27話:戦勝会2
その後も謝罪行脚について来ようとしたイジドラ嬢を、ヤディスゾーン大公が止めてくれた。
父上もさすがに公爵令嬢の介入に困り、俺に困惑した目を向ける。
「あのようなご令嬢と、いつの間に?」
「いえ、声をかけられたのは狩猟大会が初めてですから、そう親しくはないです」
さらに回った先は、さすがにアウェーで嫌味や罵倒紛いの叱責もあったけど、それでも学生の行動に対して褒賞が出てる。
つまり王家が、俺の独断を認めたって体裁だ。
事後承諾だけど俺の行動は罰されないから、今この時に鬱憤晴らしして、後は忘れてくれっていうサンドバッグ。
正直、やらかした俺につき合わせた父上には申し訳ない。
「この度は、我が身の未熟さを大いに恥じることとなりました」
俺は謝罪行脚が終わって、改めて父上に頭を下げる。
父上は溜め息一つ。
「すでに言ったが、拙いと思ったなら止まりなさい。状況が許さないにしても、後から挽回するための布石を打つことに頭を働かせるように。それさえもできないのであれば、分不相応なことなのだ。そうであるなら、できる方に委ねなければならん。今回王家がお許しになったからこそ、今お前はこの賑々しい場に許された。努々、慢心をするな。今回の件で褒められることと言えば、その運の良さしかない」
「はい、重々承知しております」
本当そうだと今なら思う。
せっかくユリウスもイジドラ嬢もいたんだから、なんか理由つけて王弟に直接会いに行けば良かった。
こうして褒賞って言って、学生の独断を許してもらえるなら、話を聞いてくれる人だったんだろう。
しかも俺捜してるってエミール伯父さん言ってたから、主導する存在がいたことも把握した上で、参加した学生全体に褒賞って形で隠れてるこっちの意図も汲んでくれてる。
完全にゲーム知識は俺しか知らないからって、暴走してたわ。
その分、ゲーム知識どおり魔人がいて、ユリウスとロイエが対処してくれたからことは収まった。
運どころか、他力本願でしかない上に、頼り切らずに危険な橋をわざわざ渡ってる。
「ローレンツ。くれぐれも、粗相のないようにせよ」
「え?」
「ズィゲンシュタイン伯爵のご令息であられますね? お話し中に、失礼」
父上の呟きと同時に、声がかけられた。
見ると、宮殿に仕えるお仕着せの人がいる。
しかも、爵位持ちの父上じゃなくて、俺に声かけてる?
「クラレンツ公より、ズィゲンシュタイン伯爵のご令息をお呼びせよと申しつかっております」
「は…………、すぐに」
父上は知らんふりで残り、義母上と合流してる。
義母上も俺が連れていかれるのを困ったように笑いながら見送る姿勢だ。
これは、俺が王弟に呼ばれるのわかってたな?
せ、せめてひと言言っておいてくれよ!
謝罪行脚で疲れてるところに、そんな大物との対面なんて、神経擦り切れるって!
「こちらでお待ちです」
俺の心の声なんて意味もなく、案内されたのは、宴が行われてる大広間から離れた部屋。
そんなに広くないって、明らかに密談に使う感じじゃねぇか。
一学生をこんな所に呼び寄せないでほしい。
そんなことを心の中で言いつつ、俺はゆったり座る王弟クラレンツ公の前に立つ。
「ズィゲンシュタイン伯爵家のローレンツ」
「は」
たぶんここで謝るのは違うな。
だって許すって言ってる本人だ。
じゃあ、感謝か?
けど呼ばれたのが一応説教はしておくかくらいの感じだったら、だいぶ俺が空気読めない奴になる。
「非公式の場だ、緊張をする必要はない。まずは座りなさい」
「…………失礼いたします」
言うとおり、人も最低限で本当に非公式だってわかる形。
けどそれを世では密談ということは変わらない。
いや、そう言えば急なことですっぽ抜けてたけど、これは最初に狩猟大会に参加しようと思ってた理由と合致するな。
というか、想定してたよりも数倍速く、軍事の最高責任者と対面で話せる事態だ。
しかも魔人なんて言う、魔王と紐づく存在が報告された。
だったら、隣の国で実は魔王が復活してますよって言えるチャンスじゃないか?
「呼ばれた理由に心当たりはあるはずだが、まぁ、こちらから聞こう。勇者からは聞き取りをしたが、その勇者に指示を出した当人からはまだだ。そのために呼んだ」
それ、尋問って言わない?
あの、壁際の侍従みたいな人が、紙とペン取り出したんですけど?
完全に記録取られるのに、これ非公式なの?
