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5.突然の潮干狩り回があってもいいんじゃないかな(コメディなんだし←自称)

 ズズーズッズッズズー、ズッズッズズー! やっぱ、美味しいなあ!

 たまに無性にカップラーメンを食べたくなるときがあるのだが、わからないか?


 フッ。飯はいい。飯は心を癒してくれる。心があたたまっていく……!


 つまり、飯は最高、ってことだ。


 まあ、それはいいのだが……問題は、こんな険悪な雰囲気のなかで飯を食べなければならないのがな……。


 ドグウェンはアリーシアをずっと睨んでいる。


 アリーシアはドグウェンから目を逸らし、ドグウェンをいない者として扱っているようだ。


 俺としちゃあ、楽しいお昼ご飯にしたかったところなのだが、なるほどこれは俺が頭ハッピー野郎なだけなのか……?


 そういえば、異世界転移前、日本で普通の高校生とやらをやっていたときも、よく「ウザい」「キモい」「顔が、不揃いで安売りされている野菜か果物みたい」と言われていたのを思い出すな。


 ……思い返してみると、ロクな高校生活を送ってなかったんだな、俺。

 あれ。やはり、俺ってダメ人間なのでは……?


『完璧な人間はいない』という言葉をよく聞くのだが、とは言っても、いくらなんでも俺、ダメダメすぎやしないか。

『ウザい』『キモい』と言われていたのは、まあ俺のこの話し方だ。自業自得な部分もあるのだろうが……でも、やはり、思い返してみるとなんかいろいろとすり減るというか、心が傷つくというか、思わず発狂してしまいたいくらい嫌な気持ちになってしまう。


 いかん、いかん。今は楽しいお昼ご飯のはずなんだ。

 ええい。顔を上げなくては!


 たしかにダメ人間なのかもしれないが、ダメ人間と自覚しつつも、人間としての最低限の営みはクリアーしていかなければならない。だから、クヨクヨなんてしていられない。


「そうだ! みんなで一回、潮干狩りに出かけよう! 潮干狩り! 親睦も兼ねてさ!?」


 ……何、言っているんだ、俺ェ!?


「潮干狩り、ですか……?」


「ああ! 行こう!」




 というわけで始まりました、潮干狩り回。

 ほら、見てくれよこの大きな海をよ。これを見たら、心に溜まった憤りとか後悔とかそういうのが全部、洗い流されていくように感じるだろう……?


 で、下を見てくれ。ちゃんと、砂浜だ。ほら、ハマグリっぽい貝とかエビとかがちらほらいる。


 はぁー和むなぁ! いや、和むぬぁー!


 これが、潮干狩りセラピー。潮干狩りによる、ズァ、癒し効果。『ザ』じゃなくて、『ズァ』となっているのがポイントだ。


 たしかに日本は島国だが、俺は海なし県出身だからな。あまり海には行かない。


 だから、たまに海に行くと、大きな感動というものに出会えるのである。


 ほら、見てみな。あの険悪な雰囲気になっていた二人もこの通り――。


「次近づいてみろ。お前はこの刀の錆になるぞ」


「その前に、アンタが海の藻屑とならなければいいですがね」


 うん、ダメだ! 険悪な雰囲気のままだった! お手上げ!


「ああ、もう! 潮干狩りだぜ!? とりあえず、刀しまえって! ドグウェンはさ、剣士じゃなくて魔法使いになりたいんだろ!?」


「む。それもそうだな」


 ドグウェンが大人しく刀を鞘にしまってくれる。


「とりあえずさ、ほら、このスコップで……シャベル? 呼び方はどっちでもいいか。このスコォォップで、砂を掘って貝を取ってくれ。さすがに、異世界だから無断で貝を取っても法的なものには触れないだろ、たぶん。そもそもこの世界に法があるのか知らんし」


「異世界……?」


 アリーシアが怪訝そうな顔をした。


「ああ、いや、こっちの話だ」


「そうですか」


 あっぶねぇ! そうだった! 俺が異世界人だというのは誰も知らないんだったぜ。


 ……って、あれ。アリーシアって、たしか心の声が読めるんだよな。

 俺、自分で異世界人、って心の声で軽率に言ってしまったけど、まずいか?


 まあ、でも、俺が異世界人なのだと主張したところで、何か問題が起きるわけでもあるまい。


 それに、俺はいろいろと頭がアレな人として認識されているのだ。仮に俺が異世界人なのだと主張したところで、「かわいそうに。ついに頭がおかしくなってしまったのね……」と思われるだけだろう。なら、何も問題ないか!


 ……問題、大ありだ。俺の心が余計にすり減るわ!

 俺の心、意外に豆腐メンタルなんだよ!?


 よくネットとかで、「ああこいつは叩いてもいいオモチャだな」って認識したら相手のメンタルをへし折るまで罵詈雑言を浴びせにいくスタンスの人間を見るが、そういったネットでのあるあるを見るたびに「相互理解ってのは、とても難しいことだろうな……」と思うのだ。


 そもそも、「俺の意見は絶対的に正しい!」という前提から始まってしまうので、ここで言う『俺』が先行されてしまっていて、相手がその意見を聞いてどのように感じるか、というのはすでに蔑ろにされてしまっている、と個人的には思う。

 片方がそれならまだ相互理解はできなくとも、もう片方が身を引けばいい話で済むのだが……問題は両者とも「俺の意見は絶対的に正しい!」と衝突し合っている状況ばかりを見ることだろうか。


 だから、片方もしくは両方のメンタルがすり減ってしまって、「相互理解どころの話じゃねえ!」ってなってしまうのだ。


 で、まさしく、今、俺の目の前でアリーシアとドグウェンの手によって繰り広げられている光景がそれだと言えよう。


 相互理解というのは、意外と難しい。

 同じ人間同士だというのに、なぜ、こんなにも難しいものなのだろうか。


 だからなのかもしれない。「どうせ、『人間同士で理解し合おう!』ってのがどだい無理な話でしょう?」という思考を挟んで、俺は『狂人のフリ』をしてしまっているのだ。


 やべえ。せっかくの潮干狩り回なのに、かなりオセンチになってしまっている。

 今からならまだ、コメディ路線にも舵を取れるか? まだ、間に合うか……?


