28話:戦勝会3
王弟に呼び出されて望まぬ密談が始まった。
ただそこに不躾な乱入者がさらに現れる。
しかもそれは、ゲームでの主要キャラ、聖女だった。
ゲーム画面のデフォルメされたイラストを、リアルにした容姿なのはユリウスと同じ。
だが今の俺にはそれ以上に、意味を持つ容姿をしてる。
王弟と血の繋がりを感じさせる金髪碧眼。
俺と同じ歳で、可愛さもある顔立ちは現実となった今でもヒロインとして申し分なく、王族として確かな優美さを感じさせた。
「クラレンツ公、そろそろ私もお話に加えてくださいな」
「ルイーゼ、せめて呼んでからきなさい」
不調法を叱る王弟に、俺は慌てて立ち上がろうとする。
けれどそれは王弟自身が手を挙げて止めた。
第三王女ルイーゼ。
少し悪戯っぽく笑う様子は、しとやかな印象から一転して少女らしく快活だ。
それは、影を持った清楚な聖女という、ゲームの姿とも違う。
ただ一人、落とされた城から逃げ果せた王族の唯一の生き残り。
それが王女にして聖女である、ゲームのヒロインだった。
「初めまして、ズィゲンシュタイン伯爵家のご令息」
「恐れながらご挨拶申し上げます。…………第三王女殿下がご帰還していたとは知らずにおりました」
噂は聞いたが、それはもっと後に戻ってくるような雰囲気だったはずだ。
それがすでに帰還して、しかも公表されてないなんて。
密かに戻って来る以外にないが、その理由を俺は知らない。
ルイーゼは少女らしいが、落ち着いた様子で笑みを浮かべる。
王族二人と同席することになってしまった俺の緊張など気にせず話し始めた。
「夏の社交期に合わせて戻るつもりでいたのです。ですが、それよりも早く密かに帰国するよう、教皇猊下より指示がありましたので」
「教皇猊下から?」
思わぬ言葉に、慄くように繰り返す。
といっても俺は信心深いわけじゃない。
あと、この周辺文化の教皇って、宗教権威であると同時に確かな一国の主だ。
そして必ず紋章持ちが立たなければいけないと決められた王位っていう程度の認識。
だが、ゲームだとまた違う重要度があった。
魔王討伐直前に赴く国の王で、終盤になると何処の国もガタガタな中、唯一国を保っていた王になる。
それと同時に、国が滅んで聖女が頼った先でもあった。
つまり、ゲームの始まりは、魔王を倒すなんて話じゃなく、教皇を訪ねるというもの。
それが魔人との戦いの中で、国が滅んだのは魔王の復活と暗躍のせいだと知るのだ。
「教皇猊下が指示して、ルイーゼが戻り、今回の件だ」
王弟が含みを持って、現状を並べる。
それは、不信心な俺でも知れるくらい、教皇の有名な特殊能力を示唆していた。
「未来視、ですか?」
今代の紋章持ちの教皇は、未来視の能力を持っているという。
そのため、何ごとも過不足なく対処し、栄え、若くして英邁な王として名高い。
未来にとって必要とあれば、辣腕も振るうという。
そして実際ゲームでも、未来視の能力を発揮していた。
そのお蔭で魔王の復活に気づいて、送り込まれる魔人が国を荒らす前に対処。
けれど、魔王も本気で滅ぼしに暗躍しており拮抗状態。
それが国ごと殺すつもりだった勇者と聖女が逃げ延びても、まともな追っ手が現れない理由ともされた。
それまでの勇者の旅路と成長は、教皇が持ちこたえたからこそ得られたものだったのだと、ゲームでは明かされる。
「教皇猊下は無駄な指示は出されませんので、今回のことに私も関われと言うことかと」
「それにしては戻ったのが終わった後とは、どういう了見だろうな」
「スタンピードですか? 確かに私の聖女の力があれば、荒れ狂う魔物の鎮静には役立てたでしょう。ですが、狩猟大会の場に私がいたとも限りませんもの」
「いや、ヘンリクがいたのだ。一番歳の近い兄がいればそなたなら、陛下に止められても足を運ぶ理由にしただろう」
「まぁ、そのようなはしたないこと」
俺の目の前で繰り広げられるのは、仲のいい叔父と姪の会話だ。
だが王族なんだよ。
そんな雑談するなら俺を開放してほしい。
ちょっとゲーム知識との齟齬で混乱が起きてるんだ。
だってゲームだと、教皇は聖女を拒絶するんだよ。
まぁ、実際設定上聖女は、魔王に罠を仕込まれてたからしょうがない。
それに気づかず長々旅して来て、結果、教皇が保っていた均衡を崩す一手にされる。
最善目指して孤軍奮闘してた教皇が斃れると、抑えてたラスボス前の強敵が勇者というプレイヤーに向かう。
さらに死んでしまっても、助言を残して勇者をサポートするというキャラクターが教皇だった。
「教皇猊下のご機嫌は?」
「変わらず無駄を省きたいと言いながら、祝賀は派手なほどいいという矛盾した方なのです。今回の帰国も、早いほどいいがあまり国内にいるなという矛盾がありました」
ルイーゼの言葉に俺は息を詰める。
うろ覚えだが、確か魔王に罠を仕込まれるのはこの国にいる時、つまりゲーム開始以前からだ。
未来視のできる教皇が、聖女を国に帰したというのが、俺にとってはとてつもない矛盾に感じる。
だって教皇は未来視で聖女が邪魔になるのわかってた。
なのに罠を仕込まれる場所だろう、この国に早く帰れと言うのは、おかしい。
「さて、ズィゲンシュタイン伯爵家のローレンツ」
「は、はい」
考え過ぎてて声が引き攣った。
よく考えたら王族無視して考えこむって、無茶苦茶無礼じゃねぇか。
「この報告書には、紋章持ちならスタンピード特有の状態になった魔物の異常が黒い霧となって見えるとある」
父上、そんなのも書いたのか。
けどそれないと、俺がスタンピードで勇者行かせた理由づけにもならない。
ただ王弟がなんでそこに目をつけた?
