20.カレーパーティーをしよう!
さて。考えてみるとしようか。
まず、トランプのカードはどこに行ってしまったのだろう。
……これについてなのだが、「そういえば、そうじゃん……」とよくよく考えれば、紛失したのが納得できてしまう出来事があった。
少し前に、レウィンが魔王で俺が勇者だとかいう話があっただろう。あのときに、俺がレウィンの行動を制限するためにカードをペタペタと貼りつけていたのだ。
……そうじゃん、と。そりゃ、そうだわ、と。
紛失した、というよりも、俺があのとき回収し忘れた、というのが適切なのだろうか。
しかし、あのときはレウィンの行動を制限するべきなのだろうと思っていたから、回収するのも変だ。
他にレウィンの行動を制限できる手段があったのならば、ペタペタとカードを貼りつける必要もなかったがな。
すぎたことは仕方がない。ただ、カードがないと俺が本当にただの人間でしかなくなってしまうので、どうにかしてレウィンを見つけて、回収しなければ。
というわけで、この問題の解決方法はわかった。
次に、ルネッタと学校のような空間に閉じ込められたとき、なぜ、『フレンドリーな~(長いので省略)』の本があったのか。
これに関しては考えてもガチでわからん。
そもそも、俺とルネッタが『ザ・学生』って姿であの空間に閉じ込められたのも正直よくわからんので、答えが向こうからやってこない限り、迷宮入りなのだろう。ルネッタ自身の悪夢のなかの世界だとしても、俺が閉じ込められる理由もないわけだし、それに、あくまで、ルネッタがそう言っていただけであって、あの空間が本当にルネッタ自身の悪夢のなかの世界だとは限らない。
というわけで、あの空間や、それに関係してくる要素、もしくは関係してきそうな要素については、結局、わからないんだ。
……っと。現状、発生している問題や遭遇してしまった謎はこんなところかな?
……よし。じゃあ、レウィンを探すとするか。トランプのカードは、あいつの身体に貼りついたままだろうからな。
俺はまず、レウィンの家を訪問してみた。
しかし、どうやら不在のようだ。
仕方がないので、ゴロウの家やウメスケの家も訪問してみる。
「……いねぇな」
ゴロウやウメスケにも聞いてみたのだが、あいつらもレウィンが今どこにいるかなんて知らないようだ。
「困ったな……」
手がかりがないとわかって落胆している俺は、気分を落ち着かせようと、『ショフギォ』に向かった。
◇
『ショフギォ』に到着する。
ふぅ。やはり、落ち着くな。
……てくてくと歩いているときだった。
見るからに、怪しい建物を発見する。
神殿のような何か。
……なんだこれ?
さすがに気になりすぎたので、入ってみる俺。
「お、お邪魔しまーす……」
小声でそう言いながら周囲を見回す。
ボロボロの床。崩れかけている壁。今にも落ちてきそうな天井。
長居をするのは危険だろうと判断し、神殿から出ようとする俺。
しかし、俺の腕を誰かが掴んできた。
「誰だ!?」
バッ、と振り向くと、そこにレウィンがいた。
「やあ、幸太郎。また会ったね」
「『また会ったね』、じゃねえよ! お前、あのあと本当にいなくなりやがって」
「…………」
「どうした?」
「……やはり、ダメなんだね。幸太郎。キミのカードのせいで、ボクは魔王らしく世界征服を企んでいたのだけれど、力が使えないんだ」
悔しそうに語るレウィン。
「えっと……ポエムを吐きそうなところ悪いんだけど、俺のトランプのカード、やっぱ返してくれねえ? べつの手段でお前のこと縛るわ」
俺がそう言うと、レウィンは大人しく腹を出した。
……あっ。トランプのカード!
サッ、サッ、と瞬時にペリペリと取る俺。
「ボクはキミを消すために、キミの仲間の気持ちを利用してあの空間をつくり、閉じ込めようとしたんだけど……キミがここにいるということは、ダメだったのか……」
えっ。レウィン? お前のせいで、俺とルネッタはあんなよくわからん空間に閉じ込められたのか?
