表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/21

15.勝ったのは愛情でも友情でもなくご飯でした

 ウガガガガガガガガガ。ズビ、ズビビ、ズビビビビッ!

 む、無理だ! さ、寒ぃ!

 アブブブブ。ムブブブブ。


 ……というわけで、俺は今、なぜかドグウェンといっしょに滝行をしに来ている(レーラが遠くから俺たちを見守っている)。


 モヤシボーイである俺がなぜ滝行を?


 そんな疑問があるので、思い返してみることにする。


 たしか、まず、ウチにドグウェンが来たんだ。


 そして、ドグウェンがこう言い出す。「兄貴ぃ! 特訓をしようぜ!」と。


 で、俺はたしか、「いや特訓をする前にまずウチに置いていった刀をどうにかしてくれ」と言ったような気がする。


 しかし、ドグウェンは俺の発言が聞こえなかったのかわざと無視したのか、「兄貴ぃ! 山に行こうぜ!」と脈絡もなく言い出し始める。


 そのときの俺は「いやいや、俺ってめちゃめちゃインドア人間なんだから勘弁してくれ。今日は家でグータラするんだ」とか思っていたような気がする。


 と、俺が「行きたくねえなぁ……」というオーラを出しているタイミングでウチの玄関の扉が開かれたんだ。


 現れたのはレーラだった。


「幸太郎さん! ぜひ、お供させてください! 行きましょう!」とかレーラが言い出してきたんだが、ハニートラップに引っかかって鼻の下を伸ばしてしまった俺は「えぇ、行っちゃう~? でも、レーラお姉さんが行くなら俺も行っちゃおうかなぁ!?」とか言っちまって、言質取られて……こうなってしまった、わけか……。


 ……というか、レーラ、いつから俺たちの話を聞いていたんだ?


 あのタイミングで玄関の扉を開けて俺にそう言ってくるということは、俺たちの会話を聞いていないとできないはずだ。


 それに……なぜ、玄関の扉が開いているのがわかった……。


 ……あのさ、ドグウェンもそうなんだが、鍵というものがあってだな? 鍵をかけているはずなのに、普通に入ってくるのやめようぜ? 怖いよ? それ、身内じゃなかったら完全にアウトだぜ? いや、身内でもアウトのラインに入るかもだぜ……?


 しまった。この二人を追い出して、今日はグータラすると決めたからと強引にでもベッドに潜り込んで、すやすやしておけばよかったぜ。今日のしまったのコーナー(どんなコーナー?)が始まってしまったよ、まったく。


「……なあ、ドグウェン。俺、もう帰っていいか? 風邪引きたくないんだが」


「…………」


 無言である。

 滝行に集中しているらしい。もしくは、滝の音で俺の声が聞こえていないか。


 出ちゃっていいかな? 一旦、濡れた身体を拭いて、服着て、あったか~い飲み物でも飲みたいんだが。


 そもそもこれ、精神を清める目的でやるものだと思うんだが……心がどうしようもないレベルで汚れてしまっている人間(自覚あり)には、効果があるのだろうか。滝行で打ち消すのが難しいくらいに煩悩にまみれてしまっている俺には、これはただ身体を壊してしまうだけなのではないだろうかと、真理に気づいてしまったのだが。


 あれこれと思いながら滝から離れてみた。すると、俺が滝から離れたのを感じ取ったのかドグウェンも滝行を終えてこっちに来た。


「お兄さんたち、いい肉体をお持ちのようですねえ!」


 こんな人気のないところに、突如として、赤色ポニーテールお姉さん(俺と年齢同じかちょい上くらい?)が現れて、そんなことを言いながら俺たちの身体を勝手に触ってきた。


 俺、モヤシみたいにひょろひょろなんだけど、そんなにいい身体しているんですか?


 なんて、疑問に思ったのだが、ハニートラップに簡単に引っかかってしまう俺みたいな人間には、そんな言葉でも簡単にメロメロになってしまうわけである。


 というわけで、俺は今、たぶん鼻の下が伸びてしまっている。


「……俺、来咲幸太郎。筋肉を鍛えることだけを考え、筋肉について研究し、筋肉を愛している男……いや、漢だ。趣味は毎日腹筋五千回、スクワット五千回すること。そして、筋肉がつきやすい食事を研究して食すこと。……幸太郎で構わない。よろしく頼むぜ、マドモアゼル」


「うっわぁ、何言っているのか全然わかんないけど、あたし、ルネッタ。よろしく」


 ……こんなに熱烈にアピールしようとしたのに、軽く流されたよ。なんならちょっと引かれたのが悲しい。


「ちょっと待ってください!」


「はい……? えっと、幸太郎くんと……」


「ドグウェンだ」


「この人、幸太郎くんとドグウェンくんのお友だち?」


 ルネッタがレーラを指差して聞いてくる。


「まあ、そんなところかな……?」


「幸太郎さんは――わたしのフィアンセです!」


 レーラが大きな声で言った。


 あるぇ……? そうだったのぉ……?


