26話:戦勝会1
狩猟大会から謹慎して、学院に戻ってからほどなく、戦勝会を称する宴が開かれた。
急遽のことで、本来は別の社交期を始めるという初夏一発目の宴の予定に、狩猟大会での戦功に褒賞を与える場として式典がくっつけられた形だ。
「気合入りすぎだろ」
「口を慎め」
集まる人々のきらきらしさに漏らしたら、父上に叱られた。
エスコートされてる義母上が、社交が苦手な俺に教えてくれる。
「社交期始めの合図として、城でのパーティーは今期ずっと話題にされるから、毎年参加する側も含めて力を入れているの。その上、今回は不意のスタンピードで不安を囁く者も多いわ。きっと、準備していたよりも威勢良く見せるよう手が加えられているでしょうね」
「正直、俺としては勘弁してくれって言いたい」
本音を漏らすと、また父上に叱られた。
けど義母上は機嫌がいい。
毎年用意しては無駄にする俺が、礼服に袖を通してるのが嬉しいそうだ。
成長期なもんで、服は毎年作り直しが必要だけどさ。
毎年無駄に作らなくていいって言い続けたのに、今日は着てくる服に困るなんて恥をかかなくて良かったって状況だ。
「ローレン! あ、えっと、う…………」
俺の姿を見つけて寄ってきたユリウスは、俺の両親の姿に途端に委縮してしまう。
平民で貴族に慣れてないってのもあるが、学院で目上に声かけるなって教わったせいもあるんだろう。
「父上、ご紹介します。勇者の紋章を持ち学院でも共に学ぶユリウスです」
「は、初めまして」
俺が紹介する形で言うけど、ユリウスはガチガチだ。
元から会場入りした後は両親と別行動だったから、俺は紹介が終わるとそのままユリウスとその場を離れた。
「き、緊張した。ローレンのお父上、すごく、なんて言うか…………」
「貴族らしい? あの人顔もそうだけど、喋りも固いからな」
俺が茶化すとユリウスも否定できずに目が泳いでる。
素直な奴だ。
そして泳いだ目が、礼服の俺に疑問を投げかけてた。
ユリウスは制服のままなんだ。
「学院の生徒なら制服が正装。だが、俺は今日家の名前で来てるから、貴族らしくこっち」
「俺も朝からエドガーに、支度手伝うっていう人たち派遣されたんだ。押しかけられて飾られたんだけど、これ、変じゃない?」
そういうユリウスは、学生服の正装の一つであるマントを着用してる。
さらに磨き上げられた新品っぽい革靴に、細々装飾品もつけてれば、髪型もしっかり整えられてた。
どうやらエドガーが、パーティーに相応しくなるよう手を回したらしい。
「エドガーは、さすがに来れないからな。手助けのつもりだろう。受け取っておけ」
「うん、エドガーの分も楽しんでほしいって、支度を手伝ってくれた人たちに言われた」
華々しい場に、負傷者は出られない。
代わりに家の代表者が来てたりするし、騎士団のような組織だと団長が代表として褒章を受ける。
「ちなみに、王家のほうから礼服の用意とかはなかったのか?」
「なんか一から作るとか言われたから、学生のみんなと一緒に頑張っただけで、俺一人にそんな特別なことしてもらう必要ないって断ったんだけど。エドガーが、どうせそうだと思ったって、手伝いの人送ってくれたんだ」
魔人を倒した勇者に、王家も後見を前面にだすため世話くらいしようとしたようだ。
けどそれをユリウス自身が断ってしまった。
しかも学生としてと言われれば、学生をひとまとめに褒賞する意向を発表した後の王家としても強く出られない。
本人にそんな気はなかったんだろうが、一番の戦功をあげたのに、王家の後見が薄い状態でこのパーティーに参加する。
それを察してエドガーが世話をした。
すでに懇意にしてる貴族がいるってアピールで、下手にアタックするなっていう牽制だ。
その気回しは、入学してすぐの、困り切ったユリウスを見てるからだろう。
「自分の心配してろよ、あいつ」
「何?」
「いや…………俺に一番に声をかけたのも、エドガーの言いつけか?」
「あ、わかる? ローレンが一緒にいていいっていう限りは、盾にしておけって伝言が」
「知ってのとおり、俺の社交性は底辺だからな」
「そこまで言うほどじゃないと思うけど、少なくとも判断もできない俺よりましだよ」
どうやらユリウスは、無自覚なコミュ強らしい。
集まるメンツのせいで、騎士もいれば令嬢もいる状況に、俺が密かに強張ってるのに気づかないでいてくれるのはいいんだけどな。
「ところで、この後褒賞のために偉い人が挨拶するとかって聞いたけど、何するの?」
