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37話:敵と味方2

 ゲームで二人一組の魔人には、ゲーム内で敵方の符牒のような呼び方があった。

 魔王の配下で人の姿の魔人は、魔王から与えられた種を使って獣化する魔人を作る。

 そのため、魔王側から人型の魔人は蒔き人と呼ばれた。


 出会ったウルリカは、獣化する魔人で、魔王サイドからの呼び名は、無花果。

 闇の紋章が浮かぶが、獣化する魔人は無花果に似た丸っぽい紋章で統一されていた。

 無花果の呼び名にもう一つ理由を考えるなら、一つの共通点がある。


「挫折とか、喪失を味わった人間が、獣化するよな」


 俺は自室で昨日会ったウルリカとゾイフを思い浮かべて呟いた。


 ゲームの主要キャラの一人である、ウルリカの挫折と喪失はわかりやすい。

 西の隣国ダーリエフェルトの大公が、ウルリカの祖父に当たる。

 その祖父が講和の席で騙し討ちに遭い、国王に謀殺されたされたことで一族が反乱した。

 そうして内乱を起こされ、国王側も容赦なく大公の一族郎党を粛清。

 女子供に至るまでほぼ殺しつくされた中、ゾイフと共に国から逃げた過去がある。

 そのため復讐にとり憑かれ、ゾイフもその復讐を遂げる一助として、ウルリカに種を蒔いて魔人にした。


「失礼します、ローレンツさま」

「ムート…………悪かったな」


 俺はお仕着せ姿の侍従が、可愛らしいラッピングの箱を両手に持つ姿に思わず謝った。


 昨日の内にムートに命じて、人気の菓子を買うように言っておいたんだ。

 しかも女性向けを頼んだため、ムートの両腕にはそれらしい包装の菓子箱。

 つまり、男が抱えるには違和感のあるものが、ごく当たり前に違和感を醸してる。


「謝罪はけっこうですが、用途をお聞きしても? お茶のご用意もさせていただきました」

「あぁ、助かる。ちょっと、昨日女性が食べようとしてた甘味を駄目にしてしまってな。代わりのものを用意すると約束したんだ」


 縊り上げられたなんてことは言わず、俺はドミニクと軽食を食べた後に粗相をしたという態で説明する。


「最後の一つだった上に、甘味に随分こだわる様子でな。だから自分で食べて選んでみたほうがいいかと思ったんだ」

「それは、お志はけっこうなことでしょうが、しかし…………」


 ムートが口ごもる間に、俺はメレンゲがたっぷり乗ったタルトに手をつけた。

 俺の手と同じくらいの大きさで、けっこうなボリュームだ。

 女性にはこれ、食いでがありすぎるんじゃないか?


