3.トゥンク(恋が芽生える音)←爆発オチでした^^
「ここがアンタの自宅ですか」
「ああ……」
たしかにアリーシアは、この、頭上に謎の漢数字が表示される問題を解決するお手伝いをしてくれると言っていたが、まさか、俺の家のなかまで上がり込んでくるとは。
お茶でも出してあげるべきだろうか。
たしか俺の『カード魔術』でいいお茶を仕入れたばかりなのだ。それを出そう。
急須にお茶っ葉をセットし、ポットでジョボジョボお湯を注いで、角度と高さを意識してカップにお茶を注いだ。
フッ。完璧だ。この華麗なる技。いや、業。なんて美しいんだ……。
「相変わらず気持ち悪いですね」
相変わらず厳しいコメントである。
「というか、さ」
「なんです?」
「その着ぐるみ、脱がないの? 邪魔じゃない……?」
出会ってから、ずっと思っていた疑問である。
しかし、何かしらの事情があるかもしれないからと、言うのを躊躇してしまっていた。
でも、やはり気になるので、聞かずにはいられなかった。
「身ぐるみを剥ごうとしているんですか? 最低ですね。それとも、真っピンクな愚考でもしているのでしょうか。私、この下何も着ていないんですよ?」
そんなことは考えていなかったし、そもそもその下、裸なのか。
というか、よく堂々と話したな、それ。大丈夫なのか? 俺のことを下劣な人間と認識しているようだが、だったらもっと警戒したほうがいいような気が。
まさか、自滅したのかな。この人。ひょっとすると、自滅した?
そういえば、方向音痴だと言っていたが……アリーシアは意外に天然ボケ的な部分もあるのかもしれないな。
なるほどな。自滅して、自分からその情報を話してくれるとは。
決して、疚しい気持ちがあるわけではないが。本当に、疚しい気持ちがあるわけではないのだが。
なぜそんな格好をしているのか、余計に謎が深まってしまったような気がする。
「アンタ、ぶっ飛ばされたいですか?」
ふむふむ。この発言をオブラートに包みながらポジティブに解釈すると、「愛の包容、してみてもいいですか……? トゥンク(恋が芽生える音)」、といったところだろうか。
「なぜオブラートに包んだ。ポジティブに解釈した。アンタはここから存在ごと消滅したいんですか、アァン?」
「待って、顔を蹴るのはやめて。顔を思い切り蹴るのはやめよう! ほら、俺の顔を見て! ぼこぼこにされて梅干しみたいな顔になってしまっているから! だから、やめよう! 争いは何も生まれないんだ!」
「あと何回蹴られたいですか?」
ダメだ。話が通じない。
な、何がいけなかったんだ……?
トゥンク(恋が芽生える音)が悪かったのだろうか。
いや、だがしかし、トゥンク(恋が芽生える音)は俺にとって重要な効果音だ。トゥンク(恋が芽生える音)だけは譲れない。効果音がないと、やはり、少し味気ない感じがあるからな。
つまり、トゥンク(恋が芽生える音)は問題ないはずなわけだ。
とすると、どこに問題があったというのだろう。
「アンタの存在自体に問題があったんですよ」
ニコリ、と意味深長な笑みを浮かべるアリーシア。
上弱攻撃を決められたあと、弱攻撃、下弱攻撃、弱攻撃、下弱攻撃、横強攻撃、上強攻撃、という技が続き、フィニッシュで空中強攻撃をお見舞いされてしまうという、見事なコンボ技を叩きつけられ、俺は自宅からリングアウトしてしまうのであった。
あれ。ここ、格闘ゲームの世界だったの……?
暴力を嫌う俺にとっては、どうやら、いかんせん相性の悪い世界だったようである。どうせなら恋愛シミュレーションゲームの世界に迷い込みたかったところであるが……。
しかし、格闘ゲームなら、お約束のラッキーなムフフが見れるかもしれない。
くぅぅ。俺も早くアリーシアを攻略して、イベントスチルをゲットしてやるからな! それで、自宅でムフフ、ってしているだけ。それだけで、俺の人生は幸せなものになるのだ。
「何、わけのわからないことを思っていやがるんですか。アンタを塵と化してあげますよ?」
地理は得意だ! 任せろ!
「……あと、こんなことをしている場合ではないでしょう?」
「あ、ああ。そうだったな。脱線しすぎるとまずい。そろそろ、俺の持っているカードが発光して『早く話を進めなさい』、って急かされるかもしれないからな」
「……なんの話です?」
「ああ、いや、なんでもない。こっちの話だ。俺が後々につながる伏線……っぽいことを言おうとしただけにすぎない」
「伏線……?」
ええい。伏線は伏線なの! 伏線、というか、伏線っぽい、な!
