16.はーい、二人組つくってー!
「お邪魔するよ~」
フンフンと鼻歌混じりにウチの水槽で飼っているコタンちゃん(潮干狩り回を参照)を眺め始めるルネッタ。
そんなルネッタの頭上に、漢数字の『五』が見える。
……そういえば、完全に忘れていたが、これ、結局なんなんだ……?
おさらいするが、俺には『一』、アリーシアには『二』、レーラには『三』、コタンちゃんには『四』、ルネッタには『五』、という漢数字が割り当てられている……というか、俺の視界に表示されてしまっている。そして、俺が「フォンヌゥンポゥッッッ!」すると非表示モードになり、俺がムフフな気持ちになってしまうと再度表示されてしまうようだ。
さて、これはいったいどういうものなんだ!?
答え。知るか。
……そりゃ、俺は答えなんて知らないよ。
まあ、それはどうでもいいんだが、それにしても、俺やアリーシアやレーラやコタンちゃんやルネッタにはこの謎の漢数字が表示されてしまうのに、どうしてドグウェンや他の人たちにら表示されないんだろう?
これは何か、証、みたいなものなのだろうか。俺やアリーシアなんかにはあって、ドグウェンにはない、みたいな。
ただ、結局、アリーシアにもわからなくて、あとでどうにかしよう、的な? 感じになっていたし、まあ、後々どうするか考えればいいか。生活に支障がないと言えば嘘にはなるが、正直そこまで支障はないし。そもそも、いろいろあって忘れていたし。
「……ところで幸太郎くん。あのおばさん、今日はいないよね?」
「レーラは、いない……はずだけど」
この前、どこからともなくババッと現れたから、正直わからん。いないと言えばいないんだけど、急に現れるから。明確に「うん」と言えない。
「んじゃ、いいや。今日は頼みがあって来たんだ」
「頼み?」
無職の俺に、どんな頼みごとがあると言うのだろうか。
「幸太郎くん。これに出てみない?」
パサッ、と俺に一枚の紙を手渡してくる。
どれどれ、と俺は内容を確認してみた。
「……コスプレコンテスト?」
「うん。個人と団体で二部門あるんだけど、どっちも優勝者には賞金が出るらしい。だからさ、優勝して賞金山分けしようよ」
悪巧みを考えているときのような笑みを浮かべながら、手をニギニギとしているルネッタ。
「コスプレなぁ。見るのは好きだけど、自分がする、ってなるとちょっとハードルが高いなぁ」
それに、コスプレをした俺の姿を想像すると、どこからどう見ても悪ふざけをしているようにしか見えないのではないか、と思う。
ビジュがいいわけでもないし、コスプレ初心者だし、そもそもコスプレをするお金がないし、参加しようにも参加できないな。
でも、ルネッタのコスプレ姿は見たいな。アリーシアとレーラにも土下座してコスプレしてくれるように頼もうかな。全力の土下座で、マジで頼んで、俺の心の潤いゲージをマックスまで回復させる計画はあり、か。
「それ、俺じゃなくて俺の知り合いでも構わない?」
「うーん……できれば幸太郎くんといっしょがいいけど」
おっと? ルネッタから、俺が勘違いしてしまうような発言が出てきてしまったねぇ。
しかし、ルネッタは俺を好きでも嫌いでもないと言っていたので、これはおそらくそういう男女のアレ的な、イチャイチャラブラブ的な発言ではないのだと理解している。悲しいが、でも、俺はルネッタも好きだ。だから、めげない。いつか、その言葉を本物にさせてやるさ!
「何、気持ち悪いことを考えているんですか」
「あっ、アリーシア」
ストッ、と軽くアリーシアにチョップされた。
「……えっと、幸太郎くんの彼女さん?」
「もちろん、そうだ!」
「ちがいます。私はアリーシア。ただの……友だちです」
少し恥ずかしそうにルネッタにそう答えるアリーシア。それがとても……かわいらしい。最高だ。結婚してくれ。
「ふーん、そうなんだ。友だち、ねぇ?」
ニヤニヤと笑うルネッタ。
「何、笑っているんですか」
「ごめん、ごめん。……あたしはルネッタ! ひょんなきっかけで幸太郎くんと出会った、旅人! よろしく」
ルネッタはアリーシアの手を握ってブンブン、と振った。
「はあ? よろしくと言われましても、ですが。まあ、いいです」
アリーシアはそう言って、他の部屋に移動しようとする。
「待って、アリーシア!」
「どうしたんですか、幸太郎」
「ねっ? ねっ、ねっ、ねっ? お願~い! 本当にちょっとだけでいいから! ちょっとだけ! ちょこっとだけ! ちょこ~っっとだけでいいから、コスプレコンテストに出てみない!? ねっ? 俺、アリーシアのコスプレ姿、見たいなー、チラッ、チラッ」
土下座しながら、めちゃめちゃ早口でアリーシアにお願いしている俺。
フッ。アリーシアのあんな姿やこんな姿を想像してやるぜ。バニー、メイド、ナース、くのいち。……フッ。めちゃめちゃ最高じゃねえか。テンション爆上げだよなぁ!?
「……ゲスが」
アリーシアはゴミを見るような目で俺を見ていた。
うわ、すっごい。……すっごい、怖いよ、アリーシア。でも、そんなところが好きだぞ(特大のハート)。
「ルネッタ。ちょっとばかり、このゲスを始末するので、五分ほど待ってください」
「……へ? わ、わかった?」
待って、アリーシア。始末する、って何!?
