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3話:ゲーム転生3

 生きるべきか死ぬべきか、なんて前世では使い古された台詞だ。

 けど現状の俺の心境がそれだった。


 戦うべきか逃げるべきか。

 考えても答えは出ないし、具体案も難しい。

 ともかく今できることは、ことの中心になる勇者に近づかないこと。

 ゲームでは国の滅亡に関わる戦争に、延々巻き込まれる主人公さまなんだ。


「なーんか、ローレン。ずっと勇者くん見てんね?」

「え? そ、そんなことは」

「ま、わかるよ。不慣れな感じで危なっかしくてさ」


 エドガーがわざわざ側に来て、訳知り顔で頷く。

 警戒はしてるつもりだったけど、そこまであからさまに見てたか?

 気をつけよう。


 なんて思ってたらエドガーがさらに言った。


「そんな心優しい優等生のローレンにお願い! 次の授業の課題に出た、古語の解釈で全然文章にならないとこあんだよぉ」

「写させはしないぞ」


 言った途端、持っていた課題を書いたノートを出して見せる。

 あれこれ調べた単語の解釈も書いてあって、確かに課題を解こうとした形跡はあった。


「あぁ、ここ文法無視してるからおかしくなるんだよ。この単語は、この文法だと接続詞になるんだ」

「あ、あぁ。だからなんかおかしな話になってたのか。やぁ、助かった。前回の課題も評価悪かったから、また評価落とされると課題追加されるんだ」

「大変だな」

「頭のできの違うローレンにはわからねぇだろうな」

「俺だって勉強した上でのことだよ。精進しろ」

「ま、それもそうか。社交に出てこないで何してるかって言ったら、真面目にお勉強してるんだもんな。はぁ、神に愛された紋章持ちくらいか。才能頼りでいられるの」


 そういうエドガーに悪意はないが、そう甘くもないと知ってる身としては頷きにくい。

 ゲームの中にあった設定でもあり、この世界での常識である神は、正直厳しいと思う。


 この世界にいるのは、光の神と闇の神。

 その神々から目をかけられた人間の体のどこかに、紋章と呼ばれる印が浮かぶ。

 その紋章は与えられた人間の使命を告げ、必要な能力を与えるものだと言われた。

 ゲームにおいて、勇者は紋章を与えられて、勇者とされた少年だ。

 もちろんクラスメイトにいる勇者もまた、紋章があることで勇者として見いだされ、国からの援助でこの学院にいる。


「けど、勇者って取り立てられて何になるんだろうな? 魔王もいないから、伝説みたいに討伐の旅に、なんてこともないだろうし。騎士か近衛か?」


 手持無沙汰になったのか、エドガーが勇者の未来を想像する。

 けどその伝説みたいなことが起きるんだよな。

 しかも紋章持ちの勇者を、囲い込むつもりだったはずの国が滅ぶおまけつき。


「今のままだと、何処かの令嬢に既成事実作られて、貴族に婿入りさせられそうだな」

「そんなに紋章付きの家門になりたいかねぇ」


 周辺の文化で紋章は強い影響力がある。

 そもそも国王が紋章でもって、神から王と認められたというのが周辺国の始まりだ。

 だから王権を強めるためにも、紋章持ちは優遇される。

 そして貴族家も、紋章を持つ者がいたんだぞと誇示する風習があった。

 それが紋章付きと呼ばれる、家の紋章にかつて一族に現れた紋章を刻むことが許される貴族。

 つまるところ英雄扱いだったっていう誇りがあるんだ。

 それが権威主義化して、今じゃ、紋章持ちを一族に抱き込んで刻んで上辺だけ誇るアクセサリー扱いだけど。


「勇者からすれば、迷惑な話だろうな」


 俺は言って、エドガーに顎を振って見せる。

 視線の先では、女子生徒に囲まれた勇者がこのところ見慣れた困ったような笑顔を浮かべてた。

 勇者を囲むご令嬢たちは、自分が一番親しくなるんだと勝手にキャットファイトを始めてる。


「あぁ、あの二人の家、今親が同じポスト争ってるんだよ」

「そんなのに巻き込まれた勇者が本当に哀れだな」


 エドガーも頷く。


 実際、現在の政治闘争に勇者は関係ない。

 王族の庇護で学院に入ったからって、王族に伝手があるかと言えばまた別の話だ。

 けど全く縁のない貴族からすれば、蜘蛛の糸ほどの繋がりでも自分の権威を高めるために欲しがるものらしい。


「これで周りの男子生徒が味方だったら良かったんだがな」

「あー、勇者を従えようって奴と、将来取り立てられる勇者の下につこうって奴だな」


 キャットファイトする令嬢と変わらず、勇者をアクセサリーにしたい奴や、しがらみのない勇者を利用したい奴なんかが集まってるから止めるわけがない。