って言うか、やっぱり俺が主導してたのばれてるな。
ユリウス動かしたのもわかってて、王弟直々に聞き取り?
それで緊張するなって無理じゃないか?
というか、この状態でどうやって魔王が東の隣国にいますって言おう?
そもそもこんな尋問紛いの状況で言っても怪しまれるだけだし、俺にもエドガーのようなコミュ力があればどうにかなったのか?
「まず、スタンピードに気づいたのはいつの時点だ?」
「それは、友人であるゲシュヴェツァー伯爵家のエドガーから、例年よりも多すぎる魔物の数と、雇った傭兵がいないはずの魔物がいると知らせてきたためでございます」
「何故それを知らせた?」
「共に魔物討伐をする際に、私が状況判断を行っていたためでしょう」
その後にユリウスが来て、ロイエがスタンピードとの共通点を挙げたことなんかを話す。
本当に話したいことは、ゲームで最後に訪れることになる東の隣国について。
そこ、ゲーム開始に亡国になってるこの国では通行不可能だったんだよ。
なんか、通行のためにある砦が崩れてて、未知全部塞いでた。
あ、その話の時、聖女がここで兄が亡くなってるとかって話してたの、今思い出したわ。
ってことはやっぱり、東との国境の砦って攻撃目標にされてるよな?
魔王にとって勇者と聖女が揃った国なんて、通行できていいことないだろうし。
「ふむ、スタンピードを確信したのち、退避を行い、学生とその護衛をまとめるために私の名を使ったと。では、このズィゲンシュタイン伯爵からの報告書に、私を狙う意図があることを危惧したための行動だということと相違があるな?」
父上、何出してんですか!?
っていうか、そんな俺の主観的なこと報告してたの?
けどそれ、ゲームで王弟いなかったから、ここで死んでたんじゃないかっていう勝手な推測で、根拠なんてない。
でも理由や根拠がないなんて言った時点で、この王弟からは見限られる気がする。
ユリウスが言うとおり、金髪碧眼のよくいる王族だ。
ただ感じる圧が、完全にそこらの騎士より強い。
下手なことは言えない、時間の無駄をさせられないっていう気持ちにさせられる。
「…………私は魔物討伐も先日初めて行いました。ですので、戦略や戦術などは語れるほどの知見もございません。それでも、スタンピードを故意に起こせる者がいるなら、起こす理由があると、考えたのです。荒唐無稽な話かもしれませんが、災害を起こして人的被害を招くような輩であれば、国に対しても痛撃を与えるために、狩猟大会を狙ったものと」
俺が探りさぐり話すと、王弟は鷹揚に頷いて、先を促した。
なんか、フレンドリーさが微塵もない面接官に、続けてって言われた感じだ。
「ですから単純に、最も大きく、痛撃を与えられるであろう攻撃目標を想定しました」
不敬になるかと思って、俺は王弟を見るだけに留める。
王弟と第五王子殺すため、なんて軽々しく本人に言っていいことでもないし。
身分考えると、伯爵家の学生でしかない俺なんて、恐れ多くて言うわけにはいかない。
「それで、私が狙われていると考え、貴族たちに参集を呼びかけ守りを固めさせたと」
「わ、私の呼びかけなど、そのような。どの家も、王家の守りとして判断されたのです」
「御託はいい。…………が、確かに王家を守る意志もなく、離脱した家もあるがな」
初耳ですけど?
え、あのさなかにさっさと逃げた奴いるの?
とんでもねぇな。
スタンピードならそれもありだが、王弟が守れって言った状況から逃げたの?
考えて、俺は違和感に気づく。
俺はゲーム知識があるから、状況で見える範囲が違うし、他よりも先を見据えて判断できた。
だからこの、知識も経験も優れてる王弟より先に動けたんだ。
なのに、それよりも早く離脱した家がある?
「それは、参集する前ですか、後ですか?」
つい聞き返すなんて無礼な真似した俺に、王弟は満足そうに笑った。
同時に俺はぞっとする。
すでにこの人、自分の命狙われたとわかって、犯人捜し始めてるんだ。
さらにその状況使って、俺なんかにかまかけてきた。
気づくかどうかで、本当に俺が独自判断でスタンピードの時動いてたかどうかを。
これで俺が、早すぎる判断に気づかず、見込みなしって烙印押されたら、本当に指揮したのは誰かってさらに探られていたことだろう。
別に痛い腹はないけど、父上に変なプレッシャー与えるところだった。
「参集する…………、誰だ?」
突然のノックに王弟が雑に答えるのは、ここを使う人間が限られてるからだろうか。
しかも相手は許可もなく自分で開ける、つまりは王族。
そう考えて開く扉を見た俺は、現れた聖女の姿に開いた口がふさがらなくなったのだった。
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