 チラッ、と確認を取るようにアリーシアの顔を覗いた。


「なぜ、私にそれを聞くんですか……。知りませんよ」


 なるほど。まだコメディ路線にも舵を取れるらしい。


「私、何も言っていませんけど!?」


 ありがとう、アリーシア。俺、今から潮干狩りを極めるわ。


「だから、お礼を言われるようなこともしていませんからね!?」


 さあ、バケツ……バッ、ケッ、ツゥ? それとも、バァー、ケェ、ツゥ? ……あれ、どっちだ?


「イントネーションなんてどっちでもいいですよ……」


 というわけでね。バケツのなかに、貝さんたちを入れていきましょうね。

 さあ、いるかな? ハマグリ、アサリ、シジミ。


 砂を掘っていると、突然、大きな貝がニョルフォンッ! と、高く飛び上がり、俺の肩に乗ってきた。


 おうおう、愛らしいヤツめ。フッフッフッ。今日からきみは幸太郎の子分を略して『コタン』、だ!

 さあ、よろしくな、コタンちゃん。

 おうおう、にょろにょろとしていてかわゆいのぉ!


「えっと、それ貝ですよね? なぜペットみたいな扱いなのです……?」


「俺の心のオアシスだからに決まっているだろう!? 見てくれよ! 俺は望んでいなかったのにこのシリアス回! シリアスな香り! いや、シリアスなかほり(決して誤字なんかではない)! 奥さん聞いてくださいよ、『ニートライフ』ですよ『ニートライフ』! ゆるりと気ままなニートスローライフ生活を想像していたら、ドシリアスに片足が浸かりそうになっている展開! もう心のオアシスがないとやっていけないわ!」


 コタンちゃんから生えてきた手をガシッ、と掴みながら本音を吐露してみる。


 すると、アリーシアは憐れむような目で俺を見て、俺の頭を撫でてきた。


 急にどうした? ハッ! まさか、ここが天国!


「すべてわかりました。アンタは……いえ、あなたは疲れているんです。おうちに帰りましょう」


 ……やめて? なんか優しいのやめて? 声色も優しいの、やめよう? 心が痛くなるから。


 どうやらアリーシアには、俺が本当に疲れていて発狂してしまっている人、と認識されてしまっているらしい。


「……兄貴ぃ! オレが悪かったです! お詫びにこのドグウェン、この刀で自害――」


「ま、待てぃ! 早まるな! 一回、刀からスコップに持ち替えてくれ!」


 というか、ドグウェンくん? きみはそんなキャラだったかね。


 そもそも、俺、ドグウェンに『兄貴』なんて呼ばれていなかったよね。


 それになんか、敬語になっているし。


 俺的に、この状況についていけてなさすぎて、今のところ『なんか』を連発してしまっているけど、大丈夫そう?


「ええい! 俺は疲れてなんかいないし、潮干狩りなんだから、刀じゃなくてスコップとバケツを使えぇい!」


「大丈夫ですよ! つらくないです! 私が責任を持つので、早く帰りましょう! お身体に触りますよ!」


 毒舌じゃないアリーシアはちょっと気味が悪い。


「あ? 今、なんとおっしゃりましたか?」


 スコップの先っちょを首元に突きつけられる。


 あー、これこれ。これでこそ、アリーシアだよ。

 やっぱ、アリーシアはこれくらいバイオレンスじゃなきゃね。


「ラリアット!」


「ドグホォォ!? それ、ラリアットじゃ、ない……」


 アリーシアが、俺の腹を拳で思い切り突いてきた。


 コタンちゃんはぴょるるっ、と中身を貝殻のなかにしまい、完全に防御体勢である。


「……なあ、ドグウェン。これのどこが魔女なんだよ。どう見てもアリーシア、武闘派だぞ。魔術の魔の文字すら感じさせねえ」


「……たしかに、何か事情があるのかもしれないな」


「失礼なヤツがもう一人増えると、本当に大変なんですね。子どものお守りは幸太郎だけで充分なんですが」


 アリーシアだって子どもじゃん。やーい、やーい。


 ゴチンッッッ!


「ぶん殴りますよ?」


「もう、ぶん殴られているんだが……」


 これも一種の愛情表現なのだと、思いたい。


「これが夫婦漫才、ってやつか……フッ、面白い」


「夫婦漫才ではありません。……って、誰が夫婦ですって!?」


 ドグウェンにキレるアリーシア。


 そんな顔もステキだよ、我が最愛の妻、ンヌヌヌヌヌアリィィィーシァアッッッ!


 ゴチンッッッ!


「ぶん殴りますよ?」


「うん、だからもう、ぶん殴られているんだが……」


 たぶん、俺の頭にたんこぶが二つできているだろう。それくらい痛かった。


「まあ、何はともあれ、和やかな雰囲気になってよかったと俺は思う」


 シリアスな雰囲気はごめんである。


 その後、俺たちはしばらく潮干狩りを楽しんだ。

 これにて、潮干狩り回はジ・エンド!

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