49話:予定変更4
「だめ、です」
「そんな意地悪をおっしゃらないで」
俺は何故か王女殿下相手に、きっぱりとお断りを口にしなければいけなくなった。
だが間違ったことは言ってない。
街歩きしたいなんて、護衛も連れてない王女が何言ってるんだ。
しかも王女ってことも隠してるし、ここは見つけてしまったからには送り届けないとこっちが困る。
市井のお菓子を食べに行くなんて止めるに決まってるだろ。
なんか、ゲームが現実になるとこんなままならないもんなのか。
いや、ゲームだと国が滅んでしまった王女だから、ルイーゼが王女として遇されることなんてほぼなかったのか。
そしてそれで誰も困らなかった。
けど今は、この国も王族もみんなご健在。
そんな王女を市井で連れ回したなんて、最悪俺の首が飛ぶ。
うん、困る人いる、俺と俺の家族だ。
「送っていくって言うなら、途中で寄ってあげればいいでしょ。けち臭いわね」
関係ないからこそ、気楽なウルリカが余計なことを言う。
いや、これはおこぼれ狙いかもしれない。
なんにしてもこの短時間で、随分ルイーゼの肩を持つようになったじゃないか。
「あんたも、何か言ってあげたら?」
ウルリカに肩を突かれたユリウスは、俺を見て、止めないドミニクも見る。
「多分、早く帰ったほうがいい理由があると思うんだ。だからルル。いじわるじゃなくて、そのほうがいいっていう善意だよ」
「えぇ、それはわかっています」
さすがに本物の善意百パーセントのユリウスに言われて、ルイーゼも諦めたらしい。
なんだ、俺だって王女としての体面を重視はしたが、善意はあったぞ。
まぁ、半分保身なんだけど。
だって、絶対俺まだ王弟に見張られてるし、この状況で見ないふりだとか、連れ回しなんてできるわけがない。
「すまないが、今日はこのまま帰って…………」
「こちらにも誠意が欲しいところですが?」
「あ、そうだ! なんで延期なのか聞いてない」
逃げようとしたらゾイフが止め、それにつられてウルリカも思い出してしまう。
そう言えば、予定変更っていう話の途中だったんだよな。
くそ、このまま有耶無耶に次を約束できてれば。
ユリウスはわからない顔だが、ルイーゼはさすがに王女。
しかも王弟からイェーデシュタン侯爵のこと聞いてるから、何かしら察したらしい。
フォローに入ってくれた。
「まぁ、ごめんなさい。きっと私の身内からの依頼を受けてのことなのです」
「あん? 王族に呼ばれてるみたいなこと言ってなかった?」
しまった、そう思ったらドミニクがさらにフォローしてくれる。
「王族へのご報告のために、役人を通す。調べればわかることだが、ローレンツの家は官僚の家系だ。報告ごとに使われやすいのもあるんだろうな」
上手く王族と直接やり取りしてるわけじゃないってニュアンスにしてくれた。
これでルイーゼの身分がそう簡単にばれることはないだろう。
事実として王弟本人がぐいぐい来るし、何故かルイーゼも俺の様子に興味津々で、王族と直接話すことにはなってるんだが。
普通は官僚家系だろうが、一学生が王城上がるなんてそうそうあるもんじゃないはずなんだよな。
そんなことも知らないだろうユリウスは暢気に、ルイーゼに目を向けた。
「ルル、やっぱり偉い人の所の子なんだ。そうだよね。平民っぽくないし」
同意を求めるようにウルリカを見るが、ユリウス、そっちも生まれはダーリエフェルトのお偉い人の血縁だぞ。
ウルリカの血筋に関しては、一応調べた。
ゲーム知識を確認する中で、過去本当にあった事件を探してた中で知ったというほうがいいか。
ウルリカの背景である、一族郎党皆殺しになるようなダーリエフェルトの事件は、ゲームと同じく存在した。
ダーリエフェルト国王の大叔父に当たる公爵との内戦。
これ、今も続くダーリエフェルトと東の隣国との戦いのきっかけになった事件で、そんな情報はゲームにはなかった。
けど、当時の記事で経緯をたどれば、その事件と隣国との戦争は繋がるよなって感じ。
人望のない国王が、人望のある大叔父公爵を騙し討ちして殺したというのが凡その成り行き。
で、公爵の身内は東の隣国に助けを求めたことで、国同士の戦争になり、その間に大叔父公爵の一族郎党はダーリエフェルト国内で殲滅される。
つまり、ウルリカはダーリエフェルト王家の血を継ぐ令嬢なんだ。
「あの、本当、ちょっと言えないんで。誠意は示したいんですが、何分俺程度では他言もできない話ですので」
ゾイフがじぃっと見下ろすせいで、圧がひどい。
けどウルリカが珍しく素直に退いた。
「…………ふん、いいわ。その代わりお菓子は倍よ。いいわね」
「あ、はい」
