58話:ダーリエフェルトの王3
今回の件は、王弟の思惑と四男王の思惑に挟まれた、イェーデシュタン侯爵と大臣が躍ったということなんだろう。
王弟からすれば、イェーデシュタン侯爵の逃亡は織り込み済みで、軍も動けるよう用意してた。
ただ予定になかったのは、ダーリエフェルトの大臣が軍を進めたこと、そしてそれを待っていたかのように後ろから襲った四男王の存在。
「…………これ、絶対違うよな」
ゲームにこんな流れ、なかったはずだ。
何せ王弟が生きてる時点で、たぶんゲームとは違う。
狩猟大会でユリウスとロイエという紋章持ち二人が魔人を撃退しなければ、王弟は奮戦虚しく亡くなっていただろう。
そうなると、こうしてイェーデシュタン侯爵を追い込む動きは実現しない。
四男王もこっちが対処しなければ動けない網の張り方してるから、上手くいきっこなかったはずの軍事行動だ。
「いや、それとも講和の話自体は前からあったみたいだし、先に滅んだせいか?」
ゲーム開始で滅びるこの国に、講和の仲介なんて無理な話だろう。
さらには四男王も、ゲームで勇者がダーリエフェルトに入った時には死んでいた。
もちろん犯人はウルリカとゾイフという、ダーリエフェルトの魔人の手によって。
ゲームでダーリエフェルトを訪れた時には、すでにウルリカが反乱していて、その理由は悪王による暴政。
これをしていたのが四男王の息子で、ゲームだと苦しむNPCが苦境を訴えるって演出だけだったけど、今思うとあれ、密告制度や奴隷制を敷いて民を虐げてたんだよな。
ウルリカは反乱軍を率いる立場で、ゲームの勇者と聖女は、悪王のほうから助けてほしければ反乱を止めろと無茶振りされることになるんだ。
「あれ、あの悪王、どうなったけ?」
うろ覚えなせいで、最後の戦いで巨大ボス化したウルリカと戦うことしか覚えてない。
あとウルリカは後から仲間になってストーリー中でも背景語られるから、けっこう覚えてるんだよな。
ダーリエフェルトをクリアした後、妃が国の政治取って勇者たちに次の行動指示してたから、悪王は死んでたと思うけど、誰に殺されたんだったか。
「悪王って、なんの話?」
「うぉ、ユリウス」
考えながら歩いてて、目的地近いこと見落としていた。
俺は実家の騎士団のゾンケンたちの下へと声をかけに行った後、さらにユリウスの下へ向かってる途中。
どうやら近づく俺に気づいてユリウスがやって来たらしい。
「あぁ、いや。昔読んだ物語思い出してな。結末は覚えてるけど、その途中忘れてるなぁって」
「へぇ、昔って子供の頃? 本なんて読むんだ?」
「あぁ、貴族屋敷って大抵図書室あるから。そこにその時の流行の物語とかも混じってる」
「家に図書室?」
農民のユリウスには想像できないようだ。
前世の俺からしても、本棚はあっても図書室となると規模が違うし驚きもわかる。
「まぁ、物語は少数だ。先祖からの家の記録がどーんとシリーズで並んでるんだよ。後は親戚の誰かが関わった書籍とか、褒章されるようなことした様子を記録した本とか」
「あ、もしかして戦記があったりする?」
「なんだ、何処かで戦記もの読んだのか? 一国を興した過去の英雄とかは派手で、劇にもなってるから、古語で書かれたような戦記読むよりも観たほうがわかりやすいぞ」
「そんな難しいのは俺、まだ読めないよ。エドガーが、あ、いや…………」
なんでエドガーと戦記の話したことを言い淀むんだ?
それはそれで気になるけど、視線を向けてもユリウスは目を泳がせるだけ。
これはエドガーに何か口止めされてるな。
あれか、ベッドの上で暇だから長編の古典戦記でも読破したみたいな話でも手紙でやり取りしたのか?
