46話:予定変更1
御前会議なんて、国のトップを戴いた重要事項を審議するための場だ。
そんなところに普通学生なんて入らない。
けど、なんでか俺はいるんだよなぁ、その場に。
と言っても席についての参加者なんかじゃなく、小間使い的に壁際に寄ってるだけの傍観者だ。
ちょっと書類配り手伝っただけだし、正直帰りたいが、そんなことも言い出せずに息を殺して壁に徹する。
「そうか、イェーデシュタン侯爵が」
金髪碧眼の王族らしい容姿の方が、溜め息を吐いた。
この国の王であり、貴族の家に生まれてたとは言え、俺もこんな近くで見るのは初めてだ。
王弟の兄に当たるが、長子と末子で年齢が離れてるのは見てわかる。
あと俺が知ってることと言えば、ゲームではヒロインのルイーゼの父親だってことくらいで、一応ゲームでも出番はあった。
ただ国が魔王のせいで滅んでるっていう状況の説明役だ。
しかもその場で死んで終わりだった。
「クラレンツ公、出頭を呼びかけはしないのか?」
「応じないでしょう。ダーリエフェルトに助けを求めることも考えられます」
穏便に手順を踏むよう言う国王に、王弟は怯まず応じる。
会議に出席してる面々は、イェーデシュタン侯爵を捕まえることに賛否あるようだ。
高位の貴族だから体裁は整えるべきって声もあれば、国内問題に他国が介入するより早く動くべきだって声もある。
俺からすれば、犯罪者のメンツ気にしてもなぁってところ。
まぁ、貴族側からすれば、姻戚や関係各所から、後で文句言われても知らないぞって話なんだろう。
その上で、国としても自国の貴族を裁くのに、他国の顔色窺うなんてメンツが立たないって話でもある。
「みだりに兵を動かすのはいかがなものでしょう。いらぬ混乱を招くのでは?」
「しかしこれほどの悪行を見逃すなどできぬであろう。であれば早急な対処で良い」
悠長にも思える意見の応酬。
が、すでに裏でクラレンツ公が準備してることを俺は知ってる。
そのことはこの場の誰もわかってるのも、知ってた。
つまり、どう王弟を止めるかだけど、そもそも兵権持ってる人だから、止められるわけがない。
しかも狩猟大会で従わずに逃げたイェーデシュタン侯爵。
今回の名義貸しや汚職をなしにしても、王弟が怒って兵を動かすことを否定できない。
つまり、王弟が言い出したからには、どんな高位貴族も止められない。
そしてここは御前会議。
国王陛下が閉会を命じるか、退席しないと出られない場と化してる。
「…………押さえるのはイェーデシュタン侯爵自身でなければならないか?」
穏便に対処しようとする姿勢の国王は、この場で唯一王弟を止められる人物。
その上で、王弟も国王から委任されてる権利を無闇に振りかざせはしないから、ここで言質を取りたいための御前会議だ。
なんでそこに、突っ立てるだけの俺がいなきゃいけないかはわからないけど。
社会科見学か?
それにしちゃ場違いすぎて、何を学べばいいかもわからないんだが。
「罪は明らか、相応の金銭も確認できた。しかし、それがどのような状態でイェーデシュタン侯爵が隠しているかわからない。であれば、本人に口を割らせることが確実です」
王弟は、イェーデシュタン侯爵が金以外にして隠していることを懸念していると言う。
そうなると、個人の財産を没収で済まない可能性もある。
家に紐づけられてたら、爵位ごと王家が接収することになるだろう。
そうなれば、ただ罪を犯したイェーデシュタン侯爵を捕らえるのとはまた違った身分制度の問題が浮上する。
だったらさっさと財産関係動かせるイェーデシュタン侯爵を捕まえて、金の在り処を吐かせるほうが安全で確実、っていう王弟の意図はなんとかわかる。
だからこそ、経験のない俺はここにいるけど、レルナー先生みたいな実働できる人たちはすでに動いてて、ここにはいないのも想像はできた。
「すでに調べが入ったことはイェーデシュタン侯爵にも伝わっているはずだな?」
「ではまず財産の移動を禁止する令状を出すべきだと思いますが?」
「いや、やはりイェーデシュタン侯爵を城に呼び、その非を問い詰めるべきでは?」
あれこれ御前会議の参加者から話が出る。
王弟が証拠になる物は押さえたから、もうイェーデシュタン侯爵の捕まえ方が焦点だ。
けどそこからまだイェーデシュタン侯爵は言い逃れの余地がある。
直接じゃなく、他人の名前使ってるせいだ。
だからこそ、王弟も本人を捕まえて自白させたい。
そうとわかっているから、だったら手順を踏んでもいいだろうという声もある。
乱暴するより話し合いの席につけるべきだと。
それぞれ立場と考えがある中で、俺としてはわかりやすい王弟の主張だ。
だが、先生からの教えを思えば、後で責められるところがあるのもわかるから、手順踏めっていうのもわかる。
あと、話し合いを進めるのも、文明的な生活してるとそうもなるよなって気持ちもある。
「…………ふむ、大方の意見は出たか」
臣下の裏切りにあまり焦りも驚きもなく、聞きに回ってた国王がそう言った。
王弟が先走るのを止めるような言動もしていたお蔭で、止められない王弟に他が意見もしているような状況。
そしてそれぞれが旗幟を鮮明にしたこのタイミングで国王は口を開いた。
「ところでクラレンツ公からの資料に、親類縁者の名が挙がっている者がいるな?」
国王の指摘に、御前会議の参加者は慌てたが、そこに国王の言う資料はない。
資料を用意するための人員として、俺も駆り出されたから知ってる。
その親類縁者まとめた資料って、国王周辺にしか回してないんだ。
「そちらは時間が足りずに後で回して見てもらおうと思ったものですが。どうやら先にしてしまったようです」
王弟がぬけぬけと、急なことによる不手際だという。
普通に俺、配布するよう指示されたんだが、ん?
