39話:敵と味方4
狩猟大会は、参加を呼び掛けて王家に招待された貴族たちが集まっていた。
その上で、参加形態は招待状一つにつき、一つの家のみではない。
たとえば、うちの派閥の親のヤディスゾーン大公のような例もある。
もし声をかけられていれば、うちの父上はヤディスゾーン大公の招待状でその配下として参加する立場になっていただろう。
つまり、派閥の家を率いての参加もありなんだ。
そうなると家で数えれば、ヤディスゾーン大公の陣に立ってた家紋は五つ以上は見てる。
親類でも別の家門立ててれば家としては別計上。
つまり、逃げた十九の家っていうのは、最低一つは派閥持ちの家が紛れてる可能性がある。
「小王も逃げたが、あれではない」
俺の考えを読むように、王弟が先回りした。
いや、グロルンレヒト小王は、王家への対立を明確にしてる。
その状態で真っ先に疑われる筆頭だから、俺の考えを読むなんてことでもないか。
「あれにそのような度胸はない」
なんて考えてたら、王弟殿下がとんでもないこと言い出した。
絶対、小王の派閥の奴に聞かれてたら噛みつかれるレベルの悪口じゃないか?
けど王弟は気にせず続ける。
「そんな浅慮に動いてくれるなら、昔に排除できていた。あれは安全圏から切りつけるのが好きなのだ。そのために保身も小狡い。もし動くことがあれば、こちらが大きくつまずく隙を見せるか、本当に排除のためこちらが動いた時だろう」
軽口のようなものかと思ったら、けっこう本気で排除したいからこその評価だった。
けどその上でグロルンレヒト小王の叔父は、本営を守らず逃げてるらしい。
確かにあの場で保身を一番に考えるなら、逃げの一択だ。
もしユリウスたちが魔人を倒すのが遅れていたら、逃げた小王の派閥が好き勝手吹聴していたんじゃないか?
それは魔人があの場で王弟を暗殺しようとした上では、有利に働きそうに思う。
絶対現王家と手を取り合わないことを考えれば、グロルンレヒト小王の派閥は国内を混乱させるのに一役買うことだろう。
「小王も逃げるのは早かった。だが、それよりも早く離脱に動いた家がわかった。疑いだしたら切りがない中、わかりやすく敵と味方を区別できる状況だったのが良かったな」
王弟は意味ありげに俺を見る。
それ、王弟の名前騙って、スタンピード確定させてない内から守り固めるよう俺が勝手したからってことですか?
スタンピードが起きたら、魔人による人為的なものだった。
そこに王弟を暗殺する目的があるとしたら、スタンピードで本営を襲った魔人はもちろん、それに通じる者は相応の動きをする。
国内貴族であるのに、国を支える王家を揺るがそうという邪悪な企みをするような家としての背景も考慮に入るだろう。
また、スタンピードだと周知される前に逃げるという、まるでスタンピードが起こされてることをわかってるかのような早すぎる動きは、魔人との繋がりを疑わせる。
それらを網羅した疑わしい貴族がいたことは、王弟の様子から察することができた。
「イェーデシュタン侯爵が、最も早く狩猟大会から離脱していた」
「イェーデシュタン侯爵…………」
俺も社交が苦手とは言え、全く知識がないわけじゃない。
けっこう広く豊かな領地を持つ侯爵家だったはずだ。
隣国との交易路である街道も領内にあるため、関税を得ており、ひと言で言うなら金満。
悪く言えば金にがめつく、身内からもあまり人望がないとも聞く。
うん、貴族同士で姻戚あったり、ご夫人方も井戸端会議よろしくお茶会するからな。
そういう内部の諍いも、貴族社会の中だと聞こえては来るし、義母上が持ち帰るんだ。
「関税のかけ方で注意もするため、王家への反感は疑いようがない。…………どう考える?」
ここで振って来るのかよ。
いや、けどダーリエフェルトについて聞かれたのはちょっとわかったぞ。
「イェーデシュタン侯爵の領地は、ダーリエフェルトの国境に近くあります。休戦状態の隣国を思えば、王家を揺るがす利点はないかと。失礼とは存じますが、個人的に金銭のやり取りなどは?」
「ない。だが、あれが動くのは金というのは同意見だ。だから、金の流れを調べた」
目の付け所は良かったらしい。
けどこれ以上イェーデシュタン侯爵に関して知ってることはないぞ、俺。
最初に逃げたのが、暗殺知ってたからっていうメタ読みはできるけど、それだけだ。
どうして自国を裏切ってまで、王弟暗殺なんて危ないことするかなんてわかるわけない。
「調べたところ、ダーリエフェルトと頻繁にやり取りがある。姻戚にダーリエフェルトの貴族もいるため、目立つものではない。と思っていたのだが、頻度が多すぎることがわかった」
手を振ると、王弟の配下が俺に一つの資料を渡す。
そこにはイェーデシュタン侯爵とダーリエフェルトの貴族との、金銭が発生する取引の記録が書かれていた。
中にはダーリエフェルトの公共事業に関するものもある。
ただどれも細々とした金銭の動きだ。
公共事業も含む国の予算を思えば、そんなに大きな額ではない。
だが、確かに頻繁と言える。
そして代表者の名前がイェーデシュタン侯爵ってわけでもないのが気になった。
仲介をしてるようで、細々イェーデシュタン侯爵に金は入ってるようだが、これも大きくはないが、やはり頻度が多すぎる。
「こんな小銭をありがたがるような人物とは思えませんが。となると、あえて細かく分散…………? すべての金額を合わせれば相当な金額にはなる。それに、公共事業で他国に発注をかけるのもおかしい。いや、利益供与を他国の姻戚にという考えも?」
思考を呟いてしまってから、王弟の小さく笑う声で慌てて背筋を伸ばした。
「調べてみれば、これだけの数、イェーデシュタン侯爵が間に入っていた。表面上は別人の名前が出てくるのも、目くらましに見えるな」
王弟は人の悪い笑みを浮かべてる。
そこまで言われれば、俺も想像がつく。
これ、他国と組んだ汚職の可能性もあるんじゃないか?