そういう話なら、俺のほうが話し合うと思うだが。
いや、言ってもしょうがないし負担になりたいわけでもないんだ。
今は置いておこう。
「こっち来たのは、ちょっと四男王の動向についてわかったことあるから伝えにな」
「四男王?」
あ、そこからか。
村から出ることもないはずのユリウスからすれば、隣国の国王のあだ名なんて知るわけない。
そう思ったら別のところから答えが来た。
「ダーリエフェルトの国王は、先王の四男で、教育もされてなければ権力地盤もなかった出来損ない。だから王太子でも、スペアの次男でも、さらにそのスペアの三男でもなんでもない四男の王って言われるのよ」
「ウルリカ」
実際そういう意味合いだけど、悪意がすごい。
ウルリカならしょうがないけど、その気配はとても刺々しかった。
ユリウスも感じてるらしく、俺に向かって声を小さくする。
「隣の国の王さまが出て来たって聞いてから、あんな感じで」
こそこそ話す俺たちをひと睨みすると、ウルリカは要求するように俺に指を振る。
「で、四男王が何?」
「あ、あぁ…………。向こうの狙いは、停戦中のナイトシュタインとの講和の仲介を頼むためだろうって話が出た」
ウルリカの恨みはダーリエフェルトという国ではなく、あくまで騙し討ちをした王に対して。
だから平気かと思ったんだが、言った途端、ウルリカの表情は険しくなる。
口元からは何か固いものが削れるような音がした。
つまり、奥歯ヤバいくらい噛み締めてる?
「なるほど、なるほど。して、貴国は乗る気ですかな?」
黙ってたゾイフがにこやかに笑いながらも、声には誤魔化しを許さない鋭さを潜ませていた。
「…………交渉の余地はある。向こうの大臣がやってた汚職とは言え、侯爵なんて大物が噛んでたんだ。お互いの国に所属する罪人だけ罰しましょう、なんて話で収まるもんでもない」
ゾイフは予想してたように頷く。
けどウルリカは盛大に舌打ちを吐いた。
「あいつら追い出すために戦うかもと思ってたけど、腰抜けめ」
「おい」
「もう護衛もいらないでしょ。だったらあたしは休むわ」
俺が声をかけるが、ウルリカは悪態をついて去っていく。
ゾイフも続いて足を動かし、何も言わない。
去る二人に、ユリウスは困惑して俺に確認してきた。
「ずっと殺気立ってたけど。ダーリエフェルトの軍と戦う気だったからなのかな?」
「まぁ、それだけじゃないんだが…………」
「何か理由があるんだね?」
これは言っていいのか?
すでにゲームから外れてるけど、教皇の未来視による忠告も気になる。
これは境を越えることになるのか?
「…………ここでする話じゃない」
「だったら、ルルの所は?」
「気になるのか?」
「うん、ウルリカがとても辛そうだから。何かできることがあるならしたいなって」
ユリウスは真っ直ぐに他人を思いやる。
そう言えばゲームでも、お人好しで事件に巻き込まれてた。
困ってる人助けるのは当たり前って、ルイーゼと一緒に問題に突っ込んでいくんだ。
それをちょっとやさぐれた元敵のウルリカが相手を見定め、結局一緒になって弱いほうを助ける。
そして一番冷静な男魔法使いがフォローに回る。
そんなストーリーだった。
ゲームでボス戦後に仲間になるウルリカを受け入れたのも、ウルリカが弱っていたから。
たった一人の仲間だったゾイフが死んで、孤独に行き場を失くした姿に勇者が手を差し伸べたんだ。
「まぁ、アーレント。あら、ユリウスも。ウルリカは一緒ではないのかしら?」
ルイーゼと会って聞かれた言葉に、ユリウスはさっきあったことを話す。
ゾイフと共に休むと去ったことを聞いて、ルイーゼは俺に目を向けた。
「ウルリカは没落貴族とのこと。つまり没落に、ダーリエフェルトの王が関わっているのでしょうか?」
「え、そうなの?」
思い至ってなかったユリウスに、俺はルイーゼに応えつつ説明を口にする。
「出会いは偶然です。しかし妙な組み合わせで観察していました。結果、かつての公爵の縁者であると察し、ダーリエフェルトに戻るというので、足止めを画策していました」
「ダーリエフェルトでことを起すと思っていたのですね?」
「それができるだけの力があるように思えましたから」
「…………私も漏れ聞いた話ですが、公爵には私と同じ年齢の孫娘がおり、その方は消息不明であると」
完全にそれ、国外までゾイフに逃がされたウルリカだな。
そう思ってたら、ユリウスがウルリカが去った方向に顔を向けた。
「あれ、それでダーリエフェルトの王と戦うつもりでいたウルリカ、戦わないなら何をする気なんだろう? 休むにしては緊張が高まってたんだけ…………」
言われて、俺とルイーゼは息を呑んだ。
そうして二人揃ってすぐに動く。
勢い込んで王女の使う部屋を出たけど、俺は行き先がわからないからルイーゼに続く形になった。
ユリウスも驚いてついて来る。
そしてルイーゼは、あまり離れていない部屋の扉を自ら開いた。
そこは無人の寝室で、誰か使った形跡はない。
そして開け放たれた窓から入る風が、雨戸を軋ませていた。
近づけば、窓の縁には乱暴に超えただろう靴底の跡。
無人のこの部屋は、ウルリカに割り振られた寝室であるはずだった。
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