フルストーリー
1・・・従える者
2・・・友達との出会い
3・・・動物園勤務
4・・・友との別れ
5・・・死神の小話
『キング・オブ・ザ・ビースツ』1
・従える者
彼は獣医師を夢見る大学生。渋井大学獣医学部獣医学科六年生。入試は何とかクリアし、大学進学後も必死で講義と試験に食らい付き、実技試験もグロテスクな物を見て触ってきたが、それでも受け続け現在に至る。無事、国家試験に合格し、来春からはとある動物園で獣医師として就職する事になった。しかし動物の考える事は未だに分からず、本当にやっていけるのか不安だった。卒業式を迎え、後は動物園に赴任する為の準備をしていた。そんなある日、母方の実家に法事で帰省した。特に変わった事も無く祖父の四十九日を終えた。祖父の遺品整理が終わっておらず、母と祖母と手分けして作業していると、ふととある書物に目が留まった。「獅子座の悪魔」と書かれた書物だった。祖母に聞いてみると、祖父の父親、つまり曾祖父が昔、とある女性から譲り受けた物らしい。気になって持ち帰り、一人暮らしをしているアパートで中を読んでみた。そこには「あらゆる動物と心を通わせる事が出来る契約」という事が書いてあった。昔から動物が好きで、常に犬や猫、鳥、牛、豚等と一緒に暮らしてきた酪農一族からすると、今の自分に丁度良いと思い、悪魔契約をしてみる事にした。まず部屋を暗くし、床に一メートル四方の魔法陣を書く。その魔法陣は獅子座の星座に則った形にし、周りに古代ギリシャ文字を書く。そして自分の血を一リットル抜き取り、それを小瓶に分けて獅子座の星座の星の位置に置き、最後に古代ギリシャ語で呪文を唱える。すると突如、目の前が光に包まれ、魔法陣からライオンの顔と尻尾を備えた体は人間の姿をした化け物が現れた。
「我はレオ。我を呼んだのは貴様か?」
「は、はい」
「我と契約をしたい。そうだな?」
「はい」
「では契約を結ぼう。頭を寄越せ」
「は、はい……」
彼は頭を獅子座の悪魔に頭を差し出した。獅子座の悪魔は手を彼のに乗せた。すると彼の頭が発光した。やがて発光が終わると、彼は自分の頭が冴え渡る感覚を覚えた。
「これで貴様は人間以外の生物と心を通わせる事が出来るようになった」
「ほ、本当に……?」
「そこの犬に話し掛けてみよ」
彼は飼っている犬に話し掛けてみた。
「グッド?」
犬は恐る恐るベッドの下から顔を出した。
「あの怖い人は誰?」
「あの人は怖くないよ。それより、僕の言葉が分かるのかい?」
「分かるよ。君も僕の言葉が分かるの?」
「あぁ、分かるよ」
彼は獅子座の悪魔に向き直った。
「ありがとうございます。これで仕事が捗りそうです」
「そうか。では最後にこれを伝えておこう。貴様はもう人間とは言葉を交わす事が出来ない」
「え?どういう事ですか?」
「つまり、人間以外の生物としか話せないという事だ」
「じゃ、じゃあこれから獣医として仕事が出来ないじゃないですか!」
「そうだ。まぁ人間社会で生きていけないなら、動物の世界にでも行くんだな」
そう言って獅子座の悪魔は消滅した。そこへ大家が家賃を取り立てにやって来た。チャイムを鳴らされ、彼は扉を開けた。
「あぁ、天野さん。家賃の集金に伺いました」
「…………」
天野正中は大家の言葉を理解出来なかった。言葉を言っているのは分かるが、まるで外国語を聞いているかのような感覚だった。
「天野さん?」
「あ……あ……!」
正中は扉を閉め、部屋に閉じ籠った。
「天野さん!?天野さん!?」
正中はこの日から、動物としか話せなくなった。
・友達との出会い
