36話:敵と味方1
ゲームの主人公の勇者には、最初聖女という仲間が現れる。
そして亡国を離れてストーリーを進めることで、序盤に女騎士と男魔法使いの初期メンバーが揃った。
さらに中盤になれば、傭兵、盗賊、海賊なんて乱れる国々のせいか、アウトローな仲間もできる。
もちろんゲームとして、剣士や狩人、踊り子や拳闘士といったファンタジーな仲間もいた。
ストーリーは初期メンバー四人で進行するが、戦闘面では気に入ったキャラクターを編成して戦えるスタイル。
そんな初期メンバーであり、ストーリー上外せない女騎士は、白い髪に赤い瞳をしてた。
生まれ自体はいいが、育ちの苦労によって手が早いところがある少女。
名前はウルリカ。
ゲーム最初のボスにして、勝利すれば初期メンバーとして仲間になる、そんなキャラクターだった。
「あんったの! せいで!」
「すすす、すびば、せせせんん」
俺はウルリカに、思いっきり襟首を掴み上げられて、揺すぶられる。
当のウルリカは涙目で、本気で悔しがってるから俺も謝罪一択しかない。
店で見て、つい声を上げてしまったのがそもそも悪かった。
短気なところのあるウルリカにメンチ切られたのも、予想できた流れでそこまではいい。
けどその後がひどかった。
俺が動揺して机の脚に踵をぶつけると同時に、ウルリカもこっちに向かって椅子を引く。
すると振動でパイの乗った皿は机を滑り、そのまま床へとダイブしてしまったのだ。
「あたしのパイー! 最後の、最後の一つって!」
「本当に申し訳、ぐぇ」
レベリングすれば聖騎士になるせいか、同じ年頃の俺を揺さぶって叫ぶ余裕あるってすごいなとか。
そう言えば意地っ張りでガンガン前衛に出るけど、甘党っていう女の子らしい一面もあるとか設定あったなとか。
そうして締め上げられる俺を横目に、ドミニクがウルリカの連れの男と話し合う。
「弁償はもちろんしましょう。ですから連れを解放していただけまいか。こちらに非があるのは確かですが、やりすぎても問題となればそちらが責められるでしょう」
「えぇ、貴い身分のご子息であるご様子。ですが、落とし前というものは必要でして」
「ですから金銭で」
「それを決めるのは私ではく、被害に遭ったあの子ですので」
連れの男は、締めあげられてる俺が貴族子弟とわかっていて止めない。
ドミニクが金は払うから止めろと言うが、ウルリカが命で支払わせるなら止めないんだろうなと思う。
ウルリカに付き従う男は、ゲームにもいた。
しかも初期のウルリカと同じ敵方で。
さらにはウルリカのイエスマンで、保護者的な立ち位置なのに、どんな悪行も止めないっていう厄介な相手。
穏便に治める方法考えないと、本当に暴力で落とし前つけられかねない状況だ。
「あー、えー、そのー、べ、弁償、弁償するので、一度、離して、はな、はな、ななな」
「うぎー!」
「お菓子、もっと美味しいお菓子、ご用意しますー」
前世に、頭を振り続けることでなる病気あったななんて考えてたら、ウルリカの手が止まった。
それだけでもありがたいが、そのまま軽く浮きそうになってた足も地面にしっかりつけることができる。
「何よ?」
「へ?」
「もっと美味しいお菓子って何よ?」
「え、えぇと」
俺が言いよどむと、途端にまた踵が浮きかけた。
「い、今流行の可愛いお菓子とか、美味しさで行列ができる人気のお菓子とか、どれがお好みかなって!」
急いでまくしたてれば、また踵が地面につく。
だが、首元を掴んだウルリカの手は離れない。
俺も抵抗でけっこう強くウルリカの片手握ってるんだけど、びくともしねぇ。
その強さに俺は内心冷や汗を浮かべてた。
最初のボスとはつまり、ゲームの勇者が最初に会う魔人二人組が、このウルリカとその保護者なんだ。
保護者のほうが魔王の配下である魔人。
そしてウルリカは、西の隣国ダーリエフェルトで反乱を主導する。
勇者たちと戦い負けると、それでも復讐のために国を滅ぼすという願いを叶えるため、保護者によって獣へと変えられた。
そんな最初のボスを倒してイベントを経た後には、獣化の力も闇の紋章も失い、本来の光の紋章を得て聖騎士へと成長していく。
「…………どっちが美味しいのよ?」
「そ、それは好みとしか」
「あぁん?」
「ど、どちらにも合致する品をご用意させていただきますー」
ボス相手だと思えば、下手なことできない。
ゲームが始まった時点でレベル一のユリウスと違って、どう考えてもすでに高レベル。
ゲーム開始時点でも、ダーリエフェルトで内乱起こして国を滅ぼしかけてたし。
というか、今はまだ悪政の噂しかないから、隣国これから滅ぼしに行くんじゃないか、こいつら?
