57話:ダーリエフェルトの王2
突然現れたダーリエフェルトの二つ目の軍。
援軍かと思ったら、何故か先に来てたダーリエフェルトの大臣のものだろう軍を攻撃。
国境近くとは言え、他国で同国の軍同士が争い始めていた。
「…………と、ともかく! 避難を優先! 逃げてくるようなダーリエフェルトの兵がいたら捕まえろ!」
俺は周囲に指示を出し、同時に屋根の上へ移動する。
自分の目で確かめると、確かに同じ兵装の軍が二つぶつかってる。
「戦況はどのようになっていますか、アーレント」
「王女殿下、お手を」
俺は屋根の上に上がってきたルイーゼに手を貸した。
本当なら止めるもんだろうけど、ゲームのイメージもあるから、まぁ、いいかと。
「先に攻めて来ていた軍は急襲を受けた形になっており、隊列が崩れ始めています」
言ってる間にも、ダーリエフェルトの王の旗印を立てた軍の先鋒が、切り込むように進んでいる。
「クラレンツ公は、退いているようですね?」
「あれは、状況確認と、改めて攻めに転じるためでしょう」
ルイーゼが言うとおり、王弟の軍は突発的な状況に対処するため一度退いてた。
敵が増えたと思えば当たり前だけど、退く兵が並び直してる様子から、退くだけじゃないのもわかる。
同時に、背後からの急襲で慌てるダーリエフェルトの大臣の軍は、退くように見える王弟の軍に背を向け始めていた。
まぁ、自分が殴るようにしてた相手が退いたなら、別方向から自分を殴ってきてる側を見るのは当たり前だ。
けどそれは、殴ってたはずの王弟の軍に隙を見せることになる。
殴ってた相手に隙を見せれば殴り返されるのは当たり前だ。
元から退く時に噛みつこうと狙ってたんだから、王弟が見逃すはずもない。
「我々は予定どおり避難を続けます。逃げた兵が近隣の住民に紛れ込む可能性もあるので速やかに」
そうさせないためには、さっさと住民自体を安全な場所に集めたほうがいい。
王女であるルイーゼにも賛同をもらい、俺たちは戦況を気にしつつ、避難誘導を急いだ。
その間に略奪目的の兵を捕まえたり、逃亡してる兵を捕まえたり。
そんな攻防は日暮れまで続き、ほぼ二徹目に突入。
けどそんな状態は俺だけじゃなく、周りも同じ。
そして俺より上の人たちはさらに神経張り詰めてるはずだ。
「先生」
「アーレント」
避難誘導が終わって戻り、報告なんかをした後、レルナー先生を見つけて声をかけた。
振り返っただけでまるで睨まれてるような目つきの鋭さ。
まだ忙しくピリピリした雰囲気はあるが、俺も状況を確認したい。
遠目に、大臣軍だろう相手を挟み撃ちの形で囲んだのは見た。
けど今は後から来たほうのダーリエフェルトの軍とは、対峙するような形で陣を張ったまま。
「戦況がどうなっているのか、お聞きしても?」
「新手が現れたのは聞いていますか? あれが、本当のダーリエフェルトの正規軍でした」
「国王の旗を掲げているのは見ましたが、まさか…………?」
「親征です」
先生に断言されて俺は息を呑む。
親征とはつまり、将軍に指揮権与えて派遣したんじゃなく、国王本人が軍を率いるってことだ。
「国王自身が出てきて、まさか侵攻ですか?」
「いや、国内で軍を私用する罪人を捕縛し、私用される軍を回収するためとのことです」
「それが軍で国境を侵した言い訳になると?」
「なりませんよ。国境の侵犯は確定的です。その上で、国境を越えて軍を動かしたことについては一応の謝罪はありました」
先生は現状を手短に伝えて、俺に聞いた。
「四男王についてどれくらい知っていますか? 今までと違った動きです」
ダーリエフェルトの今の国王は、四男王と揶揄される。
そのまま、先王の四男として生まれた王子が、なんの準備もなく即位してしまったからだ。
臣下に好き放題されて、国王としての力不足が即位直後からの実態。
そのために今回の大臣の独断による軍事行動を許してしまった。
そんなことをされてしまう程度の王だからこそ、四男王と呼ばれる。
それが大抵の人の認識だ。
けど先生はそんな四男王が今までと違うという。
「今回、罪人として軍を私用したのは、あちらの大臣であり、すでに身柄はダーリエフェルトが捕縛しています」
「つまり、イェーデシュタン侯爵と通じてた相手は…………」
言われて思い出すのは、斬り込むように動いていた先鋒。
あれは、もしかしたら確実に自国の要人を隣国に奪われないための動きだったのか。
「四男王って、そんな軍とか思うとおりに動かせる人でしたか?」
「いいえ。佞臣奸臣に囲まれて、ただ頷くだけの王であるように仕込まれたはずでした」
それ、ただのお飾りって言うよりひどくないか?
