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10.自称渋谷系アイドル(?)は失いたくない相手のために奮闘する

「ゴロウ、ウメスケ、レウィン。相談が、ある!」


 三人はきょとんとした顔をした。


「……どうした? 職の斡旋か? 申し訳ないが、おれにはつてがないな……」


 と、ゴロウが。


「秘蔵本ならオイラの兄貴に貸しちゃったでやんすよ?」


 と、ウメスケが。


 ……というか、俺の秘蔵本を易々と他人に渡さないで。秘蔵本は『他人にはナイショ』だから『秘蔵本』と俺は名づけているわけで。


 って、話がややこしくなるから次!


「でも、ボクたちにもまだ登場できる余地があったんだね。てっきり、使い捨てにされてしまうと思っていたからさ……」


 と、レウィンが。


 ええい、メタい!

 登場できる余地とか言わないで。使い捨てにされてしまうとか言わないで。


 なんて思ったのだが、俺もときどき誰かの手によって思考が操られているときがあるので、強くは言えないのが実に歯がゆい。きっと、レウィンも誰かの手によって思考が操られているのかもしれない。


「相談したいのはよ……ゴロウやウメスケのそれじゃないんだ。俺が相談したいのは――お別れを告げてきた相手をどう引き止めるか、だ」


 ゴロウとウメスケが、俺の話を聞いて戦々恐々とした表情を浮かべ始めた。


「……まさか、お前――結婚詐欺にあったのか……!?」


 ……う、うーん。ゴロウ? たしかに、俺はそれに類似した詐欺に遭遇したばかりではあるのだが……いや、惜しいな、本当。


 むしろ、なんでそれ知っているの? まあ、偶然なんだろうけども。


 って、話が脱線しちゃうじゃないか。その話はいいんだよ!


 ……やめて? 思い返すと、悲しくなってくるから。


 たしかに、俺はリンネスに騙された。ああ、リンネスに騙されたさ。


 でもな、さっきの話で、どうしてその結論になるんだ。


 ……はっ!? ……そうか。おそらく、こういうことなのだろう。


 俺たちは非モテ(レウィン除く)である。

 そして、ゴロウは『お別れを告げてきた相手を引き止めるには』と聞いて、相手は『女性』だと勝手に思ったのだろう。


 彼女か? ……いや、同士の幸太郎に彼女なんてできるはずがねえ! それに、抜け駆けするのは許されねえ!


 ……という思考を経て、「なるほど、こいつは結婚詐欺に引っかかったんだな」と、結論を出したにちがいない。


 おい、待て。なぜ、俺が彼女できない前提なんだ。それは納得がいかない。


 一発、見せてやるか? いや、魅せてやるか(決して誤字ではない)? 俺のスーパーカリスマラブモテ番長力ってやつをよぅ!?


 待て待て。先走るな。ここは、クゥゥゥールッ、にいこう。


 そうだ。俺は渋谷系アイドルだ(?)。渋谷系アイドルは、このような釣り針が見え見えの罠なんかには引っかかったりしない(※諸説あります)。


 だから、クールに誘導してやるぜ。話の進むべき方向を、な。


「ちがう。結婚詐欺じゃない。それと俺は、五千人の女性から熱烈なアピールを受けているから、非モテじゃないぞ(絶対嘘)」


「……いいんだ。強がらなくて、いいんだぞ、幸太郎。五千人、という大きい数字を出してまで嘘をつかなくていいんだ。さあ、どんな甘い言葉に乗せられて騙されたのか、おれに話してみな……?」


「幸太郎、強く生きるでやんすよ……」


 ゴロウ、ウメスケ。結婚詐欺に遭遇したという前提で話を進めているじゃないか! だから、ちがーう!


 しかも、なんでかわいそうな人を見る目でこっちを見てくるんだ。


「まあ、真剣に考えるなら、本音をぶつけてみればいいんじゃねえの?」


「本音を……?」


「ああ。おれなら言うね。『愛しているよ、マイハニー』って」


「……ウワァ」


「ドン引きするなよ、幸太郎……」


 ゴロウに聞いたのが間違いだったのではないか、そんな風に思った俺である。


「じゃあ、モノやお金で引き止めてみるのはどうでやんすか!?」


「ダメだ、ウメスケ。今の俺は無職だ。それはできない。それに、モノやお金で引き止めるというのは……なんというか、欲にまみれすぎなんじゃないか?」


 そもそも、アリーシアのあの覚悟は、モノやお金で引き止められるような覚悟には見えなかった。


「大切な人なんだよね? それで、幸太郎はお別れしたくないと思っているわけだ」


「……レウィン! ……ああ、もちろんだ!」


「なら、ゴロウの言った通り、本音をぶつけるというか、本気で引き止めればいいんじゃないかな」


 とは言っても、俺はすでにアリーシアを本気で引き止めている。それでダメだったんだ。


「……相手がお別れを言ってきたのなら、それを尊重してあげる、というのもいいと思うけどね。ボクは」


 ボソッ、とレウィンが呟いた。


 ……所詮、これは俺のエゴでしかない。俺の、ただのわがままでしかないんだ。

 アリーシアを引き止めたとして、それはアリーシアのためになるのかはわからないし、ただ単に俺がアリーシアといっしょにいたいだけなんだ。

 くだらない話をして、バカみたいに笑って、何気ない日常が送れればいいだけ。


 ……でも、俺がアリーシアを引き止めなければ、くだらない話をしたり、バカみたいに笑い合ったりする相手が一人いなくなってしまう。失ってしまう。


 だけど、やはり、ただのわがままでしかないだろう。ただの同情でしかないだろう。同情されてもアリーシアにとっては迷惑でしかないかもしれないし、俺のわがままはクソ迷惑に感じるだろう。


