜テメェに届け〜さ! ……僕は漫画家になる! そしてこの漫画を流行らせて世のイケメンの基準値をツッパリ顔に変えて見せるッ!」
それは壮大な計画だった。誰が聞いても鼻で笑うだろう。
だがここにいる3人は真剣だった。マジモンの馬鹿だった。
「…………いける。 いけるぞそれ! 平安時代はナスビみてぇな顔した奴等がイケイケだったらしい!」
「つまり大ヤンキー時代到来だコルァ!」
「……僕達は来年卒業する。どうせ就職についても考えなきゃいけない。ならなっちまおうぜ! 俺ら3人で漫画家によぉ!」
それは夢への前進か、それとも困難からの逃避か。
未来は誰にも分からない。机の上の原稿ではキラキラとした少女とゴツいヤンキーがちゅっちゅしていた。
ちなみに白樺は絵が上手かった……。
————10年後
「————カット! お疲れ様でした。……KORAMP先生、改めまして、“ヤン空”の映画化おめでとうございます!」
「ははっ、ありがとう。……でもこうしてテレビの特番まで組まれるとは思いませんでした」
テレビ局の収録スタジオ。その眩しい程のライトに照らされる男たち。
学ランに身を包んだアラサーズ。成長した小林、河口、白樺の3人である。
「僕らの夢が一歩前に進んだ気がします」
「……ヤン空は俺たちの青春だったからな」
タレントの言葉に柔らかく返す3人。海底を這うウミウシの様に世間の底を這っていた不良とは思えない変貌ぶりである。
「その夢とは……?」
タレントの何気ない一言。社交辞令の様な質問。だがそれを聞いた3人の瞳に光が灯った。
————これは野心の炎だ!
「それは…………おっと失礼。これから楽屋を借りて軽く打ち合わせをする予定なんです」
「有難い事にこれからドラマ化についての会議があるので。……その前にね」
「有難うございました」
3人が一礼しスタジオから離れていく。信じられない事に髪型と服装以外は立派な大人だ。
楽屋までの長い廊下を歩く。誰1人として言葉を交わさなかった。
——ガチャ。
楽屋に入り扉を閉める。3人はそれぞれに用意された椅子に座り出す。
「……ふぅ。それでは早速始めるか」
小林が煙草に火を付けた。
「会議まで時間がねぇ! 巻いていくぞオラァ!」
気合いを入れた河口の両手はポマードでベタベタだ。
「話によると国民的アイドルの彼女も出席するらしい。無限の彼方に飛んじまいそうだぜコラァ!」
白樺がカウボーイのフィギュアを落ち着かない様子で引っ張っている。
その姿は少年だった頃に戻った様だった。むしろ心と頭は少年のままだった。
熱い気持ちを胸に秘めたヤンキー集団。
そう、彼らは————
「「「第2073回、麻阿校モテモテ部の開催だああああああ!」」」