 次に手を出したのは、糖蜜をチョコレートでコーティングした菓子。

 こっちも小さく見えて食い応えがある。

 というか、茶を二杯目要求してて気づいた。


「どれも甘すぎないか?」

「ローレンツさまは、甘味を好む傾向にありませんので」


 別に嫌いじゃないはずだが、確かにそこまで好きでもないかもしれない。

 しかし目の前にはまだパイやらクッキーが並んでる。

 けどすでに、俺の舌と胃はもういらないと言っていた。


 手が伸びずに困ってると、軽い足音が部屋の前で止まるのを聞く。


「ローレンツお兄さま、お菓子を買ったと聞いたの」

「ゼルマ。入る時にはノックをしなさい」


 まだ六歳の妹はちょっと舌ったらずな声で、元気に部屋に入って来る。

 その後ろには、ノックしようと片手をあげた弟もいた。


「ザシャ、お前も菓子はいるか?」

「いえ、ゼルマがお兄さまの所へ行くと騒いだので追い駆けたのですが」


 九歳の弟は淡々と答える。

 表情も比較的動かないが、これが普通で別に不機嫌なわけじゃない。

 この弟妹は義母上が生んだ子供たちだ。


 半分以上血は繋がってるし、弟妹として特に俺も含むところはない。

 だが年齢差があるせいであまり遊んだこともないんだ。

 それに、俺とも似てないんだよなぁ。

 何故か弟のザシャは、死んだ兄に生き写しなのに。

 とはいっても性格は違うから、遺伝子の悪戯ってことなのかもしれない。


「ローレンツお兄さま、お菓子、ゼルマもお菓子食べたいの」

「あぁ、どんな味がするか教えてくれるならいいぞ」

「…………お兄さまは、味がわからない?」


 ムートが椅子を用意すると、ゼルマは勇んでお菓子に手を伸ばす。

 それに続いたザシャが、なんだか俺が味音痴みたいに呟いた。


「いや、その、甘いばっかりで、食べ過ぎるとな。わからなくなるんだよ」

「うん、甘いとすぐいっぱいになる」

「甘いのいっぱい嬉しい!」


 どうやらザシャは明確に甘いものが苦手らしい。

 そしてゼルマは好きなようで良かった。


 ちょうどいいから妹に食べてもらって感想を聞こう。

 六歳児の味覚でいいのかは、わからないが。


「で、どれか好きなのはあったか?」

「どれでも、同じように甘い」


 一応食べたザシャが、興味ない様子で答える。

 それには俺も同意見だ。

 けどゼルマは小さな体で興奮したようにお菓子を指差して喋る。


「あのね、こっちは色が綺麗なの。でもね、そっちのほうがいい匂いがする。それでね、あっちの甘さはちょっと苦くて、一番甘いのはこれ!」


 一生懸命訴える妹の姿は微笑ましい。

 何より、違いがわかってくれてありがたい限りだ。

 その上で、俺はムートに珍しさとか人気の度合いなんかも聞いた結果、買ってすぐ食べる系のメレンゲタルトに決めた。

 明日の夕方前に、ムートにはもうひとっ走りしてもらうことになる。


 ちょっと肩の荷が下りたところで、今度はちゃんとノックがある。

 ムートが応対に出たんだが、部屋の主の俺の許可を求めずに扉を開けた。

 その時点で俺より上、つまり来訪者はこの屋敷で限定二人に絞られる。

 そして張りつけた笑みで入ってきた義母上に、俺は冷や汗を流した。


「何を食べているのかしら? まぁ、ずいぶん食べたのね。この、夕食の前に」

「あ、その、も、申し訳ありません」


 言われてみればそうだ。

 学校が終わって帰った夕食前の今、俺でも腹がいっぱいに感じる量の菓子を、弟妹に食べさせた。

 そうなると、ザシャとゼルマは夕飯が入る余裕がなくなる。


 完全に俺のミスだ。

 もちろん素直に謝ったからって、義母上も容赦はしてくれない。

 俺はお説教を浴びせられた。


「ローレンツ、兄として気にかける点が違うでしょう。あなた自身だってこんなに買って食べられないから、この子たちにわけたのではないの? いったい何をしているのですか」


 食べさせ過ぎだし、食べ過ぎだしで、俺は言い訳もできずに義母上に叱られるしかなかった。

 その後は夕飯の席で、姿のない弟妹に父上からも聞かれ、ことの顛末に呆れられる。


 それでもゼルマの意見は参考になったし、翌日にはきちんと詫びの菓子を用意することができた。


「で、どうしてドミニクはまたいるんだ?」


 約束の放課後、俺は一度家に帰ってタルトを受け取り、落ち合う場所へ向かう。

 その向かう途中に待っていたドミニクと合流したんだが、特に約束はしてない。

 縊り上げられて約束したのは俺だし、ドミニクが面倒請け負う必要はないはずなんだが。


「エドが面白そうだから見て来いとうるさくてな」

「おい、元気じゃねぇか。だったら俺に会う余裕あるんじゃないのか?」

「あぁ、馬車でも回して自分で見に行ったらどうだと言ったんだがな。面白そうなところに水を差したくないそうだ」

「何が面白いんだ。…………どうせなら、一緒に面白がればいいんだよ」


 以前のように側にいて、笑うなり揶揄うなりすればいいのに。


 そんな不満を吐く俺に、ドミニクも苦笑する。

 エドガーが意地を張ってるのはお互いわかるから、それについてはもう何も言わない。


「…………それで、あちらは見るからにそわそわしてるな。ちなみに何を用意した、ローレンツ?」

「なんか人気店のメレンゲのタルト。たぶん薔薇の匂いついてる」

「あぁ、女性人気の。それなら一緒に店の特別ブレンドの茶もあったほうが良かったな」

「妹が選んでくれたんだが、買ってきたのは侍従だったからなぁ」


 女性向けで売ってるものに買いにくさもあれば、マーケティングのターゲットじゃないから見落としもあっただろう。

 俺だって直接行ってもわかる気がしない。

 ドミニクが知ってるのは家が商会持ってるからか。

 次があれば、こいつに聞いたほうが良さそうだ。


 そして俺たちの接近に、そわそわ動いてた白い髪の動きが止まる。

 何もなかった風に冷静な顔を繕うが、もう見た後なんだよなぁ。


「けっこう可愛いところあるよな」

「ほぉん…………?」


 背後からかけられた声に、俺は肩を跳ね上げた。

 ドミニクも驚いて振り返ると、そこにはウルリカの保護者のゾイフ。


 以前と変わらず笑ってるんだが、明らかに纏う雰囲気に圧がある。

 なんなら魔人の黒さがにじみ出てる。


「あ、こ、これ。お約束の菓子で…………」

「ちょっと! あたしに渡しなさいよ!?」


 ボスキャラの片割れに慌てた俺に、今度はウルリカが怒鳴りながら駆け足で来た。

 焦りが隠せない様子が女の子らしいと思うんだが、たぶん今それは言っちゃいけない。


 ゾイフという魔人で保護者な脅威が、ウルリカによこしまな目を向ける排除対象かどうかを見定めてる気がしてならなかった。


定期更新

次回:敵と味方3

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