17.魔法ニート少女の俺が審査員に失笑された話
コスプレコンテスト当日。
なるほど、やはり賞金目当ての人も多いらしく、コスプレのレベルが高い。
ライト勢も多く、友だち同士で参加しているっぽいグループもいるし、カップルっぽい二人組もいる。
カップルっぽい二人組は、めっちゃイチャイチャしている。
イチャイチャを誰かに分かち合いたいというか見せつけたいみたいなレベルでイチャイチャしていやがる。
くっ。リア充め。アレか? アレなんだな? これが終わったら、帰って延長戦が始まるんだな? 隙あらばチュッチュッしやがって。絶対にそうにちがいない! 夜のコスプレコンテストが始まってしまうんだろ! カップル連中には絶対に負けないぞ!?
俺は気が気じゃなかった。というのも――なぜか、俺は魔法少女のコスプレをしているからだ。いわゆる、女装である。
「な、なぁ!? な、なんで、俺が魔法少女のコスプレなんだよ!?」
どう見ても文化祭か学園祭の悪ノリ的なアレでしかない。
まず、顔や肩幅が大きいため、どう見ても少女に見えない。
そして、髭がうっすらと生えてしまっていて、罰ゲームで女装をすることになってしまった人だと見られるのが普通だろう。もしくは、変質者。
さらに、絶望的に俺の容姿が女装に似合っていない。俺はモヤシボーイではあるのだが、骨格のあちらこちらが意外にも「あ、俺……男なんだな……」と感じさせるのだ。それに、さっき手鏡で自分の顔を確認してみたのだが、徹夜したせいかクマができていたので、もし夜中にこの格好で歩いていたら見かけた人がガチで恐怖で逃走してしまうレベルだと言っていいだろう。
おまけに、化粧がとても雑なので、「化粧で誤魔化せば最低限は見れる……はず」という一筋の光明すら見えない。
完全に笑われるためにコスプレさせられたとしか思えない。
……まさか俺、騙されたのか?
「う……ぷくくくく。に、似合っているよ~?」
執事姿のルネッタが、俺の姿を見て笑いを堪えようとしている。
おい。なんだい、その笑いは。まるで、おかしなものを見ているみたいじゃないか。
「幸太郎。大丈夫です。自信を持ってください」
執事姿のアリーシアにそう言われる。
でも、無理にフォローしているのが丸わかりでつらい。
あと、二人ともめっちゃ似合っている。
ルネッタは男装の麗人と呼ばれてもおかしくないくらいにイケメン女子って雰囲気をしているし、アリーシアは男装をしているにもかかわらずアリーシア自身のかわいさを隠し切れていないくらい『かわいい』。めっちゃ『かわいい』。天使じゃん。天使だよ。天使だよね?
俺の目から涙が溢れ出た。
「幸太郎。やはり、私と衣装を交換しますか……?」
「いや、大丈夫だアリーシア。俺は、アリーシアの魔法少女姿を見るだけでもご飯を七俵食べられるだろうし、パンを十斤は食べられるだろうが、アリーシアの執事姿を見ることでしか得られない成分もあるというものだ。そんな、アリーシアがステキだし、俺はそんなアリーシアを愛でたいと思う。アリーシアの執事姿を見るだけで、俺はこの世に蔓延る悪という悪が浄化されるまであると思ってしまうくらいにアリーシアの執事姿に可能性を見出だしているんだ。俺はそんなアリーシアが大好きだし、そんなアリーシアをお嫁さんにしてやりたいと思っているし、そんなアリーシアとイチャイチャする未来を描きたいと思っているんだ。つまり、アリーシアは人類の希望でもあるとともに、俺にとっての希望でもあり、その純真無垢な笑みは男のハートをがっちりと掴んでしまうだろう。そんなアリーシアの良さが俺以外の人間にも知られてしまうのはとても心苦しいところなんだが、でも、アリーシアがめちゃかわで最上級にチャームなのは事実だし、俺はそんなアリーシアと一生を添い遂げたいんだ……! それくらい、執事姿のアリーシアには魅力がある。だから、ダメだ。あと、まじめに言うと、この衣装は俺用につくられているからアリーシアじゃブカブカで着れないのでは」
「そ、そうですか……」
アリーシアに若干引かれた。
あれ? 何がいけなかった?
早口で愛の言葉をつらつらとたくさん言ったからか?
だが、これは本当のことであり、何も引くことはないじゃないか。
「……あの、幸太郎。人前ではそれ、絶対に言わないでください」
恥ずかしそうに言う、アリーシア。
ふむ。では、人前でなければいいということなのだろうか。
ピーン(何かをひらめく音)――!?
そうか。わかったぞ。
ついに来たか。デレデレ期が!
そう、今まではアリーシアはツンデレのツンの部分が非常に多かった。
しかし、ここからはデレがたくさん見られるのではないか!?
そう。あり得ないんだ。ツンデレなのに、ツンしかないなんて。それは、あり得ない事象。
いつデレが来るんだ? いつデレが俺を待っているんだ? と、疑問だったのだが――なるほど、今か。くぅ。やってくれるじゃないか。
今日から俺はこれを『ツンデレ理論』と名づける。そう、『ツンデレ理論』だ。
ツンデレにはな、ツンの時期を通りすぎれば、必ずデレの時期がやってくるんだ。
ツンツンのアリーシアがいる時期もあれば、デレデレのアリーシアがいる時期だってある。
ツンツンのアリーシアも最高に最上級にめっちゃかわいいのだが、デレデレのアリーシアも俺は大好きだ。
よし。決めた。俺は俺にデレデレのアリーシアとイチャイチャ甘ラブ生活を目指すぞ!?