 利用する方向の違いでそっちはそっちで睨み合いだ。


「授業中以外は、あんなふうに囲まれて困らされてばっかりだな」

「ねー? 呼び出しも男女問わずだし、ちょっと荒っぽいこともあるみたいだぜ」

「そうなのか? あんまり荒っぽいこと得意じゃなさそうだが」


 言ってて、そんなことないことはわかってる。

 だってゲーム主人公だ。

 プレイアブルキャラクターとして、相応のステータスと技能が製作サイドから与えられてる。

 しかも主要キャラクターだから、後から加入する仲間にも劣らないように成長して最終戦もこなせるポテンシャルが備わってるんだ。


「そこら辺はやっぱり勇者の紋章すごいみたいで。勇者に勝ったとか吹聴しようとした馬鹿が、簡単に畳まれたらしい」

「つまり、わかりやすい殴り合いよりも、人付き合いのほうが苦手なわけか」

「誰かさんと似てるかもな」

「んなわけないだろ」


 エドガーが俺を見るが、そんなわけない。

 俺はゲームに登場しないモブだ。

 勇者の同級生なんてゲームには登場しない。

 存在を想像できる余白はあるが、ゲーム開始と同時に二度と現れなくなる存在。

 つまり俺は、ゲームの中では死んでるんだ。


 貴族の嗜み以上に武術に関してはちょっとばかり頑張った。

 貴族家ってある程度大きいと、自前で騎士団抱えてる。

 それで領地の警察にしてたり、出歩く時の護衛にしてたりするんだ。

 あとは魔物もいるからその駆除には確実に必要になるからな。

 そんな騎士団の訓練にたまに混ぜてもらって、武器の扱いも指導してもらうこともあり、俺は文官系の中では鍛えてるほうの貴族子弟だ。


「六人に囲まれて無傷で逃げ果せたとか聞いたなぁ」

「俺には無理だな。というか、逃げたにしても無傷ってすごいな」

「だなー。やっぱり伝説の勇者は違うってことかね」


 情報通なエドガーに、緊張感はない。

 これはやはりそういうことだろう。


 ゲームでは国々が争い滅ぶ理由の裏には、魔王の暗躍がある。

 つまり、五百年前に封印された魔王は復活するんだ。

 そして勇者のいる国を最初に滅ぼした。

 その後も復活を人々に悟らせず、復活を明言されたのはゲーム終盤になってから。


「…………魔王が復活してたりしてな」

「まさかー。それだったら伝説どおり何処かの国が滅んでるって」


 冗談めかせばエドガーも本気にせず笑う。

 けどその伝説どおり滅ぼされるのがこの国なんだよなぁ。

 しかもうっすら覚えてるゲームの内容から、魔王何年も前から暗躍してんだよ。


 ゲームで魔王本人が出てくるのは、最終決戦のみ。

 それ以前に勇者の前に立ちはだかるのは、魔人と呼ばれる配下だ。

 それは魔王に与する人間で、闇の紋章を持つ者の総称。


「おっと、憩いの時間は終わりだな」


 エドガーは予鈴に反応してそんなことを言った。

 席に戻る前に勇者を見て、肩を竦める。


「勇者くんからすれば、これからが憩いの時間かもしれないけど」


 見れば、席に戻る人々から解放されて肩の力を抜く勇者がいた。

 授業の間だけは、他人にまとわりつかれることがない。

 ただ、それはゲームでは語られなくても同じ状況だったはずだから、大きな問題にはならないだろう。

 まだ授業ができている、受けられる余裕がある。

 けどゲーム開始が近づくにつれ、この国は学徒動員をしなければいけないほどに追い詰められるんだ。


 勇者の持つ、光の神によって与えられた光の紋章。

 魔王の持つ、闇の神によってもたらされた闇の紋章。

 光も闇も、紋章持ちは現れる。

 ゲームとしてわかりやすく、光の紋章があるなら味方。

 闇の紋章があるなら敵の魔人という区分けはできるんだが、この紋章って、神の使命から悖る行いをすると消えるとかあるんだよなぁ。


「魔人、か」


 俺は授業の準備を始めながら、エドガーに中断された読書に戻る。

 それはかつての魔王と勇者の戦いを記録した戦史。

 そこにも魔王に与する魔人の存在が描かれている。

 ただ見た感じ、中ボスや大ボスのような派手に戦うタイプ。

 俺が前世でやったゲームに出てくる、暗躍して暴かれた末に正体を現すような敵じゃない。


 もしかしたら魔王も、前回の負けで学んでやり方を変えたのかもしれない。

 そうなると、長くて三年の猶予があるとしても、すでに魔人は国々を混乱に陥れるため動いてる可能性がある。

 それはもちろん、この国にも言えるかもしれないことだった。


毎日更新(一週間)

次回:ゲーム転生4

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