48話:予定変更3
ウルリカに予定変更を詰められてたところに、レベリングのため魔物討伐に出てたユリウスがいた。
魔物討伐の予定としては早い。
だがないわけじゃないくらいの期間だから、驚きはしても問題じゃない。
その上で、何故か隣にはこの国の王女ルイーゼがいることが、見ないふりをしたいほどの問題だった。
「誰よ、あれ?」
「あ、えっと、その…………」
俺たちの大げさなほどの反応を、ウルリカが見逃すはずもなく。
王女がいるとか言えるわけない。
ボスキャラだったそれに魔人かもしれないウルリカに、まだ育ちきってないユリウスを勇者として紹介するには迷いもある。
できれば今回の経験でユリウスがどれくらい育ったかを知ってからがいい。
だが、ウルリカは言いよどむ俺を下から睨むように見上げてきた。
そんな俺たちに気づかないのか、ユリウスは嬉しそうに手を振って寄ってくる。
マントで顔を隠したルイーゼと一緒に。
「ローレン、ドミニク。こんな所で会えるなんて思わなかった」
「あ、あぁ、そうだな」
ドミニクが睨まれてる俺に代わって答えると、ユリウスも強く肩を掴むウルリカに気づいた。
「あ、二人のお友達? 初めまして、俺はユリウス」
「またどこかのお坊ちゃん?」
俺たちの友人と聞いて、ウルリカが鼻で笑う。
けどユリウスは、驚きと気恥ずかしさを素直に顔に出して否定した。
「え、違うよ。俺は同じ学生だけど、農家の出身なんだ。お坊ちゃんなんて呼ばれる身分じゃないよ」
「ってことは、相当頭いいの? 見かけによらないじゃない」
褒められたと思ったのかユリウスがはにかむと、そのままウルリカは俺たちの肩を開放して、何故か二人仲良く話し出す。
俺とドミニクは当たり前の顔して一緒にいるルイーゼに釘付けなんだが。
そして素直なユリウスは、なんの警戒もなく自分の身元を明かし始めた。
「それも違うよ。俺、紋章持ちなんだ。今勉強中で頭がいいのはその二人だよ」
そう言って、袖を捲ると腕を見せ、少し力む様子をみせる。
すると白く光る、剣のような紋章が浮かび上がった。
途端に、ウルリカとゾイフが緊張する。
こんなことでわかるとは思わなかったが、どっちも魔人の自覚はあったようだ。
勇者の紋章は物語にも描かれる有名なもので、見ればユリウスが誰かすぐにわかる。
そして古い物語には敵として魔人が現れ、勇者に倒されるのがセオリーだ。
一瞬でも勇者を相手に緊張を見せたのは、倒される側である自覚がなくちゃありえない。
「紋章持ちって、まさかあんたが勇者?」
「うん、あんまり自覚ないけどね」
照れ笑うユリウスに、ゾイフも取り繕って探る。
「お若いのに、勉学に励まれるとはご立派な志があるのでしょう。わたくしどもは、こちらのご子息方と縁がありまして。そちらはご同輩で?」
「そう、学園で色々お世話になってるんだ。けど、志なんて言われてもなぁ。俺は、ただ自分の大事な人を守るくらいしかできないよ」
完全に、魔人二人の意識がユリウスに向いた。
それを見て、ルイーゼが俺とドミニクに寄ってくる。
「驚かせてしまいましたね、ごめんなさい。ですが私は今、街の教会のお手伝いをしていた修道女のルルです」
そういう言い訳で街に出てるらしい。
マントの下の服装も、言うとおり修道女のもので、ユリウスには偽名を使ってるようだ。
というか、ルイーゼだからルルってゲームでもあったな。
何処かに忍び込むか何かのイベントだった気がする。
…………そうだ、確か国王が魔人になってた国での終盤近いイベントだ。
名前と似顔絵で、勇者パーティが指名手配されたからって理由だったはず。
「聞いていた容姿と年齢が一致したのでお声をかけて、アーレントという共通の友人について話が膨らんでしまいました」
勝手に友人にされても、俺とルイーゼが会ったの二回なんだが。
あと、ドミニク。
王女殿下に引き合いに出されなかったことに胸を撫で下ろすな。
絶対お前も認識されてるからな、王族に。
「それで、実は叔父さまから、アーレントが女性とお会いしているという話を聞きましたの。うふふ、可愛らしい方ね? けれどイジドラも美しいと思うのよ」
「ご、誤解があるかと」
王弟は聖女に何を吹き込んでるんだ。
というか、城から出てきたの、ユリウスが目的じゃなくて俺なのか?
教皇の未来視関係で興味を持たれたとは思ってたが、予想以上に関心持たれてる?
それともドミニクみたいに、他人の色恋眺めてにやつきたいだけの趣味の人か?