天野正中は悪魔との契約で動物と心を通わせる事が出来るようになった。代償として人間と言葉を交わす事が出来なくなった。正中は両親から精神異常と思われ、実家に戻されて精神科の病院に通う事になった。そこでは精神的にもそうだが、脳に異常があるのではないかと診断され、脳外科の病院に向かった。調べてもらった結果、脳に異常は無かった。よって、精神的ショックで言葉が通じなくなっていると診断された。その事もよく分からないまま正中は日々、自室に籠って過ごしていた。両親からは正中はペットの犬のグッドと話しているように見えた。そして散歩だけは必ずしていた。その時もグッドと話しているように見えた。そんなある日、正中は母に動物園に連れて行ってもらう事になった。動物園に着くと、動物達に挨拶をしに行った。するとどの動物も正中の所に集まり、話を聞いていた。周りの人間達からは謎の言語を話しているように聞こえたが、正中は確かに動物達と会話していた。それを見ていた女性が声を掛けてきた。
「失礼します」
「…………?」
言葉が分からなかった正中はただ黙ってその女性を見詰めた。代わりに母が応答した。
「ごめんなさい。この子、病気で口が聞けないんです」
「生まれ付きですか?」
「いえ、突然、喋れなくなったんです」
「しかし動物とは話せるようですね」
「動物と話せる?」
母がふと正中の方を見ると、正中はライオンと話をしているようにしていた。ライオンも正中の目の前にやってきて座ってジッと正中の話を聞いていた。
「動物と話せる……」
母は少し納得したように思った。グッドと話している最中も言葉を交わしているように感じていたのはそれかと思った。
「貴方は一体?」
「申し遅れました。私、この動物園の獣医をしています、大鎌優と申します」
「獣医さん?」
「はい。ちょっとこちらへ……」
優に言われるまま正中と母が着いていくと、医務室に着いた。そこには一羽のヨウムがいた。ヨウムは低い声で正中と母に「初めまして」と言った。意外に紳士な言葉に母は驚いた。
「こちらに座って下さい」
「はい」
正中と母は椅子に座った。
「お名前を伺っても宜しいですか?」
「あ、失礼しました。私は天野華。この子は正中です」
「お母様でいらっしゃいますか?」
「はい」
「そうですか。ちょっと息子さんを診ても宜しいですか?」
「どうぞ」
華は正中の手を握り、目線を優に移した。優は軽く正中を問診すると、今度はヨウムに話し掛けた。
「彼の事どう思う?」
「悪魔契約してると思う」
「やっぱりね」
優とヨウムの会話に驚いた華は聞いた。
「あの、その鳥は何ですか?」
「あぁ、この子はヨウムのシンシンです」
「何か会話をしているように見えましたが……?」
「この子はあらゆる国の言葉を覚えています。何か話してみては如何ですか?」
「えーっと、じゃあ……シンシン君?好きな食べ物は何ですか?」
「バナナ。それを焼いて生クリームを乗っけた物にカラメルを掛けた物が好き」
「あ、成程……分かりました。それで?ここに私達を連れてきた訳は?」
「その事なんですが、ちょっと宜しいですか?」
「はい?」
優はシンシンに話し掛けた。
「そこの男性と話し出来る?」
「やってみる」
シンシンは飛んで正中の肩に乗った。そして暫く無言で自分の頭を正中の頭にくっつけた。そこから無言の二人の会話が始まった。
(初めまして、天野正中。私はシンシン。オウムだ)
(初めまして。この状況は一体、何なのか説明出来る?)
(あぁ。でもまずこちらから質問して良いかい?)
(何?)
(君は悪魔契約をしたね?)
(な、何故その事を!?)
(やっぱりそうか。分かった。では今の状況を説明しよう。ここは動物園の医務室。そこの彼女はこの動物園の獣医の大鎌優。君を診察しているんだよ)
(成程。それで?僕はどうなる?)
