33話:レベリング3
俺は学院と王城を行ったり来たりするようになった。
王城は場所柄もあって、出入りに時間がかかる。
さらに一度入れば王城の端の一室に入った切りで、勉強漬けだ。
課題も出されれば次のための予習も言いつけられるし、その分学院に行く時間を削って家でこなさないといけない。
そんなことをしつつも、俺は王弟に直接命じられたことも忘れてない。
勇者であるユリウスのレベリングだ。
「本当に俺、学院休んでいいの?」
俺が集合場所に連れて行く途中で、ユリウスが不安そうに聞く。
「そこは公休が取れた。紋章持ちは特殊な能力が付随するから、国に関わる仕事を振られることも珍しくないらしくてな。ちゃんと王弟殿下からのご命令ってことで、ユリウスが腕を磨くために旅に出ることは公休として受理されてる」
ユリウスが魔人を撃退したっていう実績ができたのも、すんなりいった理由の一つだ。
近隣は不穏でも、この国は大丈夫。
そう思っていた大人たちも、魔人が現れたことで、今の時代に勇者の紋章を持つユリウスが必要だと認識したんだろう。
その分、勇者を自分の手で育てて支援して、歴史に名を残す、なんて意気込む人もいたようで。
俺は城で勉強づけにされてる合間に、武官から勇者の教導を譲れと迫る者がいるかもしれないからさっさと帰れと言われた。
そんな身分ある大人でも欲しがる位置に俺が据えられたのって、逆に何もない学生だから、王弟の意志通りやすいって目論見もあるんだろう。
あと、俺がユリウス個人と仲がいいことも、王弟側が何処かから圧をかけられた時に、勇者本人の希望っていうワンクッションにできる使いやすさか。
「ローレンがいてくれなかったら、俺公休なんて言葉も知らなかったかも」
「俺は、本格的に魔物討伐のための予定組むことなかっただろうな」
言ったら、ユリウスが責めるようにじっと見て来る。
「ローレンも来てくれたらいいのに」
「足手まといだよ。俺ができるのは自衛程度。ユリウスに必要なのは、教えて手本になれる手練れだ」
俺たちが辿り着いたのは王都の端にして、中心部に通じる賑わいのある場所。
魔物被害を防ぐために作られた外壁に穿たれた門前の広場だった。
そこで先に待っていたのは、ドミニクとロイエ傭兵隊だ。
「今回もよろしく頼む。前回は…………」
言いかけて、俺はロイエの視線の冷えた様子に気づいた。
これは、下手なことは言えない。
いや、言っちゃいけない雰囲気だな。
エドガーなら上手く取り繕うんだろうが。
そう思ったら、ユリウス伝いにエドガーから言われたことを思い出した。
謝るな。
「…………助かった。だからこそ、その腕を信用している」
ロイエは表情を緩めて口の端を持ち上げる。
「謝るなんて傲慢を口にするならこれきりと思ったが」
「傲慢?」
ユリウスが不思議そうに聞き返した。
言われて俺も思い至る。
「確かに俺は依頼をした。だが、それを受ける判断をしたのはロイエだ。俺が謝るっていうのは、ロイエの判断が間違いだと言うに等しいから、お前は間違ってるっていう傲慢なんだろう」
ロイエを見れば、頷いた。
貴族相手にそっちのほうが傲慢とも取れる。
だが、自ら責任を負い、判断を決める立場である自認があるからこそ、ロイエも矜持がある。
そもそも金と自己判断で、国さえ敵に回す傭兵だ。
貴族に上から何か言われるなんて舐められるという考えかもしれない。
ゲームでは、農民上がりの勇者の視点で対等に振る舞う仲間だった。
けど俺は貴族子弟で、どうしても立場的には上からになる。
周囲の目がなければ対等でもいいけど、伯爵家の名を俺のせいで貶めるわけにもいかないから、下手に出ることは決してできない。
だったら、謝るのはやっぱり間違いなんだろう。
「それで、ドミニクから今回の行程表は受け取っているか?」
「あぁ、渡した。その上でいくつか質問があるらしい」
黙って様子を見てたドミニクがそう応じると、ロイエが端的に行程表を評価した。
「対魔人を見据えるなら、温い。勝ったとは言え、向こうも本気の抵抗ではなかった」
ロイエ曰く、スタンピードを起こす片手間の抵抗だったという感想らしい。
致命傷を与えられるまで退かず、魔物を生み出すこともやめずにいたという。
魔人が自衛よりもスタンピードの継続を優先した理由で、考えられるのはやはり本営狙いによる暗殺の遂行。
その気になれば逃げられる状況で、せっかくのチャンスを不意にするのも惜しいと留まった可能性だ。
魔人と言っても、元来の人の性格が変わるわけではないと知る俺からすれば、不思議はない行動。
ただそうじゃないロイエからすれば、確かに俺の行程表の指示は、遠回りで無駄なことに見えるだろう。