「あぁ、魔人倒したってことを大々的に公表して、スタンピードでも魔物を盛大に駆除したっていうのを知らしめるんだ。で、その後にそれをやった人たちを集まった人たちに紹介して、褒賞を与える形の式典にする」
俺はユリウスでもわかるよう噛み砕いて、この戦勝会の意義と進行を教えた。
学生としては一団となっての褒賞だけど、魔人やったユリウスは個別ってことも伝える。
途端に主役級の扱いを知ったユリウスは、目を瞠った。
「え、だったら俺にそうしろって言ったローレンも!」
「俺が言ったのは偵察で、魔人倒せなんて無理難題押しつけた覚えはない」
実際は魔人を倒させるための指示だったからこそ、俺は強く否定した。
その上で話を進める。
「褒章の授与が終わったら、そのまま貴族の社交の場だ。俺は父と回る必要があるから、面倒見てやれるのはそこまでだ」
「あ、うん。なんかパーティーの間は王家の人の側にいることになってたよ」
王家も馬鹿じゃない。
正装断られても、関係が悪くないと見せるため、すでに勇者を側に置く準備はしてるか。
それならパーティー中、変にユリウスに絡む奴もいないだろう。
「それで、パーティーって何するの? あのポロの時みたいにお話?」
「そうそう、お話。挨拶回りしなきゃいけないんだよ」
言ってて遠い目になるのは仕方ない。
お話っていっても、今回の俺の場合は別名、謝罪行脚だ。
守りについては王弟の命令でってことにしたお蔭で、どうやら大半が王弟の英断っていうことで俺の独断だなんて知らないし、考えてもいない。
けど、逆に一部は知ってるんだ。
学生が勝手に王弟の名前を騙って、上から命令したということを。
「ヤディスゾーン大公、この度は大変なご迷惑をおかけいたしました」
パーティーが始まってすぐ、父上に回収された俺は、いの一番に派閥の長に頭を下げに行った。
この方は王家にも近いからね。
王弟が学生を動かしてないのは、調べればわかるし、学生を調べたこともわかる立場。
しかも派閥で挨拶にも呼んで関係性を明示した学生が、王弟の名を騙るという大罪を犯してる。
「今回は、運が良かったものだ」
「おっしゃるとおりで」
けっこう温和そうだったのが、今回はお叱りだから威圧感がすごい。
俺は父上に従って頭を下げるだけ。
もちろん、結果が良かったから咎められないだけで、褒められたことじゃないっていう含意もしっかりわかってる。
あと、ヤディスゾーン大公の下についてる貴族で、狩猟大会に参加した他の貴族もここに集められてた。
一回で手間を省いてやろうっていう、ヤディスゾーン大公のけっこう優しい対処も身に染みてる。
突き刺さる視線の数が半端ないことになってるけど。
それでも王家が褒賞与えた行いを、今さら華々しい場で厳しくは言わない空気の読める大公の懐の広さは感じた。
「子息は、少々独断の気が強いようだ。些か目に余るのではないかな?」
「優秀さも時には、行き過ぎた独善ともなる。気をつけられよ」
けど、やっぱり他の貴族は面白くないらしく、ヤディスゾーン大公の目があるから強くは言われないけど、ちくちく何やってんだって言ってくる。
そんなお小言をもらっているところに、ヒールの音が近づいてきた。
「お話し中、不躾を承知で申し訳ない。だが、今般のローレンツどのの判断は、私も共に下したもの。その責めは、私も負うべきだろうと思うのだが、いかがだろう」
「イジドラ嬢」
現れたのは、今までの女騎士を思わせる姿とは違う、ドレスを身にまとった令嬢。
四つ編みもおしゃれだと思ったけど、パーティー用に髪も整え、化粧もした姿は見違えるようだ。
そんなイジドラ嬢に、ヤディスゾーン大公は苦笑した。
「やれやれ、自ら叱られに来るとは、相も変わらずのようだ」
「騎士として研鑽をしても、やはり私を公爵家の娘と見る向きが強いのです。このようなことがなければ、私を指導する者はないでしょう」
大公相手にやはりイジドラ嬢は引かず、騎士道精神から自分も片棒を担いだと名乗り出た上で、叱責を受けると正面から言った。
なのに俺と目が合うと、恥ずかしげに笑う。
「出しゃばってしまってすまない」
「いえ、素晴らしく清廉な志です」
ありがたくはあるんだが、令嬢らしさ全面出されて顔が引き攣りそうになるし、笑い返すわけにもいかないお説教中。
俺は口の端が震えないよう耐えて答えるしかなかった。
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