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1.ヒャャッッッハアァァァァァッッッ! クビになっちまったぜ、俺!

 場末の酒場。俺は床に膝をつけ、わなわなと震えていた。


「お前はクビだ! 来咲幸太郎!」


 いかにも女勇者っぽい容姿と格好をしたヤツが怒ったような声で俺にそう言ってきた。


 こいつはジゼル。俺の所属している冒険者ギルドの長である。


「えっ、俺、クビ? それ、本当? 本当なの、ジゼル」


「ああ、クビだ!」


「よっっっっっっっっっっっっっっっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!」


 ようやく辞めることができるのだと理解した俺は、スッ、と立ち上がり、全力でガッツポーズをして、ついでにブリッジまで披露してやった。


 どうだ、俺のこの完璧なブリッジは。見事なものだろう。


 この状態のまま、俺は足をワキワキと動かし、酒場の出口まで向かおうとする。


「お、おい!? ちょっと待て! というか、気持ち悪いな!?」


 ジゼルの声は俺の耳には入らない。


 やった。やった。やったぁ! 俺、ようやく辞められるんだ!


 思えば散々だった。


 俺は元々、日本で高校生をやっていた。

 父と母と姉と妹の五人家族。普通の家族で、俺も(たぶん)普通の人間だ。


 ところがある日、目を覚ますと、なぜか俺は異世界転移してしまっていた。


 女神様らしき存在が俺の前に現れて、「これがあなたの素質よ!」とだけ言って勝手に去っていきやがったのだが、いつの間にか俺の手にはトランプのカードが握られていたのである。そこで、俺は『カード魔術』という素質があるのだと理解した。


 しかし、なんの説明もなく勝手に異世界転移させられてしまったのだから、何をすればいいのかわからない。


 困り果てた俺は、とりあえず情報収集をするために街を探していたのだが、まあ、なんやかんやあって街を見つけて冒険者ギルドに加入したわけである。


 だが、失敗した。加入しなければよかった。

 当然、現代日本から来た俺は、異世界のことをまるで知らないわけだ。そのため、ギルドで何をすればいいのかわからない。そもそも、雑用すらできない。何もできない、ダメダメのダメ人間であることを自覚してしまう。

 そんな俺を見て、ジゼルは毎回舌打ちをしてきたり、俺が誰かと話そうとするたびに邪魔をしてきたり、蹴っ飛ばしてきたりするのである。


 もう、うんざりだったので、毎日「明日、辞めてやる!」と思っていたのだ。


 でも、内心は「明日から本気出す!」、みたいな感じで、「辞めたら辞めたでどうするんだ? 面倒じゃね?」と思っていて、辞められずにいたのだ。


 だが、「辞めろ!」というのであれば仕方がない。そう、これは仕方がないこと。


 辞めてやろう! そして、俺は異世界ニートライフを満喫するぞ!


「明日から俺は無職だが、運さえあればなんでもできると証明してやるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっ!」


 フッ。決まった。タイトル回収も完璧だ。


「うるさい。迷惑だろうが」


 ジゼルに冷静に怒られた。それはその通りだと思う。


「たしかにお前はクビだが、クビになるにもな、書類を書いたり、身のまわりの整理を行ったり、いろいろとやってから出ていくものなんだぞ」


「へ?」


 そうだったのか。

 入るのも出るのも、なんて面倒くさいんだ。


「とにかく、お前の今後のことだが、まずこちらでお前に支給したものは返してもらう。それから、ギルドを辞めたことを証明するための書類を書いて提出すること。そして、お前が世話になった相手にはちゃんと別れの言葉と礼を言うんだぞ? いいな? それでやっと、出ていけるものなんだ」


「わ、わかった」


 ……まずい。めっちゃ正論を言われた。正論というか、まともなことを言われてしまった。

 これでは、本当に俺がダメ人間みたいではないか。


 まさか、俺って、ダメ人間なのか?


 いやいや。いや、いや、いやいやいやいやいや。ダメ人間ではないと、思っていたい。


 そうさ。ポジティブにいこう。せっかく無職になるんだ。異世界に来て、毎日が忙しくて結構疲れていたんだ。しばらくはゆっくりしようと思う。タイトルでも『ニートライフ』って言っているんだし。


 そうさ。よし。ポジティブなマインドでニートスローライフをハッピーエンジョイするしかねえ!


「よっっっっっっっっっっっっっっしゃあぁぁぁぁぁっっっっっ! うおおおおおぉぉぉぉぉやるぜえぇぇぇ!」


「うるさい。わかったら、静かに酒場から出ていけ」


「アッ、ハイ」


 こうして、俺は無職になったのである。

 俺の華々しいニートライフが、これから始まる――。

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