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50話:予定変更5

「どういうこと? そちらが王女さま、こちらが勇者さま。そして? ダーリエフェルトがこちらの国の侯爵さまとなんの関係が?」


 ウルリカは普段にない圧を出して問いただす。

 いつも圧かけてくるゾイフは、大人しくウルリカの後ろに従う形だ。


 兵はともかく仕事するよう返すと、途端に容赦なく詰め寄ってきた。

 俺はともかく会ったばかりのユリウスとルイーゼに対しても気遣いはないので、俺は手早く紹介をする。


「こちら、ダーリエフェルトの没落貴族のご令嬢だそうで。近々ダーリエフェルトに帰国予定だったところだ」


 で、実際に事情知ってるのは王弟から聞いただろうルイーゼだけだから、ダーリエフェルトの関係者と知ってもユリウスはまだわからない顔をする。


 そのルイーゼが俺に確認してきた。


「イェーデシュタン侯爵の捕縛は失敗いたしました。今伝えても問題はないのでは?」

「そういうことではありません。我が国の不始末を広めるようなことはなさらないほうが」

「何? ダーリエフェルトに関係した犯罪したの? 侯爵が?」


 ウルリカは誤魔化しを許さない様子でずいずい来る。

 俺としては言いたくない内容だ。

 何せ、将来的に復讐から反乱を起こす相手。

 その時に汚職の話なんて利用されるに決まってる。


 これで解決済みって突っぱねられるならいいけど、どうしてかイェーデシュタン侯爵は逃げた。

 なんか、動きからして王弟が何かしてそうだし。

 なんなら俺とルイーゼは実際の捕縛時期は、もっと後だと聞いてたのにすでに動いてるとなると、また何か企んでる気もするし。

 解決のめどはたっていない状況で、禍根を残したくはない。


「ねぇ、どうしてその侯爵は逃げられたの? 悪いことしたのはばれてるんでしょ?」


 ユリウスがわからないなりに聞こえた話を考えて、質問して来る。

 ただそれに答えたのは事情を知らないはずのゾイフだった。


「王女殿下がご存じであり、他国が関わるとなれば相応の重罪。慎重に捕縛に動いたはずが、何処ぞより漏れたのでしょうな」


 知者ってキャラをこんなところで発揮しないでほしい。

 さりげなく内部からの漏洩匂わされて、こちらの不手際と知ったウルリカの眉間は険しくなる。

 頼むから、何か狙ってわざと王弟がイェーデシュタン侯爵逃がしたなんて裏側はなしにしてくれ。


「ルル、この場であなたの言葉を遮る者はいないわ。話していいと思うなら聞かせなさい。この国の者が、ダーリエフェルトに害をなすの?」


 ウルリカは復讐を心から望んでいた。

 けれど復讐に走った末に国が乱れたことに関しては、ウルリカも思うところがあるとゲームでは描かれている。

 もちろん負けて冷静になった後だが、それでも故郷に思うところは今も同じらしい。


 その思いを感じ取ったルイーゼは、贖罪でもするように手短に答えた。

 下位の俺は、王女の発言を止めることはできない。

 というか、ゲームでも一番正義感が強かったのは聖女だ。

 ここで応えないわけがない。


「ダーリエフェルトの方と通じ、悪事を行っている可能性が高いのです」

「その悪事の害は、貴国とダーリエフェルト、どちらにありましょうや?」


 ゾイフの言葉にルイーゼは答えを躊躇する。

 それでゾイフには答えになったようだ。


「なるほど。ダーリエフェルトに害ある事案であると。それは国民として見過ごせませぬな」


 真っ当なこと言ってるようで、そこには確かな脅しがある。

 なんてことしてくれてんだ、落とし前はつけてくれるんだろうなと。

 なんかヤクザ者っぽいが、間違ってない気がする。


「いいわ、そっちが逃がしたと言うなら、こっちで捕まえる」

「おい、勝手なことをするな。それに相手は侯爵だ。身分のない者がやっても逆に捕まることになるぞ」


 俺はウルリカを止めるが、返される視線は冷たい。

 これ、相手を捕まえた後、どうするか不安しかないな。


 考えてみれば、今いるダーリエフェルトの国王以下の高位貴族は、ウルリカの復讐対象。

 それと繋がってるイェーデシュタン侯爵潰しても、なんの呵責もないだろう。

 どころか悪事をしてダーリエフェルトで仇がいい思いをしてるなら、正当な復讐の一環とでも言いだしそうだ。


「おい、そこでどうしたんだ? 戻らないのか?」

「ドミニク」


 俺たちが言い合ってる内にドミニクが合流してきた。

 気が立った様子のウルリカに気づいて、ドミニクは俺に囁く。


「どれがばれた?」

「身元と、イェーデシュタン侯爵。逃げたらしい」