いや、亡国にしないため相談するにはいい機会なんだ。
どうもこの方の圧が慣れないだけで、有能なのは確かだし。
ただ、聖女が現れたことで、いっそ教皇のほうに持ち込むのもありかとも思う。
未来視なら俺が何を言うかわかるだろうし、将来的に起こりえると認めてもくれそうだし。
ゲームうろ覚えだったにしても、もっと早く教皇っていうキャラクター思い出してれば、思い出してれば、狩猟大会、参加、させなかったのにな…………。
「勇者一人だというのに、何故紋章持ち全員に共通すると考えた?」
言われて、俺は失態に気づく。
「その目にも、黒い霧が見えたということか?」
「え? …………え、いえ、そのようなことはあり得ません。私に紋章など」
まさかの勘違いだな!
ゲームの仕様を知ってたせいで、紋章持ちと思われるなんて。
これはもう、言うしかないか。
後で謝るか、それとも知らんふりするか。
ともかくごめん、ロイエ。
「実は、友人が雇っていた傭兵が、紋章持ちではないかと」
じっと見る王弟に、俺はさらに言葉を続けた。
「もちろんお疑いでしたら、私の身体検査でもなんでもご随意になさってください」
実際俺は紋章持ちじゃない。
前世あるから毎日風呂入るし、貴族だから風呂の世話されて裸も見られる。
けどそんなのあるなんて言われたことないんだ。
王弟は真顔で俺に詰めるのを、ルイーゼが少女らしい怒り顔で口を挟む。
「クラレンツ公、意地が悪いのではありませんか? わかっていて焦るのを面白がっているだなんて」
面白がられてるのかよ!
やめろよ、性格悪いな!
そんな相手にロイエのこと言っちゃったじゃないか。
王族なら一介の傭兵なんてと思ったけど、この人なら面白がって呼びつけるとかしそうで申し訳ないんだが。
するとルイーゼは、俺のほうに申し訳なさそうな目を向ける。
そうして影のある表情をすると、途端にゲームの雰囲気が表われた。
現状は家族みんな揃っているけど、ゲームが始まればただ一人の生き残りで、今楽しげに会話してる王弟も死んでる状況になる。
そう思うと、今の明るい表情はゲームのヒロインからは離れてるけど、素直に可愛い人だと思えた。
「ふ、その傭兵が紋章持ちではないかという噂があるのは知っていた。つまり、紋章持ち二人を向かわせたわけだな」
「はい、二人であればスタンピードに自ら近づくような危険な偵察も、こなせる、いえ…………この二人以外こなせないと考えました」
ちょっと笑った王弟に、今度は焦らず応じることができた。
俺だって面白がられてるってわかって慌てるなんて、笑いのネタ提供する気はない。
そんな王弟は、次にルイーゼへと目を向ける。
「凡そこちらの疑問は解決した。ルイーゼが話をしたいというのであれば聞け」
できればこの部屋から出たいけど、王女さまのお召しじゃ断れない。
何より、王弟に許可を出されて、ルイーゼは嬉しそうに口元を綻ばせる。
「ズィゲンシュタイン伯爵令息は、勇者の方と親しいとお聞きしております。…………その、どのような方かお聞かせくださいませんか?」
可愛く小首を傾げるが、聞かれるのは他の男の話。
普通はがっかりするところだろうが、俺はゲームとの解釈一致に密かに意気をあげた。
定期更新
次回:戦勝会4