本来使わなきゃいけない予算を、別に使ったことにして、懐に入れるとか。
俺が考えると、王弟が眉を上げて見せて考えを言えと促してきた。
「ダーリエフェルトの汚職を行う者が、国内を調べられても発覚しにくく、また取り上げられにくい他国へ金を流す。その片棒を担いでいる可能性はあるかと。ですが、魔人と組んでスタンピードを起こす理由には繋がりません」
保身交じりで、最後にこの考えがそもそもの発端とは関係ないことを付け加えておく。
すると、王弟も頷いた。
現状何かを見落としたわけではなかったようだ。
「では現状、最も魔人との繋がりを特定できない状況はわかるか?」
「そもそも、狩猟大会に魔人と繋がる家が参加していないことも想定すべきでしょう。もしくは魔人の単独犯であることでしょうか」
魔人が単独犯だと、探りようがなくなる。
何処の誰ともわからない状況では、狩猟大会で怪しい者を調べるだけ骨折り損だ。
つまりこれは、そうして可能性を潰す中で、イェーデシュタン侯爵の汚職が浮上しただけ。
しかも他国と繋がってる可能性大。
魔人も放っておけないが、これも放ってはおけないって話か。
「優先順位の問題だ。対処するにはまだ情報が足りない問題と、すぐに調べにかかれる問題がある」
狩猟大会での魔人の件は、十九もの家を対象にする。
その上で、いない場合と、魔人の単独犯も考慮しなくてはいけない。
そうなると、いっそ狙われた王弟の身の安全を優先して固めるほうが先かもな。
「一番面倒で楽なのは、魔人が単独犯だった場合。また懲りずに私を狙うのを待って」
「ごほん!」
不穏なことを言い始めた王弟に、側に立ってた事務官らしい人が止めた。
咳払いされて、王弟は肩を竦める。
まぁ、部下からすれば、自分を囮にしようだなんて話看過できないよな。
あれ、なんでこんな話になった上に、俺は呼ばれてるんだ?
「この通り、私が直接動くのはあまり褒められたことではない。だからまずは手の届く問題から処理する」
本当の本題って、狩猟大会でもなく、どうやら汚職の疑いが出たイェーデシュタン侯爵についてらしい。
ただそうなると、余計になんで俺は呼ばれたんだ?
正統性もなくこんな内情知るだけ、巻き込まれしか想像できない。
というか、内情知って動けっていう、面倒なご命令が待ってる気がするんだが?
「アーレント、三日後にある園遊会に参加せよ。そこにイェーデシュタン侯爵も呼んで動けなくする。その間にその資料にある者たちに調査を入れる。確実にその間、イェーデシュタン侯爵の足止めをしろ」
気軽に難問吹っかけてきたな!?
俺のコミュ力の低さを舐めないでもらいたい。
「学生が私の名を騙ったことはそれとなく流しておく」
あ、はい、つまり俺のコミュ力じゃなく、相手の傲慢さ利用するのか。
確かにそのほうが、向こうから絡んで時間無駄にしてくれそうだ。
そして何かあれば、王弟も口出しやすい話題か。
何処まで俺の思いつきを利用するんだ。
そんなことを考えた途端、王弟がにやりと笑う。
「やらかしてくれていい。機嫌取りを理由に城の奥に隔離するのも手だ」
なんかもう、俺が失敗した時まで想定されているらしかった。
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