18.魔王とビキニが襲来!
んが。んごごご。んぐぐぐぐ。んおおおおお。
……ん? 妙に寒い。ベッドですやすやとおねんねしているはずなのに、めちゃめちゃ寒い。
ガバッ、と飛び起きてみた。
……掛け布団や毛布なんかがない。枕もない。
周囲を確認してみる。
暗い。屋内ではあるようだが、ここは自宅ではなさそうだ。
キョロキョロ。
なるほど、窓がないから暗いらしい。
というか、ここどこ? なぜ、俺はこんな知らない場所にいる?
考えてみる。
知り合いの誰かが俺が寝ている間にここに連れてきた、とか?
いや、だが、だとしたらどうやって寝ている俺を運んだのだろう。
たしかに俺ってモヤシボーイではあるのだが、それでも体重は六十キロほどはある。少なくとも、複数人で運ばないと無理だろう。
うーん、じゃあ他の説として……。他の、説として……。
……ダメだ。俺の天才的(?)な頭脳が、今日に限って冴えていない。その結果、何も頭に浮かんでこないし、考えることですら疲れてやめてしまいそうになる。
く、くそ! いったい、どうしてなんだ!?
俺が床を叩くフリをして、「やっべえ!」って感情を全身で表していると、突如として地響きが発生し始めた。
今度はなんだよ!?
ガバッ、と後ろを向くと、そこにはいつの間にか玉座みたいな椅子があった。
そして、その椅子に誰かが座っている。
「やあ、気がついたようだね」
レウィンだ。レウィンは、まるで何かを企んでいる悪役のような笑みを浮かべている。
「えっと……どうした? 体調でも悪いのか?」
かわいそうに。たぶん、なんか変な食べ物でも食べてしまったのだろう。
そう思って心配してみたのだが、ゴスッ、とレウィンに思い切り蹴られた。その衝撃で、俺の口から吐瀉物がゲロゲロ~っと出てしまう。
「ゲボエエエエェ。……ど、どうしちゃったんだよ、レウィン」
レウィンの顔をじっと見るのだが、すると、レウィンがクイックイッとアゴで俺にどこかを見るよう促してきた。
その方向を見ると、アリーシアとレーラとコタンちゃんとルネッタがいた。
そして、なぜだか知らないが、全員ビキニ姿である。
……というか、コタンちゃん用のビキニって何? コタンちゃんは貝だよ?
「幸太郎。キミはずっと不思議に思っていたんじゃないかな。『謎の文字が表示されている』、って」
『謎の文字が表示されている』というのは、おそらく、漢数字がなぜか表示されてしまっている問題のことだろうか。
俺が『一』でアリーシアが『二』、レーラが『三』でコタンちゃんが『四』、ルネッタが『五』だ。
しかし、なぜ、それをレウィンが知っている?
「ボクはね、魔王にならなきゃいけないんだ。いや――魔王になるのが運命だったんだよ」
「は、はあ……?」
何を言っているんだ、この人は。
「幸太郎。キミは異世界人だろう? ボクも異世界の存在だ。キミとはちがう、またべつの世界から来た」
あの、他の人もいるので、俺が異世界人なのだとそんなに堂々と大きな声で言わないでください。
ほら、見て? レーラやルネッタは「い、異世界人……?」って疑問に思っている顔をしていて、完全に話に置いていかれているよ?
「魔王というのは知っているかい? 魔王というのはね――」
「……いや、そういうのどうでもいいから、俺、早くウチに帰っていい? あと、この謎の漢数字表示問題の原因がお前にあるのなら、はよ、解決してもらっていい? これ、地味に邪魔だったんだよ」
本音をぶわーっと言う俺。
「……ボクはね、魔王なんだ。魔王がいるということは勇者もいる。そう、ボクは勇者に倒されるのが運命なのさ。運命には抗えないんだ。だから、ボクは勇者候補である人間をこの『魔眼』で探し、キミたちを強制的に勇者にしたんだ。その表示されている文字は、キミたちが勇者とその仲間である証だよ」
……などといろいろと語ってくれているところ悪いんだが、俺にとっては、本当にどうでもいい。
あとさ、勇者だか魔王だか知らないが、そんな茶番のために俺たちを巻き込まないでくれ。
勇者? 魔王? そのネタ、もういっぱい擦られているでしょうよ。もう五千回くらいはそのネタ、どこかで見たことあるぜ?
「なぜ、自分にしか見えないのだろう。そう思ったときもあるだろう。それは、勇者か勇者でないかのちがいだ。見えるのは勇者本人だけ。文字が表示されている者は、勇者の仲間。そうでない者は何者でもない。ただ、それだけなんだよ」
いや、だから、あのさ。いろいろと説明してくれているところ悪いんだが、レウィンが原因だと言うのなら、早くこれ解決してウチに帰らせてくれよ。
正直、お前が魔王とか俺が勇者だとか言われても、突然すぎるし、そもそも俺、異世界転移とかいう体験しちゃったらさ、もう驚くも驚かないもないんだよな。
なんなら、お前が魔王とか俺が勇者とかって話よりも、アリーシアたちがなぜビキニ姿なのか、って話のほうが気になるんだけど?
これ、お前の趣味? それならナイスじゃん?
俺はアリーシアたちのビキニ姿を眺めながら、そんなことを思った。
アリーシアが水色で、レーラが白色、ルネッタが赤色か。あと、コタンちゃんが黒色。……ふむ。最高じゃん?
