34話:レベリング4
ユリウス視点
ローレンの計画で、俺はロイエたちと魔物討伐の旅に出ることになった。
勇者として鍛えることは偉い人からも言われてるけど、ローレンは俺自身が強くなりたいって言うのを汲んでくれたんだと思う。
だから偉い人がひたすら鍛えるなんて指導するのとは違う、俺自身が体験して強さを感じられるようなやり方なを選んでくれた気がした。
そして頼ってもいいと思えるロイエたちもつけてくれたのは、本当にありがたい。
「そうだ、ユリウス。これも持って行け」
「何これ、本?」
ローレンに差し出された物を受け取ると、意地悪に笑われた。
「授業受けられないからな。次の試験範囲を押さえるための課題集を作った。旅の間に解いておけよ」
「え、えー? こんな本一冊あるの?」
「それでも選んで少なくしたんだ。旅の邪魔になるのも悪いからな」
笑ってローレンが言うと、ドミニクが真面目に尋ねた。
「まだ受けたこともない試験範囲なんて、どうしてローレンツが知っているんだ?」
「狩猟大会で懇意になった先輩に、傾向と対策教えてもらったからな」
「狩猟大会に参加できるだけの成績上位者か。いいな、俺も欲しいくらいだ」
「さすがに本一冊作るのは疲れるからもうやらない」
当たり前にローレンと話す姿は、付き合いの長さを感じる。
ドミニクは優等生というものらしく、エドガーが愛想はないけど真面目って言ってた。
悪い人じゃないし、協力的だけど、エドガーの弟と考えるとだいぶ性格が違うように見えるな。
それに、ローレンが苦労して作ってくれたと思うと、俺も課題集を無下にはできない。
そういう言葉を引き出して俺に聞かせるのは、エドガーに似た気遣いに思えた。
「ユリウス、道中で乗馬も習うんだろう? 慣れれば馬に乗ったまま読めるから」
「それができるのは余程の手練れだ。危ないから初心者が真似するものじゃない」
ローレンが言うのを、ドミニクが止める。
ロイエも頷いてるってことは、これはローレンが得意すぎるんだろうな。
ローレンも思い直したみたいで、頷いた。
「そうだな。魔物討伐なのに、無理して落馬で怪我なんてしてもな」
「ってことは、討伐に集中して、課題は後回しでも…………?」
「そこはやれ。無駄にはならない。卒業後のことも考えないといけないだろ」
はっきり言うローレンは、いったいどんなん将来を思い描いてるんだろう?
本当なら俺、農民で学なんていらなかったんだ。
けど、今は勇者で王家の後ろ盾があって、だから卒業したら王家に関係するのかな?
そうなると文字の読み書きも、貴族のやり方も知ってなきゃいけないかもしれない。
「ずいぶんとかいがいしいな、ローレンツ」
ドミニクが何処か探るように聞くと、ローレンが肩を竦めてみせた。
「友達を危険に放り込むんだ。これくらいやるさ。…………ユリウス、駄目だと思ったらすぐに退けよ。まだいけるじゃなくて、退き時を考えろ」
「う、うん。気をつける」
そんな話をして、俺たちは手を振って別れる。
他にも王都を出る人の波が行ったり来たり。
まだ馬にも乗らず、ゆっくり離れる中、ロイエが俺に話しかけた。
「エドガーという商会の三男との文通に、何か問題があるのか?」
「えっと、問題ってわけじゃないんだけどね」
「こっちの雇い主はケントニス商会だ。その身内を優先する分、あのローレンツのほうに言わないことがあるならこっちでも口を噤む」
これは、ばれてるなぁ。
エドガーに関して、俺とドミニクがローレンに黙ってることがあるって。
たぶんローレンも気づいてはいる。
けど気になってるってことは言っても、無理に口割らせないのは、そこにエドガーの意志があるってわかってるんだろうな。
「仲違いなら」
「ち、違うよ! そんなことない」
傍から見るとそうなるのか。
あの二人は仲がいいから意地張ってるだけなのに。
俺は黙っていてほしいってことを言って、事情を話した。
「文通をローレンとしないのは、その、エドガー今、字が汚いからなんだ」
「…………利き腕が潰れて、回復の予後も悪かったのだったな」
ロイエも知ってるのは、助けた傭兵に聞いたのかな。
俺も見舞いで見たけど、エドガーは魔物に潰されて右側の足と腕、肺を潰されたそうだ。
腹も裂傷ができて死んだと思われるくらい血を流したという。
けど生きてて、魔物に連れ攫われるのを傭兵が助け、肺はあえて胸を割いてポーション流し込んだのが良かったとか聞いた。
ただ助けた傭兵も重傷だったけど、あるだけの回復薬をエドガーに使ったという。
それでも治しきれなくて、助けた時からちぎれてた足は膝上まで切断。
右手は延命に関係ないから後回しにされて、歪んだまま回復したせいで、ペンを持つのがやっとの状態。
今は、無事だった左手で文字を書く練習中で、その練習の一環で俺と文通してる。
