29話:戦勝会4
解釈一致とは言え、王女であり権威のある聖女だ。
貴族の家に生まれたからには軽々しくは話せない。
さらに言えば、ゲームでの勇者との初顔合わせは亡国となってからのはず。
聖女は勇者の紋章持ちがいるということをは知っていたけど、その時点で勇者とは初対面で自己紹介してた。
つまり、ここでモブでしかない俺が勝手にべらべら喋っていいのかって話だ。
もちろん、国が滅ぶ絶望的な状況での初対面をしろとは言わない。
っていうか、そうなってると俺死んでる可能性高いし、ゲームでの初対面はなんとしても回避するつもりもある。
だけど、ゲームの主人公とヒロインのイベントに、俺が無闇に干渉するのはどうかと思ってしまう。
「…………光の神より与えられた使命にそぐう力と心を持つ、勇者であります」
俺は言葉を選んで、貴族として聖女ルイーゼに応じた。
友人だからって贔屓もなくはないが、現状魔人を倒すっていう勇者らしいことしてるし。
王族として相応に情報を持ってるなら、そこを汲んで俺の言葉も受け入れるだろ。
なんて思ったんだけど、ルイーゼは困ったように質問を重ねた。
「ご友人として平素はどうされているのでしょう? ぜひお聞きしたいわ」
「学生の身ですので、学業に邁進しております。狩猟大会参加に関して、他の者たちよりも勉学に割けた時間が短いにも拘らず、努力を惜しまず資格を得ました」
人柄を聞きたいんだろうが、俺は避けて、言ってしまえば無難に答える。
王弟はルイーゼに助け舟を出すことはしない。
ってことは、これで正解か?
そもそも相手は王女で、その上紋章持ちだ。
そして勇者は紋章持ちで、王家の保護の下にある。
その状態で戻ったばかりとは言え、ルイーゼはユリウスを知らない口ぶり。
つまり、王家はこの二人の顔合わせを予定してない。
「諦めろ、ルイーゼ。今日の宴にお前が参加していないことを汲まれてる」
「聞くとおり、ズィゲンシュタイン伯爵のご令息は優秀ですのね」
忍び笑いを漏らす王弟に、ルイーゼは子供らしさのある皮肉で不満を表す。
やっぱり今日参加のユリウスに会わせない意図があったらしい。
そこら辺の王家の思惑はわからないし、ただの学生の俺が関わるべきでもないだろうとは思う。
けどそれなら、友人と認知されてる俺に会わせたのはなんでだ?
「そろそろ、役目を果たしなさい」
静かに告げる王弟に、ルイーゼの雰囲気が変わった。
いや、これはゲームでも見た表情だ。
聖女が紋章の力を使う時の演出で入る、バストアップのイラストで見てる。
紋章持ちが敵味方にいて、特殊能力がついてる設定だ。
ゲームでは、必殺技の発動という形で強調され、個別の演出に昇華されてた。
その中で、聖女の必殺技は浄化。
今それに似た光が放たれ、神秘的な表情で力を発揮してるのはわかる。
けどここでする必要はなんだ?
「まさか…………」
「静かに」
漏れた呟きを、王弟に止められた。
ルイーゼは虚空を見つめて、ただ室内には静寂がある。
その表情は陶酔とも、放心ともとれる様子で、強いて言うなら遠く耳を傾けるようにも思えた。
能力を使うなら、それは聖女の力だ。
その中でも有名なのは、ゲームの必殺技になった浄化じゃなく、神の言葉を聞く預言。
なんでここでとか、ゲームじゃ突然降りるもんだっただろとか、自分でやろうと思ってできたのかよとか色々考えは過る。
けれど次の瞬間、瞬きをするとルイーゼはそれまでのように少女らしい表情に戻った。
「何もありません」
「そうか」
聞きたい。
すっごい詳しく聞きたい。
けど、王族同士の会話に横やりなんて入れられねぇ。
これはやっぱり、ゲームでも最強格だった教皇に会いに行ったほうが、この国も無事に済むんじゃないか?
王族に会うことも難しい俺でも、向こうは未来視持ちだ。
だったら俺が来て話す可能性を察して動いてくれる可能性がある。
「ですが、私はこの方だと思います」
「そこは聖女の感覚であり、教皇猊下の示唆。私がどうこう言えるものでもない」
何かと思ったら、王弟が引く姿勢になった。
聖女の感覚って、やっぱりさっきの預言に関してか?
そして教皇の示唆っていうのは、未来視?