‘(さぁ?とりあえず話をしろとしか言われてないからね。とりあえず私は優の所に帰るよ)
(分かった)
シンシンは飛んで元の位置に戻った。
「どうだった?」
「悪魔契約したらしい」
「やっぱり」
「とりあえず今の状況を話したよ。どうする?」
「貴方を彼の下に置こうと思うんだけど、どう思う?」
「良いよ。それが仕事なら」
「ありがとう」
話に着いていけず、華は口を挟んだ。
「あの、どういう事ですか?」
「これは失礼しました。これから、この子を息子さんの下に置きたいのです」
「どういう事ですか?」
「彼は悪魔契約をしています」
「その悪魔契約って一体、何なんですか?」
「そのままの意味です。悪魔と契約をしたんです」
「そんな非現実的な事、信じられません」
「事実です。息子さんは突然、人と話せなくなり、動物と会話できるようになった。違いますか?」
「そ、そうですが……心因性のストレスによるショックで人と話せなくなっただけだとお医者さんからは言われました」
「今の医学ではそう診断するしか無かったでしょう。ですがこれはれっきとした悪魔契約による代償です」
「意味が分かりません。帰ります」
「では息子さんがこのままでも良いのですね?」
「それは……」
「もし息子さんを助けたいのであれば、息子さんの私物である『獅子座の悪魔』と書かれた書物を私に下さい。それがあれば解決です」
「……探してみます」
「ありがとうございます。じゃあシンシン、彼の所に行ってくれる?」
「分かった」
「これからはシンシンが息子さんの通訳になってくれます」
「分かりました」
そう言って正中と華はシンシンを連れて家に帰っていった。華は帰ってすぐに正中の部屋に行き、「獅子座の悪魔」という本を探した。段ボールの奥深くにそれはあり、それを後日、優の下へと届けた。それからの生活はシンシンのお陰でスムーズにいった。正中の食べたい物、風呂に入る時間、おはようからおやすみまでの挨拶等々。そしてシンシンの協力もあり、正中は優の動物園で獣医として働く事になった。
『キング・オブ・ザ・ビースツ』3
・動物園勤務
天野正中はシンシンと共に大鎌優の働く動物園で勤務する事になった。シンシンの翻訳のお陰で正中は動物達とコンタクトを取り、獣医として活動していた。動物達の体調不良や、その日の機嫌を聞いて、それを優が対処するという形で働いていた。正中が獣医として働いている間に、優は正中が獅子座の悪魔と契約した書物を読んでいた。そこで分かった事は、獅子座の悪魔と契約したら動物と心を通わせる事が出来るという事で、代償については書いてなかった。しかし正中の様子を見る限り、人間と会話が出来なくなるという事は理解出来た。どうすれば悪魔契約を解消出来るかを探るべく、優は日々、研究していた。
そんな日々を送っている内に、正中は優に恋をした。しかし優はあくまで興味から来る悪魔研究で正中の事は眼中に無かった。正中は休憩室でシンシンに相談した。
(なぁ。俺ってそんなに魅力無いかな?)
(どういう意味だ?)
(優さんに振り向いてほしい)
(……まぁ無理だろうな)
(何で?)
(彼女は悪魔研究にしか興味が無いからな)
(どうしてそこまで悪魔研究に熱中するんだ?)
(彼女は昔、飼っていた兎の体調不良に気付けずに死なせてしまった。だからそれ以来、動物達に愛を持って接する事が出来ればと思って獅子座の悪魔の研究をしているんだ)
(どこで獅子座の悪魔を知ったんだ?)
(よくある話さ。ネットの噂だよ)
(そうか……で、彼女は契約をしたいのか?)
(多分な)
(止めた方が良い。俺は、こんなにも苦しんでいる。そんな思いを彼女にしてほしくない)
(俺から言おうか?)
(頼んでも良いか?)
(勿論)
(じゃあ頼む)
そこへ優が休憩に入って来た。
「何?二人で何の話してるの?」
「彼が君の事、好きなんだって」
(バッカ!そんなストレートに!)