 ルイーゼの身元と、ダーリエフェルト関係の汚職だと手短に告げる。

 ウルリカは作り笑いで応じた。


「お気になさらず。そもそもあたしたちはダーリエフェルトに向かう旅人。途中で罪人を見つけたら相応にお話を聞くだけよ」

「今はやめたほうがいい」


 冷静に止めるドミニクは、さらに続けた。


「途中商会の者に会って、ダーリエフェルト側の国境に軍が向かってるらしいと情報を聞いた。今ダーリエフェルトに向かうとあらぬ騒動に巻き込まれるぞ」

「軍? いったいどうして?」


 俺に、各地にいる商人たちからの情報を持つドミニクが応じる。


「イェーデシュタン侯爵の逃亡と無関係ではないと思うんだが」

「いや、関係あるほうがおかしいだろう。だって、いったいいつ情報が漏れた?」


 俺の指摘にドミニクも考え込む。

 園遊会で調べが入って、その後に御前会議で決定した今回の捕縛。

 それから俺はウルリカに予定変更を告げての今だ。

 イェーデシュタン侯爵が捕縛されるかもしれないと漏れたとして、ダーリエフェルト軍が動くには早すぎる。


 誰も答えが出ない中、ウルリカは鼻で笑った。


「何がおかしいのよ? 侯爵はダーリエフェルトの誰かと内通していたんでしょう? だったら助けを求めてもおかしくはないわ」

「いえ、早すぎるのです。軍を立てて国境まで移動するなど、イェーデシュタン侯爵が捕まることを知っていなければ、早すぎる」


 ルイーゼもただイェーデシュタン侯爵に情報を漏らすだけでは、早すぎるという結論にいたる。

 ユリウスはついて行けない割に、核心を口にする。


「さっき言ってた、誰かが漏らしたとかじゃないの?」

「だとしたら、相当王弟殿下に近い位置の者になるんだ」


 最初から捕まえる気があって、狩猟大会の件で拘束だけなら確実にできた王弟。

 早すぎる動きは、その王弟の意志を知っていてこその内通の動きということになる。


「ふん、やっぱりそっちの国の手は期待しないほうがいいみたいね」

「待て、ウルリカ。危険だ。隣国が軍を動かした。だったら、こっちも軍を動かして構えなけりゃいけない事態だ。そんなところに無闇に突っ込むな」

「見逃すって言うの? ずいぶん大胆ね」


 言葉の裏に臆病者という罵り文句を感じる。


 ただそれにユリウスが口を挟んだ。


「ウルリカは、悪事をした人が逃げたのが許せないってことでいい? だったら俺たちと一緒に動こう。そうすれば少しは危険も少ないし、二人だけより情報も早いよ」

「まぁ、それはよろしいわ」


 俺が止める前にルイーゼが賛同してしまい、ドミニクも唖然とする。


 その間にルイーゼは、ぐいぐいと首を突っ込む言い訳を口にした。


「知ってしまったからには見逃せませんもの。私もできることがあるでしょうから。すぐにクラレンツ公に申し出ます」

「は、え? お姫さまなんでしょ、ルル?」

「これでも、巡礼の旅もしましたので、魔物相手にも応戦できるのですよ」

「え、すごいね。だったら心強いや」


 止めようとしたユリウスは、素直すぎて簡単に懐柔されてしまった。

 いっそウルリカのほうが、王女が応戦できると明言した事態に唖然としてる。


 確かにゲームでは、ルイーゼは最初の仲間だ。

 能力的にはサポートキャラだけど、人員が少ない時点での仲間だから戦闘ができないわけじゃない。

 そしてウルリカもまた、ゲームでの初期メンバー。

 正直、前衛も中衛もできるユリウスと、前衛物理のウルリカ、そしてサポート兼回復のルイーゼは噛み合わせがいい。

 いいんだが、不安しかない。


「…………あの、止めることは?」


 俺は黙ってるゾイフに応援を求めた。


「ウルリカが決めることですので」


 だが、イエスマンは変わらず。

 つまり、ウルリカがユリウスと同行すると言えば止めないと。

 そうなれば暴走は減らせそうだし、ルイーゼもそこら辺の懸念もあって言い出したのはなんとなく察せる。


 敵キャラ放っておくほうが不安だし、だったらこれはもう流れに乗るしかない。


「ドミニク、詳しい国境の情報を商会で集め直してくれ。王女殿下は周辺の兵と共に城へお戻りください。ユリウスはウルリカとお互いの連携について確認してくれ。俺は指揮を取られるだろう王弟殿下にご報告に向かう」


 今後、勝手に動かれないよう先に指示を出した。

 ユリウスが頷いたことで、つられてウルリカも頷く。

 お蔭でゾイフが黙ってくれたので、急場しのぎにはなったようだった。


定期更新

次回:王弟の出陣1

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