「……というかさ、俺の『カード魔術』でお前の力、制限されていたはずだよな?」
「ああ。ボクの真の力の半分ほどしか出せなかったよ。でも、キミをあの空間――『悪夢の狭間』に閉じ込めるのは容易だったかな。……だと言うのに! 邪魔が入った! 邪魔が入った邪魔が入った邪魔が入った邪魔が入った邪魔が入った! ああ、忌々しい、忌々しい!」
激昂して、地団駄を踏むレウィン。
「ボクの何がいけない!? ボクの何が足りない!? ボクはただ、魔王として生きなければならない使命を与えられ、それを遂行しようとしているだけだと言うのにさぁ!?」
「……と言われてもな」
俺、全然話についていけねえし。
「ボクはね、もう頭がバグってしまっているんだよ……。ダメなんだ。いつも、誰かを消さなければならない、と考えてしまっている。『どうやって消せばいいのか』なんて考えてしまっているんだ」
レウィンはガックシ、と肩を落とした。
「『あなたはこの世を脅かすラスボスになりなさい』、と言われ、『はい、わかりました』なんて、言うわけないだろう? ……だから、ボクは普通の人間として暮らした。……いや、ボクは普通の人間のフリをして、普通の人間として生きていたかった。……でもね? まるで、誰かにボクの思考を書き換えられてしまうかのように――ボクは日に日に悪い感情が強くなってしまうんだよ」
レウィンは泣きながら、自分の本当の気持ちを俺に伝えてきた。
しかし、レウィンのその言葉を聞いて、俺は首を傾げた。
「……レウィン。『あなたはこの世を脅かすラスボスになりなさい』って、それもしかして――女神様から言われたのか?」
「……ああ」
ほー? なるほど。段々と、ムカついてきたな。
俺はギリギリと拳を握った。
「女神様、な。……様、なんてつける相手じゃなさそうだな」
はあ、とため息が溢れてしまう。
「……俺もさ、いきなり異世界に連れて来られて、若干腹が立っていたんだよな。んで、このトランプのカードだけ渡されて、さっさと去っていきやがったわけ」
「幸太郎……?」
決めた。決めた、決めた。
「運さえあればなんでもできると証明してやろうじゃねえの? ……なあ、レウィン。お前、魔王になんかなるなよ。筋書き通りに自分の人生操られる、なんて、クソムカつくだろ?」
俺はレウィンに手を差し伸ばした。
「……レウィン。俺といっしょにさ――女神ってヤツに一発グーパンチお見舞いしてやらねえか?」
言ってやった。
「……できるのか?」
「いや? できるとかできないとかじゃなくて、一発グーパンチお見舞いしてやらなきゃな、って。神を自称しているようなヤツだって、間違うことはあるだろ? だから、『お前、間違ってんぞ』って伝えにいくんだよ」
「なんだ、それ……」
憑き物が落ちたかのようにレウィンの顔から笑みが溢れた。
うん。やっぱ、暗い顔より明るい顔のほうがいいよな。
せっかくのイケメンがよ、そんな暗い顔で台無しになるなんてあんまりだろ? それに、お前といれば女性が寄ってくる。となれば、俺も女性とのお近づきのチャンスが増えるってもんよ。
「フッ」
ニヤリと笑ってやる。
「ねえ、お兄ぃ? キモいよ?」
「キモくないぞ」
そう。俺はべつにキモくなんて――。
「……えっ?」
当惑した。
この声。その呼び方。
まさか――。
「あ、あやめ……!?」
振り向くと、そこに、俺のガチもんの妹――来咲あやめがいたのであった。年齢は十三歳だ。
「あやめ……どうして、ここに……?」
セーラー服姿のあやめに聞く。
「わかんない。気づいたら、なんかここにいた」
肩をすくめて、あやめはそう答える。
「……あ、それよりさ。お兄ぃに本、送っといたんだけど、ちゃんと届いた?」
「……本?」
えっと。まさかとは思うが、あの『フレンドリーな~(長いので省略)』の本のことか?
いやいや。待て待て。『届いた』、って何? えっ? なんか、郵便感覚で言っているけど、『届いた』がマジで意味わからん。
「ああ、そっか。お兄ぃは知らないもんね。あやめね、お兄ぃが失踪してから――疾走したあとに失踪してから、ちょっとあとくらいに異世界転移しちゃったんだよね」
『疾走』と『失踪』って。
この親父ギャグを挟むクセ。……ああ、俺の妹だわ。
「異世界転移しちゃってさ、困っていたんだけど、ぬぬぬー、って念じるとさ、小物くらいなら送りたい人に送れる能力に気づいちゃったんだよね」
「そっかぁ」
いや、「そっかぁ」じゃないが、俺。何、納得しちゃっているんだろう。
「異世界転移して、あるのはその能力とお兄ぃのよくわからない本と水筒だけ! だから、ヤバかったよね。水筒の中身も、もう空だし、お兄ぃに会えて本当に助かったよ」
俺の手を握り、ブンブンと振った。
「あやめ、お腹ペコペコ~」
ぐうぅぅぅ、とあやめのお腹が鳴る。
タイミングばっちりだな。
俺はまるでラノベの主人公かのように「やれやれ」と思うのであった。
「んじゃ、今日は俺ん家でパーティーだな。食材、準備しないと」
あやめと手をつなぎ、神殿をあとにする。
「レウィンも、早く来いよ。今日は、俺のご馳走だぜ?」
「……えっ、ボクも?」
「当たり前だろ? ご飯はみんなで食べたほうが美味しい! ……気がする」
「……そうか」
クスクスと笑うレウィン。
「うんうん。これが友情、ってやつなんだね。くぅー、見せつけてくれるね。ありがとう、お兄ぃ。感謝、感謝」
謎にあやめから感謝される俺。
「意味わかんね。まあ、俺とレウィンは友だちだからな。友だちだし、マブダチだし、ダチダチだし」
「お兄ぃのそれも意味わかんないよ」
「いやいや、マブダチだから、友情を感じるなんて当然? みたいな?」
「お兄ぃ、なんで疑問系なの?」
あやめはジト目で俺を見てきた。
「まあ、それはさておいて」
「あっ! はぐらかした!」
「あやめは何が食べたい?」
「うーん、カレー?」
「よーし、今日はカレーパーティーだな」
その後、俺たちは帰って、カレーパーティーを開いた。