 嬉しいけど、それはちがう……いや、今からそれを本物にしていただいてもよろしいのだがな。


 俺はフッ、と笑みを溢してやった。


「幸太郎さんを狙っているというのなら、わたしが全力でお相手して差し上げましょう。この泥棒猫!」


「ねえねえ、幸太郎くん。聞いて聞いて?」


 なになに、どうした、どうした。


「この人、おかしい」


 ルネッタは目をぱちくりとさせながら、完全に引いていた。


 いや、うん……そうだね、としか言えない。


 うん。ごめん、ルネッタ。ごめん、レーラ。


 俺は心のなかで謝罪した。


「えっと、彼女はレーラ。いろいろあって、たまにウチに来てくれているというか……まあ、いろいろあってなんか、一目惚れされた」


「ふーん、そうなんだ。言葉を濁さなきゃいけないくらいの人なんだね」


「なんですか、その物言いは!? それに、ベタベタと幸太郎さんにくっつこうとするのも卑しいです! あなた、常人ぶっているようですが、初対面の男性に近づいて身体をベタベタと触りに向かうその行為のどこに常人ぶれる要素があるのというのですか!?」


 ……うん、まあそれもそうなんだけど、それレーラが言えることでもないからなぁ。


 でも、これは、女子プロレス並みの女性同士の肉弾戦が始まりかねないから、止めないといけないかな。


 俺、力ないけど、止められるかな……? 最悪、ドグウェンに手伝ってもらえばいけるよな?


 チラッ、と横にいるドグウェンの顔を見た。


「ぐごぉぉぉ、すぴぃぃぃ、ずもぉごぉぉぉ!」


 ね、寝ている! しかも、立ちながら!


 ダメだ! ドグウェンはこうなるとたぶん起きない。実際のところどうか知らないが、なんかそんな気がする。


 おーい! 俺の目の前で女子プロレスが始まっちゃったらどうすんの!? どうやって止めればいいんだ……?


「あたし、このおばさん無理」


「あら。お子さまだから、わたしみたいな【お姉さん】に対しても素直に負けが認められなくて、僻みの言葉が出てしまうのですかね。かわいそうに」


 レーラ。煽るな、煽るな。

 どちらも美人さんなので、俺のために争わないで!


「そもそも、わたし、幸太郎くんのこと、好きじゃないんだけど。わたしは幸太郎くんをそういう目的で見ているわけじゃないし、それに、一目惚れするようなルックスじゃないよね?」


 ぐ、ぐさーっ! ぐさぐさぐささーっ!


 あ、あのぉ? ル、ルネッタ? それ以上はやめて? それ以上は俺が泣きそうになるから本当にやめて?


 なんで、いきなりそんな悲しいこと言われなきゃならないんですか!? 今、俺、完全に流れ弾食らったんだが!?


 今日は、俺の涙で滝ができそうだ。……滝行しに来た、ってだけに。


「ふぅん。負けるのが怖いから『ううん。本当はわたし、こんな男好きじゃない。好きじゃない。でも、やっぱり……』というムーブをしているんですね。あなたって、本当にお子さま」


 レーラがニコリと怖い笑みを浮かべた。


「はい? ちがうけど? そもそも、胸の大きさくらいでしか勝機がなさそうなおばさんに負けるわけないじゃん。ねえ、幸太郎くん?」


 俺に振らないでルネッタ!


「こんなお子さまよりも、大人の魅力溢れるわたしのほうがいいですよね、幸太郎さん?」


 やめて! どっちもステキなんで、なかよく握手しましょうよ!


「……グガゴ、ンン……ンンッ。……なあ、兄貴。オレ、帰ってもいいか」


「起きてくれたのはありがたいが、待て。帰らないでくれ。この状況で俺を置いていかないでくれ」


 本気のトーンでドグウェンを引き止める。


 だが、ドグウェンにとっては、今目の前で起きてしまっている光景を本当にどうでもいいことなのだと思っているにちがいない。その証拠に、ドグウェンは寝ぼけ眼を手で擦りながら、あくびをしている。それに、ドグウェンの顔が、「早く酒場にでも行って、お酒飲みてぇな……」という顔になっているのがよくわかる。


「幸太郎くん。わたしだって、ちょっとはあるよ? 大きければいいってものじゃないから」


 自分の胸を触りながら、俺にアピールしてくるルネッタ。


 ……なんか、話がこじれてきた。


 この前、シリア~スな話をやって結構疲れていたのに、今度はまたべつの意味で疲れそうだ。おいおい。本当に風邪引いちゃうんじゃないの、これ。


「幸太郎さん。あのお子さまは自分に自信がないから、自分に言い聞かせるようにあんなことを言っているだけなんです。うふふ。持たざる者の嫉妬は本当にかわいそうですね」


 ……助けて、ドグウェン。この人たち、怖い。


 ドグウェンに助けてアピールを視線で送る。


 しかし、ドグウェンはぼうっと遠くを見つめて早く帰りたそうにしている。俺を助けてくれる気配は微塵もない。


「今日のお酒のオトモは、魚介がいいか……」


 うん。ドグウェンは完全に、知らんぷりである。


 知らんぷりというより、俺たちのことが見えていないのかもしれない。


「兄貴は何がいい?」


「いや、俺、お酒飲めないし……」


「ご飯、奢るぞ」


「マジか!」


 それはいいなぁ、と思ったので、俺はドグウェンについていくことに決めた。


「最近、物価高いからなぁ。助かるぜ~。ありがとよ~」


 こうして、俺とドグウェンは酒場へと向かったのである。


 ……あれれ? 何か、忘れているような?

 ……まあ、いいか! それよりも、ご飯だご飯! なんかあった気がするけど、ご飯のほうが大事!

 ドグウェン、マジで最高! サンキュー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