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14.いい話風に締めくくっても大長編なら許されるはず

「……友を殺したのは間違いなく『人殺しの魔女』だ」


 ドグウェンが静かに怒るように、そう呟いた。


「だから、この手で殺そうと思っていたのにな。しかし、大切な人間も守れねえ、復讐相手に仕返しもできねえ……これじゃ、オレはなんのために刀を振るっていたのか、わからない」


 ドグウェンは刀を床に置き、ため息を吐いた。


「こんなの持っていたところで、オレには所詮これはお飾りなんだ。嫌なことばかり思い出しちまうし、これからは魔術で生きていく。……そう思っちゃいたんだがな。どうしても、咄嗟に刀を握っちまう。……何もできねえクセに」


 自嘲するように笑みを浮かべるドグウェン。


 さて、ここまで、シリアッッスなお話を俺にしてもらえてはいるのだが、実のところを言うと、俺にはなんと言葉をかけたらいいのかわからないんだ。


 なんのために刀を振るっていたのかわからないドグウェンに対して、なんと言葉をかけていいのやらわからない俺、という『わからない』に「いやー、と言われましても、俺にもどうすればいいのかわからないんで……」的な反応になってしまっている俺はたぶん相当失礼なヤツなのだという自覚はある。


 でもさ? でもさ? アリーシアもドグウェンもバックボーンが……重いんだって……。ギャグ時空とか、もうどこかにすっ飛んでいったじゃん……。

 俺って、「異世界で『ニートライフ』を送って、ついでにハーレムを築いてやるぜぇ!? うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」みたいなノリで異世界で過ごしてきたのにさ、なんか思っていたのとちがう。


 これ、本当に『ニートライフ』?


 いや、まあ、俺が無職なのは事実だから、『ニートライフ』と言えば『ニートライフ』なんだけども。


 今のところ、タイトルとはちがって、運でなんとかなっていないような感じもあるが……やはり、改題するべきなのではないだろうか。


 どうなん?


 ……また、誰かに思考を乗っ取られているし。いい加減にせえ(ちょっと口調を変えてみる遊びをしてみた)。


 うん。まあ、遊んでいい状況じゃないので、話を戻そう。


 ひとまず、ドグウェンの話を聞いてみる。


「……すべて、聞いた。……なんでも、悪魔に魂を売った結果、『人殺しの魔女』と化したのだと。その悪魔っていうのは、なんだ?」


「俺も(この世界の人間じゃないから)あまりよく知らないが、ギルドにいたとき、悪魔は罪人の成れの果てだと聞いた」


 たしか、ジゼルかレウィンのどっちかから聞いたんだと思う。


「悪魔になった人間は、心臓が黒く光るんだとか」


「ハッ。黒く光るなんて、意味わからねえな」


「悪魔は、常人よりも力に秀で、嘘も巧みにつく。魂を差し出してきた人間には、気に入れば仲間にしてくれるそうだ。そうすれば邪悪な力を持ち、そして――邪悪な思想も芽生えてしまう。……でも、そういうのはたいてい、素が邪悪な人間が魂を差し出すものだから。思想に関しては、真偽は不明だろうな」


 トランプのカードをいじりながら、そう答える俺。


「気に入れば仲間にする、か。……気に入らなかったら、どうなるんだ?」


「殺されるだけなんじゃないかな。……でも、サリアさんは殺されずに『人殺しの魔女』……いや、悪魔になったんだ」


「……つーことは、だ。少なくとも、悪魔には気に入られちまったわけか」


「ああ。そのせいでアリーシアは悩むことになってしまうわけだけどね」


「……そのせい、じゃねえよ。悪魔に気に入られなかったとしても、殺されていた。なら、アリーシア……アイツにはどのみち不幸の道しかなかっただろう。……なんなら、それが原因でアイツが悪魔に魂を売る、なんて可能性もあったかもしれねえしな」


 ドグウェンはやるせない怒りを、拳を握って、誤魔化そうとしていた。


「……そうだな」


 俺には、何も言えなかったので、ドグウェンの言葉に頷くようにそう呟いた。


「……悪魔について俺が知っている情報は以上だよ」


「そうか。ありがとな」


 ドグウェンに感謝された。


「オレは、酒場に行けばだいたいいる。困ったときは、呼んでくれ。んじゃ」


 そう言って、ドグウェンが去ろうとする。


「お、おい! 待てよ、この刀、どうするんだ!?」


「やるよ。やはり、オレにはいらねえ」


 いやいやいや。そう言われても、ウチに置いていかれると、俺が困るんだが。

 俺、刀握れないし。


 というか、刀重すぎじゃね。あれ、重すぎじゃね?


 ふんぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ。……ふんぬぬぬぬぬぬぬぬぐぬぬぬぬぬぐなぬのぬのぬぬぬぬぬぬぬぬ。


 ……ん?


 ふぅ。せーの! ふんぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ。


 ……刀をドグウェンに返そうとしたのだが、なかなか持つことができない。


 ……え? 漫画とかアニメとかゲームとかだと、こんなのひょいひょい持っているイメージなんだけど?


 あれれ? おかしいな?


 もう一度、刀を持ち上げてみようとする。


 ぐぬおおおおおぉぉぉぉぉ! 上がれ上がれ上がれ、上がれぇ! ぶち上がれえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!


