第7話 夕方の準備室
放課後のチャイムが鳴り終わったあと。
旧準備室には、夕日のオレンジが斜めに差し込んでいる。
蒼は一人で机に向かい、スケッチブックを開いていた。
昨日焼けたモータの焦げ跡が、まだ机に残っている。
蒼
「……はあ。やっぱり、簡単じゃないよなあ」
スケッチには、何度も描き直されたロボットの肩や腕の線。
消しゴムのカスが散らばっている。
蒼
「でも、動かしたいんだよなあ……」
そのとき、扉がガラッと開く。
真
「……来てた」
蒼
「毒島くん。今日は部活ないって言ってたのに」
真
「……なんとなく。来たくなった」
蒼
「なんとなくで来るの、いいね。俺もそういうタイプ」
真は蒼のスケッチを覗き込む。
真
「……描き直してる?」
蒼
「うん。昨日のモータ焼けたの見て、
“もっと軽くしないとダメだな”って思ってさ」
真
「……軽くするの、好き」
蒼
「毒島くん、なんでも好きって言うのやめて。説得力あるから」
真は無言で工具箱を開き、
昨日のフレームを手に取る。
真
「……ここ、削ると軽くなる」
蒼
「おお、そういうのわかるんだ」
真
「プラモで慣れてる」
蒼
「プラモ万能説あるなあ……」
そこへ、息を切らした理人が入ってくる。
理人
「お前ら、なんでいるの!?
今日ロボ研休みって言ったよな!?」
蒼
「なんとなく」
真
「……なんとなく」
理人
「なんとなくで来るなよ!
俺もなんとなく来ちゃったじゃん!」
蒼
「来てるじゃん」
理人
「来たよ! 来たけどさ!」
蒼
「理人、ツンデレ?」
理人
「違うわ!」
真
「……ツンデレ、似合う」
理人
「毒島まで!?」
蒼は笑いながらスケッチを見せる。
蒼
「昨日の反省で、腕の外装を軽くしてみた。
中身は細くして、外側だけ“太く見える”ように」
理人
「お、いいじゃん。
アニメの“見た目だけ太い腕”のやつだ」
蒼
「そうそう! それ!」
真
「……作れる」
理人
「毒島の“作れる”は信用できる」
蒼
「ねえ理人、今日の授業どうだった?」
理人
「数学? 先生が“二次関数は人生だ”って言ってた」
蒼
「人生そんなに曲がらないよね」
真
「……俺の人生、直線」
蒼
「毒島くん、それはそれで心配」
理人
「あと、クラスの女子がアイドルの話してた。
“新曲のダンスが難しい”とか」
蒼
「俺も昨日MV見た! あれ絶対腰痛めるよ」
真
「……俺、ロボットに踊らせたい」
蒼
「毒島くん、夢がデカい!」
理人
「いや、踊るロボットは難易度高すぎるだろ……
でも、いつかできたら面白いかもな」
蒼
「でしょ?」
真
「……踊るロボット、作りたい」
理人
「まずは“倒れないロボット”からだよ!」
蒼
「じゃあ今日は、
“軽くて倒れない腕”の設計を詰めよう」
真
「……削る」
理人
「計算する」
蒼
「描く!」
三人は自然と机を囲む。
夕日の光が少しずつ薄れていく。
蒼
「なんかさ……
こうやって三人で作業してると、
“できる気がする”んだよね」
理人
「根拠は?」
蒼
「ノリ」
真
「勢い」
理人
「またそれかよ……
でもまあ、悪くない」
蒼
「でしょ?」
真
「……合体」
理人
「だから合体って言い方やめろって!」
準備室に笑い声が響き、
夕方の空気が少しだけ温かくなった。