「何、ワケのわからないことを思っているんですか。ぶっ飛ばしますよ」
うん、もうぶっ飛ばされていますよ、アリーシアさん。
ほら、見て。いつの間にか、俺の頬にアリーシアに思い切りビンタされた痕跡があるじゃない。
手鏡で自分の頬の状態を確認している俺。そんな俺の横で、ルネッタが笑い転げていた。
「か、確信犯じゃねえか!」
なんかおかしいと思っていたんだ。
なぜ出会ったばかりの俺とコスプレコンテストで賞金を? とか思っていたし、そもそも本気で優勝を狙っているのなら、素人の俺と組もうなんてのがまずない。
だが、こんなに笑い転げているルネッタを見るに、なるほど、ルネッタはこのコスプレコンテストをお笑いコンテストか何かと勘違いしているらしい。
というか賞金と言っても、俺にとっちゃ大金だが、たかだか日本円で言やぁ、一万円強程度でしかない。クイズ番組の賞金よりも低いし、コスプレ衣裳代を考えたら、優勝賞金をいただいても差し引きで黒字にはならないだろう。
おいおい。俺、ちょっと前に『賞金目当ての人も~』とか思っていたけどさ、単に優勝狙っているからレベル高いだけで、これ賞金目当てじゃないじゃん。
それとも、なんだ? アレか?
コスプレイヤーが本業的な人たちで、宣伝も兼ねて優勝を目指してレベル高いコスプレをしているとか、そういうアレなのか?
そういえば、心なしかやけにカップル率が高いような……。絶対、これ帰ったら男女でやることやるパターンでしょ。なんなら、もうその場でおっ始めそうな勢いなんだが!?
チクショー! こうなったら、俺もアリーシアと男女のそれをする関係になってみせるぜ! ルネッタでもいいぞ!
「ルネッタ。このゲスが邪なことを考えていたので始末しました」
し、仕事が早いですね、アリーシアさん……。
ぼこぼこにされて地面にぶっ倒れる俺に追いうちするように、アリーシアは俺の顔を椅子がわりにして座り始めた。
あっ……! アリーシアのプリティなお尻の感触が俺の顔に……!
俺(変態)にとってはご褒美なのだとすぐに気づいたアリーシアは、俺の顔を思い切り蹴っ飛ばした。
「あの、アリーシアさん。痛いです。とても、痛いです」
「自業自得ではないですか?」
訂正。アリーシアは全然デレデレ状態ではなかった。
「いやー、本当、夫婦漫才を見ているのは楽しいなぁ」
ルネッタが俺たちを煽るように言う。
アリーシアは『夫婦漫才』と言われて今にも「ちがいます!」と言いたげな顔をしている。
ふぅ。やはり、アリーシアは天使、じゃのぅ。
俺はかわいい孫を見ているおじいさんのような気持ちで、アリーシアを見つめた。
「さて、お二人さん。そろそろ、始まるっぽいよ? 幸太郎くん、アリーシアちゃん。優勝しようね!」
「ええ。そうですね」
「おう! もちろんだ!」
コスプレコンテストが始まった。
◇
コスプレコンテストが終わった。
一瞬のことだったかもしれないが、俺にとっては長く感じた。
結果は――。
「……ま、負けた。な、何がいけなかったんだろう」
悔しそうに……悔しそうに? そう言うルネッタ。
……いや、全然悔しそうじゃないな。うん。
「コスプレのレベルが高い人たち、いっぱいいたし、素人が簡単に勝てるわけじゃなかったんだろうな。それにほら、俺とか見てよ!? これじゃ、よくてダークホース枠だぜ!? たぶん、会場を間違えているんだわ!」
涙を流しながらルネッタに訴えてみる。
「じゃあ、今度はお笑いコンテストに……」
「出ない! 絶対にもう出ないから!」
強く言う俺。
「見てた!? 審査員の人たちがさ、俺のときだけめっちゃ失笑していたんだよ!? 『うわ、なんだこいつ……』みたいな目をしていたんだよ!? なあ、これ泣いていいか!? 泣いていいよな!? 泣いちゃうぞ、俺!?」
「落ち着いてください、幸太郎。もう泣いていますよ」
同情するような目をしながら、俺にハンカチを手渡すアリーシア。これで涙を拭けと言っているらしい。その優しさが俺には残酷なのである。
「……アリーシア。帰ったら、小一時間ほど、ハグさせてくれ……!」
「あ、それはやめてください。本当にやめてください」
否定が早い……。しかも、『やめてください』って二回も言った。本当にやめてほしいときのそれだ。
「ま、まあ、でも、帰ったら今日は私の手料理を振る舞ってあげますよ?」
「……ジーン。ア、アリーシア! 愛しているぜ!」
咄嗟にガバッ、とハグをしようとしてしまったのだがアリーシアに華麗にかわされて俺の頭に軽めのチョップが命中した。
「……アリーシアの手料理、楽しみだぜ!」
この晩、俺はアリーシアのめっちゃおいしい手料理で、なんとかメンタルゲージを回復することに成功したのである。