 ……ダメだ。びくともしない。


 おい、なんだ? なあ、ドグウェン? ウチにこれ、本当に置いていかれても困るから、ドグウェンが持っていってくれん? というか、持っていけ?


 ……クソ。舐めていたぜ。よくよく考えてみれば俺って、クソニート。何もしていない、クソニートで、そもそも素がモヤシボーイ。非力すぎて、ペットボトル一本持ち上げるのがやっとのレベルなんだ。

 こんなことなら、筋トレとかしときゃよかった。


 ……それで、マジでどうしよう。ドグウェン、本当に去っていっちゃったし。


 というかさっき俺、『そう言って、ドグウェンが去ろうと~』なんて実況解説風に思っていたけど、本当に去っちゃったから、『去ろうと~』になっていないんだけど? 去っちゃってんじゃん?


 つまり、俺がさっちゃんってことなのか(?)。


 つまりすぎて詰まっちゃってんだけどね。

 詰まっちゃっているというか、詰んじゃっているんだけどね?


 ……ねえ、本当にこれどうすればいいの?


 つまり、なんだ? 俺が『つまり』ばかり活用しているからつまりすぎてついでにトイレも詰まらせて、人生も詰まされて、バッドエンドって話?


 いや、というかそれで思い出したんだけど、ドグウェン、この間ウチのトイレ詰まらせやがったな!? 俺、もう大変だったんだからな!?


 くっそぉ、なんかいい話風感出して帰っていきやがって。

 クソッッッ。


 ……いや、これは親父ギャグではなく。たしかに、クソとトイレ詰まらせたことには少し関係性があるように思えるが、このクソはそっちのクソの意味ではないので。


 ……はぁ。『困ったときは、呼んでくれ』だ? んじゃ、今から呼びに行ってやろうかぁ!?


「……ぐーすぴぐーすぴ……パチンッ! ……んにゃ? うるさいですよ、幸太郎……」


 いつからいたのかわからないが、ソファの上で寝ていたアリーシアが目を覚まして、俺にそう言ってきた。


「ああ。起こしたな。気にしないでくれ。アリーシアのウェディングドレス姿を想像していた」


「殴られたいですか?」


 ……はいはい! 先生! もう殴られています! 俺、アリーシアに顔面思い切り殴られて――グボォアォフッ!


「アンタはそういうのが好きなんですか?」


「ああ、もちろん! ……あっ、い、いや! ち、ちがうぞ!? 決して、やましい意味はないんだ! け、決して、な!?」


「嘘つくの下手くそか」


 ペシンッ、とどこから取り出したのかわからないハリセンで、俺の頭をひっぱたくアリーシア。


「これが、ツンデレ……萌えるな」


「ちげぇますよ」


 またハリセンでひっぱたかれる。


 でも、これが愛情を込めた、ラブラブなそういう一撃だとするならば、これはその愛に応えるため、俺はハリセン攻撃もありがたく食らい、ニヤニヤするしかないだろうな。


 ああ、なるほど……これが、愛、か。


「気持ち悪いわ!」


 今度はハリセンじゃなくてビンタだった。


 ビンタは痛いからやめて! ビンタは一日一回まで、ってお母さんとの約束! ノービンタ・イエスラブ!


「うるさい、ゲス」


「あひゅほぉんッッッ!」


 ペチン、ペチン、と二発も食らってしまう。


 おかしい……。なぜ、二発もビンタを食らわなければならないのだろう。


 まさか、俺の愛が足りないのか?


 いや、まさか、まさか。そんな、まさか。

 少なくとも、俺とアリーシアは相思相愛と言っても過言ではないだろう。


 となると、なんだ? これが愛情表現ではないとなると、このビンタにはどういう意図が隠されている……?


「すべて間違っていますよ。私はアンタのこと……まあ嫌いではないですが、好きでは……たぶんないと思いますので。アンタの頭がハッピードリームしすぎてしまっているだけです」


 頭がハッピードリームって、どういう状態……?


「まあ、でも、なんですか? 感謝……はしていなくはないですよ」


「……ッ!?」


 デレ、だ! 萌えた! デレだ! アリーシアの貴重なデレシーンが見れた!? 明日は雪でも降るんじゃ……。


「なんですか、その反応は」


「……いや。やはり、アリーシアのウェディングドレス姿はいいな、って」


「まだ妄想していたんですか……」


 呆れたようにジト目で俺を見てくるアリーシア。それがとても愛くるしい。


「……ウサギの着ぐるみ」


「……ん?」


「……アンタがウサギ姿がかわいくて似合っている、なんて言っていたから、あんな出会い方したんですからね? ……満足しましたか」


 ……俺、そんなこと言ったっけ。


 というかそれって、本当に本当の初対面のときの話……?


 ……そんな話、したっけ。


 正直、あのときは依頼で村に行っていたというのもあるし、もう思い出したくもなかったから、あの少女――アリーシアに言っていたとしても、覚えちゃいない。


 でも、そんな何気ない発言を覚えていてくれて、俺の前に現れたのだとしたら、それは俺にとって嬉しいことだ。


「……フッ。愛しているぜ、アリーシア」


「ぶっ飛ばしますよ」


 もうぶっ飛ばされていますよ。


 先生! 俺の頬を高速でビンタしてきました、この人! 犯人はこの人です!


 ……といった感じで、アリーシアまわりのあれこれは、これにて終結するのであった(刀の話はどこいった)。

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