「……ごめんね。私、悪魔契約についてしか興味が無いの」
(「ごめんね。私、悪魔契約にしか興味が無いの」だってさ)
(……そうか……)
「魅力的な人だと思う。でも、私には動物達を救うという気持ちの方が今は強いの。人間よりも、動物達の方が大切なの」
(「魅力的な人だと思う。でも、私には動物達を救うという気持ちの方が今は強いの。人間よりも、動物達の方が大切なの」だってさ)
(俄然、やる気が出てきた。絶対に振り向かせてみせる)
(漢だねぇ)
シンシンは優の方を見た。
「『俄然、やる気が出てきた。絶対に振り向かせてみせる』だってさ」
「そう。ま、その気になるまで頑張ってね」
(「そう。ま、その気になるまで頑張ってね」だってさ)
(分かった)
それから三年間、毎日のように優に告白を続けた正中は、最初こそ軽く流されていたが、動物園にいる様々な動物達から恋愛相談をして「我々だったらこういうアピールをする」「こういう求愛行動がある」と教わり、それを実行していった。最初は面白がっていた優だったが、次第に正中を意識するようになっていった。しかし彼の事を研究チア将としてしか見ていなかった優は「自分が彼を愛して良いものか」と悩んだ。そこへシンシンがやって来て「どうした?優」と聞いた。
「いやね?私、正中さんが好きかもしれないって思って」
「ほう?良いじゃないか。正中だってそれを望んでる」
「でも今まで私は、彼を只の研究対象としてしか見てこなかったし、利用してこなかった……そんな私が、彼を愛する資格があるのかどうか……」
「?好きだから好きで良いんじゃないか?」
「そう簡単に言わないでよ……」
「もっと動物的に生きてみろよ。そうしたら、気持ちが楽になるぞ?」
「……ふふっ。そうね。少し、自由に生きてみようかな」
「その意気だゾ」
やがて二人は結ばれた。同時に正中の話が海外に伝わり、野生動物の研究に加わってくれないかと言われた。正中は悩んだが、優とシンシンの後押しがあり、海外へと飛び立った。そして正中とシンシンはサバンナの野生動物保護団体と共に仕事をするようになった。動物視点の新しい論文を作り上げていき、やがて世界中でシンシンが講演するようになった。
『キング・オブ・ザ・ビースツ』4
・友との別れ
海外で野生動物の論文を書いて有名になった正中は、日本に帰って優と結婚した。正中は少しずつだが、言葉を学習し、一から話すようになっていった。悪魔研究をしつつ動物園で獣医師をしていた優は遂に悪魔契約をする事にした。時間は掛かるが、人間とコミュニケーションを取れるようになれると確信したからだ。
暫くまた日本を離れ、学会に顔を出すようになった正中とシンシンは瞬く間に有名になっていき、シンシンのお陰でシンシンがテレビに引っ張りだこになった。そんなある日、シンシンは体調を崩して優の元へと帰っていった。そこで明らかになったのは、もう寿命が来ているとの事だった。正中はシンシンに聞いた。
(大丈夫か?)
(いや、もう寿命が来たらしい……)
(そんな……!お前が居なかったら、俺はこれからどうすれば良いんだよ!?)
(悪魔契約を、解除するんだ……!)