「俺も文字を習って一年で、全然上手く書けないから、エドガーからすると汚い字でも送りやすいらしいんだって」
「貴族のプライドの問題か。ずいぶん気負ったところのない相手だと思ったが、その辺りはやはり貴族のお坊ちゃんだな」
「いやぁ、俺も習い始めたばかりのぐにゃぐにゃの字は、見られるの恥ずかしいしわかるんだよ。それにちゃんと書けてた時を知るローレンに、見せにくいのも想像できる」
ローレンは付き合いが長いから、エドガーの字を見慣れてるのが一番気になるんだろう。
上手く書けない文字を見て、ローレンが苦しそうにする姿は、俺でも想像できるんだ。
きっと、エドガーもそんな顔させたくはない。
だから不自由な状態じゃ会いたくないし、文通もしたくない。
そんな意地を、家族のドミニクもわかっててローレンは言わないんだ。
「そういうことなら、こちらも何も言わないさ。ケントニス商会の三男には借りがある」
「借り? あ、護衛のこと? でもそれは」
「あぁ、命を救ったからケントニス商会からは許されてる。だが、そうなったのはあの三男坊の口添えがあったからこそだ。死にかけてる中、すぐに俺たちの弁明を行ったと聞く。ただの傭兵にそれだけ気を回した上に、働きとして賃金の上乗せとなれば、これは借りだ」
ロイエはまっすぐ前を向いて、仕事として話してるようだ。
依頼人を守るという契約の上で、達成することが大前提だった。
だからこそ、俺についてきたことでエドガーに被害があったのを、落ち度だと思ってる。
こだわりとか、プライドとか、信念というものかもしれない。
「エドガー言ってたけど、戦場で味方でも死体とか、死にかけの人を助けるのって、駄目なんだってね」
「あぁ、見捨てて戦い続けることが兵士としての務めだ。そうじゃないと負けて、もっと多くが死ぬ。助ける意味がない。できるのは専任の人員を呼んで救命することくらいだ」
けどその時には、魔物が死体を回収しようとしてた。
それをローレンは、企みがあると見て止めさせたんだとか。
「本人からは、俺もエドガーも聞いてない。けど、エドガーに言われて調べたドミニクが言うには、スタンピードでそんなことする魔物がいるのはおかしいし、突然のことで遺体さえ返せないなんて駄目だってローレンが最初に声を上げたんだって」
「そうらしいな。魔人のことといい、勇者をあの場に引き込んだことといい、慧眼だ」
ロイエはローレンを褒めるけど、エドガーもこのロイエをつけてくれたのは慧眼ってやつなんだろう。
何せ魔人がいるなんて誰も想像してなかったんだ。
「エドガー、命がけで助けるって判断してくれた傭兵に感謝してたよ」
どうもエドガー助けるために、重傷の傭兵は二度と仕事ができなくなったらしい。
ロイエとしても部下を失ってるはずだけど、そのロイエには悲壮感はない。
傭兵っていう職業の荒々しさと一緒に、乾いた、けれど暗いわけじゃない軽さのある笑みを浮かべてた。
「助ければ、死体の回収だけでもすれば、最悪雇い主を見殺しにしたとして、違約金取られてくたびれ儲けにはならないと思ったからだ。そう思わせたのは、お前たちだ。貴族の身勝手や子供の我儘なんて俺たちも巻き込まれてくそな仕事を押しつけられたこともある。だが、無茶しても報酬があると思わせられたから乗った。実際、ケントニス商会からも、あのローレンツからも報酬は確かにいただいてる」
そうやって多くの報酬があったから、借りになって、ロイエはまだこの国に留まってる
そして俺の手伝いをしてくれてるのを、縁って言うんだろうか。
頼りになるし、何より、俺のことを考えて行動してくれた友人たちが見込んだ相手と思えば、できる限り学ぼうって思える。
「魔人見つける前に、勇者って何かって話したよね」
「あぁ。…………勇者とは何か、思いついたか?」
「うん、俺は勇者って一人じゃ無理なんじゃないかと思うんだ」
ロイエは一人だから仲間を作るのが勇者だと言った。
けど、俺からすれば最初から一人なら、勇敢に前に出るなんてできないと思う。
「前に出て、一人で戦ってもいいと思うくらいの誰かが、勇者にはいるんじゃないかな」
「お前にはいるのか、ユリウス」
「いるよ。魔王が復活してて、魔人がスタンピードなんて危険なことを人々に対してするなら、俺は弟を守るために国も守る。それに、俺にできるんだって信じてくれてる友達がいるから、やれると思える」
俺自身に勇者なんて実感は、やっぱりまだない。
けどそんな簡単なことでいいなら、俺は前に出られる。
ただ俺を思ってくれる人に応えたい、それだけだ。
それだけでいいし、それ以上なんて俺には荷が重い。
結果として伝説になるかもしれないけど、ただの農民だった俺には、家族や友達のためってくらいの理由が、ちょうど良かった。
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