 けれども、俺はダメ人間だし、自分勝手な性格であることは否定できない。それゆえに無職になってしまったわけだし。


 なら、いっそ開き直って、迷惑でもいいから死ぬのを覚悟している人間に『死なないでくれ。じゃないと俺が困る』と、伝えてみてもいいのではないだろうか。


 俺って、バカだから何もわかんねえんだ。


「……お前ら、『人殺しの魔女』って知らないか?」


 俺が聞くと、全員きょとんとした顔をした。


「いや、知らないならいいんだ」


 実際、俺も知らなかったから。

 アリーシアもドグウェンも、おそらくここからかなり離れた場所に故郷があるのだろう。


『ショフギォ』……。そういやあのとき、アリーシアは迷っていた。その要素だけでも、この辺りに住んでいる、もしくは住んでいた人間ではないのだとわかる。


 ドグウェンもあの体格だ。刀を使い、用意に玄関の扉を開けられたのも、本人の技量や力がある証拠だろう。そんな剣士がいたら、ギルドで名前くらいは聞いていたかもしれない。なのに、俺は知らなかった。つまり、ドグウェンも旅に出ていたりとかしていたのだろう。たしか、ドグウェンは『友を殺した憎き敵を探している』と言っていたはずだ。ドグウェンはおそらく、そういう旅に出ていた最中に、どこかから俺の話を聞いて、俺のところにやってきたのだろう。


 ……なんてこった。シリアスパートが、まじでドシリアスすぎる。温度差がひどすぎて、風邪引きそうなくらいだ。


「なんだか知らないけどよ、よっぽど深刻なんだな」


「ああ、ゴロウ。深刻も深刻さ。今晩のお味噌汁が長ねぎと豆腐とわかめのお味噌汁から油揚げとナスと里芋のお味噌汁にすり替えられてしまうくらい、深刻な問題なのさ」


「……なんか、全然深刻な問題じゃないように聞こえるが。それって、深刻なのか?」


「ああ!」


「単純に、お前、油揚げとナスと里芋が苦手なだけだろ」


「……バレたか。でも、それくらい深刻ってことだ」


 ゴロウがメガネをクイクイッ! とやって、「マジで何を言っているのかわからん」という顔をした。


「まあ、後悔しないようにやればいいんじゃないか? やらずに一生引き摺るよりは、やって一生引き摺ったほうがまだマシだろ?」


「たしかに、ゴロウ!」


 ……ん? それって、俺が引き摺ることはもう確定しているのか……?


「幸太郎が深刻なのはボクもよくわかったよ。一回、他の人にも相談してみるとかどうかな。例えば、ジゼルさんとか」


 ……えっ。……ジゼル?


「今、露骨に嫌な顔した?」


「してねえよ、レウィン」


 いや、だって俺、ギルドやめているんだぞ……? 他の人はともかくとして、ジゼルとは険悪な雰囲気な感じでさようならしたわけだし、会うのは避けたいところだったが。


 ……さて、ここでジゼルについておさらいしておこう。

 ジゼルとは俺、というかギルドに所属している人間全員の上司というか、社長的なポジションの人間である。


 俺が無職になってからはジゼルの出番は今のところ、一切ない。


 見た目は女勇者みたいな容姿と格好をしていて、ちょっと怖い。女勇者みたいな容姿と格好、というのは具体的には女性なのに腹筋がバキバキに割れていたり、額当てをしていたり、短い黒髪で男っぽーい見た目をしつつも胸は意外にそこそこ大きくて一応女性なんだなーというのがわかったり、謎にマント的なものを羽織っていたり……といった部分をまとめて俺はそう表現している。


 ジゼルは俺にクビを言い渡した人間で、内心、俺を嫌っていたはずだ。


 それでも、仕事だから、好き嫌いは言っていられないので俺がギルドにいたときは、仕方なーく俺をこき使っていたのだと思われる。


 ……そう考えると、ジゼルはよく俺のことをギルドメンバーとして採用したなと思う。

 普通、嫌っている人間を採用したいとは思わないはずだ。


 ジゼルは、その辺は考えずに真の実力主義の思考を持っている人間なのか、はたまた、初対面のときの第一印象は悪くなかったのにいっしょに仕事をしていく過程で俺を嫌いになっていったのか。


 ……まあ、どういう思考だったのかは知らないが、そういうギクシャクした関係性にある以上は、できるだけ俺はジゼルとは会いたくないと思っている。


 まあ、ジゼルに嫌われたのは、俺の自業自得ではあるんだろうけれども。


「今、伝書鳩を送ってジゼルさんに連絡しておこうか? 幸太郎が相談がある、って」


「う、うーん……レウィン。気持ちはありがたいんだけど、うーん……」


「あ、ごめん。もう書いて、伝書鳩送っちゃった」


 アクション早いな、おい!


 というか、ペンは? 紙は? インクは? いつ用意した? いつ「幸太郎がご相談したいことがあるそうで~」的な文面を書いた!?


 ……恐ろしい。これが、ギャグ時空……というやつなのか。


「さあ、行ってらっしゃい!」


「さあ、行ってらっしゃい!」じゃないぞ、レウィン!


 ……というわけで、俺はため息を吐きながらジゼルのもとへ向かうのであった。

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