「だからこそ、目的を達成せずに退かせた今、魔人が立て直す前に、まずは経験を積ませたい。向こうがまた動くにしても、今度こそ目的の達成を目指す。そのために準備をするだろうし、機会をうかがうはずだ。その暇に、危険を冒してユリウスを鍛えて疲労させるよりも、数いる魔物と戦わせることで経験と、実体験を鍛えてほしい。戦いと移動というだけでも、慣れてない側からすれば負担が過ぎる」
実際、狩猟大会では俺は帰ってから一日意識がなかった。
そもそも戦いの場という緊張を強いられる状況に身を置かれただけでも、気力は削がれるんだと知ることになったんだ。
そこからの立て直しや、気力の維持なんて経験でしか学べない。
「強敵を相手に腕を磨くのも、確かに必要になって来る。だが、ユリウスは才能こそあれ、まだそこまでの段階じゃないと判断した」
俺の理由立てに、ロイエはふと笑って見せる。
「よく友人を見てるものだな」
「本当は、直接助けられるのが一番なんだろうがな。俺にできるのはそれくらいだ」
答えると、何故かロイエは笑みの種類を変えて、意味ありげにユリウスを見た。
対してユリウスは照れ始める。
「なんだ?」
「な、なんでもないよ。えっと、俺にも行程表見せてよ。何処まで行くの? って、あれ?」
行程表を見たユリウスは、見覚えのある地名を見つけたらしく目を見開いた。
そして勢いよく首を回して俺を見る。
「スタンピードの発生なんて噂、すぐに広まる。そこに学生が巻き込まれたっていうのも、勇者が活躍したっていうのも。だったら、学ぶついでに故郷に無事を報告して来い」
行程表にはユリウスの故郷が書いてある。
ゲームでも墓標のアイコンでクエスト発生する地だ。
不自然な行程じゃない。
「ありがとう、ローレン!」
ユリウスは旅に故郷を組み込んだことで礼を言う。
ゲーム中で、一度も里帰りせずに唯一の家族である弟と死に別れたことを後悔する、勇者の姿がよぎらなかったわけじゃない。
ただそれだけのために組んだ行程でもない。
行程表はゲームで覚えてる限り、弱い魔物がいる所から、国内を回って強い魔物の出る地域へ。
そこから同じ道で戻る際には、だんだん弱い魔物を相手にすることになるけど、旅や野宿先頭の疲労が蓄積した状態のはず。
命の危険は少ないほうがいいけど、長距離を戦いながら移動するっていう経験にはなるように組んだ。
そう考えると、ゲームではチュートリアル以外意味ないと思っていたこの国のクエストも、安全を担保しながら経験を詰めるとも言える。
これが終盤の、敵の雑魚さえ高レベルな地域に生まれてたらと思うとぞっとするもんだ。
「エドガーからも、手紙くらい出せと言われたんじゃんかったか?」
俺が一人ゲームの仕様を考えてると、ドミニクがユリウスに聞き捨てならないことを言った。
「うん、エドガーとの手紙も慣れてないし、俺の村、文字読める人少なくて、どうしようかと思ってたんだ。直接行けるならそれが一番だよ」
「ちょっと待て。…………は? 俺には会いもしないくせに、ユリウスとは文通してるのか、エドガーは?」
不満たっぷりに言えば、ユリウスとドミニクは目を見交わして俺を見ない。
その上、ドミニクが話を逸らしてきた。
「そうそう、この魔物討伐の旅のこと知ったエドガーがな、ユリウスのために装備を用意させたんだ」
「おい、エドガー元気なら俺に手紙の一つくらい…………。っていうか、装備用意できるくらいには元気だってことは、ドミニクも言えるだろう? なんで黙ってた?」
「そこは、変に意地張ってるエドが面倒で」
「おい」
ドミニクが無視したかと思えば、今度は目を逸らして言いやがる。
しかも取り出して見せる装備は、ゲーム中にもあった通称赤装備と言われるもの。
初期にあれば便利だが、必要素材が中盤でしか手に入らない。
しかも中盤に作っても、いまいち攻撃も防御も突出できない半端装備になり下がる。
けど赤装備と言われるくらい、赤い軽鎧とローブを合わせた感じでデザインがいい。
それを主人公が着れば似合うし、このゲームも始まってない状況なら、不遇の赤装備だって確実に輝ける。
「…………ったく」
言いたいことはある、文句だってある。
だが、エドガーのこういう外さないところは、以前のままだとわかって言うことはない。
体が不自由になっても、その心や意志は変わってないんだろう。
だから俺が見落とすだろうところを、フォローのために手回ししてくれるし、そうできるだけ回復の兆しもある。
それがわかって、俺の口元には笑みが浮かんでいた。
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