第4話 重心
旧準備室。
机の上には、蒼の描いたロボットの新しいスケッチと、理人のノート、真の工具が散乱している。
理人
「よし、今日は“重心”をちゃんと決めよう」
蒼
「重心って、あれでしょ?
“なんとなく真ん中っぽいところ”みたいなやつ」
理人
「いや、なんとなくじゃない。
“倒れるか倒れないかの境界線”だよ」
真
「……境界線、大事」
蒼
「毒島くんの言葉って、なんか深いよね」
理人はノートを開き、簡単な図を描く。
理人
「ほら、ロボットがこう立ってるとして――」
蒼
「棒人間じゃん」
理人
「説明用だから!
で、この赤い点が重心。
この点が“足の範囲”から外れた瞬間、倒れる」
蒼
「へえ……意外とシンプルなんだね」
真
「……シンプルだけど、難しい」
理人
「そう。高さ180センチで、肩幅広くて、腕太くて……
久保田のロボットは“倒れる要素の塊”なんだよ」
蒼
「言い方!」
理人
「いや、事実だし」
真
「……事実」
蒼
「毒島くん、君はどっちの味方なの?」
真
「ロボット」
蒼
「また名言出た」
理人はスケッチを指差す。
理人
「まず、肩幅を少し狭くする。
腕は軽くする。
外装で太く見せるのはアリ」
蒼
「外装で太く見せる……それ、めっちゃロボアニメの手法じゃん!」
理人
「アニメの手法を現実に落とし込むのが俺の仕事だから」
蒼
「かっこいいこと言った!」
真
「……かっこいい」
理人は照れたように咳払いする。
理人
「で、重心を下げるために、
バッテリーはできるだけ下に置く。
モータも下寄り。
上半身は軽く、下半身は重く」
蒼
「つまり……“ずんぐりむっくり”?」
理人
「いや、言い方!」
真
「……でも、安定する」
蒼
「毒島くんの“でも安定する”は説得力あるなあ」
理人
「で、実際に重心を測るために――」
理人は床に置いてあったアルミフレームの試作品を持ち上げる。
まだ骨組みだけの、細長いL字フレーム。
蒼
「おお、なんかロボットっぽい!」
理人
「いや、まだ棒だよ。
で、これを立てて……」
理人はフレームを床に立てる。
次の瞬間――
ガタンッ!
蒼
「倒れた!」
理人
「だから言ったろ!」
真
「……倒れたね」
蒼
「実況しないで」
理人は倒れたフレームを起こしながら、
真剣な顔で言う。
理人
「でも、これでわかった。
“今のままだと絶対に倒れる”ってこと」
蒼
「まあ、見ればわかるけどね」
真
「……倒れた瞬間、ちょっとかっこよかった」
蒼
「毒島くん、感性が独特すぎる」
理人はフレームを指差す。
理人
「じゃあ、ここから“倒れないロボット”を作る。
重心を下げて、足の範囲を広げて、
バランスを取る」
蒼
「なんか……本格的になってきたね」
真
「……ワクワクする」
蒼
「わかる!」
理人
「じゃあ、今日の目標は“倒れないフレーム”を作ること。
まずは重心位置を計算して――」
蒼
「計算は任せた!」
真
「作るのは任せて」
蒼
「デザインは任せて!」
理人
「……なんか、いいチームだな」
蒼
「でしょ?」
真
「……合体」
蒼
「そう、合体!」
理人
「だから合体って言い方やめろって!」
旧準備室に、
三人の笑い声と、工具の音が響き始めた。