(で、でも、俺はまだ言葉を理解出来ていないし……)
(優に俺から言うよ……)
シンシンはフラフラと立ち上がり、優に言った。
「優……」
「シンシン。体は大丈夫なの?」
「駄目だ……俺はもう、死ぬ」
「……そうよね。私が生まれる前から居たもんね……もう八十九歳だもんね……」
「最期のお願いだ。聞いてくれないか?」
「何?」
「正中の悪魔契約を解除する手助けをしてほしい」
「何ですって!?」
「彼みたいに苦しむ事を、君に背負わせたくない」
「嫌よ!私は、これで世界中の動物達を助けるんだから!」
「今でも十分、助けているよ。それに、言葉を失ったら、仕事が出来なくなる。それでも良いのかい?」
「で、でも正中は言葉を少しずつだけど話せるようになってきたし!」
「それは俺が居たから成り立っていた。俺の次にサポートしてくれるオウムは絶対に見付からない。何て言ったって、俺は天才だが、他は只の鳥だ」
「シンシン……!」
「頼む。最期の願い、聞き入れてくれ」
「……分かったわ」
シンシンの強い希望で、優は正中の血と自分の血を抜き取り、魔法陣を書いて獅子座の悪魔を呼び出した。
「我はレオ。我を呼んだのは貴様か?」
「そうです」
「我と契約を結びたい。そうだな?」
「いいえ。違います」
「じゃあ何だ?」
「彼、天野正中の悪魔契約を解除したいのです」
「何だと?」
獅子座の悪魔は正中の方を見た。
「……あぁ、以前、久し振りに契約を交わした奴だったな。良いだろう。解除してやる」
「ありがとうございます」
「但し、只、悪魔契約が解除される訳ではない。代償がある」
「何ですか?」
「それは言えない。悪魔の掟だからな」
優は少し考えた。どんな代償なのか不安もあったが、興味もあった。そして何より、シンシンの為に願いを叶えてやりたかった。
「……分かりました。良いでしょう。彼の契約を解除して下さい」
「分かった。男よ、前へ」
「あ、はい……」
今この魔法陣の中では人間でない悪魔とは普通に喋れる事に気付いた正中は。自分の久し振りの声に驚いた。悪魔は構わず正中の頭に手を置き、光を放った。瞬間、正中は急激な東部への激痛で床に転げ落ちた。暫くして、落ち着いた正中は立ち上がり、声を出した。
「あ……あ……!?こ、声が!声が出る!」
「正中!」
「優……!優の言ってる事が分かる!何をしたんだ!?」
「シンシンの願いよ。シンシンが、貴方の悪魔契約を解除するように言ったの」
「そうだったのか……」
「どう?他に変化は無い?」
「そうだな……特には……」
「さて、我は帰る。じゃあな」
そう言って獅子座の悪魔は姿を消した。二人は急いでシンシンの下へと向かった。そこでは鬼籍に入ろうとしているシンシンがベッドの上で横たわっていた。
「シンシン!」
正中がそう叫ぶと、シンシンは顔を正中の方に向けた。
「嗚呼……それが君の本当の声か……」
「シンシン、ありがとう!」
「何、只のお節介さ……優?」
「何?シンシン」
「正中と、末永くお幸せに」
そう言ってシンシンは息を引き取った。それから正中はと言うよ、後遺症が残った。何かと言うと、動物を見分ける事が出来なくなっていたのだ。最初は犬だか猫だか鳥だか鼠だか訳が分からなかったが、優のサポートがあり、何とか獣医師として生涯を全うしたのだった。
『キング・オブ・ザ・ビースツ』5(最終話)
・死神の小話
眠るように死に、生涯を終えた正中は、目を覚ました。そこは暗い場所で、辺りには何も無く、先も見えない。だが地面はあるという不思議な場所だった。ボーッとする頭を抑えながら立ち上がると、自分にスポットライトが当たるように光が差し込んだ。そして向こう側にもスポットライトが差し込み、そこには大きな鎌を持ち、黒いフードを被った少年が立っていた。
「やぁ、君を迎えに来たよ」
「君は……?」
「死神さ」
「死神?」