もしかしてこれ、俺のせいにされるのか?
見学気分の学生いたから段取り狂ったみたいな?
学生だから責めてやるなみたいな?
誰も指摘しないみたいだから責められないけど、もしもの時の予防線か、俺は。
というか、今まで何も言わずに聞いてて、それぞれがどういう姿勢かを見てから言った国王も、絶対わざとだろ。
さっきまでの乗り気じゃない雰囲気がなくなってるし。
今はイェーデシュタン侯爵に通じてそうな相手に圧かけてるって、うん、王弟と兄弟だわ。
顔も良く見えない位置にしかいなかった国のトップ、こんななのか。
そりゃ、ゲームでの最期があんなになるよな。
一人残った王女逃がして、魔王の暗躍教えて、解決しろって相当厳しい親だ。
ゲームの時には導入として受け入れてたけど、実際にそんなことする親いるかと考えれば、この国王だったらやりそうだと思ってしまう。
「最近、羽振りがいいと聞く者もいるようだな。そう言えば、何処ぞから良い仕事を得たと言っていた者もいたか?」
国王が金回りに関して漏らしたことがあるらしい相手を、締め付けるように言う。
もう最初から、王弟がイェーデシュタン侯爵捕まえるのは決定なのがそれでわかる。
その上で、どうやら通じる相手を締め上げるのが、この御前会議の主旨らしい。
いやぁ、本当なんでまだ学生の俺が、大人のこんな一幕壁際から見てなきゃならんのか。
性格悪いなって、国王のこと思っちまったよ。
あぁ、こういうこと言って笑って流してくれる奴いねぇかな。
ドミニクはたぶん真面目に返すし、その点エドガーだったら一緒に笑ってくれただろうに。
ユリウスはいないしなぁ。
ただユリウスは言っても、一緒に怖がる方向になりそうだ。
「イェーデシュタン侯爵に関わる金銭の動きは、もちろん他国に絡む汚職」
俺がちょっと逃避してる間に、国王だけじゃなく王弟も一緒になって絞り始めた。
そうなってからは、保身のためにも関係のある貴族たちは知ってることを吐く。
まぁ、御前会議に呼ばれたくらいだから、直接の関係はなしだった。
ただ全く無関係よりも、関わった人物から聞けることもあったようだ。
そうして情報を搾り取って、イェーデシュタン侯爵を捕まえる方向で話は進む。
御前会議が終わると、俺はようやく場違いなところから去れることに安堵した。
だが、それで済めば良かったんだが…………。
「なーんーでー、また予定変更なのよ! 女待たせて恥ずかしくないの!?」
「ぐえぇ…………」
俺はまた締め上げられながら、ウルリカに文句を言われることになった。
御前会議でイェーデシュタン侯爵の捕縛が決まり、その上で捕まえた後動く雑用要員に、また城にいるよう言われてしまったんだ。
そしてよりによって、その日がウルリカとの約束の日。
菓子渡すだけなら、俺が来る必要はないんだけど、足止めのためにできれば次の約束をしたい。
そんな思惑がある俺としては、延期をお願いするのは完全にこっちの都合。
けど菓子を欲しがるウルリカからすれば、ご立腹もやむなしな申し出だろう。
「学生なんでしょ? お坊ちゃんなんでしょ? 何がそんなにお忙しいってのよ!」
「ウルリカ、締めあげていては答えられもしませんよ」
ゾイフのお蔭で解放されたが、たぶんこれ、俺のためじゃない。
答えを知りたいウルリカのための助言だ。
そしてついて来てはいるけどウルリカの暴挙に対応もできないドミニクは、放り出された俺を慌てて介抱する。
その上で白地に青の小さな可愛いコップをウルリカに差し出した。
「エドが、持って行けと。中にジンジャーキャンディを適当に入れてある」
効果覿面で、甘味だとわかったウルリカは、可愛いコップを両手に持って締め上げることをやめてくれる。
こういう女性の機嫌を取ることも、やったほうがいいんだろうが。
いかんせんそこまで頭が回るなら、エドガーもドミニクに俺の手助けさせないんだよな。
定期更新
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