第10話 倒れる
旧準備室。
机の上には、昨日動いた“足ユニット”と、
新しく組み上がった“胴体フレーム”が置かれている。
蒼
「よし! 今日は“立たせる”日だね!」
理人
「いや、立つとは言ってない。
“立つかもしれない日”だよ」
真
「……立つ。たぶん」
蒼
「毒島くんの“たぶん”は希望」
理人
「いや、希望じゃなくてフラグだろ」
蒼はフレームを持ち上げ、
足ユニットの上にそっと乗せる。
蒼
「おお……なんか“ロボットの形”になってきた!」
理人
「いや、まだ棒と箱の合体だよ」
真
「……でも、好き」
蒼
「毒島くんの“好き”は世界を救う」
理人
「いや救わないだろ」
蒼はふと、今日の授業を思い出す。
蒼
「そういえば今日の体育、地獄じゃなかった?
持久走で先生が“ペース配分が大事だ”って言ってたけど、
俺、最初から全力で死んだ」
理人
「久保田は毎回そうだろ。
最初だけ速くて、後半ゾンビになる」
真
「……ゾンビ、似合う」
蒼
「似合わないよ!」
理人
「でも先生、最後に“人生も同じだ”って言ってたな」
蒼
「人生で持久走したくないんだけど」
真
「……ロボットは持久走しない」
蒼
「毒島くん、それは正しい」
理人は配線を確認しながら言う。
理人
「じゃあ、いよいよ“立たせる”ぞ。
重心は……ギリいけるはず」
蒼
「ギリって言うな!」
真
「……ギリ、好き」
理人
「毒島の“好き”は万能すぎる」
蒼はロボットの胴体を支えながら言う。
蒼
「じゃあ、手を離すよ?」
理人
「待て! まずは角度を――」
蒼
「3、2、1……」
理人
「聞けよ!」
蒼は手を離した。
ロボットは――
一瞬だけ、
ほんの一瞬だけ、
まっすぐ立った。
蒼
「立った……!」
理人
「立った……!」
真
「……立った」
次の瞬間――
ガシャァァァァン!!
蒼
「倒れたぁぁぁぁ!!」
理人
「うわあああああ!!」
真
「……倒れたね」
蒼
「毒島くん、実況しないで!」
理人は倒れたロボットを起こしながら言う。
理人
「いや、でも……
“立った”んだよ。
ほんの一瞬だけど」
蒼
「うん……立ったね。
あれ、めっちゃ感動した」
真
「……赤ちゃんみたいだった」
蒼
「そう! ロボットの赤ちゃん!」
理人
「いや、赤ちゃんって言うなよ……
でもまあ、気持ちはわかる」
蒼は倒れたロボットの肩を撫でる。
蒼
「倒れたけど……
なんか“生きてる”って感じしたよね」
理人
「まあ、動くものは倒れるしな。
倒れたら直せばいい」
真
「……直す」
蒼
「毒島くんの“直す”は頼もしすぎる」
理人はノートを開き、
倒れた瞬間の角度をメモする。
理人
「じゃあ、次は“倒れないロボット”を作る。
重心をもっと下げて、足幅を広げて――」
蒼
「理人、なんか今日やる気すごいね」
理人
「そりゃそうだろ。
“立つ”ってわかったんだから。
あとは“倒れない”を目指すだけだ」
真
「……倒れないロボット、作りたい」
蒼
「作ろう!」
理人
「作るか……!」
三人の声が、
倒れたロボットの横で響いた。
その音は、
“次の一歩”の音だった。