「ごほん。んで、本題を始めようか、金髪幼女ウサギよ」
「誰が金髪幼女ウサギだ! こう見えて、私は十五歳ですからね?」
「いや……金髪ウサギ幼女か……?」
「どっちでもいいわ! ……どっちでもよくないわ! というか、さっそく話が脱線しているじゃないですか!」
あ、やっべ。戻そう、戻そう。
「でさ、この謎の表示、なんだと思う?」
「結論はそんなすぐには出ませんよ。まずは現状、わかっている情報を整理してみるべきではないでしょうか」
なるほど、情報整理か。
「まず、俺はアリーシア(の容姿)が好きだろ? んで――」
「待て待てオイコラ。それのどこが情報整理ですか、アァン?」
蹴られた。
やめよう、暴力反対。ストップ、凶暴化。
「……じゃあ、まずはお互い、心のなかで情報を整理して、その後、整理した情報が合っているかお互いに出してダブルチェックしましょう」
「わかった」
えっと、まず、俺は『ショフギォ』を散歩していた。そして、アリーシアと出会った。そうしたらいつの間にか、俺の頭上に漢数字の『一』が表示されていた。それから、アリーシアの頭上にも漢数字の『二』が表示されていた。
これまでの自分の行動やまわりで発生した事象はこんなものだろうか。
で、問題点だが、現状の問題点は三つだろうか。
もっと多いかもしれないが、三つとしておこう。
一つ目は、ずっと頭上に表示されているため、視界が若干悪くなっていて邪魔だということ。
二つ目は、なんだか気味が悪いということ。
三つ目は、仮に俺が誰かと結婚してゴールインしたとしても、この表示がずっとつきまとってくるかもしれないという、恐怖感があることだろうか。
さて、こんなものか。
「『さて、こんなものか』、じゃない。三つ目はいらないです」
ドス、とアリーシアのチョップが俺の頭に命中。
「なんか、面倒くさくなってきたし、もう『カード魔術』で原因を特定するかぁ……」
「『カード魔術』とは……なんですか?」
おっ。いい質問ですなぁ。
「説明しよう!」
「ウザい」
「目潰し痛ァ!?」
アリーシアに目潰しをされたため、おそらく、俺の目が記号のアスタリスクみたいな状態になっているだろう。うっ。すげえ、痛い。
「なんか知らんけど、俺の手にはトランプのカードがある。……トランプというのは、俺が生まれた地域で伝わる……娯楽だ。そういうカードを使ってゲームをする文化がある。で、俺はこのカードを使って、あらゆるものを生み出したり、どういう過程でそうなったのかを特定したり、まあなんかいろいろとすごい万能な魔法が使えるのさ」
「めちゃめちゃ曖昧な説明でしたけど」
「まあ、待てって。最後まで話を聞いていただこうか、バニーちゃん」
「誰がバニーちゃんだ、コラ」
丸テーブルの上に置いていた俺の辞書を取って、それを思い切りぶん投げてくるアリーシア。
……これも一種の愛情表現なのだろうか。
「ただし、この『カード魔術』には制約があり、カードが発光しているときにしか使えない。そして、カードを一枚取るとき、仮にカードの順番を決めていたとしても、なぜか思っていたのとはちがうカードが握られてしまうのさ」
「それで?」
「あと、カードによって効果がちがう」
「まとめると、カードが発光しているときにカードを一枚取ると、多種多様な効果からランダムで一つの効果が発生する、でいいですか?」
「うん、それだ!」
ビシッ、とアリーシアを指差した。
「ですが、今はカードが発光していないようですが。それに、ランダムで効果が発生するのであれば、そのときの状況に合致した効果を狙って発生させるのは、難しいのではないでしょうか?」
た、たしかに……! て、天才か……!?
となると、『カード魔術』に頼って原因を特定するのは容易ではないから、やはり、地道に原因を特定していくしかない、というのか。
うわぁ。嫌だ。そういうのは、こう、お手軽にポン、と解決させてほしい。
ゲームでも、少し行き詰まってしまうとネットで攻略情報を探してしまうような、ぬるま湯に浸かりすぎてしまっている人間だし。よくあるネット小説みたいに、主人公が苦戦する展開はなるべく排除して、何もしなくてもレベルアップして、何もしなくても無双できる、そういう爽快感のある作品に対して、「めっちゃ草」とコメントして自己肯定感を高めつつ、ゆるーい空気感がちょうどいい人生の箸休め的なアレだよね! と思っているような人間だし。
苦労したり苦戦したり、そういった展開は『まったりスローニートライフ』を心に決めてしまった俺にはご遠慮願いたい展開なのである。
「わかってくれたかなぁ!? アリーシアちゃん!?」
そのとき、ポチッ、という音がした。
……ポチッ? 犬?
そんなわけはなく、明らかに何かボタンかスイッチのようなものを押したときに聞こえる音であった。
自分の右手を見てみる。
俺の右手はいかにも自爆ボタン、的な雰囲気をしている丸い赤色のボタンを押してしまっていた。
ボタンの下には『危険』と書かれている。
……あれ、もしかして、まずい? というか、こんな危ないものはウチにはなかったような……?
「な、何か、嫌な予感がしませんか……?」
「……奇遇だな。俺もだ」
バコォォォォォォォォォォォンンン! と、爆発音。
マジかよ。爆発オチかよ。
この日、俺の自宅で爆発が発生し、自宅は見るも無惨な姿に変わり果ててしまうのであった。
俺もアリーシアも煤まみれになってしまっていて、より一層、悲壮感が増してしまっている。
なんてこったい。トホホホホホホホ……。
俺の目から涙が一億キロリットルくらい溢れた。