確かこの能力の違いは、答えがそのままわかるのが預言で、選択肢の結果を見れるのが未来視って話だった。
そしてなんの答えも預言では得られなかったルイーゼが、俺を見て笑いかける。
「教皇猊下の未来視はご存じ? それによって、いつも惑わせるようなことをおっしゃるの。ただ浅慮な者は惑うだけとわかっておいでだから、教皇猊下は無闇にはそのお力を聞かせません。ですがこの度帰国を指示し、そしてもう一つ私は示唆されました」
ルイーゼが細い指を立てて見せる。
王女らしい淑やかさだが、ゲームで国を失くしても旅立ち、荒れる国々を回る強かさもあった。
そんな芯の強さを持って、俺を見ている。
「問わず語りを望む者に告げよ、境を越えて来るなと」
言われて、驚きに俺の心臓が大きく音を立てる。
そんな経験今までない。
だけど、確実に教皇が俺の行動を読んで言っていることを、確信した。
「問わずとも、語ってほしい。そう思う状況は今。けれど、私には教皇猊下のお言葉の意味はわかりません。神にお答えを求めても、告げられる言葉はありませんでした」
それはそうだ。
ゲームで預言があるのは、世界が危機に瀕したり、勇者たちが危機に陥ったりするときばかり。
そもそも、境と言われて思い浮かぶものは多すぎる。
けれどその指す意味は、俺にとっては明確だ。
会いに来るな。
ゲームの境界を越えた行動をするな。
たったひと言で、そう忠告されたのを感じた。
「所見を述べよ」
呆然とする俺を叱責するように、王弟が命じる。
俺に拒否はできないが、そのまま言うわけにもいかない。
この世界がゲームだとか、誰が信じるんだよ。
俺は幽霊が見えて話せます、とか言うのと同じくらい信憑性がない。
それに境を越えるなと言われた今、そういう話もしないほうがいいんじゃないか?
魔王が東の国で復活してますなんて言って、王族が対処しないわけもないし、それが逆効果になる可能性もあるかもしれない。
「…………含意が広すぎて、国境を越えるようなことはするなと、仰っているように思います」
「他」
無難を選んだら、王弟から追撃が来た。
正直、話せるなら王弟に話したい。
何せ、この国の軍事で、亡国にさせないためには必要な人だと思う。
ただここで言っても情報源が言えない以上、敵の味方と思われるだけの可能性が高い。
けど、境を越えて来るなと言われたからには、明確な線引きが存在するはず。
それは何処までだ?
教皇に会うのがアウトなのはわかるが、ゲームを覆すのは何処までがセーフなんだ。
すでにスタンピードで魔人の下に勇者を向かわせるなんて、たぶんゲームにもないことをやっちまってるんだ。
だいたい、そのまま滅べなんて言う意味なら、俺は受け入れられない。
だが来るなと言うなら、何処にも行かず、この国で対処する限りは許容範囲なんじゃないか?
「…………今般の事態において、私の越権行為を、質すお言葉にも聞こえました」
「来るなと教皇猊下は仰せだ。近づくような考えがあれば語れ」
王弟の鋭さ舐めてた。
まさか俺が会いに行こうかと考えてるのまで見透かしてるなんて。
だったら、ここはその方向性を取るしかない。
「確かに、教皇猊下にお目見えしたく思いました。魔人が、倒れたという勇者たちの言葉を聞いて、目くらましで逃げた可能性を考え、そのお力を借りられるならば、魔人の調略を防げるのではないかと」
「つまり、魔人は倒されていないと思っているのだな?」
どころか、もし倒されていてもそれで終わりじゃないと知ってる。
何せゲームに出てくる魔人は二人一組の敵なのだ。
片方は魔王の配下。
そしてもう片方は、その配下によって獣性を引き上げ、巨大な獣型のボスへと変容させられ魔人にされる者。
つまり、巨大ボス役と参謀役の二人一組が、ゲームに出てくる魔人だった。
ただ問題は、魔人同士が連携してない例もあること。
同じ目的で協力関係にある場合もあれば、配下のほうが一方的に巨大ボス役を巻き込んでる場合もある。
さらに片方が倒されていても、片方は残る例もあった。
「これで終わりだと力を抜くよりも、疑って、次はないと確信を得たい小心さ故に」
「ズィゲンシュタイン伯爵は生真面目で慎重だと聞こえている。その上で良い教育をしているな。であるならば、ズィゲンシュタイン伯爵家のローレンツ」
「は」
強い声で呼ばれ、思わず椅子から降りて膝を突く。
「来るなと言うならば留まれとの意だろう。そして聖女が言葉を告げることを選んだ。ならばそなたに命じる」
「謹んで、お受けいたします」
それ以外に答えられないにしても、何を言われるかわからない不安に心臓が荒ぶる。
「未だ何ごとも習熟には及ばぬ勇者ユリウスを助け、結果を導け」
「…………仰せの、ままに」
拒否なんてできない俺に課せられたのは、勇者育成というゲームのような命令だった。
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