そうなるとゲーム開始に向けて一歩進む気がする。
思えばゲームでは、周辺地域の国々全てを滅ぼしそうな暗躍が起こってた。
つまりこの国一つ生き残るだけじゃ駄目だし、何より魔人がいたってことは、魔王はすでに東の隣国に復活してる状況だ。
西の隣国であるダーリエフェルトが落ちるなんてことになったら、どっちにしてもこの国は、二つの敵国に挟まれて、攻め滅ぼされる可能性ができる。
「あの、ご用意させていただくので、また後日、お会いしたいなと」
ウルリカは即答せず、窺うように保護者の男を見た。
「ゾイフ」
「えぇ、ウルリカの思うとおりに」
さすがイエスマン。
名前呼ばれただけで全肯定だ。
ゲームでは、二人は同じ復讐のために動いていた。
獣化を強制できる魔王の配下とは言え、ウルリカとは主従の関係。
そして幼主を守り逃げたゾイフは、何よりもウルリカを尊重する。
それが故国を滅ぼすことであっても、ウルリカが怒り嘆き復讐を謳うなら、何処までも追従するというキャラクター。
それと同時に自分が死ぬ時には、ウルリカが人間として生き直せるよう、魔王に仕込まれた獣化する魔人としての種を除去する方法を用意していた知者でもある。
最初の時点で仕込んでないと魔人から戻せないらしいが、それでもゲーム内有能キャラの教皇さえできないことを確かにやってのけたキャラクターが、このゾイフでもあった。
「そちらの方は、何がお好きでしょう?」
俺は陰鬱とした雰囲気のあるゾイフにも声をかける。
けどゾイフは冷めた愛想笑いで返した。
「甘味は好みませぬ」
「あ、あたしだって、別に好きってわけじゃないけど」
何に対して意地を張ってるのか、ウルリカがそもそもの状況を根本から否定することを言いだす。
それをゾイフは可愛いものでも見るように、大いに頷いて見せていた。
イエスマンにしても、現実になるとこんななのか、この保護者。
あからさまにウルリカと、それ以外に対して違いすぎる。
これはもうゾイフのほうは置いておいて、ウルリカの機嫌取ったほうが良さそうだ。
「ただこちらも学生身分で予定がありまして。今日はたまたま時間があり軽食を取っていたのですが、次は…………五日後のこの時間では?」
ようやく首元を離されたが、ウルリカは不機嫌そうに顔を顰める。
「弁償なのにそんなに待たせるとか、舐めてるの? あたしは今、パイが食べたかったの!」
またぞろ掴まれそうな雰囲気に、俺は片手をあげて止めた。
「で、では、三日後。三日後の夕方ではどうでしょう? より良いものを選ぶこともしたいですが、それと同時に手に入れるのも困難な菓子も候補に入れたいので。弁償、弁償とお詫びも兼ねて」
足止め狙いで日数稼ぎを言ってみたら、またぞろ怒りを再燃させてしまった。
しょうがないから本当に必要な日数を告げる。
無理をすれば明日でも行けるんだが、それじゃ足どめにもならないし。
「ふん、いいでしょう。あなたの誠意に期待します」
すごい上からだ。
けどちょっと、お菓子への期待でソワソワしてるのも見てわかる。
うん、ゲームでも熱しやすく冷めやすい性格だったな。
そして一国を傾けるだけの戦闘勘は持ってる上に、いずれ聖騎士の紋章を得る。
それだけ戦いに向いた人物だと思えば、戦意を一気に高揚させる面もあれば、譲歩するだけの冷静さもあるってことか。
俺は乱れた服装を正しつつ、名乗って次に会う場所と時間を決めると、速やかに別れることにする。
ほぼ喋らなかったドミニクは、二人からしっかり離れてようやく俺に声をかけた。
「年頃の女性と次の約束か?」
「そんな浮ついた話でもなかっただろう」
げんなりすると、ドミニクは不思議そうに首を傾げた。
「だが、あの令嬢に対して、ローレンツは強張ってたりしなかったじゃないか」
言われて俺も気づく。
というか、あれだけ乱暴な振る舞いしたのに、ドミニクはウルリカの生まれの良さを見抜いたのか?
そんな観察眼からすれば、確かにトラウマとして語った内容と、俺のウルリカへの対応は違っただろう。
それがゲームキャラっていう衝撃かもしれないし、一方的に為人を知ってるからかもしれない。
だが変な誤解をしないよう、ドミニクに男を腕力で持ち上げるのは令嬢じゃないってこと言わないといけないが、それはそれでウルリカに申し訳ない気持ちも湧いた。
定期更新
次回:敵と味方2