先生は気にせず続ける。
「それが、大臣の思い上がった独断とは言え、自ら軍を率いて制圧に出た。その上、大臣の身柄を押さえた上でこちらに謝罪と交渉を持ちかけています。今までの気弱さが嘘のようではないですか」
考えるように言う先生は、ダーリエフェルトの王が今までにない動きをしたことに気を尖らせているらしい。
俺に話すことで整理しようとする様子が見えた。
「大臣の身柄の引き渡し交渉を持ちかけているのも、なんの裏があるのか」
「え、でも向こうがすでに捕縛してるんですよね?」
普通、自国の人間だから返せというのが身柄の引き渡し交渉だ。
けれど今回は、ダーリエフェルトが国境を越えてまで確保してる。
なのに何故か、向こうから大臣の身柄の扱いについての交渉が持ちかけられてるという。
それは確かに先生たちも何が狙いか悩むだろう。
「理由はどうあれ、交渉の場が欲しかったとなれば…………」
「何か、ダーリエフェルトと交渉するような懸案があるんですか?」
俺は知らないからこそ、基本的な政治姿勢を先生に聞く。
「いや、ナイトシュタインとの争いで、こちらを気にする余裕もなかったはず。我が国も中立を保っていたので、交渉ごとは今のところありません」
「では、交渉に持ち込む前段階でしょうか。ナイトシュタインとの停戦の間に、我が国を味方に引き込みたいということは?」
ナイトシュタインは今、若くとも紋章持ちの王がいる。
紋章持ちの王というのはこの周辺では吉兆であり、尊ばれるんだ。
未だに四男王と揶揄されるダーリエフェルトの王からすれば、人望の時点で月とすっぽん。
「勇者が現れたことで、か」
先生が言うとおり、こっちは聖女がいて、一年前には勇者が見つかってる。
紋章持ちが二人もいるのは、国として誇れる部分だ。
紋章持ちの王を敵に回すなら、味方に紋章持ちがほしいというのもわかる。
「もちろん、現状からどう持っていくかわかりませんが」
俺が言うと先生も悩む。
「そもそも四男王がこれほどの果断を行えるとは誰も思わずにいました。というか、ナイトシュタインとの戦いでも親征を行っても負けた数のほうが多い」
あんまり戦いは得意じゃないようだ。
けど今回は、狙いの大臣を捕まえて、交渉持ちかけるという主導的なことをしてる。
「ブレイン役ができたということは?」
「そんな話は聞きません」
「以前からの懸案がないのであれば、最近の変化かと思ったんですが」
「以前からの? …………まさか、一度断られた案件? 講和か」
先生に思い当たることがあったようだ。
聞けば、停船になった後から、ナイトシュタインとの講和を取り持つ役を担ってほしいという提案がダーリエフェルト側からあったらしい。
ただそうして労を割いても我が国に益はない。
交戦が続いてて悪化しかしないというならありだったけど、停船した後なら当事者同士で苦労しろというのが本音だろう。
「そもそも四男王では、人望がなさすぎる。若い王が立った今のナイトシュタインなら攻め落とせるという好戦派も…………。そうか。今回罪人になった大臣は、好戦派だ」
俺に話す内に、先生が気づいて視線を上げる。
考えをまとめたらしく頷くと、俺の肩を叩いた。
武官っていう軍の事務系のはずが、その手は確かに硬く、従軍するための訓練を怠っていないのが感じられる。
「臨機応変はできずとも、網を張って捕まえるならできることもあるようですね。何より、我が国の中であれば、余計な悪臣の声もない。あまり腰を据えられてもこちらが困る。話を聞くことにはなるでしょう。そしてそれがあちらの狙い」
「これ以上無駄な争いはないと思っても?」
「いくらか逃げた兵がいます。馬で追い回すこともあるでしょう。今は休みなさい」
どうやら残党狩りがあれば、俺は人手として馬に乗ることになるらしい。
だったら、言われたとおり今は休もう。
「っと、その前に。ゾンケンたちの様子見て、ユリウスたちにも声をかけるか」
休むべきだとは思うが、二徹目の高揚感から、ここで素直に休むほうに頭が働かない。
俺は確かに疲れを感じながらも、先生と別れて足を延ばすことにした。
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