あと、ルネッタもなんでそう簡単に頷いちゃっているんだい!?
あ、あんまりだ! お、俺、本当にアリーシアのコスプレ姿を想像して、ムフフな気分になっていただけ――いたたたたたたたたたたたただだだだだだだだだだだだだ痛い痛い痛い痛い痛いッッッッッッッッッッッッッ! 痛い、痛いって! ちょっと、アリーシア!? すねはダメだよ……痛い! あ! 足がいけない方向に曲がっちゃう!? 腕もよくわからん方向に曲がっちゃいそう!? アゴもめっちゃ痛い!? うげげげげげげげ! いたいたいたたただだだだ痛い痛いッッ!
……あ、でも、アリーシアの胸がちょっと当たっている気がする。
痛いのに、なぜかフフッ、と一瞬だけ俺の顔からおそらく笑みが溢れた。
五分後。
「……ゲスを始末しました。さあ、話を続けてください」
「アビージアァさん、本当にごめんなざいでじだ、俺が悪がっだでず」
本当の本当の本気の土下座をしながら、ただただアリーシアに謝った。
「なんか、えっと……うん。二人は仲がいいんだね!」
「あ、ああ……もちろん、だ……」
頷くかわりに、親指をピーンと突き出して答える俺。
俺、ボロボロだけど、仲がいいってことで、いいんだよな、アリーシア……?
チラッとアリーシアの顔を覗いてみた。アリーシアは少し嬉しそうな顔をしていた。これは決して、サドっ気があるとか、そういうわけではないのだろう。
「……で、なんですか? このコスプレコンテストとかいうのに出てやればいいんですか?」
アリーシアが自分の髪をくるくるしながら、そう聞いてくる。
ア、アリーシア! アリーシア、マジか! マジなんですか!
俺のテンションが上がってくる(すでにテンションが高かったかもしれないが)。
アリーシア、マジかよ。……聖母かよ。
そうか。そうだったのか。……バブみを感じるというのは、こういうことだったのか(?)!
俺、わかっちゃった。わかっちゃったよ。つまり、アリーシアがゴッドで、ゴッドがアリーシアで、アリーシアはプリンセスで、プリンセスはママで、アリーシアはママってことだったのか(?)……。
フッ、ありがとう。この世のすべての理論がわかってしまった……!
「幸太郎。申し訳ないですが、幸太郎の心の声が何を言っているのかまったくわからないです。ちょっと寒気がしてきました」
アリーシアは呆れたような声で俺にそう言ってきた。
「心の声……?」
「ああ、ルネッタ。ルネッタにも話しておきますか。私、他人の心が読めるんです。だから、ルネッタが何を考えているのか、何をしたいのか、とかも私にはわかってしまうんですよ」
アリーシアは淡々と言った。
アリーシアの気持ちを考えたり、ルネッタの気持ちを考えたりして、何かフォローを入れるべきだろうかと迷ったのだが、やめておいた。
俺が変に割り込んで何か言って、それで関係性がこじれてしまうのは嫌だからだ。
いつもは変に割り込んで何か言ってしまう俺なのだが、やはり、首を突っ込みすぎて失敗してしまうのが俺。
だから、やめておこう。
「……怖いですか?」
ルネッタに問う、アリーシア。
「ん? なんで? 全然! むしろ、あたしはそういう人と友だちになりたかったから」
きっぱりと明るく答える、ルネッタ。
ひゃ、百点だ……。花丸だぜ!
なぜか、ちょっと俺がホッとしていた。
「……よし! じゃあ、本番までの間にアリーシアちゃんと幸太郎くんに似合うコスプレ衣装を考えて、用意しようか!」
……ああ、結局、俺もコスプレするんだね。
「はい、先生。俺、タイツのお化けのコスプレでいいですか」
「タイツのお化けのコスプレって?」
「ただの全身タイツ」
「それはちょっと、ね?」
ルネッタがドン引き顔でそう言った。
お、おお……。でも、他にはその辺の石ころのなりきりコスプレとか、その辺の木のなりきりコスプレとか、そんなのしか俺にはできないような。
だって、「キャー、格好いい!」ってなるコスプレは、俺には絶対似合わないぞ? 俺がすると、「ギャー! 何、あの化け物ー!?」って声が飛んでくるにちがいない。そうは思わないかな、ルネッタ?
「本番までの間に、本当に、本当に、本気で、考えよっか……幸太郎くんに似合っている、衣装」
あ、ああ! やめて! そんな目で見ないで、ルネッタ!
体育で「はーい、二人組つくってー!」って先生に言われて二人組なのに三人組とかで組んでいるグループがいて一人俺だけ余ってしまったときに、事情を察して、「先生とペアを組もうか」と優しく言われたときのアレを思い出してしまうからっっっ! 本当にやめて!?
「まあ、うん。大丈夫だよ、幸太郎くん」
「そうですよ、幸太郎。元気出してください」
アリーシアに、ポンポンと優しく肩を叩かれる。
アリーシアもやめて!? そんなに俺に優しくしないで!? でも、そんなアリーシアも好きだ。愛している!
この日の夜、俺は「はーい、二人組つくってー!」の悪夢を見て、質のいい睡眠を取ることができなかった。