思ったよりすんなり倍返しで落ち着くと、イエスマンのゾイフはすぐに従う。
気にはなるが、今は目の前の王女さまだ。
俺たちはウルリカとゾイフと別れて、ルイーゼを送る。
「それでは、お送りしますので」
「いや、それより何処かにおつきはおられないのですか?」
俺が言うとドミニクが聞く。
確かに、言い訳して出て来てるなら一人なわけもないか。
だがルイーゼはなんでもないように答えた。
「ユリウスが共にいますので、置いてきました」
「え、そうなの?」
おいおい、勝手に護衛扱いされたユリウスが知らないじゃないか。
いや、ゲームだともっと楚々としてたのに、だいぶアグレッシブって言うか。
…………いや、けっこうゲームと同じか。
じゃないと王女一人城から逃げ出して、戦場に突入して勇者見つけ出してないわ。
しかもその後、自分の足で世界回って教皇の下へ行こうって行動もしてる。
けっこう思い切った言動もしてた気がするし、うん、王女ってところで俺に変なフィルターかかってるのかもしれない。
なんて考えてたら、ドミニクが呆気にとられた後、仕切り直した。
「と、ともかく、置いてきた人員を回収し、それからお送りするか、お迎えを呼ぶか」
「せめてもう少し歩くことをしたいのです。ですので送ってくださいな」
「…………おおせのままに」
ドミニクが折れた。
だから判断が早いんだよ。
「えーと、二人がそんな下手ってことは、伯爵家よりも偉いよね? あの、俺、もっと礼儀正しくすべき?」
「まぁ、そんなことは言わないで、ユリウス」
本気で嫌がるルイーゼに、俺はドミニクとヒソヒソ言い合う。
「いいのか?」
「共通点は、あるからな」
どちらも光の紋章持ちで、ルイーゼがユリウスに興味津々なのもそれだろう。
同じ年齢の紋章持ちとなれば、会ったことない相手に親近感も湧く可能性はある。
それは王女という身分からすれば、初めて他人に感じる感情かもしれない。
「ともかく、戻りましょう。ですが、寄り道はしません」
「俺は教会のほうに置き去りにされた方がいないか確認する」
「頼む」
ドミニクが気を利かせて別行動を申し出る。
護衛と考えれば、ユリウスがいるし、ドミニクの判断は妥当。
とは言え心臓に悪いから、さっさと商業区のある雑多な街中から、城の方面へ移動する。
そっちには貴族屋敷もあるから、ユリウスはまだルイーゼの正体に気づかない。
王族らしい金髪碧眼だが、その王族から降嫁した貴族家もある。
金髪碧眼は珍しいけど、いないわけじゃないんだよな。
「なんだ? 騒がしいな」
普段静かな貴族屋敷界隈が、何やらいつにない喧騒がある。
しかも武器の金具の音が混じってて不穏だ。
俺とユリウスはルイーゼを庇って様子を窺う。
道を変えようとしたがそれより早く兵士たちの一団が現れた。
「止まれ! む、若いな。この辺りでイェーデシュタン侯爵家の者を見なかったか? 隠し立てするとためにならないぞ」
上からの命令で、貴族だろう俺たちにも問いただす。
そして聞こえた名前に、ルイーゼが動いた。
同時に王家の紋章を象ったネックレスを出す。
「イェーデシュタン侯爵の捕縛はまだ先のはず。何があったのですか?」
「これは、まさか、王女殿下!? し、失礼いたしました。それが、イェーデシュタン侯爵が捕縛の動きを察し逃亡をしたとのことで!」
確かに捕縛には早い。
だが、これだけの兵を揃えるのも早すぎる。
というか、詰問してきた割に落ち着いてるって、逃亡に関しても慌ててる様子ないよな?
色々思うところはあるが、逃げ出したからって素直に貴族屋敷辺りを捜すのは違うんじゃないか?
何か考えがあるのか、すでに手回し済みなのか。
ともかく聞けることは聞いておこう。
「それが本当なら、こんな所を捜すよりも、ダーリエフェルトに通じる街道を封鎖すべきではないでしょうか」
「あ」
俺が兵に揺さぶり目的で声をかけると、ユリウスが声を漏らす。
視線を追えば、俺たちの背後にいつの間にか、ウルリカとゾイフが立っていた。
その目は完全に今の話聞いてて、不穏な色を乗せてじっと様子を見てる。
その上で、俺と目が合ったウルリカは、作り物のように笑って見せた。
「どうぞ? 続けて?」
作り笑いでそう促すウルリカは、世が世ならお姫さまな雰囲気がある。
ただダーリエフェルト関係と知って、完全にもう退く気はない。
だからって俺も王弟の陰があると下手なことは言えないし。
ウルリカの笑みの不穏さに、今さらながら相手が最初のボスキャラという事実を実感していた。
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