幸せを噛み締めている俺。
「……ゲスが!」
「うごぉぉぉ!?」
そんな俺の様子を見て、アリーシアが俺の頬を思い切りグーで殴ってきた。
……いつものアリーシアである。
「ボクは今からこの世界を支配しようと思う。だからさ、幸太郎――キミが止めてみせなよ、このボクを」
「ああ、待て。その前に、この謎の漢数字消してくれよ」
よく話を聞いていなかったが、なんかレウィンが今からどこかに行こうとしているのはわかったので、その前に頼みごとをしてみる。
すると、レウィンは無表情で俺の額に手を当てた。数秒して、謎の漢数字は表示されなくなり、無事に解決したのである。
……あれ? これ、ここまで謎の漢数字表示問題を引っ張るようなことだったのか?
疑問に思う俺。
だが、解決したのですべてよし。無問題だろう。
俺はホッとしたのか、足をわきわきとさせ始めた。ついでにブリッジも披露してやった。
「……で、なんだっけ? 俺がレウィンを止めればいいんだっけ?」
「ああ、そうだ」
「ほいなら、『カード魔術』をほいっと」
服の胸ポケットに入れていたトランプのカードが発光していたので、俺はシュッ、と取り出し、ペタペタとレウィンのお腹に貼ってやった。
「……幸太郎。……これはなんだい?」
「いや、もうさ。いろいろと面倒じゃん? なあ、アリーシア?」
「……私に振らないでくださいよ。……まあ、なぜいきなり魔王が現れて、私たちが魔王を倒さなければならないのか? と、そこの自称魔王だと名乗る男にクレームを押しつけたいところではありましたが」
くるくると髪をいじりながらそう答えるアリーシア。
きゃ、きゃわいいッ!
悶える俺。
「ねえねえ。寒いから早く服着たいんだけど、ダメ?」
「ルネッタ! ダメだ! これはレウィン的にたぶんそうしないといけない儀式的なアレなんだ! だから、ダメだ! ビキニ姿をもっと俺に見せてほしい!」
「欲望丸出しじゃないですか」
ドスッ、とアリーシアのチョップが俺の頭に当たった。
「……おほん。えー、話を戻すんだけど、そのカードさ、今、のりで貼りつけたようにぺったりくっついているじゃん? それ、行動を制限する術式なんだよなー。つまり、レウィン。お前が誰かに危害を加えようとすると、カードが反応して強制的に止められてしまうわけだ。ちなみにそれ、簡単に剥がせないぜ?」
レウィンのお腹をツンツンと突っつきながら言う俺。
「面倒なのはさっさと片づけるに限る。だから、レウィン。もうお前の野望、終わりな? ワンターンキル……いや、キルはしていないけども――」
「……ふふふ。そうか。ボクは、もう終わりなのか。その程度にすぎない存在だったのか……」
悔しそうな表情を浮かべるレウィン。
「ボクだって、なぜ魔王にならなければいけないのか、わからないんだ。でも、思考が、身体が、勝手に動くんだ。『魔王になるんだ』と」
「へー、そうか、そりゃ、大変だな」
マジで適当に返す俺。
あの、レウィン。お前が魔王なのはもうわかったから、今から皆に謝罪すれば世界の支配だって未遂で終わるんだし、早くごめんなさいしよ? な? それで、また笑いながら友だちやればいいじゃん?
「『お前が魔王なのはもうわかったから、今から皆に謝罪すれば世界の支配だって未遂で終わるんだし、早くごめんなさいしよ? な? それで、また笑いながら友だちやればいいじゃん』……と、幸太郎は心のなかで言っています」
「ちょっ!? アリーシア! 代弁しないで!? ちょっとぉ!? 恥ずかしいじゃん!?」
わちゃわちゃあたふたと取り乱しながら、アリーシアの口を塞ごうとする俺。
しかし、アリーシアに華麗に避けられてしまうのだった。
「……そうか。ボクには魔王としての覚悟が足りなかったんだね。……またキミたちの前に現れるよ。今度はしっかりと力をつけてね」
そう言って、謝罪もせずにどこかへ去っていくレウィン。
「……お、おーい!? どこかへ行くのはいいんだけど、結局ここどこなんだよ!? 俺たちを元の場所に戻せ!」
俺がそう叫ぶと――俺の真下にはベッドがあった。
キョロキョロと見回してみると、見知った家具、見知った部屋があった。……自宅に帰ってきたのである。
「……ふぅ。終わったのか。……朝飯の準備でもするかぁ」
ふわわぁ、とあくびをしながら、キッチンへ向かう途中、俺の右手がムニュッ、とやわらかい何かを掴んだ。
……ん?
目の前を見ると、ビキニ姿のルネッタがいた。そして、ルネッタがいるのを確認するのと同時に、俺の右手がルネッタの胸を鷲掴みしていることを確認する。
……ん? そもそも、なぜルネッタがウチにいる? あと、なぜまだビキニ姿なんだ?
そんな疑問と同時に、俺の頬に痛みと衝撃がやってきた。
「……このゲスが」
どうやら、アリーシアの本気のビンタが俺の頬にクリティカルヒットしたようである。
「もう、あたし……お嫁に行けない……」
赤面しながら、そう呟くルネッタ。
お、おおう……最高だ、な……。ビキニって、最、高……。
俺はこの日の出来事を『魔王とビキニの襲来事件』と名づけて、みんなのビキニ姿を一生忘れないでいようと心に決めた。




