第1話 却下
放課後の昇降口。掲示板に貼られた紙に「ロボット部 創立申請 却下」の文字がでかでかと印刷されている。
その下には小さく、
「※サークルとしての活動は許可。旧準備室を使用可」
と書かれていた。
久保田蒼は、その紙を見上げて小さく息を吐く。
蒼
「……まあ、部は無理だよね。“人が乗るロボット作りたいです”は攻めすぎたか」
周囲の生徒がクスクス笑う。
生徒A
「また久保田がアニメの影響受けて暴走したらしいぞ」
生徒B
「乗るロボットって。ガチで言ってんのかな」
蒼は紙を剥がしながら、淡々とつぶやく。
蒼
「サークルならOKって書いてあるだけマシか。活動はできるし」
(でも、胸の奥が少しだけチクッとした)
そこへ、理科準備室から出てきた男子が近づいてくる。
三枝理人。教科書とノートを抱えている。
理人
「……君、本気で作るつもりだったの?」
蒼は振り返る。
蒼
「本気っていうか、作りたいってだけ。できるかどうかは、まあ……やってみないとわかんないし」
理人は紙を覗き込み、眉をひそめる。
理人
「“人が乗るロボット”って、最低でも身長180センチは必要だよね。重心どうすんの。モーメントで即アウトだよ」
蒼
「倒れないようにすればいいじゃん」
理人
「いや、そんな軽く言うなよ。重心ってのは――」
蒼
「知ってるよ。物理でやった。てか、倒れたら倒れたで学びじゃない?」
理人は一瞬固まり、その言葉に妙に刺さる。
理人
「……君、変なこと言うね。でも嫌いじゃない」
そこへ、無言で近づいてくる影。
制服の袖に接着剤の跡、ポケットからデザインナイフのキャップが少し覗いている。
毒島真。
真は蒼のスケッチブックを覗き込む。
真
「……これ、作りたい」
蒼と理人が同時に振り向く。
理人
「いやいや、これ180センチあるじゃん。倒れたら死人出るぞ」
真
「じゃあ倒れないように作ればいい」
蒼
「その理屈、好き」
理人
「いや、理屈じゃなくて勢いだろそれ」
真はスケッチを指差す。
真
「フレーム、アルミで組める。関節は……まあ、やってみればわかる」
理人
「“やってみればわかる”って言葉、怖いんだけど」
蒼
「でも、なんかいけそうじゃない?」
理人
「根拠は?」
蒼
「ノリ」
真
「勢い」
理人はため息をつきながらも、どこか楽しそうに笑う。
理人
「……で、サークルなら活動できるんだよね。旧準備室、使っていいって書いてあるし」
蒼
「マジで? じゃあロボ研サークルだね」
真
「行こ。見たい」
三人は昇降口を出て、旧準備室へ向かう。
扉を開けると、古い木材の匂いと、夕日のオレンジが差し込んだ。
棚は傾き、机はガタつき、窓は半分だけ開いている。
蒼
「うわ、めっちゃ廃墟。でも……なんかワクワクする」
理人
「まあ、環境は最悪だけど……ここなら誰にも邪魔されない」
真
「作業台、直せば使える」
蒼はスケッチを広げる。
蒼
「じゃあ、まずは180センチのロボット作ろう」
理人
「いやデカすぎだろ。でも……理論上はギリいけるかも」
真
「フレームなら組める」
蒼
「よし、合体だね。デザインと、理論と、手。三つそろえば、なんとかなるっしょ」
三人は顔を見合わせ、同時に笑う。
三人
「ロボ研、発進!」