俺が混乱してるとユリウスが俺たちの様子に気づいた。
「あ、本当にルルと仲いいんだね。突然声をかけられて驚いたけど。ローレン、なんで俺のことルルに話してあげないなんてことしてたの?」
「はーん? そっちのルルとかいうのは、どう見てもいいところのお嬢さまでしょ。農民出なんて相手にさせられないって話ぃ?」
ウルリカが、俺が身分差で意地悪したんじゃないかと煽って来る。
けどそれはルルが笑って否定した。
「いえ、私の叔父がいる場所だったので、年頃の男性を紹介するようなことは控えられたのです。けれど物語にも語られる方でしょう? 興味が押さえきれず、不躾を承知でお声かけさせていただきました」
ルイーゼは全く悪びれず、興味本位だったという。
そう言えば思い切ったことする時には完全に前進しかしないのが、ゲームでの聖女だ。
つまりルイーゼも、今は王女として取り繕ってるだけで実際は?
「最近、アーレントと懇意にしている女性がいると聞いていたのですが」
「そうそう、あのローレンがって思ったんだけど、ドミニクもウルリカと仲いいの?」
「俺は付き添いだ」
「おい、ドミニク。自分だけ逃げるな。そもそもお前と飯食ってたからだろうが」
俺は安全圏に退こうとするドミニクを捕まえる。
その間に、ルイーゼもウルリカに話しかけ始めた。
「お歳は同じくらいかしら? 私とも仲良くしてくださると嬉しいわ」
「はん、お嬢さまなんてあたしと話し合うこともないでしょ」
「まぁ、そう言わないで。きっと私よりも広い世界を知る見識がおありなのでしょう。どうか聞かせてくださいな」
ウルリカの塩対応にも、けっこうぐいぐい距離を詰めるルイーゼ。
ユリウスも気にせず話しかける。
「そうだ、ウルリカは何処から王都に? 農民ではないよね?」
「えぇ、素敵な手袋をなさっているもの。商家の方? それとも貴門? けれど身分は忘れて今はお話ししていただきたいの」
「あ、それは俺も。学院で作法とか習ってるけど、まだ全然でさ」
「ちょっと、何個も質問しないで。というか、ローレンツを捜してたんでしょ、もう」
ぽんぽん会話する上に、俺が探ろうとして聞けなかったこともはっきり聞く。
邪気のなさにウルリカも、東の隣国から来たことや没落貴族だということを答えた。
「ちょっとした旅暮らしよ。そこのゾイフと一緒に、魔物を狩ったりして腕を磨いてる」
「あ、俺も。俺も魔物討伐してきたところなんだ。東の国って、どんな魔物がいるの?」
「私も魔物に遭ったことがあります。騎士に守ってもらいましたけれど、それを二人だけでなさるの?」
様子を見てると、ドミニクが俺に耳打ちする。
「適任、俺じゃなくユリウスだったんじゃないか?」
「あの時いなかった相手を頼れるかよ」
園遊会のことを引き合いに出すくらい、ユリウスとの会話は途切れない。
というか、ドミニクは俺と同じでまず考えてから口に出すから、ユリウスみたいに軽快に会話なんてできるわけじゃないんだよな。
それでも一人で挑むより、まだ八つ当たり先があっただけ心に余裕持てたが。
ユリウスはこれ、主人公補正みたいなもんなのか?
ゲームでも行く先々で味方を増やすような主人公だったが。
なんて考えてたら、ドミニクがさらに囁く。
「ゾイフは、何を考えてると思う?」
言われてみれば、ゾイフはじっとウルリカの後ろから、ユリウスを見てる。
その目には暗い色があった。
今まで俺たちも、ウルリカに対して色目を疑われて圧をかけられてたが、それとも違う様子はドミニクも察したらしい。
ゲーム的に言えば、魔王を倒せる勇者は、魔人にとっての敵。
ウルリカを大事にするゾイフからすれば、警戒は当たり前だ。
「殺気立ってるとも、違うよな?」
「あぁ、何かを探るような気配がある気がする」
ドミニクが言うとおり、ゾイフはユリウスを値踏みするような雰囲気があった。
魔人からすれば勇者は障害であり、敵対関係。
そしてウルリカが魔人である限り、勇者とは相いれないんだからゾイフからしても相いれない相手。
俺たちにやったよりも、ずっと強く圧をかけて威嚇してもおかしくないのに、今は気配を殺して見ているだけ。
穏当に引き離すべきか、そう思ったらルイーゼが喜色の滲む声を上げた。
「まぁ、市井のお菓子?」
こっちを向いた王女さまの顔には、隠す気のない期待がある。
完全に、自分も食べたいという好奇心が全開で、正体を知ってる側からすると、それはほぼ命令に等しい。
まさかゾイフとは別方向から圧をかけられるとは思わず、俺は頬が引き攣るのを止められなかった。
定期更新
次回:予定変更4