「そう、死神」
正中はゆっくりと立ち上がり、深呼吸した。
「悪魔がいたんだもんな。死神くらいいるよな」
「理解が早くて助かるよ」
「俺は悪魔と契約した事がある。俺が行くのは地獄か?」
「いいや。地獄じゃない」
「じゃあ天国か?まさかな」
「天国でもないね」
「じゃあどこに?」
「それは逝ってからのお楽しみ。まぁ詰まる所、天国も地獄もあの世では一緒なんだよ」
「ふぅん……?」
「さて、ここからは僕の仕事をさせてもらおうかな」
「仕事?」
「そう。仕事。ここでは君の願いを一つだけ叶えてあげる事が出来る」
「願いを、叶える……?」
「そう。生き返らせてくれ、なんてのは無理だけど、可能な範囲でなら何でも叶えてあげるよ」
「そうか。じゃあシンシンに会わせてくれ」
「シンシン?」
「あの賢いオウムだよ」
「……あぁ、あの生意気な鳥か。それはあの世に逝ったらいくらでも会えるから別のにしときなよ」
「そうなのか?」
「そうとも」
「じゃあ少し考えさせてくれ」
「良いよ」
正中は考え込んだ。死神は煙草を取り出し、吹かして返事を待った。暫くして、正中はある事を思い付いた。
「動物達と、会話が出来るようになりたい」
「は?」
「だから、動物達と、会話が出来るようになりたい」
「えーっと……それって獅子座の悪魔様の契約と同じって事?」
「そう」
「あの世では動物達とも会話が出来るから意味無いよ?」
「そうなのか?」
「うん。別のにしときなよ」
「うーん……また考えても良いか?」
「良いとも」
また正中は考え込んだ。死神は煙草を吹かした。そして正中は思い付いた。
「優さんはどうしてる?」
「優?君の奥さんかい?」
「そう」
「ちょっと待ってて」
死神は鎌を一振りし、光の球を出現させた。そこには居間で子供と孫と一緒に獣医の仕事をしている優が映し出された。
「あぁ、良かった。まだまだ現役だな」
「でも言うて後、五年くらいの命だよ?」
「そうなのか?」
「おっと。口が滑った。まぁ今のは聞かなかった事にしてくれ給え」
「じゃああの世に連れて行ってくれ」
「まだ願いを聞いてないよ?」
「え?今のが願いだったんだけど……?」
「こんなの願いの内に入らないよ」
「そうか……優さん、後、五年の命なんだよな……?」
「聞かなかった事にしてってば」
「じゃあ、最後の五年間、少しだけで良いから動物達と心を通わせる事が出来るようにしてくれないか?」
「獅子座の悪魔様のような事は出来ないよ?」
「まぁ要するに、気配りや察し、感受性が豊かになる、みたいな感じなんだけど……駄目か?」
「それくらいなら良いよ」
死神は鎌を一振りし、光の球の中の優が前までより少しだけ動物に寄り添えるようになった。その姿を見て正中は微笑んだ。
「良かったね。優さん」
死神は鎌を一振りし、光の階段と光の扉を出現させた。
「さぁ、君の願いは叶えた。あの世に逝ってもらうよ」
「分かった」
「あそこに行けば、あの世に逝けるよ」
「何から何までありがとうよ。死神さん」
「良いって事よ。さ、逝きな」
「あぁ」
正中は光の階段を上っていった。すると光の扉がひとりでに開き、中から一羽の鳥が飛んで正中の肩に止まった。
「シンシン……!?」
「やぁ、正中。久し振り」
「お前もあの世に逝ってたのか」
「そうだよ。全ての生命は最期にはあの世に辿り着くんだ」
「そうか」
「それにしても何だぁ?その老いぼれた姿は?一瞬、誰だか分からなかったぞ?」
「そう言うお前はあの時と違って若々しいな」
「あの世では自分を好きな姿に変えられるんだよ」
「そうなのか?」
「あぁ。ここではまだ無理だがな」
「じゃあ向こうの事、色々、教えてくれよ」
「勿論だとも。お前も俺が死んでからの数十年の話、聞かせてくれよ」
「勿論だとも」
「さぁ、逝こう」
「あぁ」
正中とシンシンは光の扉の中に入り、消滅した。




